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駆除人  作者: 花黒子
~水の勇者と興ずる駆除業者~
122/503

122話


「ボウは魔物だな?」

「人ノ世界デ魔モノ、魔ゾク、チガウカ?オレ、魔ゾク」

 魔物ではなく魔族か。

「魔物と魔族の違いはあるのか?」

「魔ゾク、スキル使ウ。魔物、使ワナイ」

「なるほど。わかりやすい。もしかして、あの小屋はスキルを使ったのか?」

「ナオキ! アノ小屋好キカ? キテキテ、入ッテ」


 ボウは小屋の話にテンションを上げている。自分が作った小屋を見てもらいたいらしい。

 招かれるままに小屋を入ってみると、作りがしっかりしていて、本当に立派な小屋だ。イスやテーブルもあり、しっかりした石造りの竈もある。

「ん~すごいな! ボウは工作スキルが高いのか?」

「工作スキル、チガウ。建築スキル」

「建築スキル? すごいな!」

「エト、エト、チョットマテ……」

 ボウは革の鞄から分厚い本を取り出して、パラパラとめくって何かを探しているようだ。

「その本は辞書か?」

「辞書? 辞書ナニ? コレ、見テ」

 ボウは俺に本を開いて見せてくれた。そこにはこちらの世界の文字と、不思議な文字が並んでいた。辞書のようだ。


「この文字は魔族の文字か」

「ソウ」

 魔族の文字は四角いマスがいくつも並んでいて、そのマスの中に様々な絵が描かれていた。魔法陣に似ている気がした。

「良い辞書だな。これは」

「辞書カ。コレハ辞書」

 ボウは辞書を知ったようだ。

「何の話だっけ? あ、建築スキルな」

「オレ、城ニイタ。壊レタ城ダッタカラ建築スキルトッタ」

 ボウは辞書で城と調べつつ、説明してくれた。建築スキルを取って城を直そうとしたんだろう。

「城って魔王城か?」

「魔王サマ、スゴク前ニ死ンダ。勇者ニ倒サレタ。魔王サマ死ンダケド、城残ッタ。魔族ガ住ンデル」

「そうか。魔王城には魔王が死んでも、魔族が住んでるんだな。それで、なんでボウはここに来たんだ?」

「追イ出サレター。魔王サマジャナイ奴ガ、自分ヲ魔王言イ始メタ。オカシイ?」

「うん、それおかしい」

「オレモ、ソウ言ッタ。追イ出サレター」

 俺は思わず笑ってしまった。ボウも笑ってる。

「ボウは人を襲おうと思わないのか?」

「ナオキハ、オレ、オソウカ?」

 質問に質問で返された。

「別に襲わないよ。俺に攻撃してきたら、やり返すと思うけど」

「オレモ、ソウ。デモ、襲ウ人イルダロ?」

「まぁ、いるなぁ」

「サッキ、イタ鎧着タ女、襲ウカ?」

「ああ、アイルはどうだろうな。たぶん、襲わないよ。俺の仲間だ」

「ソウカ。魔族モ人ヲ襲ウ奴イルケド、襲ワナイ奴モイル」

 ボウは頷いていた。

「それで、さっきリタが言ってた話わかったか?」

「リタ!? アノ人良イ人。トキドキ飯持ッテクル。良イ人」

 なんだ、リタはちゃんとやってるらしいや。

「冠水するって話、わかった?」

「カンスイワカラナイ、ナニソレ?」

「雨降って水浸しになるんだって。水で埋まるんだ」

「水デ埋マル?」

 説明してもよくわからないようだ。

 荒い紙と木炭を取り出して、絵で説明してやると、「大変ダ!」と言っていた。

「ソレヲ言ッテタノカ。北へ行ケッテ言ッテタノハ?」

「畑に適した土地があるらしい。ここは育ちにくいって」

「デモ、北ノ方ハ人ガ多イダロ。石投ゲラレル。魔ゾクダカラ、難シイ」

 ボウは下を向いてしまった。

 魔族と言っても理解は出来ないだろうなぁ。魔物と魔族の違いがそもそもわからない。

「そうか。雨期まであと3ヶ月はあるらしい。それまでに居場所を見つければいいさ」

「ウン」

「飯はどうしてるんだ?」

「夜ニ魔モノヲ倒シテ、魔石ヲ取ッテル」

「魔族は魔石を食うのか?」

 ボウは首を振り、

「魔力ダケデモ、7日クライ生キラレルンダ」

 魔族は魔石から魔力を吸うのか? 魔族は身体の構造が違うようだ。

「魚の干物いるか?」

 俺はアイテム袋の中から、ヘリングフィッシュの干物をテーブルに積み重ねた。

「コンナニ! イイノカ?」

「うん、飯で苦労するのは辛いからな」

 ボウは呆然と干物を見ている。


「ドウシテ? ドウシテ、ナオキ、オレニ優シクシテクレル?」

「どうしてって、最近、セイレーンと人族の夫婦を見たからかなぁ。俺は探知スキルを持ってるんだ。探知スキルで見ると、魔物や魔族は赤く見える。要は敵として認識…見えるんだ。でも、ちゃんと話ができた。一緒に飯食べて、道案内もしてくれた。だったら、友だちにもなれるだろ?」

