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駆除人  作者: 花黒子
~東方見聞する駆除業者~
105/502

105話

 霧が晴れると、岸辺を移動する。

 浜辺には網を手入れしている漁師たちがいた。セスが漁師たちに船を着けられる場所を大声で聞き、桟橋のある港の方まで行く。


 港には朝市終わりの魚屋たちが忙しそうに片付けをしていた。桟橋に船を着け、布に包んだ中年男性の遺体と小舟を担いで下りる。異様な光景だったのだろう。港中の注目を浴びた。


 近くで呆然と見ていた魚屋っぽいおじさんに事情を説明すると、若い衆に言って衛兵を呼んでくれることになった。

「どこで拾ったって?」

 魚屋っぽいおじさんが聞いてきた。

「ここから少し西に行ったところです。漁師さんたちがいるところの南の海で」

「じゃあ、すぐそこじゃねぇか」

 そんな会話をしていると人が集まってきた。

 集まった港町の人たちは獣人と人族が半々くらいだろうか。中には小人族もいるようだが数が少ない。


「ここ、なんて町ですか?」

「ロックソルトイースト王国のイーストエンドって港町だ」

「この町はヴァージニア大陸の東の方ですか?」

「そうだ。南東の端っこだな」

 魚屋っぽいおじさんは額の汗を拭いながら答えた。


 しばらく、天気のことや気温のことを聞いていると、槍を携えた衛兵がやってきた。

 少しくたびれた鎧を着た衛兵は人をかき分けて、俺たちの近くまで来た。年は俺と同じ年くらいだろうか。


「君たちか。死体を運んできたというのは?」

「そうです。もし家族がいれば、教えてあげたほうがいいかと思いまして」

「そうか。ご苦労だったな。君たちは商人か?」

「ええ、清掃駆除業者をしております」

 俺は商人ギルドカードを見せた。


「死体はこれか?」

「そうです。そっちの小舟の中に倒れていて、海に流されていたところを見つけて拾ったんです」

「わかった」

 衛兵は遺体を包んでいた布をめくり、顔や身体を確認し、息を飲んだ。野次馬で集まっていた人たちからも悲鳴が聞こえた。


「貴族か……、わかった。ちょっと面倒なことになるかもしれないが、話を聞かせてくれるか?」

「話と言っても、今朝、ここからちょっと西に行った海で見つけたんですよ。ほら、漁師さんたちが網を直している浜辺の南ですね」

「今朝か。時間がかかったな」

「霧が出ていたので」

 俺は周りを見ると、魚屋っぽいおじさんが頷いていた。

「そうか。わかった。ありがとう。誰か、この貴族を知っている者はいないか?」

 衛兵が周囲の野次馬たちに聞いたが、誰も声を上げない。衛兵は遺体の服に何か入っていないか確認していた。


「持ち物は持ってなかったか?」

「小舟にはなかったですよ。遺体には甲板にあげて、布に包んでからはほとんど触ってません」

「オールもなしか。争った跡はあるが、武器もなし。財布もなく……、あるのは、血まみれだな、これは」

 衛兵は遺体の胸から血まみれのハンカチを取り出した。


「海賊にやられたか……?」

 衛兵は独り言のように言う。

「海賊が死体を小舟に乗せて流すのか?」

 アイルが聞いた。衛兵は渋い顔をしていた。

 人をかき分けて、別の衛兵たちが到着した。その中の若い衛兵が遺体の顔を見て、


「この方はアーネスト家の方です」

 消え入りそうな声で言った。俺たち以外のその場にいる全員が言葉を失ったように、遺体を見た。どうやら、結構な貴族の人らしい。

 その後、衛兵たちはその場に4人残り、遺体と小舟を野次馬の男たちにも手伝わせて運んで行った。


「悪いが、船を調べさせてもらっていいか?」

 初めにいた衛兵が聞いた。

「構いませんが、時間かかりますか?」

「君たち次第だ」

 疑われているのだろうか。

「そう言われても、俺たちがあの貴族の人を殺す理由がありませんよ」

「それに、あんな中途半端に人を切る奴は、うちの社員にいない」

 俺とアイルが答えた。アイルは、もしうちの社員の誰かが人を切ったとしたら、ちゃんと両断すると言っているようだ。


「それにわざわざ自分たちの罪を晒しにくる犯罪者なんかいないだろ? 理由がない」

 ベルサが答える。

「しかし、こちらとしても聞きたいことがある。しばらく出港しないでくれ」

「わかりました。じゃあ、船の入港許可証が必要なら取りたいんですけど、いいですか?それから、商人ギルドと冒険者ギルドにも連絡を取ってもらいたい」

「わかった。入港許可証はこちらで取っておく。商人ギルドと冒険者ギルドにはこちらの衛兵に向かわせる。それで、いいか?」

「いいです」

 衛兵が隣りにいる若い衛兵に指示を出す。

「コムロカンパニーが来たと言ってください。それで通じるはずです。よろしくおねがいします」

 若い衛兵は頷いて、走って行ってしまった。

「船長は誰だ?」

「僕です」

 セスが前に出た。


「船を調べるから、立ち会ってくれ」

「はい」

 セスと衛兵が船に入っていく。

 2人の衛兵が俺たちを監視しながら、しばしの間待つことに。

「あ~やっぱり面倒なことになったな」

「放っときゃ良かったんだ」

「優しさってのは大変ですね」

 女性陣がぼやく。

「仕方ないだろ、見つけちゃったんだから」

 待つ間、あまりに暇すぎたので、監視している衛兵にイーストエンドの名物を聞いた。

 魚介のスープがうまいらしい。あとは鍛冶職人や木工職人が多いのだとか。東の群島の方には海賊が多く、対抗するために剣士用の剣や槍、魔法使い用の杖や弓など武器作りが盛んなのだとか。


「冒険者ギルドの他に傭兵ギルドがあるのは、ルージニア連合国でもロックソルトイースト王国だけかもしれない」

 若い衛兵が自慢気に語った。傭兵というくらいだから、護衛の仕事だけでも食っていけるらしい。

「衛兵と傭兵とどっちが強いんだ?」

 アイルが若い衛兵に聞く。

「それは……、衛兵だ!」

 傭兵のほうが強いのかな。


「どちらもそんなに変わらない。衛兵から傭兵に変わる者もいれば、傭兵から衛兵になる者もいる。危険を好む者は傭兵になりやすいというだけだ。危険と向き合える者が衛兵だ。あまりうちの若いのをからかわないでやってくれ」

 隣で聞いていた年上の衛兵が言った。ちなみにこの町の冒険者はどういう人たちなんだろう。聞こうとしたら、セスと衛兵が戻ってきた。


「君らは何食ってるんだ? 一切食料もなしに航海してるのか?」

 食料は全てアイテム袋だ。

「怪しいな。ちょっと詰め所まで同行願おうか?」

 面倒なことになってきた。



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