28話、正体
「あのハルキは本物かもしれない」
アウリールの声はしんと静まった部屋に響く。
「それは、どういうことですか?」
キルルがそう思うのも無理はない。今までの仮説の中にその考え方はなかったからだ。
その意外性を体現するかのように周りの面々は固まっていた。
「まず初めに言っておくが、ハルキは我々と少し違う」
「違う、というのは種族の隔たりのことを指しているのか?」
「いや、そうじゃない。本人から口止めされているため詳しくは言えんが、やつは根本的に違う」
「根本的にって、あいつは人間種じゃないってことかよ」
カリウドの質問に返答できない。なぜならアウリールは遥希のことを知らな過ぎているからだ。
現にアウリールは遥希の能力は勿論、素性すら完全に把握していない。
無論、遥希の元の世界のことも知らない。しかし1つだけ分かるとすれば、文明のことだ。
この世界の説明をしているとき、何かを堪えるような動作をしていた。もしかしたらこの世界の文明、もとい科学がその程度ということだろう。
「アウリール? どうかしたのか?」
「いや、少し考え事に耽ってしまっただけだ」
アウリールは1つ咳払いすると、思考を切り替えた。
「カリウドの質問だが正直な話、わたしにもよくわからない。だが、体型や骨格を見れば人間種ということに間違いはなさそうだ」
「そうか、わかった」
カリウドはそれだけ言うと納得したようだ。
アウリールは話を戻すかのようにまた咳払いをした。
「とにかく、ハルキは何かが違うのだ。しかも持っているスキルも不明。唯一分かっているのは単独でインディアスパイダーを倒した、ということだ」
「何っ……!?」
インディアスパイダー。それはハルキがキルルを救出するときに戦った魔物で、戦闘するには数人の魔法使いと数十人の騎士が必要な討伐がきわめて難しい魔物だ。
相当な戦闘力を持ち、なおかつ大勢で挑まなければ決して勝つことのできない洞窟の王、弱者を食らう強者だ。
「それが本当だとするなら、ハルキ・シンザキ様は父上と同等、それ以上ということになりますが……」
獣国の王、ガヴァロンと同等ということは、獣国の中にほぼ敵なしということを示している。
「それとハルキは、キルルを誘拐した犯人の七雄士、アーガルドやその弟、アーガルトを下している」
「まさか、七雄士の一人とその弟にまで勝利してるとか…………。底が知れない男ってわけか」
「そうだ、底が知れないやつなのだ。それにハルキはいつも遠くを見ている感じがした。加えて、あいつはいつも先の先を読んで行動していた」
その意味深な言葉に、部屋はまたも静まり返る。
「だからあの時何か考えていたのかもしれない」
「だから、というのはどういうことですか?」
「予想だが、あの傷は治らないと自分で分かっていたんじゃないだろうか。だから代わりの何かを自分の中身と入れ替え、今の状態にした。無論、ハルキの能力で」
アウリールの仮説に、面々はまたも驚愕する。
「きっとハルキは――――――」
途端、誰かが部屋の扉を開け、入ってきた。
「ハルキ……?」
「みなさんどうなされたのですか?」
その来客に今度は悪寒がした。一番知られたくない相手に来られてしまったからだ。
「会議をすることに関して何も告げられていないのですが」
「それは……」
「まぁ、何のことについて議論しているのかは予想がつきますけどね」
その言葉には、少し怒気が混じっていた。それに加え、部屋の温度が少し下がったかと思うほど寒気がした。
「きっと僕に関しての話ですよね? 議題はハルキ・シンザキについて……とか?」
「まさか、聞いていたのか……?」
「それこそまさかですよ? そんな無粋な真似、するわけないじゃないですか」
「そうか……」
「はい。そうです」
遥希は笑顔だ。だが、その笑顔には生気を感じられないほどに冷たかった。
「それで、どんな話をしていたのですか? まさかとは思いますけど―――――」
そこまで言うと、遥希の周囲の空気が揺らめき、黒色の魔力が集中し始める。
その様子に、そこにいた人はただそれを見ていることしかできなかった。




