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駆除人  作者: 花黒子
~東方見聞する駆除業者~
107/502

107話

 フリューデンは去り際に「出るなよ。調査員が来るまでは出るなよ。面倒だから絶対出るなよ!」と言っていた。

 やばい。3回目に「絶対」ってつけたってことは、


「出ろってことかな?」

「いや、本当に出てほしくないんじゃないか?」

「そうだな。ふあ~飯食ったら眠たくなった」

 外は昼だが、徹夜明けの上に腹も膨れて寝ない理由が思いつかない。

 一同、床に敷いた魔物の毛皮に潜り込み、鼾をかき始めた。


 起きたのは真夜中になってからだ。

 先に起きていたメルモがお茶を淹れているところだった。

 魔石灯の灯が牢全体を照らしている。

 アイルとベルサが寝床にいない。

「おはよ。アイルとベルサは?」

「上で顔を洗ってます」

 メルモが答えた。

「上?」

 見れば、牢の扉が開いている。

「鍵開けたの?」

「ああ、ポイズンスパイダーにお願いして鍵を取ってきてもらったんです。トイレに行けないから」

「あ、そうか」


 まぁ、詰め所内なら問題ないか。牢の中のトイレ代わりの壺は、牢から出して置いてある。男の俺は、エンブレムをめくって、外に出ると飛び降り、岩場に立って用をたす。干潮なのか、昼に見た時にはなかった岩場が海面に現れていた。


 戻る時は軽いロッククライミングをして戻ることになったが、体をほぐすのにはもってこいだ。

 ちょうど、アイルとベルサも戻ってきたところだった。上の衛兵たちが慌ただしく動いているようだが、牢の方に下りてくるつもりはないらしい。

 セスは未だ眠っている。連日の操舵や指示出しで疲れているのだろう。寝かせておいた。


「さて、暇だな」

 お茶を啜りながら、言う。

「私は論文書くよ」

「じゃ、私は素振りでもするか」

 ベルサとアイルはそれぞれ1人でできることがあるようだ。

 俺はベルサに木の板を組み合わせて文机を作ってやり、アイルにはあまり役に立っていなかった牢の松明をナイフで削って木刀を作り、重力魔法の魔法陣を描いてやった。


「これはいい! 魔力を込めれば込めるほど重くなるのか!」

 アイルは感心しながら、牢の前で素振りをしていた。

 メルモはポイズンスパイダーを腕に乗せて、戯れている。

 俺だけ、やることがなくなってしまった。

「回復薬でも作れば?」

 ベルサが提案してくれた。

「ストックはまだあるし、そもそも、材料の薬草がないんだ。あ!ポイズンスパイダーもいるし、毒薬でも作るか」

「それは外でやってくれよ」

 確かにアイルの素振りで木刀が飛んできたら大惨事だ。

「そうだな。じゃ、本でも読んでるか」

 そう言って、俺はマーガレットさんから貰った冒険家の日記を魔石灯の下で読み始めた。


 冒険家は珍しい魔物を捕獲して、ヴァージニア大陸の好事家の金持ちに送り、生計を立てていたようだ。魔物の捜索範囲は、東の群島、東の大陸の森、北の不毛な土地など広く、大きな魔獣が住む島という記述もあった。マルケスさんの島だろうか。何度も嵐や雷で船が難破し、その度に死にかけていたようで、食べられる木の実や毒のある葉などについての情報も豊富だった。挿絵付きでわかりやすかった。


