40話、精神論
今回は少しセリフの長いところがあります。
すこし文章の構成がおかしくなってしまった気がしますが、そこはご愛嬌(笑)
誤字脱字あるかもです。
「ハールーキー!!」
ニュクルスに来て2日目。ひとり宿に身を置いていた遥希は、昨夜大してアウリールのことを心配せずにすぐ寝てしまった。
宿に泊まっている遥希を見つけることができるはずもなく、アウリールは外で一夜を過ごしていた。
いくら日中暖かいと言っても夜は冷え込むもので、夜を外で過ごしたアウリールの結末は火を見るよりも明らかで。
「ようアウリール。なに震えてるんだ?」
「お前のせいだぁ!!」
アウリールは遥希目掛けて走り出し、ラリアットを繰り出した。が、遥希は身を横にずらし回避。そのラリアットは空を切りアウリールは転倒。涙目だ。
「避けるなよぉ……」
「あぁ、痛いのはごめんだ」
「昨日ハッとして周りを見たらハルキはいないし、城の中とか街を探しても見当たらないし、気づいたら指輪がなくなってるし、寒いし、寂しいし、悲しくて………」
まさかそんなに落ち込むとは思わなかった。かなり焦っていたのか、昨夜のことを語るアウリールの顔には安堵と一緒に不安が見え隠れしていた。
遥希はそんなことをつゆ知らず、暖かい食事をとり、暖かい部屋で寝ていた。それを考えるとどう言葉をかけていいか分からなくなってしまう。
しかしそんな遥希にも夕食の時に思っていた。1人とはこんなに寂しいものなのかと。食事はとても暖かかったのだが心は冷えていく一方だった。
それでも遥希が探しに行かなかったのは、城の中に部屋が用意されていると考えたからだ。
遥希自身、方向音痴ということは承知している、だからこそだだっ広い城の内での生活はしたくないと思い宿を探した。
とはいってもそれは遥希の身勝手な行動の結果であり、言い訳を重ねるわけにはいかないと察した。
「アウリール、昨日はすまなかった。悲しい思いをさせて申し訳ないと思っている」
「本当か?」
「あぁ本当だ」
「本当の本当か?」
「あぁ本当の本当だ」
「本当の本当の」
「あまりしつこいと嫌うぞ」
「う、うるさい!」
遥希は顔を赤くして拗ねるようにそっぽを見いたアウリールの頭に手を置き撫でた。
「いつまでそうしているつもりですか?」
不意に後ろからそう声をかけられた。と、そこには兵を連れたリリシアが膨れっ面で立っている。
「ようリリシア」
「おはようございます、ハルキさん、アウルさん」
「貴様、口のきき方に気をつけろ。リリシア様もこんなどこぞの馬の骨ともしれぬ輩に挨拶など不要です」
遥希は少し眉を顰めた。初めて会った人になぜここまで言われなければならないのか。
「リリシア様を前に頭を垂れないどころか失礼極まりない態度をとりおって……。凡人風情が」
今度は眉を顰めるどころではなかった。凡人風情という言葉が気に食わなかった。
「おい、さっきからふざけたことをほざいているお前」
「なんだ餓鬼」
「殺すぞ?」
遥希は自身の身からどす黒い魔力の塊を放出した。殺す、という言葉が比喩ではないことを間接的に伝えるためにだ。
だが、意外なことに相手の兵士は怯えていないようだ。それどころか少し笑っているように見える。
「最近はそういう風に魔力を偽装する犯罪者が増えている。法により、偽装刑で処す!」
「何を言っているのかが分からない。が、やる気か?」
「その虚勢がどこまで持つかな? 泣いて媚びても遅いぞ罪人」
アウリールが加戦するか、と聞いてきたが、愚問だとだけ答えておいた。
当のアウリールは首を竦めると、その場から離れた。
一方のリリシアは戸惑いながら兵の後ろに下がる。遥希はリリシアを傷つけるわけではないため、賢明な判断だと心の中で呟いた。
遥希1人対兵士15人。普通の人間ならすぐに降伏する状況だが、遥希はその普通の人間の中には入らない存在だ。
「俺はハンデとして武器は使わない」
「ハンデ……だと?」
