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駆除人  作者: 花黒子
~東方見聞する駆除業者~
110/503

110話

「我は妾の子だ」

 王子は砂浜で体育座りをしている。

 引き締まった身体が火に照らされ、キャンプの夜のように真面目な深い話をしそうなのだが、裸であることがそれを拒否している。

 さすがに女子がいるということで股間は葉っぱで隠したようだ。それが、さらに王子をアホに見せていた。

 王子は見るからに残念なイケメンだ。


「兄弟の中では最も早く生まれたんだが、妾の子が長男じゃマズいらしくてな。20年ほど前から、我は14歳のままなのだ。ロックソルトイーストでは15歳で成人だ。いつまで経っても我は成人にはなれず、家庭教師には婿の先が決まるまでは成人できないと言われたよ」

 王族だからって大変すぎるだろ!

 俺は心のなかで叫んだ。

 リアルに大人になれない人がいるなんて、可哀想すぎる。


「早く婿にいけますようにと何度か教会で祈ったんだがな、教会じゃ、我の祈りより尻に興味があるようで、牧師や神父には毎日のように尻を撫でられた」

 不憫すぎる。

「それもこれも、全部、イケメンに生まれてしまった運命なんだ。我はそう思うことにした」

 王子はキレイな金髪をかきあげながら言った。

 そんな運命のイケメンは極限られた人だと思う。

「母は娼婦でな。ものすごい美人だったらしい。我が生まれる前に死んだと聞いた」

 じゃ、どうやって生まれてきたんだよ。

「どうだい? 無茶苦茶だろ?」

 話を聞いていた3人が頷く。

「14歳になってから10年くらいは我も、どうにか婿入り先を探そうとパーティーや催し物で伴侶を見つけようとしていたのだがな。村の娘ではダメだというので、貴族の娘にアタックしてみたんだが、大抵断られた。なぜだと思う?」

 俺たち3人は首をかしげる。

「娘の母親か父親が我の身体を求めてきたからだ。我が断っても、受け入れても結果は同じ、娘に断られる」

 男女問わずモテすぎてわけがわからないな。

「14歳になってから12年経ったある日、鑑定スキル持ちの役人に出会った。役人は言ったよ、我が呪われていると。我はその日までスキルという概念を知らずに生きてきたんだ。他の皆には当たり前のように見えていた己のスキルやスキルポイントについて、何も知らずに生きてきた。そして、あっさり呪いが解けて初めてスキルを見た時は驚いたよ」

 俺もこの世界で初めて見た時は驚いた。


「そして、自分の魅了スキルが10に達していたことを知った。イケメンなんて関係無かったんだ。乳母に聞いたら、我は生まれつき魅了スキルが高かったようだ。父はそれを良しとしなかったようだ。我に呪いをかけて、スキルを使わせないように己のスキルを見えないようにした。魅了スキルを使っていたら、今頃我が王かもしれないからな。実際、呪いが解けてから、ほとんど城の地下室で生活させられた。呪術師がいなくて呪いをまたかけることは出来なかったからだ」

 王子の腕には寒くもないのに鳥肌が立っていた。よっぽど嫌な記憶なんだろう。

「地下室の生活で我は自分のスキルを憎むようになった。王位継承権もいらない、王も弟達も憎んじゃいない。城の皆も、貴族たちも決して憎まないから、外に出る自由が欲しかった。それで、家庭教師のリブレーに誘拐してもらった」