 気づけば、陽が昇っていた。

 セスもようやく起きだして、もそもそと魚料理を作っている。寝すぎて眠そうだ。

 アイルは「汗かいたから、海で泳いでくる」と、エンブレムの向こうに飛び出していった。数分後、戻ってきて、「クリーナップをかけてくれ」とすっきりした顔で言っていた。

 メルモは急成長した蔦の繊維を使って、虫籠を編んでいたようだ。

 ベルサは奇声を上げながら、凄まじい勢いで論文を書いている。後々、その論文は読めるのだろうか。

 セスが作った朝飯を食べ、向かいの個室の人にもおすそ分けしていると、若い衛兵が固いパンと味のしなさそうなスープを人数分持って階段を下りてきた。


「な、何をしているんだ!」

「それ、もう昨日やったよ」

「ど、どうなっている!」

「それもやったって」

「めめめめ、飯だ」

「うん、ありがと」


 若い衛兵は慌てたように階段を上っていった。

 衛兵の片頬が赤かったので、誰かが殴った貴族出身の衛兵だろうか。置いていったパンとスープを、試しに食べてみたが、どちらも味がしなかった。


 個室の人に「要ります?」と聞くと「お前ら、本当にいい奴らだなぁ!」と言っていたので、あげた。

 食事が終わると、再びそれぞれの暇つぶしが始まった。


 セスとメルモも重力魔法の魔法陣付きの木刀が欲しいというので作ってやると、牢を出たところの スペースでアイルに向かって振り下ろしていた。アイルは無手のまま木刀を躱したり、受け流したりしているようだった。狭いのによくやるよ。

 勢いがつきすぎて、個室のドアをぶち破ったりしていた。中の人は髭もじゃの巨漢の男だった。「人間じゃねぇ」と怯えていた。ドアは木の板を組み合わせて、魔法陣を焼き付けガッチガチに強度を高め、壊れる前よりキレイにしておいた。鍵はよくわからなかったので、魔法陣で閉めておいた。あとで衛兵が来たら謝ろう。


 俺はアイルたちをこっぴどく叱り、釣り竿を渡した。

 ベルサは相も変わらず、論文を書くのに熱中している。

 他の四人は、出入り口に集まり、釣り竿を垂らす。アイルと俺が、何度か岩を釣り上げただけで、何も釣れなかった。


 昼前にフリューデンがやってきたので、個室のドアの件を謝っておいた。

「本当に、申し訳ないです」

「わかった。あとで鍵屋を呼ぶ。だが、今は別件で用があってきたんだ」

「俺たちで協力できることがあれば言って下さい」

 ドアを壊しちゃったので、下手に出るしかない。暇だったからドア壊しちゃった、じゃ理由にならない。


「実は王子の家庭教師は、傭兵と手を組んで王子を誘拐したらしいんだが、途中で家庭教師が裏切ったらしい」

「それで、家庭教師を傭兵たちが殺したんですか?」

「いや、それが、どうもなぁ……あの家庭教師が死んだのは、発見される2日前くらいなんだ。その頃、一緒に王子を誘拐した傭兵たちはその個室にいる男に半殺しにされている。教会で療養中だったから、見つけるのに手間取った」

 俺は個室を見た。確か、バーサーカーになっちゃって、仲間を傷つけたと言っていたが、中の人も王子誘拐事件に関係あるのか。


「そいつは関係ない。いつも訓練施設で熱くなって、牢に入ってるだけの傭兵ギルドの職員だ」

 職員だったのかよ!

「王子を閉じ込めていた倉庫へ行ったら家庭教師も一緒にいなくなってたんだとよ。療養中の身体に聞いたから、まず間違いないだろう」

「つまり、あの家庭教師の貴族を殺したのは、仲間の傭兵ではなく……」

「取引相手の海賊か、もしくは、王子か、だな。どちらにせよ、一緒にいた王子を探さなくてはいけない」

 王子が殺したとして、

「王子って何歳なんですか?」

「14歳だ。もうすぐ成人で、王位継承権で言うと4番目だ。だから陰謀やなんかに絡むようなことは、まぁ、まず、ないだろうな」

「それで、俺たちに王子を探せ、と?」

「冒険者ギルドに聞くと、とんでもないスピードで移動できると聞いた。もしかしたら、君らなら1日で群島に行って帰ってこられるんじゃないかと思ってな」

 冒険者ギルドめ!口が軽いな!あとで覚えてろ!

