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駆除人  作者: 花黒子
~水の勇者と興ずる駆除業者~
118/503

118話

 


 青白いシーライトの光を辿り、夜の海を休むことなく進み続けた。


「島です!島が見えます」

 薄っすらと空が白み始めた頃、マストの上のメルモが叫んだ。

 船首の方を見れば、確かに、海の上に黒い陸地が見えた。

 近づけば近づくほど陸地の大きさがわかった。大きい。まさに大陸。

 大陸の近くには岩礁地帯があった。シーライトの光は岩礁を縫うように、伸びていた。


 俺たちの船はシーライトが示すとおりに運航した。

 空では海鳥の魔物が「ミャー」と鳴いている。

 無事に接岸した俺たちは、錨を下ろした。上陸した砂浜の先にはすぐに森があった。一番近い森の太い木に船から伸びるロープを結びつける。


「ありがとう。船長」

「波も穏やかで、良かったです」

 俺のねぎらいに、セスが答えた。他の者たちは交代で休憩し仮眠を取っていたがセスは徹夜で舵取りをしていた。

 休息のため、浜辺でしばし過ごすことにした。

 森の木の間にハンモックを吊るし、早々にセスは寝た。俺は船に魔法陣を描いて補強し、盗まれないように舵にも施錠の魔法陣を描く。

 女性陣は、港町や漁村がないか、南と北に分かれて探しに行っている。俺たちが着いたのは大陸の西岸だ。内陸に行っている間、船を停めておきたかった。

 探知スキルを展開すると、森には無数の魔物がいるのがわかった。ただ、どれも小さい魔物のようで、大きなものでもビーセルほどの大きさしかない。毒に気をつければ問題なさそうだ。

 俺が船の外面に魔法陣を描き終えた頃、女性陣が帰ってきた。


「少し北に行った場所に廃村があった」

「南はしばらく砂浜が続いてるだけだった。あまり人の気配はなかった」

 ベルサとアイルの報告で、一先ず船は廃村に停めることにした。

 メルモが森から出てきたという大蛇の魔物・フィネークの肉を焼いて飯にする。

 じっくり肉を焼いている間、俺とベルサは森を軽く探索。サル種の魔物が多く、彩り豊かな鳥の魔物も多いという印象だった。毒々しいキノコや刺々しい植物なども多く、毒薬に使えそうなものは採取していく。どれも初めて見るものばかりなので、あとで実験しなくてはいけない。

 浜辺に戻り、セスを起こしてフィネークの肉を食べた。


「この森の先に水の勇者がいる国があるそうだから、なるべく内陸に向かって行こう。船は北の廃村に停めて行くことにする」

「OKっす!」

「さっき、空から見たけど、この森相当な広さがあるぞ」

 アイルは空に駆け上がって見てきたのか。

「ポイズンスパイダーの一種もいましたよ」

 メルモは毛深いクモの魔物を腕に這わせていた。いつの間にか使役したようだ。

「そうか。俺とベルサも森に入って見てきたけど、やばそうな植物も結構ありそうだ。知らない間に毒を持つ魔物に刺されていることもありえるので、皆ツナギ着て肌の露出を避けよう」

 俺の言葉に全員頷いた。ボリさんもジャングルでは魔物の毒に気をつけるよう言っていた。

 食事の後、施錠の魔法陣を解除して船で北へと向かう。


 廃村に船を着け、再上陸。錨を下ろし、桟橋にロープを縛り付け、船を固定する。施錠の魔法陣を焼き付けようとしたが、舵輪ごと外してアイテム袋に入れる方法を思いついた。あとは、各種船を強化する魔法陣などを描いておく。

 廃村には、当たり前だが人っ子一人いなかった。石造りの建物が植物に侵食されている。だが、木材で出来たドアなどはそんなに古くなかったので、廃村になったのはここ数年の間なのかもしれない。

「植物の成長が早いな」

 ベルサは巨大な木の根を触って確認していた。


 この先、森の中で野宿することもありそうなので、俺とアイルはアイテム袋の中を確認して、準備する。セスとメルモは村の井戸を確認して、水が使えそうだったら水袋を補充する。

「やっぱりあった」

 ベルサの手にはマルケスさんのところで見た巨大化させるキノコが握られていた。ベルサはこれを探していたらしい。

「植物の成長が早いのはこのキノコのせいだな」

「だとすると、森の中に巨大化した魔物もいそうだな」

「うん、ありうる」

「大きいだけなら問題無いだろう」

 アイルが自分の剣を砥石で研ぎながら言った。

「そうだなぁ。群れで来る魔物のほうが厄介だったからな」

「私たちもあの時とは違う」

 ベルサの言うとおり、対策を先に考えておけば、対抗できるだろう。混乱の鈴に音爆弾、燻煙式の眠り薬、幻覚剤、毒薬。ポンプに入れる薬剤も各種ある。いざとなれば、ベルサが植物を一気に成長させて、防御壁を作ることも可能だ。