相手の身を考えてそう言ったつもりだが、どうやら相手を怒らせてしまったようだ。と言ってもどのみち戦うつもりでいたため、相手も感情なんかどうでもいいのだが。
兵士たちは怒りのままに剣を取り、構える。
「餓鬼! しねぇ!」
遥希は兵士のその動きに感嘆した。踏み込みが強く、動きが早い。がそれだけだった。
「一文字解放、鏡」
遥希の言霊は、その単語の通りの形になり具現化。今まさに切りつけようとしていた兵士の手を止めさせた。
「なんだこれは!? 幻術か!?」
そういうのも無理はない。なにせこの世界に鏡は存在しない。それは昨日のアウリールの反応で分かっている。その代りになる青銅なら存在するが、突如現れたそれを判別することはできない。
味方の兵士が分身したように増えたのもそうだが、遥希が視界から消えたのが効いたのか、相当驚愕しているようだ。
「くそ! こいつらなんで同じ動きをしやがる! それにあのクソ餓鬼はどこに行った!」
「隠れていないで出てこい!」
「ふざけやがって!」
混乱のあまり、口々にそう叫んでいる。仕掛けてきたのは兵士の方なのに酷い言い分だ。
観戦しているアウリールとリリシアは、少し笑っていた。鏡とは、正面から見たものは反射するが、真横から見るとただの板なのだ。
ただの板に向かってオロオロしながら叫んでいる兵士と、その逆側で欠伸をしている遥希。何かの劇でもやっているようだ。
最早これは戦闘とは言わず、ただの遊戯に見えてしまうのはどういうわけだろう。逆に遊戯をしていると思えばとてもシュールに見えるため不思議だ。
「なんか、飽きてきたな。二文字解放、複製」
今度は前だけでなく、兵士を囲むようにして幾つもの鏡が出現した。それにより中の兵士たちはより混乱して、叫び声が悲鳴になっている。
「そろそろ始まるな」
遥希がそう呟くと同時に、鏡の中から金属音が聞こえ始める。それは剣と剣がぶつかり合っている音だ。
「ハルキ、何をした?」
「いや、俺はあれを出しただけで何もしていない」
「ではなぜあの中から金属音がする?」
「あぁ、あいつらは今、味方同士で斬り合ってるからな。防御とか鍔迫り合いとかすれば嫌でも音するだろ」
遥希のその説明にアウリールとリリシアはただ小首を傾げるだけであった。
それから数分後、遥希が鏡を消すと、そこには倒れている15人の兵士がいた。
これを見たアウリールとリリシアは遥希が何をしたのか愈々分からなくなってしまった。
「人の弱点って何かわかるか?」
遥希は唐突にそんなことを呟いた。
「その答えは『精神』だ。人は何もない空間に閉じ込められると72時間しか持たない。いくら精神が強いからと言っても、それは無限でも無敵でもない。いつかは壊れる。それが今なのか未来なのか死ぬときなのかは分からない。
人が生きるためには一番何が必要か。臓器か? 違う。地球では臓器はすでに人工で作ることが可能だ。なら酸素か? それも違う。自分が生きるためだけなら酸素マスクでも使えばいい。そう、精神に代わりはない。人工で作り出すことも体外から補給することもできない。新たに作り出すことができない代物、それが精神だ。
人の弱点。それがある限り人は弱い。恐怖や絶望などのあらゆる感情は精神が作り出す。
俺はそこを突いたんだ。どれが本物かわからない恐怖、仲間すら分からなくなって、考えて考えて考えた結果、なにも分からない絶望。それが精神にダメージを与える。そして臨界点を突破したのがあれってわけだ」
遥希の解説にはどこか自嘲的なものが含まれていた気がすると感じた2人。
結局遥希は何が言いたいのかわからなかった。理解力が足りないのか、遥希がずば抜けていいのか。
「とにかく、王城に向かうぞ。早く飯が食いたいらな」
遥希はその場に疑問を残したまま立ち去った。
この精神論はあくまでも僕の考えです。
それ自体に正解はないのでテキトーに流しちゃってください!
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