「調査員はがけ崩れに出くわしたらしく、ちょっと遅れているらしいんだ」

 フリューデンが続ける。


「じゃあ、調査員が来る前に王子を見つけろ、と」

「そうだ。イーストエンドの町中は嫌というほど衛兵たちが探した。いるとすれば、群島の方だ。海流と小舟が発見された場所を照らしあわせても、群島の西側が怪しい」

「地図と、王子の特徴か似顔絵はありますか?」

「ああ、用意する。おい!地図と似顔絵持ってこい!」

 フリューデンが階段の上に向かって指示を出す。

「一応、急ぐ理由を聞いても?」

「ああ? 調査員が来る前に解決したほうがいいだろ?」

「俺たちにとっては、そうですが、こちらの衛兵さんたちにとって利があるとは思えない」

 俺たちが協力しなくとも、調査員が来て調べればいいだけの話だ。

「今この国にはなぜか知らないが、中央政府の役人が来ているんだ。そのエンブレム、フロウラ家のものなんだろ?あまり、大事にならない方がいいのはこちらも同じだ」

 中央政府の役人は有料道路の下見かな。

 なるほど、納得だ。


 調査員としては俺たちを調査しない訳にはいかない。しかし、その調査する俺たちは、なぜだか知らないが中央政府の偉い人の知り合いだ。事を荒立てれば、連合国内での国の立場がどうなるかわからない。だったら、俺たちを釈放してしまえばいいのに、とも思うが、そうするとこの国の王家の面子に関わるのか。王子が誘拐されて、犯人は何者かによって殺され、王子が消えた。手がかりとなるのは犯人の死体の発見者の俺たちだけ。


 結局、一番いいのは、とっとと王子を見つけること。その適任も俺たちか。

 若い衛兵が、地図と王子の似顔絵を持ってきた。木炭で描かれた王子の似顔絵はイケメンすぎる王子だった。

 俺は地図と似顔絵をアイテム袋に入れる。


「君らの船は使わないでくれ。今は出港手続きが取れない」

 だったら、例の血まみれの小舟を使うか?いや、流石に証拠品はマズいか。

「じゃ、どうする?空でも飛んでくか?」

 飛ぶとしたら、俺とアイルくらいか。

「アイル、どのくらい飛べる?」

「1キロくらいかな」

 地図を見ると、群島まで結構距離がありそうだ。流石に無理か。

「誰か残らなくていいの?残るんだったら私残るけど」

 ベルサは論文を書いてしまいたいらしい。実際、調査員が来た時に誰かが対応した方がいいので、ベルサは残ってもらうことにした。

「でも、飯、どうすんだ?」

「だったら、私も残りますよ」

 メルモが手を挙げる。これで、料理自体は大丈夫になったが、アイテム袋がない。

「食材はどうするんだ?」

「適当にその辺で買ってくるよ」

「買ってこられると困るのだが」

 聞いていたフリューデンが言った。

「だったら、衛兵が買ってきてよ」

 ベルサは強気だ。


「むぅ、わかった。若い衛兵をつける。何かあれば言ってくれ」

 フリューデンは意外に押しに弱いようだ。

 問題は船だ。

「盗むか?」

 こっちには元船荒らしがいるんだ。盗むくらいわけない。

「ボロい漁船で良ければ、うちのを使ってくれ」

 フリューデンの実家は漁師だったらしく、父親が死んでからというもの、漁船が1隻放置されているらしい。

 フリューデンの実家を聞き、手紙を書いてもらう。実家には母親が1人で暮らしているらしい。

 フリューデンの実家はイーストエンドの西。

 外は昼。人目があるので、俺とアイルとセスの3人は、エンブレムをめくって、裏から出た。「おい!」というフリューデンの声を聞き流す。

 軽くロッククライミングして、詰め所の屋上に出る。あとは屋根伝いに移動するだけ。

 なるべく、音を立てずに素早く移動する。

 俺たちを見ているのはネコの魔物くらいだった。



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