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駆除人  作者: 花黒子
~土の勇者の後始末をする駆除業者~
102/503

102話



 翌朝、宿の食堂で朝飯を食べながら、俺は社員たちと一緒にリドルさんから貰う報酬と勇者について話していた。

「魔道具はナオキが作ればいいんだから、いらないだろ」

 アイルが言い、全員が同意した。

「じゃ、魔法書だね」

 リドルさんから貰う報酬は、宝玉と魔法書ということになった。午前中に役所に行こう。

「竜たちと宴会していた時、マーガレットさんから勇者についての話って出なかった?」

 俺は覚えていないので、新人たちに聞く。

「いえ、出てませんでしたよ」

「だったら、それも聞きに行かないとな」

 出港して、アルフレッドさんの話から東に向かうとしても、もう少し詳しい情報が欲しい。アルフレッドさんの「姉なら知っているかもしれない」という言葉を信じて、聞いてみることにする。フロウラに着いてからマーガレットさんに聞くチャンスはあったものの、聞きそびれてしまっていた。

「ま、出港する前でもいいか」

 食料はアイルとメルモが、生活用品や航海に必要な物はベルサとセスが買いに行くこととなった。

 俺はというと、報酬の受け取りとあいさつ回りだ。航海に出るにも商人ギルドには言っておいたほうがいいだろう。

 


「明日には発つのか!」

 俺は役所でリドルさんと面会し、お茶をすすっている。

 明日出港するという俺に、リドルさんは相変わらず高い声で驚いていた。

「ならば、今日の夜は空けておいてくれ。店を予約しておく。盛大な送別会を開かなくてはな」

「いや、ここのところお酒で記憶をなくしたりしているものですから、送別会はありがたいのですが、そんなに盛大にやられると、ちょっと…社員に示しがつかないというか…」

 俺が後頭部を掻きながら、ゴニョゴニョ言っていると、

「わかったわかった。案ずるでない。いい店を予約しておくから大丈夫じゃ。それで、報酬は決まったのか?」

「ええ、宝玉と魔法書をお願いします」

「うむ、心得た。夕方までには用意しておく。そうか、明日旅立つか」

 リドルさんはしんみりと言った。

 このまま話が始まると長くなりそうなので、「では、あいさつ回りがありますので、あとで」と言って、役所を出た。

 


「そうですか。明日」

 マーガレットさんの屋敷で、お茶を飲みながらテラスに座って、マーガレットさんに出港することを伝える。

「レッドドラゴンと黒竜がいなくなったと思ったら、ナオキくんたちも旅に出てしまうのね」

 マーガレットさんは寂しそうに言った。

 竜たちは竜の島に帰ったらしい。

「あの、マーガレットさん、勇者について何か知りませんか?」

「勇者? ええ、確か、東の国にいると聞いたことがあります。ばぁや、あの冒険者の本はどこへやったかしらね?」

「さて、どこへやりましたかね?ちょっと探してきます」

 マーガレットさんの隣りにいたばぁやが、探しに行った。

「ナオキくんたちは、東へ向かうの?」

「ええ、そのつもりなんですが……」

 なにか、東にはまずいことでもあるのかな?

「そう。だったら、あれも必要ね。送別会は?」

 マーガレットさんは何か考えながら聞いてきた。

「あのリドルさんが用意してくれるみたいで」

「ちょっと待ってね」

 そう言って、マーガレットさんは立ち上がって、どこかへ行ってしまった。

 しばらく待ってみたが、バタバタと足音がするばかりで、ばぁやもマーガレットさんも帰ってこなかった。

「あの~……!」

 大声で呼びかけてみた。

「送別会までに探しておくわ!」

 見えないマーガレットさんの返事があった。

「では、あとで!」

「は~い! あとで!」

 俺はマーガレットさんの屋敷を出た。



 挨拶回りの最後に商人ギルドに向かう。冒険者ギルドには昨日行ったので、いいだろう。

 商人ギルドは人でごった返していた。商人風の人もいれば、完全に冒険者の格好をした人、学者風の老人など、いろんな人種のいろんな職業っぽい人たちが集まっていた。

 何かあったのだろうか。

「何か、あったんですか?」

 近くにいた一番商人らしい青年に聞いてみると、俺を見てめんどくさそうに、

「ああ、俺もよくは知らないんだが、何でも例の駆除会社が、フロウラから出て行くらしいんだ」

と、言った。

 例の駆除会社? 俺たちのことか。で、なんで人が集まってるんだ?