「じゃ、自分で誘拐を頼んだんですか?」

「ああ、リブレーのアーネスト家は没落しそうだったからちょうどいいと思ったんだ。途中で裏切られたけどね」

「裏切りですか?」

「うむ、土壇場で我を海賊に引き渡そうとした」

「それで、殺したと?」

 王子は少し驚いたようにこちらを見た。

「そうか。やはり死んだか。あの時は我もなりふり構っていられず、思い切り剣を振り回したからな」

 小舟についた刃物の傷跡は王子がつけたもののようだ。


「オールや剣は海に捨てたのは証拠隠滅のためですか?」

「証拠隠滅? いや、我は暴れた挙句、海に落ちたのだ。気づけばこの島にいた」

「ん? ってことは死んだリブレーって家庭教師が? そんなことってあるか?」

 殺された挙句、証拠品を隠すような死体ってなんだよ。

 結局、王子は見つかったものの、謎が残ってしまった。

「ようやく手に入れた自由だ。どうしても連れて帰るというのなら、殺してくれ」

 急に王子は立ち上がり、拳を握った。

「じゃあ、殺して死体を持ち帰るか?」

「いや、ここはどうにか死んだことにして、王子を助けるべきでしょう」

「え~めんどくさくない?」

 アイルとセスと俺が王子の処遇について話し合う。

「殺すのか、殺さないのか、はっきりしてくれ!」

 王子が目をつぶって叫ぶ。


「大声出すなよ。今、どうするか考えてるから」

「す、すまない」

「ほら、これでも食べて待っててくれ」

 アイルが魔物の肉をアイテム袋から取り出して、火で炙るように王子に指示を出す。

「だいたい、こんなこと駆除業者の仕事じゃないだろ? 真面目にやる必要があるのか?」

 アイルが言う。

「でも、人の命がかかってるんですよ」

 セスがまともな事を言う。

「正直、俺としてはどうでも良くなってきてるんだけど。王子の話重かったし、もう良くね?俺たちなりのベストは尽くしたよ。とりあえず夜だし寝ない?」

 王子はその間、焼けた部分を削ぎながら、魔物の肉を食べていた。

「言い出しっぺは社長じゃないですか」

「いや、初めはあの死んだ家庭教師の家族に遺体届けようっていう、ちょっとした優しさだったのに、なんか大事になってるし。王子探すのだって、イーストエンドの衛兵に調査員来たら、ヤバいかもしれないって言われたからだろ? でも、そんなのバックレちゃえば良くない?」

