59話、原子爆弾
久しぶりの投稿です。
大変長らくお待たせしてしまいましてすいません!
諸事情で投稿が遅れてしまいました。
これからもこういうことがあると思いますが、作者も頑張っていきたいと思うのでよろしく!
「じゃあ行くぞ? 準備はいいな?」
現在、上空200。そしてここはコンコルドの搭乗口だ。
搭乗口は既に開いており、そこから冷気をまとった強風が吹き荒れている。
「いいか? ミスったら終わるからな?」
みんなさっきから一言も喋らない。それは勿論、不安でいっぱいだからだ。
この落下傘は使い方を間違えず事故を起こさなければ快適で楽しい空中遊覧ができる。が、一方で失敗すると速攻で落下。運が悪ければ落下傘が中途半端な状態で開き、きりもみしながら落ちるというジェットコースター顔負けの地獄行となるわけだ。
それはさておき、先程から遥希が話すたびに生唾を飲み込む音が聞こえるのは気のせいだろうか。
実際問題、遥希自身はクラーウェンの件で落下傘を使用したから大体の使い方は分かる。
問題は落下傘を使ったことは勿論、見たことすらない他のメンバーだ。
しかも「落ちたら死ぬ」とか「失敗はできない」とかと、遥希が脅してばかりだから恐怖と不安のダブルパンチで精神状態はやばいだろう。
そんな状態で飛んだら危険極まりないが、その中で遥希は、
「よし、行くか」
周りを気にしていなかった。
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現在、上空150メートル。飛行は順調だ。
最初、死ぬんじゃないかと思われたメンバーたちだったが、失敗した者は一人も出ずに、飛行を続けている。
今は、最初の恐怖などそっちのけで楽しんでいるようだ。若干一名を除いてだが。
「こ、こんな高いのは本当に無理だ死ぬ死ぬ死んでしまうこのままでは地上に落下して魔物どもに食われてあぁ嫌だこんなところで死にたくない嫌だ嫌だ嫌だ」
「いい加減慣れろよ。こっちまで落ちそうになるわ」
どうやらクラーウェンは高いのが無理らしく、飛んでからずっと呪文のように不吉な言葉を唱えている。
「こんな高いのに慣れろだと!? き、貴様それを本気でっ……!?」
「なに泣いているんだ。急に固まったりして。忙しい奴だなお前……ん?」
遥希はクラーウェンを中傷しながら、その視線の先に目をやった。
そこには空を埋め尽くすほどの量の鳥が飛んでいた。しかもこっちに向かってきているような気がしないでもない。
「おいカレン。あれはなんだ?」
遥希は、近くではしゃいでいるカレンに説明を求めた。
「あれはね、ヘルバードっていう飛行型の魔物なんだけど、体長が5メートルくらいの大きくて凶暴な奴だよ~。ちなみに肉食で何でも食べる厄介者だね」
「ほう、サンキュー」
ヘルバートとやらは群れで行動するらしく、目に映る限りだと軽く100羽は超えているんじゃないかと思うほどの大群で迫ってきている。
「ってこれやばいんじゃないか? あいつら肉食なんだろう?」
「ん、そうだね。空の覇者とかって呼ばれてるから、あの数相手にするんだとすると簡単に死んじゃうね」
「だよなぁ。そうだよなぁ」
やばい。これはこの世界に来て初めての危機というやつではないだろうか。
修羅場はある程度こなしてきた遥希だが、相手の土俵であの数、そして空の覇者とまで呼ばれている魔物相手に勝てるだろうか。答えは、
「これ、死ぬな」
「いやだあああぁぁぁぁあああああ!! しにたくないぃぃぃぃい!!」
ほんの軽い気持ちで死ぬといった結果がこれだ。
このままだとクラーウェンが発狂死してしまうのでは? という勢いだ。
「それで何か案はあるのか?」
先程までおとなしく浮いていたアウリールがここにきてやっと口を開いた。
遥希は、あぁ、と言ってアウリールに目をやる。と、アウリールの目の下が赤く、目じりに涙が溜まっているのが見えた。
「お前もか!」
「い、いや違うぞ! これはだな、そうだ! 風で目が乾燥してだな!」