「それが、どうかしたんですか?」

「どうかしたもなにも、皆、あの会社に就職しようって奴らが集まってるんだよ」

「なんで?」

 思わず俺は、眉をひそめながら聞いてしまった。

「なんでってそりゃあ、儲かるからに決まってるだろう! ブラックス家からの報酬も莫大だと聞いた。しかも、あのフロウラ様とも知り合いだって噂だ。後ろ盾もすげぇ! 金もある会社に関わらないって方が商人としてどうかしてるぜ! でな、なんと、よく見りゃ、ボードに新人募集の張り紙がしてるじゃねぇか!」

 しまった! 張り紙を剥がし忘れていたか。

「どうした、あんちゃん? これ飲むか? ただとは言わねぇけど」

 急に頭を抱えている俺に、商人風の青年は優しく果実酒を売りつけようとしてきた。

「いや、悪いけど、今はいいや」

 俺は断って、なんとか受付まで人をかき分けながら行った。

 人が多かったのが功を奏したのか、誰にも気づかれることはなかった。

 そもそも、商人たちが俺たちを認識していないのかもしれない。

「すみません」

 受付にいたギルド職員に言う。

「あ、コムロカンパニーの社長! あ……!」

 職員が俺を指そうとしたので、指を掴んで、反対側へ曲げる。


「声が大きい! 静かに。バレるだろ!?」

 顔を近づけて声を潜めた。

「痛い、痛いです」

 指を離すと、職員は指を押さえていた。

「大変ですよ、社長さん! 面接してくれっていう人でギルドが一杯になっちゃってますよ」

「見りゃわかりますよ。とりあえず新人募集の張り紙剥がして下さい」

「剥がしても、今いる人たちはたぶん帰らないですよ」

 確かに、剥がし忘れたのはこちらが悪い。

 だからって今さら新人雇うって言ってもなぁ。

 帆船で人手っているのかな。

「ちょっと待って下さいね」

 俺は通信袋を取り出して、小声でセスに連絡する。

「セス。船の人手って欲しい?」

『社長、ちょっと今、船に荷物運んでるんで、後にしてもらえますか?』

 セスはどうやら、買った荷物を船に運んでいるようだ。

「荷物?そんなものアイルのアイテム袋に入れればいいだろ?」

『あ、そうか! ……ちょっと待って下さい。アイルさーん! ……社長が荷物をその袋に入れろって…そうです……』

「入れた?」

『今、路地裏に来て、入れてるところです…そういうことは早く言えよってアイルさんが…』

「それでさ、帆船動かすのに、人手欲しいか?」

『え? 社長どうしたんですか? 船乗り拾っちゃったんですか?』

 ネコ拾ったみたいに言うなよ。

「いや、そうじゃなくて、新人募集の張り紙剥がし忘れてて、商人ギルドにすごい人が集まってるんだよ」

『ああ……、いや、別に5人いるんで、特に必要はないですよ。ちょっとアイルさんにも聞いてみますか?』

「うん、お願い」

 しばらく、セスがアイルに説明している声が聞こえた。

『なんだか、よくわからないですけど、アイルさんが呆れながら、必要なら雇えって言ってます。あ、あと、ベルサに聞け、だそうです』

「はい、じゃ、別にセスとしてはいらないのね」

『はい』

 セスとの連絡を切り、ベルサに聞いてみると、「面白い奴がいたら、雇えば?」と言っていた。

『そんなことより、こっちは重い荷物抱えて船に運んでるんだよ!』

と、ベルサが文句を言っていたので、「アイル呼び出して、アイテム袋に入れればいいだろ」と答えておいた。

 うちの社員は誰に似たのか、時々抜けているところがある。まったく、上司の顔が見てみたい。


「面接しますから、どこか部屋貸してもらえませんか?」

 俺はギルドの職員に聞いた。

「部屋ですか? んん、わかりました」

 そう言って通されたのは、完全な荷物置き場だった。しかもほとんど使われていなかったのか、荷物は埃をかぶっていた。

 クリーナップでさっとキレイにして、即席の面接会場を作る。

