60話、新魔王誕生?
ついに試験終了!
長らくお待たせ居ました。
ここ4、5ヵ月はなかなかに多忙な日々でした。
というわけでここから本気出します!
「隠密行動するんじゃなかったのか!? バレバレじゃないか!」
地上に降りるなり言われた言葉がこれだ。
確かにあの規模の爆発はやりすぎだと遥希も思っていたが、ヘルバードから逃げる方法がほかに思いつかなかったため仕方ないだろうと思う。
おかげでヘルバートに襲われることはなかった。一時的にだが空中の脅威も去った。はずだった。
「お前これどうするんだよ!!」
代償として魔族にバレた。
俺たちが着地すると同時に数十体の魔族に囲まれた。
それもそうだろう。あんな爆発と爆風、爆音を響かせておいて気づかないほうが異常だ。というか、あれほどの攻撃をしておいて「大丈夫だろう」などと思っていた俺のほうが異常かもしれない。
上空では確かに助かったが、結果的に危機に陥った。
「それでどうするのだ? 我が変身して対抗してもよいが対抗できるかどうか……」
「いや、その必要はない」
クラーウェンの提案を即座に断り、みんなを守るようにして魔族の前に立ちはだかった。
「おい、貴様ら。この俺様が魔国領に赴いてやったぞ。感謝しろ」
どの口がほざく! アウリールたちは一人の例外もなく内心で突っ込みを入れた。
それはそうだろう。100匹のヘルバードを始末し、それに飽き足らず魔国領の森林を大規模に破壊。加えてあんな巨大なキノコ雲を出現させた。
それなのに第一声が謝罪ではなく全く訳の分からないふざけたセリフ。
これを「喧嘩を売っている」以外にどう解釈するのだろうか。
言語道断、不遜甚だしいセリフを聞き、黒いマントを羽織り金と赤を基調とした貴族のような服を着た一人の魔人が一歩前に出る。
無論、この時のアウリールたちの心境は穏やかではない。
貴族風の魔族はバッとマントをたなびかせ、右手を体の真横に伸ばす。
あ、死んだな。
アウリールたちがそう思い、ほろりと涙を流しそうになった瞬間―――
『よくいらっしゃいました魔王様!!!』
貴族風の魔人が跪くと同時に後ろに控えていた数十人の魔族たちも一斉に跪き、声をそろえた。
なぜか歓迎された。
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「なんでこうなった? なぁ、わかるか?」
「わかるわけあるかっ!!」
「アウリールさんの言う通りですよ!!」
「さすがに私でも分からないかなぁ」
「我もこの状況の説明を求む!!」
と、言われても自分自身なんのこっちゃわからない。
現在『魔王様御一行』は貴賓室らしき場所でソファに腰を下ろしていた。
あの後、俺はほかの皆の気持ちを代弁するかのように「はっ?」と無意識下にもかかわらず素頓狂な声を上げてしまった。
俺の上げたそれは意味が分からない、ということを意味していたのだが、それを聞いた貴族風の魔人は何を思ったか、
「魔王様は長旅でお疲れのご様子! すぐさま部屋にご案内しろ!!」
『はっ! 仰せのままに!』
というわけである。
魔族と対峙して俺が放った第一声はもろに虚勢だった。
そもそも人間国や獣人国で存在が不確かだった魔国領の魔人の強さなど全くの未知、普通では知りえないことなのだ。
未知故に虚勢を張ることにした。もし魔人が自分でも敵わないとしたら、ここにいる全員は間違いなく勝てない。命があればまだいいかもしれないが、最悪の場合殺される。
それを恐れた俺はせめてアウリールたちだけでも逃げられるように虚勢を張り、あたかも自身が強者であると見せつけたかった。
そうすれば自分に対してのヘイトが上がり、アウリールたちに向いている警戒が少しでも和らぐ、そう思ったのだ。
しかし結果はこの通りである。
虚勢を張り挑発気味に第一声を言ったのに、魔王様扱い。
まさになんのこっちゃ、である。
しかもなすが儘に案内されたのがこの豪華な部屋。
部屋自体はそんなに広くなく比べるのなら学校の教室程度。
それだけならどうということはない。が問題はそのほかである。
