113話
商人ギルドで正式に依頼を受け、掲示板から貼り紙を剥がす。剥がしておかないと、また、40件とか仕事するハメになるので、こういうものはとっとと剥がす。
報酬は『がけ崩れがあった道の清掃』と『北の廃村にいるゴースト系の魔物の駆除』の2件で金貨5枚。冒険者ギルドに頼むと倍以上の値段がかかるところを、俺たちの会社がやれば非常に安く済むと、商人たちには感謝された。
まずは、がけ崩れがあった道の方に行く。
「手分けしようか?」
ベルサが仕切る。そっちの方が楽だ。
「俺たち3人だと誰かがミスした時に致命的なことになりかねないので、お互いをフォローし合ったほうが良いんじゃないか」
「そうだな。その方がいい」
「それは確かにそうだな」
俺たちは3人で素早く依頼を解決していくことにした。
商人ギルドの職員に描いてもらった地図を見つつ、現場に行く。
山の中腹辺りで、大きな岩が道を塞いでいた。土砂も少なからずあった。探知スキルを使うと、岩の向こう側に人がいて、山の上にも何人か、こちらの様子を見ているのがわかった。
とりあえず、危険なので人払いをしようと、岩の向こう側に行くと、王都から来た調査員のブラントンがいた。
「あ、こんちは。何してるんですか?」
「やあ! 君たちこそなにしてるんだい?」
「いや、がけ崩れがあった道の清掃を依頼されて」
「なるほど、君たちは清掃駆除会社だったな」
ブラントンは頷きながら、話し続ける。
「いや、実はここ2日間、この道を通れなくてね。僕以外の調査員が通れなかったんだ。もう、イーストエンドでの用は済んだから、いいと思うんだけどね。しっかり調べなくては調査書を書けないと融通が利かない奴らでね。どうしようかと思ってたんだ」
「そうですか。そういえばワイバーンはいないんですか?」
「いるよ。ほら空に」
ブラントンが指差した方を見ると、太陽を背にしたワイバーンの影が見えた。上空を気にしてなかったので、探知スキルには引っかからなかったようだ。
「僕が竜騎兵とバラしたのはイーストエンドの衛兵かい?」
ブラントンが竜騎兵であることを俺たちに教えてくれたのは、フリューデンだ。
「そうです」
「口が軽いな。ま、いいか。そうだ、ここら辺で誰か見たかい?」
「いや、この上にいる人たちくらいしか見てませんよ」
「上?」
「崖の上です。探知スキルを持ってるので見えると言っても人数がわかる程度ですけどね」
「そうか。何人いる?」
俺は探知スキルを展開させながら、崖の上の人数を数える。
「12人ですね」
「たぶん、そいつらががけ崩れの犯人だ。強盗するのに、がけ崩れを起こして馬車を止めてるらしいんだ」
「なるほど、捕まえるんですか?」
「君たち手伝ってくれるかい?」
ブラントンが聞いてくる。
「いや、仕事あるんで」
俺はしっかり断った。
「あ……そうか」
「はい。頑張ってください」
俺たちは道の清掃作業に入った。
崖の上にブラントンとワイバーンが降り立ち、強盗たちの阿鼻叫喚が聞こえる中、俺たちは岩を持ち上げて、道の脇から山下へと落とした。
土砂は魔法陣を描いて飛ばそうと思ったが、「また、穴開けるかもしれないから、止めておこう」とアイルに止められた。仕方がないので、魔物の骨と木の枝を組み合わせ、熊手のようなものを作り、道の脇に土砂をかき出していった。
途中、強盗が数人崖の上から落ちてきたので、「邪魔だよ」と言って、土砂と一緒に道の脇に寄せておいた。強盗は、だいたい足や腕の骨が折れていたので大人しくしていた。大人しくしない者は「この俺を誰だと思っている盗賊頭のブホッ」「あとで覚えてアギャ」とか言っていたが、アイルが何かしらを折っていた。プライドとか。
「すまなかったね。ほとんど崖から落ちてしまった」
道の真ん中に黄色いワイバーンに乗ったブラントンが降り立った。
ワイバーンは強盗2人を足で捕らえている。
「そのワイバーンって強盗を食べるんですか?」
興味本位で聞いてみた。
「いや、食べないよ。それよりロープのような縛る物を持っていないかい?」
俺はアイテム袋の中からロープを取り出してブラントンに渡した。
ブラントンは土まみれの強盗たちを縛り上げていた。
俺たちは仕上げに、重力魔法の魔法陣を描いた木の板で道をプレスし、段差をなくしていく。ちょっとずつしか魔力は入れない。一気に入れたら穴が開きそうだったので慎重に慎重を重ねた。そのお陰でかなりの重量にも耐えられる良い道が出来た、と思う。
「すまない。誰かイーストエンドに行って、衛兵を呼んできてくれないかい?」
ブラントンが空気も読まずに聞いてきた。
それくらい1人でやったらどうか、と思ったが、人数も12人と多く、ほとんどが骨折者だ。ワイバーンに持って行かせれば、とも思ったが、やはり12人は多いのだろう。