入り口のホールに戻り、集まってしまった人たちに面接することを伝える。

「どうもー!コムロカンパニー社長のナオキ・コムロです!今から面接するんで、一列に並んで下さい~!」

 俺の言葉に、ガヤガヤしていた商人たちが静まり、我先にと列を作り並び始めた。

 その後、部屋に一人ずつ呼んで、特技やスキルを聞いた。

 一人ずつにしたのは、集まってくれた人たちへの、せめてもの礼儀だ。

 言いたくなければ、スキルは言わなくてもいい、と伝えておいたが、全員数学スキルのレベルを答えた。

 ほとんどがレベル2か3。レベル5と言っていた者もいたが、数は少なかった。

 特技を聞くと、大抵、交渉や営業などと答えた。


 試しに、「このペンを売ってみてくれ」と、埃をかぶっていた荷物の中にあった羽根ペンを渡してみる。お題自体は、よくあるニーズを作って売り込めるのかどうかを聞く例のやつだ。面接をした全員が「この羽根ペンは素晴らしい」などを身振り手振りで教えてくれた。羽根の向きや羽根が揃っていることとかが素晴らしいようだ。


 結局、50人以上面接して、迷ったのは踊り子の親子と、鍛冶職人の修行をしていて辞めたという青年だけだった。踊り子の親子は美形の親子でベリーダンス風の踊りを見せてくれた。残念ながら、娘さんの方に彼氏がいるらしく、旅は出来ないというので、断った。


 鍛冶職人の彼は、鍛冶屋のお使いの途中にやってきたらしく、修行が辛いと愚痴をこぼしていた。辞めたわけではなく辞めたい、ということらしい。「頑張れ!」と言って帰した。

 全員面接し終わった頃には、すでに昼も過ぎていた。


 ギルドの職員に面接が終わったことを報告。なんだかすごく疲れた。

「合格者はいないんですか?」

「うん、いなかったです。試しに聞いたことが難しかったのかなぁ?」

「何を聞いたんですか?」

「ペンを売ってみてくれって言っただけですよ」

 職員は「ペン?」と言って、自分が事務仕事で使っていたペンを見せた。

「そう。あなたなら、どうやって売ります?」

「え? それは……、あ、そうだ。新人募集の張り紙剥がしておきましたよ。一応、ここにサイン書いてもらえますか?」

 職員は張り紙の空いている箇所を指しながら言った。

「それが正解ですよねぇ……」

 わかる人はわかるのだ。

 俺は職員に「そのペンを売ってほしい」と自ら言って、昼飯代に貰った銀貨1枚を取り出して、カウンターに置いた。職員がペンを渡してきたので、張り紙にサインを書く。

 書き終わったら、「このペンいくらですか?」と聞く。


「え? 銀貨1枚じゃ……」

「そんな高いペンいらないです」

 ペンを返し、銀貨を仕舞う。

「じゃ、明日出港しますので、よろしくお願いします」

 俺は商人ギルドを出た。



 屋台で昼飯を買い、歩きながら食べる。

 港の方に行くと、すでに俺たちの船は造船所から出て桟橋に着けられていた。

 タラップを上り、乗船するとセスが操舵輪を見ていた。

「セス、皆は?」

「あ、社長! 中で自分の部屋を決めているようです。僕が船長ですけど、船長室は皆で使うそうです」

「そうか」

「新人は取らなかったんですね」

「うん、不採用だったね」

 改めて見ると、マストも1本だけじゃなく3本もあり、とても大きい。

 何をどうやって動かすのか知らないが、5人だけで大丈夫か。

「帆を張るだけですよ。それにうちの人たち全員、腕力とかおかしいですし」

 セスは言っている。不安だ。

「大丈夫ですよ!社長が魔法陣を描いて進んだっていいんですから」

「そうか。そうだな……、そうかなぁ?」

 一度納得したものの、やはり不安ではある。

 夜、リドルさんに聞いてみよう。



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