2話、人格
(これは…………ステータス………だよな?)
NAMEがハルキ・シンザキということは、このステータスは遥希のステータスということだろう。
(なんかINT異常じゃないかこれ? バグ?)
しかし、いつまで経っても結論が出ないため、一時放棄する。
ちなみにNAMEが名前、LVがレベル、HPが体力、MPが魔法量、ATCが攻撃力、DEFが防御力、SPEが素早さ、INTが賢さ、LACKが運、NEXTがレベルアップまでの経験値、EXPが今まで得た経験値。
(この英単語と数値はわかる。その下のKILLとAROMOは、装備といったところだろう。MAGICは習得している魔法……だな。SKILLは………)
ステータスの上から一つ一つ見て理解していく。そして最後の、スキルのところで止まる。
(スキル……創造?)
スキルの意味は分かる。だが、創造というのはどういう能力かがわからない。
遥希はステータスを表示したときと同様に、創造のところに意識を集中する。すると、
創造
一文字創造 消費MP 性能による
創造はその名の通り、物や現象をイメージして無から作り出す、いわゆる言葉を具現化することができる。物は作りたい形を、現象はその仕組みをイメージすることで発動する。命に直接影響を与える言葉は発動されない。このスキルは5回まで重ねることができる。消費MPは具現化したモノの性能に左右される。一時的な具現化や、またそのの継続時間もその性能により消費MPに左右される。
(これはまた……。退屈しなさそうなスキルだな)
ここで遥希は醜いゴブリンを放置していることを思い出した。
辺りを見回すと先ほどの奴かわからないが、幸いにも近くにゴブリンがいた。
遥希は深い深呼吸をすると、
「一文字創造、剣」
呪文を唱えると遥希の手の前に鉄の両刃剣が出現した。
(いろいろ試しがいがありそうだな。)
とにかくゴブリンを倒すための流れをシュミレーションする。
ゴブリンにも攻撃パターンがあるだろうから、後々に生かすため観察させてもらう。
無論、戦いの最中に。
「さてと……。ちょっくら行きますか」
その声と同時に、遥希は全力で走り出す。
遥希の殺気を感じ取ったのか、ゴブリンも戦闘態勢になる。しかし、
「おそいな」
そうつぶやくと剣を横薙ぎに一閃。それは見事にゴブリンの首を刎ねた。
ゴブリンはガラスを爪で引っ掻いたような断末魔をあげ、血飛沫をまき散らしながら絶命した。
異世界に来た初めての戦いは僅か5秒で決着した。
「思ったより呆気なかったな」
ゴブリンを観察するつもりでいたのだが、スキルが発動したことに興奮したのか、完全に忘れていた。
気付くと随分と日が傾いている。
この後の予定を立てていなかった遥希は、どうしたものかと考える。そこに、
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
女性の悲鳴が聞こえた。そのため一時、考えるのをやめ、声がした方角へ向かう。
(今の悲鳴……。人の声、だったな)
遥希は面倒くさいことはなるべく関わらないようにしている。それは何時でも何処でもそうなのだが、今回だけは違った。
人の声、ということは少なくとも森の近くに村か町がある、ということだろう。それに丁度、情報がほしいところだった。これらは推測の域を出ないが、可能性としては十分ある。
無駄なことは極力避ける。だが逆に、必要なことならば如何様にも手を講じ、最大限のことをする。それが今なのだ。
とはいってもここは未知の森。何時危険が迫ってくるかわからない。だからなるべく物音を立てないように近付く。
(ゴブリンが五体……。いけそうだ)
その五体は一人の女性を囲むように立っている。その顔は、えげつないほどに醜悪な顔をしている。
一方の女性は、腰を抜かしているようでその場で座り込んで怯えるように身を竦ませている。
(よし。あいつは紛れもなく人間だな)
遥希はそれを確認すると、獲物を見つけた狼のような鋭い目をして飛び出していく。
ゴブリンたちは、いきなり出てきた遥希を見て少し驚いているようだったが、すぐに武器を構えた。
「まずは……。一文字創造、風」
その風は、遥希がイメージした通りに動く。
(こいつは便利だ……)
風は遥希の体を包むと、突風に近い速さで移動を始める。
そのスピードは常人には目で追えないくらい早かった。
「一文字創造、槍」
遥希は槍を掴むと、それに風を纏わせ突きと一緒に放つ。
その突きはゴブリン一体に直撃。その腹部を深々と貫いた。
それと同時に槍に纏わせた風が刃先に集まり、刺さったゴブリンを粉々に散らせた。
「あれ? 風を飛ばそうとしたんだけど上手くいかなかったな」
また後、練習しておこうと心に決めた遥希。その周りには、さっきまで生きていたゴブリンとは似ても似つかないほどの肉片が散らばっていた。
「あと四体………」
遥希の表情は嬉嬉として玩具と戯れる子供のような笑顔をしていた。だが、
「さぁ、どう料理してやろうか……」
子供のような笑みは、自然と獰猛な笑みに変わっていく。まるで戦闘を楽しんでいるかのように。
その顔に恐怖を覚えたのか、ゴブリンたちは一斉に襲い掛かってくる。が、
ヒュン
その音と同時に四体のゴブリンは肉片に変わった。
後に残るのは、ゴブリンの肉片と、唖然としている女性、返り血を浴びて悲しそうに眼を伏せている血塗れの遥希だった。