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駆除人  作者: 花黒子
~東方見聞する駆除業者~
111/502

111話


 船をフリューデンの母親に返したのは昼前だった。

 到着した船を見て、フリューデンの母親は、「沈没しなかったようだね。まだ使えたのか。なら、貸船でもやるかね」などと言っていた。


 イーストエンドに向かい、屋台で買食いし、ベルサとメルモの分のランチも買っておく。

 衛兵の詰め所に行くと、人集りができていた。

「どうかしたんですか?」

 一番端にいた人に聞いてみた。

「あ? ああ、王都からの調査員が捕らわれたらしい」

「捕らわれた?」

 セスが何を言っているんだ、という顔で聞いた。

 一日空けるとこれだよ。どうせベルサとメルモの仕業だろう。


「おおっ! 良かった! 帰ってくるのを待ってたんだ!」

 フリューデンが俺たちを見て、詰め所から出てきた。

「ちょっと道を開けてくれ! 通してやってくれ!」

 フリューデンは道をかき分けて、俺たちを呼んだ。

「すみません。うちの社員がなにかやらかしましたか?」

 俺は下手に出る。

「いや、すまない。こちらでちょっと行き違いがあったらしくてな。悪いが止めてもらっていいか?」

「わかりました。牢ですよね?」

「そうだ」

 俺たちは正面の入口から詰め所に入って、牢へと続く階段を下りた。


 地下は一言で言うとジャングルと化していた。鬱蒼とした植物で床も天井も壁も埋め尽くされている。昨日まではこんなことになってなかったはずだが。何をどうすれば、こうなるんだ。

「ベルサー! 何やってんだよー!」

 ジャングルの奥へと声をかける。

「ヤバい! どうしよう! ナオキたちが帰ってきちゃった!」

「違うんです! これには理由があるんです!」

 ベルサとメルモの声がする。

「この植物切って良いのか?」

「ダメだ。新種の魔物なんだ。切ると蔓に捕らわれるぞ! 忠告を聞かなかった奴らが、天井にぶら下がってるだろ?」

 確かに天井から、何人かのうめき声が聞こえるが、葉や蔓で見えやしない。

 探知スキルで見ると、天井に5人、奥の牢に3人、個室に2人の人がいて、2匹の魔物が牢の前にいた。どうやらそれが本体らしい。とりあえず、それを抑えよう。


「正面からは無理そうだから、裏から行くから」

「わかったー!」

 俺たちは裏の崖側の窓から出る。アイルがロープを持って、俺とセスが先に牢へと下り、壁に開いた出入り口から入った。アイルは空中を蹴って、牢の中へと入る。その様子を衛兵たちはただ黙って見ていた。俺たちに何かを言うことは諦めたらしい。

 牢の中にはベルサとメルモの他に胸毛や背中毛が多い大男がいた。

「すいやせん。お邪魔してます」

 声を聞くと誰だかわかった。昨日まで個室にいたバーサーカーの人だ。

「あれ? 王子は?」

 ベルサが俺に聞く。

「王子は死んだことにした」

「そうか」

「『そうか』じゃない! なんでこんなことになってるんだよ!」

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないかぁ。間違えたんだよ!」

「間違えたことを胸を張って言うなよ!」

「ごめん!」

「とりあえず、この植物の魔物は枯らすぞ!」

「はい!」

 ベルサはいちいち返事が良い。


「アイル、悪いんだけど、下行って海水汲んできてくれる?」

 俺はトイレの代わりに置いてあった壺をクリーナップでキレイにして、アイルに渡す。

 まずは塩水でどうにか枯らせないか、試してみることに。

「了解」

 アイルはそう言って、外に飛び出していった。

「社長が来て、どうにかなりましたね」

 メルモがベルサに言う。

「どうだ? うまく行っただろう『作戦名:勇気』は」

「はい!」

 なんだ、その作戦は?

「私もこれから、やらかしてしまったことは勇気を持って素直に謝ることにします!」

 メルモは拳を握りしめ、頷いていた。

「潔く間違ったことを謝るのは良いが、まず、間違えないでくれ!」

「私の人生はナオキに出会ったせいで予測がつかないことで溢れてしまったようだ」

「俺のせいにするな」

 アイルが海水を汲んで戻ってきた。

 俺はアイテム袋から塩を取り出して、海水の塩分濃度を濃くする。

 壺の中を木の棒でかき混ぜながら、この魔物はどういう植物の魔物なのか聞く。


「水と魔力を吸い取って大きくなるんだ。吸魔草と蔓植物の中間くらいの魔物だと思ってくれたらいい」

「そうか」

 俺は牢の扉を開け、探知スキルを展開。植物の魔物の本体に塩水をかけ、手から魔力を流す。蔓の攻撃が来たが、巻き付かれるくらいで特に何もなかった。

 ゴキュゴキュという音とともに、塩水と魔力が吸収され、茎が風船のように膨らんだかと思うとパンッと破裂した。2体とも破裂させると、壁や天井の植物が力を失い、天井に吊るされていた人たちが床に落ちた。


「じゃ、皆手伝って」

 そう言って、全員手伝わせる。天井に吊るされていた5人と、個室にいた2人に巻き付いていた蔓を引き剥がし、回復薬をぶっかける。

 その後、未だ天井や壁に張り付いたままの蔓を引き剥がす。すでに緑だった葉は黄色く枯れている。恐ろしい。


「で、何で、こんなことになったんだ?」

「それは、えーと、どこから説明したものか」

「あっしが説明しやす」

 牢に一緒にいたバーサーカーが説明を始めた。

「あっしがこの前、半殺しにした傭兵たちが、王子誘拐事件の犯人だったってことで、姉さんたちの牢に入ってきたんです」

 ベルサとメルモはすでに「姉さん」になっているようだ。

「それで、まぁ、不貞を働こうとしたんですが、メルモの姉さんにボコボコにされたんです。で、衛兵を呼んで傭兵たちを個室に入れようって話になったんですが、どうやっても扉が開かなくて」

