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怠惰でチートな異世界創造者(マジッククリエーター)  作者: 市川キキ
第1章、始まりと終わり
23/62

22話、世界情勢

「それで、あのチビッコはどうした?」



 チビッコというのは無論キルルのことだ。



「ち……チビッコ……?」

「今あいつチビッコって言ったか?」

「いったい誰のことを……?」



 どうやら周りの者たちは分からないようだ。だがそんなこともお構いなしに遥希は話を続ける。



「あ、なんだ、いるじゃねぇか。無事だったんだな」

「え……?」



 その言葉に驚愕したのはアウリール。



「お前、なんでキルルの顔、知っているんだ? この前のアーガルドのことも」

「さぁな?」



 遥希は内心、やはりか、と思っていた。



 この中で自分が異世界人だと知っているのはアウリールのみ。しかも異世界に来てまだ5日と経っていないのだ。



 すると当然、なぜ知っているのか、という疑問が浮かんでくる。



 もちろん遥希はその偽物であろう者を見たからに違いないのだが、説明するのが面倒だから伏せている。



「とにかく、無事でよかったな」



 その言葉をキルルにかけてやると、キルルは顔を少し赤らめながら、



「あ、ありがとう……ございました………」



 と一言呟いた。



「それで俺の立場はどうなった? もちろん、無罪ってことになるんだよな?」

「それは、そうだ……が」

「ん? 何かまずいことでもあるのか?」



 そこ問いに獣王は答えない。しかし、大臣が近くに寄って、何やら獣王と話をしている。その時の獣王の顔は少し険しいものになっている。



 そして少しの沈黙の末、次に獣王が臣下に下した命令は、



「そのものを……捕えよ」

「な……っ!」



 その命令にその場にいた獣王と大臣を除くすべての者が驚愕の顔を浮かべた。



 そして、兵の中には、『どうして?』とか、『キルル様を救ってくれたのに』などと戸惑いの言葉を紡いでいる者も。



 無論、アウリールやキルル、そのほかの要人の例外ではない。



その面々の顔にも共通して浮かんでいるのは、なぜ? という疑問だ。



 そしてその疑問を獣王に問いかけたのはやはりアウリールだった。



「なぜ今更になって! 遥希はキルルを救った恩人なのだぞ!?」

「それはそうだ」

「ならなぜ!?」

「この国に人間がいるのはおかしい。あってはならないことだ」



 その獣王の毅然とした態度に誰もが息を呑む。



「そもそもこの国、この町には関所が設けられている。その数は北、東、南、西の4つ。それぞれに七雄士が配置されている」



 それはこの国が定めた掟だ。関所を立て見張らせることにより、不審者や犯罪者、別種族の者の侵入を防ぐ。そして腕の立つ者を配置すればいざという時に対応でき、なおかつ抑止力にもなる。



「この国は獣種から成る。その獣種が長年、人間種にされてきたことを忘れたわけではあるまい?」

「それは……そうだが」

「ならこの男はなぜここにいる? ワシは人間種をこの国に入れるなと言ったはずだが?」



(なるほど……な)



 遥希は薄々気づいていた。それは種族による区別のことだ。



 この世界は種族ごとに対立し、いがみ合っている。つまり冷戦をしている。



 なぜか、それは種族が違うからだ。たかがそれだけの理由で互いを傷つけあっている。



「はっ、馬鹿な話だ」

「何……?」

「元の世界もこの世界も何一つ変わりはしないんだな」

「ハルキ?」



 獣王、アウリールともに頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。



「どの世界、どこの時代も迫害ってのはあるんだな。よーくわかったよ」

「貴様、何が言いたい?」



 獣王の顔が一瞬引き攣った。それに気づいたのはどうやら遥希だけのようだ。



「質問いいか?」

「……なんだ?」

「この世界は種族ごとに対立しているのか?」



 その遥希の問いに誰もが呆気にとられている。



 それもそのはず、遥希のあの質問ではまるでこの世界のことを知らないみたいだからだ。



「んで、どうなんだ?」



 その問いには、遥希の素性を知っているアウリールが答える。



「そうだ。この世界では5つの種族が互いを牽制している。そして互いの国に干渉しないようにしている」

「じゃあ、争いはこの国の中でも起きているか?」

「それはどういうことだ?」

「単純に喧嘩のことだな」

「それなら、起きるときは起きるな」

「そうか」



 アウリールは遥希が何を言いたいのかわからなかった。



 それは皆も同じのようで遥希の質問から、考えを読み取ることは叶っていないようだ。



「最後に1つ、人間種は獣種、つまりお前らに何をした。そして代わり、仕返しに何をした?」

「それを人間種の貴様が言うか?」

「生憎俺は世界の情勢を知らないものでな」

「ふん、まあいい」



 テキトーな誤魔化しが通用した。質問にも答えてくれるようだ。



「貴様ら人間種は、我々獣種を奴隷のように扱っている」



 獣王の話方から、今も獣種の奴隷化は続いていると考えられる。



「それが始まったのは今から約90年前。丁度、勇者が死んだとされる時代だ」



 遥希は勇者、というところに少し憤りを感じた。なぜならそんな正義の味方はいないからだ。



 しかし今それを言っても仕方がないため、黙って話に耳を傾ける。



「当時の世界は平和そのものだった。勇者が存在していたころはあらゆる種族、と言っても人間種と獣種、魔種の3種だが、平和条約を結び互いに協力していた。しかしそれは勇者が現れるころから消えるまでの話、きっと勇者が抑止力となっていたのだろう。だがその勇者が突然姿を消した。そしてそれからだ。……世界平和が崩れ始めたのは」



 これはよくある話だった。抑止力というのは世界のバランスを保つためには重要なことだった。それは世界規模であろうとなかろうとどこでも同じなのだ。



 それは遥希の世界でも同じだった。すべての組織、企業にはトップに君臨する人がいて、その人がすべてを統括している。日本やその他の国々にも大統領という国のトップがいる。その人は何年も昔からずっと存在し、何代にも渡り国の規則やルールを作り、国を守っている。



 もしその人らがいなかったらどうだろう。その地域や区は無法地帯と化し、闇の部分が出来上がる。



 この世界にも王という存在がいるが、勇者というのはその王たちをまとめていた真の王なのだろう。それが抑止力と呼ばれていたのだ。



「そして平和条約はあっという間に消え去り、今のような状態になった」

「つまり、勇者という存在がいたからこその平和、だと?」

「そういうことだ」



 その、いかにも当たり前みたいな獣王の発言に、遥希は少し憤りを覚えた。



「だから人ってのは馬鹿なんだよ」



 それは闇の部分と光の部分、2つの世界を見続けていた遥希だからこそ、そう言えた。


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