「それじゃあむしろ乾くわ。涙なんて出るわけないだろ!」
「う、そ、それは……」
使い物にならん。そう思ってしまったのは仕方のないことだろう。
「それで本当にどうするんですか? このままだと危ないんですよね?」
ここまで来てリリシアが初めて口を開いた。
リリシアのほうに目を向けると、なぜか少し顔を赤くし、笑っていた。
「確かにこのままだと危険だが……。何があった?」
「いや、今日私ってスカートじゃないですか。しかも今日に限って下着履くの忘れてしまってスースーするんです」
「とりあえず落ちろ。何興奮してるんだあほが」
「こ、興奮だなんてそんな! ま、まぁ少しだけ変な気持なのは認めますけど……」
「黙れ露出狂。落とすぞ」
「いや、待ってください! 冗談です!」
はぁ、だれも使えない。
心からそう思った遥希だったが、次の瞬間少しだけ口角を上げ、にやっとした。
「ここはひとつ、ヘルバードとやらに実験を手伝ってもらおう」
遥希がやりたかったこと、それは原子爆弾の具現化だ。
原子爆弾、通称原爆とはウランやプルトニウムを使い、核分裂反応を爆発的に行わせることによって発生する熱線や衝撃波で殺傷、破壊する道具だ。
確か地球では使用どころか製造すら禁止になっている危険物だったが、ここは異世界。しかも人間とは相容れない魔国領だ。なら容赦なく試してみてもいいだろう。
単体の中性子がぶつかると分裂し、この瞬間に2個または3個の中性子が飛び出すと膨大なエネルギーが発生する。 飛び出した中性子は別のウランの原子核にぶつかり、分裂、エネルギーや中性子を放出する。この核分裂がごく短い時間に次々と広がると、 瞬間的に強大なエネルギーを発生させることができる、というのが原子爆弾の原理である。
「イメージとしては分かりづらいが、悩んでいるよりは実際にやってみたほうが早いだろう」
遥希は自分の知識内の情報だけで原子爆弾をイメージ。『中性子が分裂し、エネルギーを生み出す』という想像しづらいことを何とか思い浮かべようとする。
「二文字解放、原爆!」
遥希の言葉と同時に、ヘルバードの群れの上空に黒い弾が出現。それはゆっくりと重力に従ってヘルバードの群れの中央へと落ちていく。
「おい! 爆風が来る可能性が高いから防御魔法を展開しておけ!」
返事は聞こえなかったが、声は届いていたようで、各々防御魔法の展開を始めた。
遥希はそれを確認すると依然としてこちらに向かってきているヘルバードに向かって小さな声でつぶやく。
「3、2、1……。終われ」
ドオオオオオォォォォォォォォォオオオオン!!
原爆は遥希の想定していたものより、数十倍の爆発を起こし、あたりを放射線と爆風で埋め尽くした。
原爆が落ちた時に起こる特徴的なキノコ雲を天高く吹き上げ、その煙で周辺を黒く染める。
その余波は1キロほど離れたところにいる遥希たちにも襲い掛かり、爆風で落下傘が激しく揺れ、操作がきかなくなる。
爆風が一通り収まると、ヘルバードの群れはおろか、その周辺の森までごっそりと消し去っていた。
「な、何が……!」
「ちょっとやりすぎたな」
アウリールの絶句とも呼べる反応を見て、流石の遥希も後悔を感じた。
遥希は恐る恐るほかの面子に目を向けるが、どうやら原子爆弾の余波のせいで混乱しているようで、アウリール以外の誰一人として森林破壊に気付いている者はいなかった。
「さすがにやりすぎだぞ貴様!!」
「あぁ、スマン。つい……な?」
「ついではないぞ! 森林は関係ないだろうに、変なところまで破壊しよって!」
「……わかっている」
「本当に分かっているのか!? こんな惨状を生み出しておいて、この馬鹿者がぁ!!」
アウリールの種族、《獣人》は自然を最も尊ぶ種族。しかもアウリールはその中でもかなりの自然好きで、森に行くたびによく木々と遊んでいた、と頼んでもいない昔話を良くしてくれた。
そんな大の森主義者の目の前で森に大ダメージを与えてしまった遥希は、地上に降り立つまでの間、ずっとアウリールに謝り続けていた。




