62話、新魔王誕生の瞬間
少し急いで書いたので、文がおかしかったり誤字脱字があるかもしれません。
教えてくださるととてもありがたいです!
「はぁ……」
俺の気分は魔王の座に座ってからも上がることはなかった。
溜息しか出ないこの状況を何とかしてほしいのだが……。
そう思い少しでも気分を和らげるためにアウリールたちの姿を探すが、この部屋には見当たらない。
「はて、あいつらはどこにいるのやら……」
思わず口に出してしまったが、呟き程度の声なら聞こえることはなかった。
こうしているうちに俺の気も知らずに会は進行していく。
頭では違うことを考えているが、耳からは俺が魔王に推された経緯が語られている。
魔国領に無断侵入してきた者に100羽のヘルバードを嗾け殺そうとした。が、予想以上の巨大な魔力と不思議な召喚術(おそらく原子爆弾の具現化のことを言っているのだろう)によりすべてのヘルバードが一撃で沈黙。謎の召喚物はそれだけでは飽き足らず周囲10キロメートルの森林を根こそぎ破壊。最後に巨大な爆風と黒い煙によりそこから30キロメートルの木々は変色か死滅。
無断侵入者の男が召喚術を使ったと考え、その男の魔力値を計測した。しかし魔力がないのか、はたまた大きすぎるのか、魔力計測は失敗。あの爆発を起こした物を召喚したことから魔力保有量は限りなく多いだろうと見当をつけ、迎い入れた。
それを行ってなぜ俺が魔王になると決まったのかというと、丁度魔王がいなかったし、全魔国領を収めるための魔力と威力の高い範囲召喚術を使えることからだそうだ。
各地に住んでいる7人の魔王にもすでにことの詳細を話していて、なおかつすべての魔王に承認を得ているらしい。
手の早いことだ。
そのおかげで俺は魔国領を観光できない状態になってしまった。しかも随分と面倒なことになってきてしまった。
これを不幸と呼ばずに何と呼ぶ。
と、いうか、現7魔王を含んだ魔国領全土の住人、新魔王を選ぶのテキトーすぎやしないかい?
新魔王がいないなぁ、困ったなぁ。あっ、丁度不法侵入者いるしヘルバードでも仕掛けて実力図るか。もし実力があるならそいつが新魔王でいいや。異論、ないよね?
どうせこんな感じに決まったに違いない。
大体魔国領の地を踏んでから2時間程度しか経っていなんだぞ。
まぁ、魔国領を統べる魔王って面白そうだし、いろいろ便宜も図ってもらえるかもしれない。
そう考えると魔王になるのもやぶさかではないし、むしろウェルカムだ。
おかげで魔国領を無断で立ち入ることができるし、魔国領内では好き勝手できるし一石二鳥ではないか。
なぜか始めは乗り気ではなかったのにポジティブに考えるといいこと尽くめな気がしないでもない。
丁度今の状況の整理もできたわけだし、司会者も一生懸命話してるから聞いてやるか。
「そういった経緯でハルキ・シンザキ様が新魔王として推薦されたわけです。それでは、新魔王、ハルキ・シンザキ様より一言いただきます」
司会者がどうぞ、と俺にアイコンタクトで知らせてくる。
新魔王誕生の場だから挨拶の一つはするんだろうな、と覚悟だけはしておいたかいがあった。
俺は一つ咳払いをすると魔王の座から立ち上がり、周りを見渡す。
同時に、その場にいる魔族全員が頭を垂れ、俺の言葉を今か今かと待ち侘びる。
「今紹介に預かったハルキ・シンザキという。俺は人間故この魔国に関する知識は文献に記されていること以外何も知らない。なぜ俺が新魔王になるのかはそこにいる司会者からあった通りだ。といっても俺もこの式中に初めて聞いたのだが。
とにかく俺は魔国領について知らない。新魔王の責務や義務、業務内容なども同様に知らない。しかしどんな経緯であれ、多人数からやれと言われたのならやってやろう。
しかし異議があるなら申し出るがいい。俺を認めないのならそれでいい。歯向かうのならそれでいい。受けて立つ。その代り歯向かうもの、たて突くもの、そのすべてを俺の手で切り裂いて、砕いて、潰して、原形を保っていられなくなるくらいに存在を殺してやろう。同時にその周囲に俺の力を見せつけ、恐怖のもとに支配してやろう。
俺は新魔王として存在する代わりに、これだけは誓う。俺に忠誠を誓うのならば、貴様らの命は俺が預かろう。貴様らの危険を排除し、貴様らの命を保証しよう。誰一人として殺させん。
以上だ」
その場に沈黙が下りた。
司会者がとの程度まで口にしたのかはわからないが、俺が人間だとか、この国について無知だとかを言うのは少々不味かっただろうか。
人間や獣族の連中が魔族を見たことがないということは、もしかしたら魔族の人間も人間を見たことがないのではないだろうか。
もしそうなのだとしたら……。正直に言おう。失敗した。
俺が人間だと知ったからこその沈黙だとしたら、俺の立場はかなり危うい。『魔王の間』には100人以上の魔族が集まっている。それも力のあるものばかりだ。
仮にその面子から全員に襲われるとしたら、生きていられるかわからない。というよりも確実に殺される。
これはやっちまったか? と考えていると―――
うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!
空気が割れるほどの大歓声が『魔王の間』に響き渡った。
今まで頭を垂れていた魔族たちは飛び上がるように立ち上がり、右腕を天に掲げるように振り上げた。
そしてその歓声の中からは俺の名を呼ぶ者や、魔王様バンザーイという声までも聞こえた。
大歓声の中、アウリールらしき声が俺の名前を呼び、いつの間にか大歓声が「ハルキコール」に変わっていた。
俺は気恥ずかしい思いを抱きながらもそのコールをある程度聞き、静止のために片手を上げた。
同時に先ほどまでの歓声はどこへやら。一瞬にして歓声が止まった。
俺は視線を司会者へと移し、進行を促す。
司会者はなぜか嬉しそうに笑い、式を進行する。
「それではハルキ・シンザキ様が新魔王となられることに異議のある者は申し出てください」
司会者の言葉にその場にいた全員が右手を胸に、左手をこぶしにして地面につけ頭を垂れた。
そして―――
『新魔王様に忠誠を誓います』
それが新魔王の誕生した瞬間だった。