「ベルサさんとメルモはどうするんですか?」

「ちょっと寄って、連れてくればいいよ。船と一緒にさ」

「でも、そうなると、ブラックス家とフロウラ家の人たちに迷惑かかりません?エンブレム見せちゃってますからね」

 うわぁ、そうだった。やっぱりあんまり貴族の人とか偉い人に関わらないほうが良いな。

「じゃ、生かして帰すか?」

 アイルが聞く。

「それは王子が許さないだろ!」

「おい! 王子! わがまま言うなよ! こっちが面倒くさいだろ!」

 アイルが固い肉をモグモグしている王子に文句言う。

「元だ。我は元王子。今はなんでもないただの人だ」

 王子が言い返す。

「お前なぁ。ただの人だからって何にもしないで生きていけないんだぞ! わかってんのか? さっきだって魔物に殺されそうだったろ?」

 アイルはすでに「お前」呼ばわりだ。

「でも、それ一理あるな。王子、これから何するんだ? 海賊は嫌なのか?」

 俺が王子に聞く。

「ああ、海賊は嫌だ」

「じゃ、何するんだよ。この辺で出来ることなんか限られてるんじゃないか? 海賊が嫌だったら可哀想な鳥の魔物でも保護するか?」

「鳥の魔物の保護?」

「ああ、それか。干物屋に弟子入りするか?」

「干物屋の弟子? よくはわからないが、それ魅力!」

 変なところに王子が食いついた。

「でも、裸じゃ行けないぞ。だいたい、なんで裸なんだよ?」

「いや、貴族っぽい服だと王子だとバレてしまうし、裸のほうが自由な感じがするじゃないか」

「ははぁ、さてはお前、そこそこのアホだな」

 アイルは顎に手を当てて、偉そうに言った。

「とりあえず、俺の服貸してやるよ」

 俺もだんだん乱暴な口調になっていた。眠いし。

 結局、俺たちは王子を殺さず、帰さないことにした。


 翌朝、俺たちは王子を船に乗せて、群島の南端の島に向かった。

 俺たちの船が見えたようで、シオセさんが迎えてくれた。

「どうした? そいつが魔物学者か?」

「いや、違うんです。ここから西に行った大陸の国ありますよね?」

「ああ、ロックソルトイーストだろ?」

「そこの元王子なんですが、ちょっと事情があって、自由になったらしくてですね…」

 俺はシオセさんに一通り説明した。

「なるほどな。じゃ、お前、俺と一緒にガガポを保護するか? 魅了スキルあれば、ビーセルも捕まえやすいかもしれない」

 シオセさんは快く王子を引き受けてくれた。

「い、いいのか? 我でも出来るだろうか?」

「ああ、まぁ、大丈夫だろ。名前、なんて言うんだ?」

「ファルシオンだ」

「じゃ、ルシオだな。俺と兄弟ってことにしよう。いやぁ、新しい罠が手に入って、ちょうど人手が欲しかったんだ」

「よ、よろしく頼む。いや、よろしくお願いします!」

 不思議な光景だった。自称魔物学者に弟子入りする元王子。

「で、悪いんだけど、王子、遺書書いてくれるか? 俺たちにリブレー殺害の容疑がかかっちゃってるって言ったろ?」

 俺が王子に頼む。

「ああ、もちろんだ」

 俺は王子に紙と木炭を渡し、遺書を書いてもらう。

 書き終わると、王子はナイフを貸してくれと言った。

 ナイフを渡すと、長い髪の毛の束を切り落とし、遺書で包んだ。蝋はないので、ガガポの糞で封をした。

「大丈夫だ。ガガポは同じ物しか食べないから、ほとんど臭いはないはずだ」

と、シオセさんは言っていた。確かにヨモギっぽい香りがするが、ほのかに靴下を発酵させたような臭いがした。アイテム袋に入れれば気にならなかった。

 

「じゃ、近いうちにまた来ます。何か必要な物あります? 今度来るときに持ってきますよ」

 船に乗り込み、シオセさんに聞いた。

「ああ、塩が少なくなってきてるんだ。あと、ルシオの武器だな」

「塩はイーストエンドで買ってきます。武器は、そうだなぁ……」

 使えそうなものがないか、アイテム袋を漁る。

「これ使え!」

 アイルが木刀を、不遇な元王子ことルシオに投げ渡した。重力魔法の魔法陣が描いてある木刀だ。

 ルシオが受け取り、木刀を見つめる。

「魔力を込めると重くなるんだ。力をつけるなら毎日素振りしろ」

「恩に着る!」

 ルシオは木刀を握りしめながら、アイルに向かって頷いた。

 俺たちは浜辺にいるシオセさんとルシオに手を振って別れた。


 帰りは海の流れもあるので、そんなに急がなくてもいいだろう。

 昼までに着けばいい。俺は魔法陣に少しずつ魔力を流しながら、船の上で横になった。

 空は雲一つない快晴。


 探知スキルは切ってある。魔物が出たらアイルが対応するだろう。

「あ、見ろよ! セイレーンだ!」

 うつらうつらと、俺が船の上で船を漕いでいるとアイルが叫んだ。

 セイレーン。いわゆる人魚の魔物だろう。異世界に来て、一度は見てみたい魔物だった。

「どこどこ?」

 俺は慌てて飛び起きて、アイルが指差す方を見た。

 穏やかな海しか広がってない。

「あ~、もう行っちゃった」

 探知スキルを広範囲で展開させると、海に潜っていく魔物を見つけた。

「どうだった?美人だった?」

「ああ、そりゃセイレーンだからな」

「やっぱり、そうなのか」

 セイレーンは歌声や容姿の美しさで船乗りを誑かす、とベルサに聞いていた。

「で、トップレスだった?」

「それ、重要か?」

 アイルが気持ち悪い者を見る目で見てきた。

「最重要事項じゃないか! トップレスだったら追うけど!」

「なんか着てましたよ」

 操舵しているセスが言う。

「そうなのか。残念だな。魔物って服着るんだな。王子でさえ着ないっていうのに」

「確かに、そう言われると変だなぁ。なんでだろう」

 アイルは不思議そうに遠くの海を見つめた。



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