27話、遥希について
シナリオを考えていたら、週をまたいでしまいました。
遅くなり申し訳ありません。
そして今日から2章が始まります。
2章の方もよろしくお願いします。
「…………これから獣国会議を始める」
重々しく口を開いたのは獣国の王、ガヴァロン・ガウニールだ。
今のガヴァロンには、普段のような威厳に満ちた雰囲気は纏っておらず、悲観するような、憐れむような、そんな複雑な顔をしていた。
「今回の会議の議題はハルキ・シンザキ殿についてだ」
ガヴァロンは一言そう言うと、出席している全員の顔を見た。その人らはこれまでになく、不自然なほど難しい顔をしている。
そして、その中に遥希はいなかった。
「無論、皆も知っていようが、我が娘、キルルを救ったのはハルキ殿だ」
そこまで言うと、ガヴァロンは少しだけ俯き、なぜか悲しげな顔をする。
ガヴァロンの様子につられるかのように、議会に出席している者、護衛の兵士までもが同じ顔をした。
「そのハルキ殿の様子がおかしい」
その言葉に、部屋にいるすべての者がさらに悲しい顔をする。
それもそのはず、キルルを、獣国の未来を救った遥希が、あの日からおかしくなってしまったからだ。
「何が変化したか、というのはアウリールに説明してもらう」
アウリールはガヴァロンの言葉を聞いてから、ゆっくりと口を開く。
「ハルキは先週キルルを救い、王室で一度倒れ、そして起きた。そこまでは特に気にすることはない。しかし、そこからだ。ハルキが変わったのは」
アウリールは自分を落ち着かせるように深呼吸をする。
「あの日は気づかなかったが、その翌日異変気づいた。一つ目はハルキに漂っていた魔力が明らかに少ないこと」
「ハルキ様はまだ完全に治っていないということでは?」
キルルが、率直な疑問を述べるが、アウリールは首を横に振る。
「気づいた者は少ないだろうが、ハルキの周囲には魔力と一緒に、下級精霊や幼霊が漂っていた」
そのアウリールの言葉に、周囲は驚いたように口を開く。
「つまり、それはあいつが精霊使いってことか?」
その問いをしたのは、獣王の二男、カリウド・ガウニールだ。
カリウドの容姿は一言でいうとかっこいい。それもかなりの美少年と言っていいだろう。顔立ちは幼いながらも大人の雰囲気を漂わせるている。
髪はガヴァロンと同じ灰色がかった白で、目は鋭い。もっと年を重ねたらガヴァロンと瓜二つなのでは、と思うくらいに父親そっくりだ。
「いや、ハルキは精霊使いではない。多分、自分の周囲を漂っていた精霊など気づいていなかっただろう」
アウリールは話を戻すかのように、1つ咳ばらいをした。
「漂っていた精霊たちがハルキの周りからいなくなっている」
精霊とは、肉体を持たない唯一の存在とされている。
通常、肉眼では見ることはできないが、魔力の扱いに慣れている者や、霊眼と呼ばれる特殊な目を持つ者には存在しているかどうかがわかる。と、言っても姿形がわかるわけではなく、何となくそこに何かがいる、というような説明のしようがない漠然としたものなのだ。
精霊を構築している素材は、魔力だけとされている。しかし、空中に漂っている魔力とは違い、精霊を構築している魔力は、通常と比べ密度が圧倒的に多い。だから精霊の中でも、上級精霊はその姿がうっすらと見えることがある。
そして、精霊はこの世界のどこにでもいるわけではない。それに、精霊は人を好まず、めったに近寄ることはない。
その精霊が遥希の周囲にいた、ということが今最も驚くところだった。
「二つ目は、雰囲気や性格、言動が前と明らかに違う」
「それはワシも思っていた」
「しかもただ違うだけではない。何というか……真逆だと感じている」
「真逆……ですか?」
キルルも驚いたという顔をしている。そこまで違うと思っていなかったのだろう。
「あぁ。つまりこれらを総合すると」
「ハルキ・シンザキ様は偽物の可能性がある、と?」
そう結論付けたのは、獣王の長男、ファルド・ガウニールだ。
ファルドもカリウドと同じく美少年だ。容姿はカリウドと似ているが、眼鏡をかけている、というところや、カリウドより髪の色が濃いというところが違いだろう。
眼鏡をかけているせいもあるだろうが、ファルドは力より頭脳の方が優れている、というのが見た目からわかる。
「性格も言動も違い、纏っていた魔力や精霊の存在などを比較すれば、偽物と考えるのが妥当だと思われます。 しかもそれを感じたのはアウリール様です。間違いということはなさそうです」
「ワシもファルドと同じ意見だ」
「ワタシ自身もそう思っている。だが、1つ引っ掛かるところがある」
そう述べたところで、皆の視線がアウリールに集まる。
「なぜ誰も気づかなかったかということだ。あの時、周囲には大勢の人がいた。無論、ワタシやガヴァロンもその一人だ。もし外部から魔法を使ったのなら、絶対に気付くはず」
アウリールの尤もな意見に、反論できる人はいなかった。寧ろ、なるほど、と賛同するものの方が多いのは気のせいではないだろう。
「確かに、その二人が気付かなかったってのは少し不自然だな。しかもあの部屋には100人近くの人がいた。誰も気づかないってのはやっぱり変だ」
「しかし、外部からの魔力の反応はなかった。つまり……」
ファルドはそこまで言いかけ、止めた。それが間違いだとしても考えたくないからだ。
「……内部の犯行ということですか?」
途中で切れたファルドの話の続きを話したのはキルルだ。そのキルルの顔には不安の色が広がっている。
それもそうだろう。内部の犯行ということは王室にいたすべての人が容疑者になるわけで、今もどこかに潜んでいるということだ。それにキルルを救った者を殺害しようとするなど反逆罪になってもおかしくはない。
ガヴァロンはキルルの不安を払うようにその考えを否定した。
「きっとそれはないだろう。内部の者の犯行だとしたら、かなり魔力の扱いに長けている者ということになる。でなければワシらに気付かれてしまうからな」
「たとえそうだったとしても問題点がある。それは皆、等しく動機がない。キルルを助けた遥希を殺そうとするなどそれこそ裏切りになるだろう。動機がないのにそんなことをする馬鹿はいないだろう」
アウリールの尤もな意見に、また沈黙が下りる。
その間にも、アウリールの脳内では様々な仮説が生まれていた。そして、その中の一つが引っ掛かる。
「もしかしたら―――――」
アウリールのその説は、誰もが衝撃を受けるものだった。