「トモダチ?」

「そう、そして俺は今、ボウと話ができた。もしかしたら友だちになれるかもしれない」

「デモ、敵ジャナイノカ?」

「探知スキルではね。『スキルはあくまでスキルだ。人生を楽しむために使ったほうがいい』って長く生きた友だちが言ってたんだ。俺はそれを信じてる」

 マルケスさんの言葉だ。今ではこの世界で生きる俺の指針になりつつあるような気がする。

「スキルハ……スキル」

「誰がスキルってものを作ったのか知らないけど、これで俺とボウが友だちになったら、そいつの想定…考えていた未来を、俺たちが超えることになる。それってすごく面白いことじゃないか?」

 神様が管理してるんだっけな。

「フハッ!オモシロイ」

 ボウは笑った。

「俺がボウに優しくする理由はそんなところだ。あ! ちょっと待てよ。俺、仕事で魔物を駆除してるし、たぶん、魔族も結構殺してるかもしれない。それでも友だちになってくれるか?」

 マルケスさんの島で、スキル持ちの魔物は殺したし、この前も言葉を話す奴を倒したな。

「駆除ッテナンダ?」

「駆除ってのは、ある場所に悪い影響を与える魔物を追い払ったり、殺すことだな」

 ボウは『影響』を辞書で調べて理解していた。

「全部カ? 悪イ魔物全部殺す?」

「うん、だいたい殺すね」

「ソンナコト出来ルノか?」

「うん。それが仕事だ」

 魔物以外も請け負っちゃって大変な目にあってるけど。

「すごイな。ソンな仕事アルのか?」

「ああ、駆除業者だ。清掃もしてるけどな」

「おもしろイ種族だナ」

「ちょっと待て。ボウ、さっきより言葉が上手くなってないか?」

「エッ? あ! 【言語能力】ってスキル出てルー!」

 すぐにボウは【言語能力】のスキルを取ったようだ。

「たぶん、ナオキとたくさん喋ったからだ」

「ラッキーだったな。俺が来て」

「フハッ! ラッキー」

「飯、食うか?」

「食う!」

 そんな感じで、魔族の友だちが出来た。


 飯は一度も使ったことがないという竈で、干物を焼いて食べた。

 水と固いパンもつけてみたが、料理らしい料理はボウも得意ではないらしい。

 飯を食べながら、ボウの一日の予定を聞くと、なかなか面白かった。


 朝起きて、笑顔の練習。午前は畑作りをしてから、飯がある時は飯を食べ、笑顔の練習。昼寝してから、草原で植物の種を探したり、薬草を採取したりして、夕方、笑顔の練習。夜は影の魔物であるシャドウィックが出るので、斧で倒して魔石を回収して、寝る前に笑顔の練習をするらしい。

「なんでそんなに笑顔の練習するんだよ!」

 俺が笑い転げていると、ボウは怒ったように、

「笑顔は大事! 笑顔にしてたら、馬車の荷台に乗せてくれたおじさんもいたんだ!」

「そうなのか? で、どんな練習するんだよ」

 ボウはニッと牙をむき出して、最高の笑顔をかました。不器用な笑顔とわかる程度で、幼児に見せたら確実に泣くレベルだ。

 俺が爆笑していると、

「ナオキもやってみろ!」

「よーし、俺が手本を見せてやる!」

 俺は最高の笑顔を小屋中に振りまいた。

 ボウは「アホだ! そんな顔したら、女が逃げるぞ!」と言っていた。どうやら、俺はイヤらしい笑顔しか出来ないようだ。


 昼食後、小屋を出て、アイルたちと合流することに。

ボウは出て行く時に、やたらと自分の角を気にした。どうにか目立たないように、フードで隠していた。

「俺の仲間に帽子でも作ってもらおうか?」

 メルモならすぐに作ってくれそうだ。

「いいのか!」

「もしくはカツラか」

「カツラ?」

「偽物の髪のこと?」

「なんだソレ?」

「なんだソレ?って言われちゃうと、なんだろうなカツラって」

 まぁ、角で浮いちゃうか。

 そんなどうでもいい話をしながら、通信袋でベルサと連絡を取り、俺とボウは東へと向かった。

 ボウは通信袋に驚いていたが、魔王城にも水晶のような大きな通信機器があったと教えてくれた。



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