部屋一面にひかれたふわふわな赤い絨毯にアンティーク調な家具。天井には複数のシャンデリアのような灯りがあり、ソファは自分のすべてを包み込んでくれそうなほど柔らかく沈み込む使用になっていて、壁にはこの『魔王城』一帯を描いたであろう風景画。そして机には細かなレリーフが施されており、その上には明らかに高そうな壺。
この部屋に案内されたとき「これはヤバいやつ。早く逃げるべき」と、脳内警報が鳴りっぱなしである。
どうやら他の面々もそのようで、不安げにキョロキョロと周りを窺っている。
そんな中唯一の僥倖があるとすれば、この部屋には自分たち以外に誰もいない、ことだろうか。
横に座っている連中が少しうるさい気もするが、今は放置。
一つ深呼吸をしてから状況に整理を始める。
まずこの建物。道中でメイド服を着た人(メイドだと思う)がこの建物の説明をしていたのを思い出す。
この建物『真・魔王城』は魔国領内に複数ある『魔王城』と呼称される中のいわば総本山である。
『真・魔王城』の内装、構造としては、中央に巨大な塔(本城)があり、そこを中心に7本の小さな塔(分城)が建っている。分城にはそれぞれ名前があり、北から順に『アログァース』『アンガー』『レーヴィネス』『オーヴァイト』『シャスト』『エンヴィ』『アバリス』となっている。
たしか何かの名前だった気がするのだが、うまく思い出せない。少しもやもやするが、重要事項ではないため一旦放置。
本城には名前がないらしい。城の主が変わるたびに名前が変わるシステムらしいので今はないのだとか。つまり今はこの『真・魔王城』の主はいないということになる。
しかい、どうやら今日この城の名前が決まる祭りが始まるらしい。この城の名付けシステムから考えるに、この城に新たな主が生まれたことになるのだが……。
「あー、ヤバい。非常にヤバいぞ」
「何がなのだ?」
さっきまでキョロキョロと挙動不審ってた、いや現在進行で挙動不審ってるクラーウェンがキョロキョロを辞めずに問いてくる。
思わず言葉にしてしまった俺も俺だがやはり考えごとはしているわけで、そんな中なーんも考えていなさそうな顔で、しかも目も合わせずに問いてこられると少なからず腹が立つというものだ。
……軽く気分転換するか。
「おい、クラーウェン。ちょっと目閉じろ」
「ん? こうか?」
「そうそう」
クラーウェンはしゃべらないと可愛いんだけどな。
そんなことを考えながら、右手を振り上げ、勢いよく振り下ろした。
パシィィィィン
「痛っ! ちょ、何をする!!」
「いい音したなぁ」
「そうではなく! ……でも」
「ん?」
でもなんだ?
俯いたクラーウェンの顔を覗き込むと、どういうわけか口角が上がり頬が主に染まっている。
いや、本当はわかっている。が、わかりたくない。その状態はあまりよろしくない。
そしてついに、それは芽吹く―――
「いい……かも。ふふっ」
目覚めよった。しかもよりにもよってこいつがMとか。あほの上にMなんてこれから俺はどうやってこいつに接すればいいのだろうか……。
あっ、そうだ。無視すればいいんだ!
「何か失礼なこと考えていないか?」
「いや、全然、これっぽっちも考えていないが、何か?」
「い、いや、ならいいのだ」
ちょっと凄んでみたら反応に困ってるわ。やっぱり面白いな。
それは置いておいて、考え事の途中だった。
本城の名前のシステムについてだが、この城の名前はその時の主の名前が用いられるようだ。それに一切の例外はないという。つまり本人の意志とは無関係で、勝手に名前が付けられるということだ。
そして今日からこの城の名前になる主の名前は―――
ドアが2回軽くノックされ、先ほどの貴族風の魔人と後ろに二人のメイドが優雅に一礼し、入室してきた。
そして入ってくるなり、俺が考えていた今聞きたくない言葉ナンバー1をためらうことなく発した。
「私たちの主、そして『真・魔王城』の主、ハルキ・シンザキ様。魔王誕生祭の準備が整いました。今から案内いたしますのでどうぞこちらへ……」
そして今日、魔国に新たな魔王が誕生した。
同時に新魔王はこう呟いた。
「……なぜこうなった?」
その答えを知るものは残念ながらここにはいない。