 セスとメルモが水袋が破裂しそうなくらい水を汲んできた。アイテム袋に入れてしまえば邪魔にならない。

「なんとかなりそうだな。あ、この先水の精霊がいる可能性もある。皆、復活のミサンガは手首だけでなく足首にも着けておいてくれよ」

「了解」

「わかった」

「OKです」

「OKっす」

 全員、青いツナギ姿だ。

「じゃ、出発」

 俺たちは業者の正装で森へと入った。


 空は晴天なのに、森の中は木々が陰を作っていて非常に暗い。地面の落ち葉には湿り気があり、独特の匂いがした。日陰でも暑い。森というよりジャングル。

 探知スキルで見ようとしても、至る所に魔物がいるのであまり意味がなかった。気配もいたるところからするし、見られているような感覚もある。もちろん、向かってこないような魔物には構わない。

 大きめのサルの魔物の群れに遭遇したが、特に襲っては来なかった。テレントという木の魔物がメルモの足に根を巻きつかせたりもしたが、アイルによって一瞬で粉砕されていた。蚊のような虫の魔物も寄ってきたが、深緑色の虫除けの薬を全員の身体にポンプで吹き付けると、ほとんど寄ってこなくなった。


 日が落ちると、辺りは完全な闇と化した。星空も木々に隠されてしまっている。

行き着いたその場をキャンプ地にした。魔物の吠える声や、鳥の魔物の奇声などが聞こえるが、特にこちらに向かってくることはなさそうだ。

 簡易的なテントを張る。

 焚き火でヘリングフィッシュの干物を焼き、車座になって食べ、夜の見張りの順番を決めた。

「無闇に歩いてもなかなか着かないな」

 アイルが言った。森の先にある平原に国があるとしか知らない。

「そうだな。明日は空から見てみて、何かありそうな場所に行ってみよう」



 早朝、俺とアイルは木を登り、さらに樹上へと飛んだ。

 東はどこまで行ってもジャングルが続き、北には高い山が見えた。

「山の方に行ってみるか?」

「そうだね」

 俺とアイルが地面に降りると、ベルサが果物を食べていた。

「何食べてんの?」

「これ、噛むけど美味いよ。そこでメルモたちと採ってきたんだ」

 ベルサの手にはパパイヤに似た果物があった。

 セスとメルモも美味しそうに食べている。噛むって、そんなに固そうには見えないが……。

「大丈夫。顕微スキルで見ても毒はなかった。ほいっ」

 ベルサが俺にそのパパイヤに似た果物を投げ、俺は空中で受け取った。

 すると、俺の手に果物が噛み付いた。

「いでっ!」

 実際はそんなに痛くはなかったのだが、物凄くびっくりした。パパイヤに似た果物はアケビが割れるように口を開けて、俺の手の肉を噛んでいた。

 3人は俺を見て笑っている。

「なんだよ、これ!?」

「わからないけど、食べると美味しい」

 ベルサが笑いながら言った。

 食べてみると、果肉が瑞々しく、とても甘い。

「うん、美味い」

「確かに美味しい」

 アイルもベルサから受け取って食べていた。

「でも、なんでこれ噛むんだよ!?」

「わからないけど、種を守るためにそういう進化をしたんじゃないか。私も初めて見たよ、こんな果物。カム実と名付けよう」

 不思議な朝食を食べる。

「北に山があるから、そっちの方に行ってみようと思うんだ」

「でも、国があるのは平原なんでしょ?」

 俺の言葉にベルサが聞いた。

「そうなんだけど、このまま東に行ってもずっと森が続いているだけのようなんだ」

 アイルが説明する。

「間とって北東に向かう?」

 とてもアバウトだが、全員北東に向かうということで納得した。西は海、東はジャングル。何もなかったら南へ戻ることになる。何もなかった時は謝ろう。


 北東に向かうと決まれば、俺たちの行動は早い。

 カム実の種を吐き捨て、テントや寝床などをすべてアイテム袋に突っ込んで、軽く準備運動をしたあと、走りだした。

 あまり脅威となるような魔物がいないとわかれば、こんな森一気に駆け抜けてやる。


 アイルが目の前の障害となるような草や枝を剣で払ってくれるので、走ることに問題はない。

 川にぶち当たっても、俺とアイルで他の3人を対岸へと放り投げれば、スピードが落ちない。川くらいで、いちいち止まるような鍛え方はしていない。

 サルの魔物が落ちてきても、飛び越えて全員避ける。途中で巨大な魔物が何頭か探知スキルに引っかかったが、こちらに気づいてすらいないようなのでスルー。


 途中で飯休憩と昼寝を挟み、走り続けた。

 左手に木々の隙間から山が見え始めた頃、獣道を見つけた。スピードが上がる。

 突然、目の前に木がなくなった。木だけではなく地面もない。崖だ。

 いつの間にか先頭の俺が止まったので、後ろを走っていた全員が止まって目の前の光景を見た。

 崖の下には地平線まで続く平原が広がっていた。

 西にはどこまでも続いているような巨大な山脈が見える。北も東も地平線まで続く平原だ。


「大平原じゃないか……」


 あまりの光景に、俺たちは呆然としてしまった。

 太陽が傾き山脈に隠れ、山影が大平原に広がっていく。

 その光景を見ながら、俺たちは崖を下りた。



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