8話、師、アウリール
うわー。この人いきなり何言っちゃってんの?
獣国のジョーカー? 知るかそんなもん。
俺の師となる? 頭ん中、膿でも湧いてんじゃねーの?
これこそが中二病の末路か。本気でそう言おうと思った。中二病って言葉がわかるかどうかわからんけど。
おふざけはここまでにして、さっきの話を真剣に考えよう。
まず、獣国のジョーカー。なら、ここは獣国ってところだろうか。もしここが獣国なら、アーガルドたちのことを聞いてみよう。国のジョーカーならそれぐらい知っているだろ。
ジョーカーという部分。あれは本人が言っているだけで、本当かどうかわからない。実際にステータスを見れば早いのだろうが、生憎使用できるだけのMPがない。かなり消耗していたのだろう。まぁ、この件は後回しでいい。
問題なのは、師ってところだ。これはハッキリ言って意味が分からん。フェルマーの最終定理ぐらいわからん。俺の師? なぜ? どうして?
考えても最終定理並みの問題なんて解けるはずもなく、すぐさまリタイア。
もう、いっそ聞いちゃおう。
「なぁ、どうして俺の師になる者、なんだ?」
「ん? そんなん一つしかないだろ? それは」
「それは?」
アウリールはとんでもなく理不尽な答えを発する。
「面白そうだからだよ」
「は…………?」
「ん? 聞こえなかったか?」
「いや、そうじゃないんだが…………」
遥希は本気で呆れていた。冗談抜きで何を言っているのかわからない。
もしかしたら、この人は俺の能力について何か知っているのかもしれない。
だから面白そうなどと思ったのかも……。
「……1つ質問させろ」
「なんだ? 何が聞きたい? 私の胸のカップなら」
「違うから、とりあえず内容聞こうか?」
「うむ。一理ある」
一理じゃねぇよ。本当に掴みどころのわからない人だな。
「確かに早とちりだったな」
「いや、早とちりとかじゃなく、質問の内容からかけ離れすぎてんだよ」
まぁ、と言い続ける。
「俺が聞きたいのは」
「私のスキルについて、だろう?」
「……やっぱりな」
「ほう、あまり驚かないんだな」
「まあな。予想はしていた」
その予想とは、アウリールは占い師か未来視ができる能力を持っているのだろうということだ。
そうでなくても、何かしらそういう方法を執れるだけの技量や人望があるのだろう。
そう考えると、目の前にいる女性は、大物なのかもしれない。
「わかっているのなら隠す必要もないな」
そしてアウリールは一息つくと、また名前を名乗った時と同じポーズをとる。
「私はこの国、いや、この世界で唯一未来視ができる《固有魔法》保持者なのだ!」
「やはりか」
「そういう貴様もそうなのだろう?」
遥希は心の中で、やっぱりな、と思っていた。
今までの口振りと言い、行動と言い、遥希を全く警戒していない。
確かに残留魔力のない今の遥希なら、ただの人でも勝てるだろう。
きっと彼女はそこまで読んでいる、いや、視ているに違いない。
それがわかったところで次の問題に移る。
「お前のことは大体分かった。だが、なんで師になりたいんだ?」
「それはさっきも言ったとおりだが」
「嘘だな。それだけじゃないはずだ」
遥希はすぐさま否定した。
対してアウリールはポカンとしている。
「見た感じ、話した感じ、そしてさっきの能力。お前はかなりの大物と思っている。この国の人々からも慕われているんじゃないか?」
「…………」
「はっきりとは分からないが、お前からは何か、凄い魔力の波動を感じる。かなりの経験と知識を持っていると、その波動が物語っている」
「ほう、波動が読めるとはな」
それだけに、と続ける。
「なぜそんな大物が俺の師になりたいと申し出るのかがわからん。それだけが引っ掛かる」
遥希は強い意志を言葉に乗せる。
「理由次第じゃ、お前の弟子になってもいい」
アウリールは驚いている。遥希の意志の強さがわかったからだ。
「それでその理由を教えてもらえるか?」
アウリールは肩を竦める。ここまで頭が回ると思わなかったのだろう。
そして遥希と同様に強い意志とともに告げる。
「お前が心配だからだ」
「心配? 俺が?」
「あぁ。そうだ」
そしてアウリールは過去の出来事を思い出すように目を細める。
「なんていうか、心配なんだよな」
『それはあなたが心配だからよ、遥希。』
今のアウリールに、遥希の母親が重なった。
「そうか」
それだけ言うと、少し恥ずかしそうに、
「それなら、俺が弟子になる理由に値する」
だから、
「アウリール。俺をお前の弟子にしてくれ」