 そういや、俺が魔法陣で扉閉めちゃったんだっけ。


「あっしが壁に穴開けて、個室に入れたんですけど、3人も個室に入ると狭くて。あっしがこちらの牢に移ってきたんです。あっしは、姉さんたちをよく見てたんで、指一本触れやしませんよ。これは何に誓ってもいいです!」

 バーサーカーは怯えた目で俺に訴えかけてきた。

「わかったわかった。それより、衛兵は壁に穴開けて、なんか言ってなかったか?」

「わかりませんが、何人か頭を抱えるだけで、何も言いませんし、勝手にやってくれ、というような状態でした」

 たぶん、この時、いろいろ諦めたんだな。


「そうか。それで?」

「それで、ベルサの姉さんが寝ている間に、襲ってきても面倒だということで、植物の罠を仕掛けたんです。で、今朝起きたら、王都からやってきた調査員とか言う奴らが現れて、まんまと罠にハマったというわけです」

「そして私は人工的に新たな魔物を思わず作ってしまうという偉業を成し遂げてしまったわけだ」

 ベルサが蔓を腕いっぱいに抱えながら、俺に言った。

「そうか、褒めてつかわす。二度とこういう場所でやるなよ。後片付けが面倒だから」

「すみません。ありがとうございます」

 蔓を全てアイテム袋に入れ、クリーナップをかける。蔓はあとで使う機会が出てくるかもしれないという貧乏性で、取っておくことにした。


「すんませーん! 終わりましたー!」

 俺は階段の上にいる衛兵に声をかけた。

「あ、はい!」

 フリューデンが下りてくるまでの間、俺たちは調査員5人と傭兵2人を廊下に寝かせた。外傷は特に無し。脈も息もしっかりしている。あるとすればトラウマくらいだろう。

 フリューデンは青い貴族っぽい服の男性を連れて下りてきた。

「すまんすまん、どうすれば良いのか対処に困った」

 フリューデンが謝っていたが、こちらが謝る方だ。

「すみません、うちの者が」

「いや、良いんだ」

「しかし、調査員の方が……」

「生きてるんだろ? なら大丈夫だ。その人たちは偽者だから」

「偽者?」

「ああ、本当に事をややこしくしてくれる」

「すまない。私が王都から来た調査員のブラントンだ」

 ブラントンと名乗った調査員が握手を求めてきたので、手を握った。


「そこで寝ている偽者たちは、ただの王子のファンだから気にしないように。こちらで引き取る」

 王子にはファンがいたのか。

「それで、王子は見つかったのか?」

「ええ、見つかりました。ただ我々が見つけた時には、もう……」

 裸でした、とは言わなかった。ウソは言っていない。

「遺書と髪です」

 そう言って、ブラントンに遺書を渡した。

 ブラントンは遺書を開封し、読みながらフフッと笑った。

「王子らしい。間違いなく王子の筆跡だな。この遺書確かに預かった。そして、君たちのアーネスト・リブレー殺害容疑は晴れた。王子が自供している。これは調査費用として、受け取ってくれ」

 ブラントンは金貨の入った袋を渡してきた。中身は20枚くらいだろうか。

「ありがとうございます」

 俺は素直に受け取った。

「いやいや、迷惑をかけてすまなかったね。それで、ファルシオンの墓はどこにあるんだ?」

「え?」

 ファルシオンって確か、王子の名前だったか。

「僕とファルシオンは幼なじみでね。墓参りくらいしたいじゃないか」

 なんだろう。引っ掛けかな。

「お墓はありません。死体は海の底です」

「大丈夫だ。王族の方々には僕の方でうまく言っておくさ。何も持たずに流れ着いたのに、遺書を書けるなんておかしいからね」

 王子が生きていることはバレているか。


「仕方ないさ。いずれこうなるんじゃないかと思っていた」

「ん~、そうだったんですか?」

 別に言っても良いのだが、船で乗り付けて、ビーセルを連れて行かれたら大変だ。シオセさんにこれ以上迷惑を掛けたくはない。

「なかなか口を割らないね。本当に大丈夫だよ。なら聞き方を変えよう。もしかして、帰りがけに王子によく似た人物を見なかったかい?」

「それは言えません」

「言えない、か。わかった、ありがとう。自分で調べてみるよ」

「そうしてください」

 ブラントンは遺書と髪束を持って、階段を上がっていった。彼なら遺書についたガガポの糞に気づくかもしれない。


「そういや、調査員はがけ崩れで遅くなるって言ってたけど、早かったですね?」

 俺がフリューデンに聞いた。

「え? ああ、あの方はこの国で唯一の竜騎士だからな」

「竜騎士ってなんですか?」

「ワイバーンをテイムしている騎士様だ。飛んでくるから早いんだ」

「なら、がけ崩れ関係ないですよね」

「関係ないな。後日、調査団が正式に来るそうだけどな」

「あれ? この寝ている人たち、偽者にしてはちょっと早すぎないですか? 飛んできた竜騎士と同じくらいの速度で王都からやってきたってことですよね」

「ああ、それについては、調査団が徹底的に調べるそうだ」

 後始末がいろいろ大変そうだな。

「俺たちはもう出ていいんですよね?」

「ああ、構わない。ただし、壊したものは直して、穴は塞いでいってくれよな」

 壁には出入り口の穴が開いている。扉も鍵が壊れているし、植物の魔物によって、床にも穴が開いている。

 こちらも後始末が大変だ。



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