21話、幸せの意味
「お兄ちゃん起きてっ!」
………何……だろう……。
「早く起きないと、朝ごはん片付けるってお姉ちゃんが言ってるよ!」
あ……この声、恋か……?
「妹の声忘れちゃったの? あ! お姉ちゃん、お兄ちゃんが起きないの」
「ほら、ハルくん。早く起きなさい」
「そうだそうだ!」
姉さんの声もする……。
「そうよ、貴方を起こしに来たんだから」
そっか……。俺は死んだんだっけな……。
「だから早く起きて!」
「恋ちゃんの言うとおり、早く起きなさい」
え、それはどういう…………?
「あなたを待っている人がいる。だから早く起きなさい」
母さん……?
「あなたの灯はまだ消えていないわ、だから」
消えて……ない。
「「「早く起きなさい!」」」
そっか……俺はまだ死んでなかったのか……。
なら、まだやりたいこともあるし起きるとするか!
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「……の……………せい……で! お前らのせいで……!」
「ん……?」
遥希が目を覚ますとそこは見たことのある景色、獣国の王室だった。
いきなり大きな声が聞こえるものだから、すぐに目は覚めた。だがこの状況はなんだろう。
そこは王室なのだが、どうも様子がおかしい。先ほどから響いている怒鳴り声はアウリールのものだ。それは間違いない。
だが、なぜかほかの者、獣王や王妃、その息子や娘、そして配下の兵士や大臣などが押し黙っている。
そんな中突然起きたら面倒なこと事になりそうだから、遥希は寝たふりをする。
「お前らのせいでハルキは死んだ! お前らが罪を擦り付けたりするから!」
「む……しかしそれは……」
「まだ何か言い訳をするのか? 最終な決断を下したのはお前なのにか?」
この会話から察するに、どうやら俺は、というかやはり俺は一度死んでいるらしい。
きっとその原因は洞窟の中での一戦があったからだろう。
そしてその元をたどれば俺が死んだのは獣王のせいだと、獣王が俺に濡れ衣を着せたからだと、アウリールはそう言いたいわけだ。
(俺は死んでないんだがなぁ……)
するとまたアウリールの声が響く。
「私はあいつの師に、母親の代わりになるといった! なのに……なのに……!」
そしてアウリールの目から一筋の雫が静かに落ちた。
「あいつは私のために……。こんな……こんなことが………」
そこで遥希は初めて分かった。
アウリールはここまで自分のことを大切に思ってくれていたのだと。こんなにも愛してくれていたのだと。
(はっ。初めて逢ってまだ3日しか経ってないんだぞ?)
それなのにこの信頼のしようはなんなのだろう。自分と誰かを重ねているのだろうか。
しかし今の遥希にはそんなことどうでもよかった。
なぜか、アウリールのことが愛らしいと本気で思ってしまった。
それほどにアウリールの言葉が胸に染み込んでしまっていた。それほどアウリールの言葉が心に溶けていった。この感覚はまるで―――
(姉さんや恋、母さんと会話しているときのような、あの幸せな感じだ……)
「私は……あいつを死なせて―――――」
アウリールは驚愕した。それは何者かに頭に手を置かれ、撫でられていたからだ。そしてその人物を見てもっと驚愕した。
「――――――ハル……キ………?」
「おう。遥希だ」
その様子に誰もかが驚愕した。先ほどまで死んでいた者が急に起きたのもそうだが、何よりも今こうして立っていることにもだ。
「し……ん………い……」
「ん?」
「心配したんだぞおおおぉぉぉぉぉぉお!!」
「ぐっ……!?」
遥希は腹をやられた。腹を高威力のパンチで殴られた。……結構というかかなり痛い。
しかし遥希はそれを避けなかった。その拳の重さは、受け止めなければならないものだと思ったからだ。
そして久しく誰にも見せなかった笑顔で、
「心配かけた。んで、……その……。あ…………あ……」
「?」
「…………ありがとう」
それは今遥希ができる最大の感謝の表し方だった。
そして遥希はアウリールの頭を再度撫でる。
アウリールは、最初ビクッと肩を揺らしたが、そのあとは気持ちよさそうに遥希に身を委ねた。