「俺たち次の現場もあるので、呼びにはいけませんが、衛兵を派遣するように言うので、待っていてください」
「す、すまない。助かるよ」
俺はセスに通信袋で連絡を取り、「近くにいる衛兵に『イーストエンドから北西に行った山道で、王都の調査員が強盗を捕まえたから、速やかに来い』って言ってくれ」と頼んだ。
『OKっす!』
しばらくすると、セスから連絡があり、
『今から向かうそうですー』
「はーい」
俺は通信袋を切り、ブラントンに、
「今から向かうそうです。俺たち仕事終わったんで、次の現場行きますけど、1人で大丈夫ですか?」
と、聞いた。
「ああ、いざとなれば空へ逃げるさ。いや助かったよ。いろいろとありがとう」
ブラントンにお礼を言われた。
まぁ、大丈夫だろう。ワイバーンもいるし。
「じゃ」
ブラントンに別れを言って、次の現場へ走る。
「結構時間食ってしまったな」
走りながらベルサが言った。
「強盗がいなければなぁ」
俺が答える。
「強盗埋めておけばよかったんだよ」
アイルがナイスアイディアを出した。
「こういうのって終わってから気づくんだよな」
「そうな」
などと、北の廃村へと走った。
なるべく日が出ているうちに出港したいので、急ぐ。
北の廃村の周辺まで行き、探知スキルを使うと、中の様子が見て取れた。
魔物がとても多い。人口密度ならぬ魔物口密度が高く、村全体がラッシュ時の満員電車状態。また、魔物しかいない、というわけではなく何人か人もいるようだった。
視認すると、特にゴースト系の魔物が何人か見えるなぁ、という程度だ。魔物たちは村から一切出ないのか、出られないのか、わからないが村の周辺にはあまり魔物の気配はない。アイルとベルサにも説明した。
俺たちが、丘の上から廃村を見下ろしていると、後ろから戦士風の大男たちが2人やってきた。そのうちの1人は牢で会ったバーサーカーの彼だ。
「あれ? 姉さんたち何してらっしゃるんですか?」
バーサーカー君が俺たちを見て聞いた。どう見ても歳上なのだが、俺の中ではバーサーカー君になってしまっている。
「いや、仕事だよ。あそこの廃村にゴースト系の魔物が出てるって言うから駆除しにね。それより君は牢から出られたんだな」
「ええ、今日出られたんですよ。あ、こちらうちのギルドのマスターでジュードさんです」
「「「あ、どうも」」」
俺たちは傭兵ギルドのマスターことジュードさんに挨拶をする。スキンヘッドで顔面の左側に刺青を入れていて、超イカつい。筋肉もバッキバキだ。
「うちの職員が牢の中で世話になったそうで、お礼を申し上げる」
かたじけない、と言うようにジュードさんは頭を下げた。礼儀正しいイカつい人が一番怖い。
「で、傭兵ギルドの人たちが何しに?」
「ああ、ちょっと話すと長くなるんだが」
ジュードさんが顎を掻きながら、語り始めた。
「20日ほど前だったと思うんだが、自称・召喚士という爺さんが傭兵ギルドに現れてな。我々のために訓練場を作ってやると言い始めたんだ。冒険者ギルドが何やら活気づいていた頃で、試しに作ってみろ、と金を渡してしまったんだ」
冒険者ギルドと傭兵ギルドは仲悪いんだっけ。
「3日ほどで、出来たというので行ってみたら、あの村に何匹かゴースト系の魔物を閉じ込めただけで、『これが訓練場だ』と言うんだ。ふざけんなってケンカして爺さんをイーストエンドから追い出した。まぁ新人の練習にでも使うかと思って、2日前に新人を送り込んだんだが、帰ってこなくて、こいつを連れてやってきたというわけさ」
「なるほど、廃村を訓練場にしたんですか。だからこんなに魔物がいるんですねぇ」
「そんなに魔物がいるのか?」
「ええ、そりゃあみっちり。駆除して良いんですよね?」
「ええ、すいやせん。姉さんたちお願いします!」
バーサーカー君がジュードさんに代わって、返事をした。ジュードさんは「俺たちも…」と言っていたようだが、バーサーカー君が止めていた。
俺は回復薬をポンプに入れ、3人で廃村に乗り込む。
廃村の魔物は地面に影が見える程度で、非常に見難い。探知スキルを持つ俺は特に問題ない。アイルとベルサも気配を感じつつポンプから回復薬を噴射している。
影の魔物はちゃんとゴースト系だったらしく、回復薬をかけると、
「ギャああああっ!」
と叫び、わかりやすく消滅した。
「これは気配を探る良い訓練になるなぁ」
「この魔物はなかなか珍しい。姿形が見えないが実体はあるのか。サンプルが欲しいところだな」
アイルとベルサは言いたいことを言いながら、作業を進めていた。
途中、傭兵の新人らしき者たちが倒れていたので、その者たちにも回復薬を噴射。他にも骸骨の顔をしたアンデッド系の魔物なんかもいたが、全て回復薬で倒した。
一通り、殲滅したところで、村の真ん中にある井戸で休憩。
ポットやお茶っ葉をアイテム袋から取り出していたら、井戸の中から黒い煙が立ち上ってきた。