20話、灯
「奏でろ、全剣奏射」
その声と同時に遥希が手を振り下ろす。
すると浮遊していたすべての剣がアーガルト目掛けて飛翔する。
「これは流石にっ……。だがっ!」
アーガルトはその無茶苦茶な攻撃を前に一瞬冷や汗をかくが、次の瞬間には笑みを浮かべた。
「これでも攻撃できるか?」
ニヤニヤしながらそういうアーガルトの腕の中にはアウリールがいた。
アーガルドは避けられないと判断し、アウリールを人質兼盾にすることを選んだ。だが遥希は怯むことはない。
「二文字解放、硬化」
遥希はそれを自分にかけるのではなく、アウリールにかけた。
アウリールの体が光り輝いたかと思うと、石像のように重く、そして固くなった。
「行け、《無限の剣撃》」
その号令はアーガルドの命運を左右すると言っても過言ではない。しかしアーガルドはそんな状況下でも焦ることなく、剣を無造作に一振りする。
そして先行していた1つの剣を弾くと、
「魔剣フルークデール、呪力解放ぉぉぉぉ!!」
その声とともに、虚空を切ったはずの斬撃の軌跡を中心に大きな黒い塊が生まれる。
それは闇より暗い漆黒で、地球でいうブラックホールのようだった。
その黒い球体の効果はほとんどブラックホールと同じ、高密度で重力があまりに強いために物質も光も放出できない球体。
つまりはそういうことだ。弾かれた剣を除き、遥希の放った剣は黒い球体にすべて飲み込まれ消えてしまった。
そしてその黒い球体が消えると同時に、魔剣と呼ばれた剣が一回り大きくなる。
「ははっ! この剣はなぁ、あらゆる武器を吸い込みその吸い込んだ剣を吸収して強さを増すんだ! 墓穴を掘ったな!」
アーガルトは勝ち誇ったように笑う。それは遥希が打つ手がないから勝てる、と勘違いしているようだ。しかし遥希はうんともすんとも言わない。それどころかまた創造を開始する。
「何をしても無駄だぁ! 今ここで死ね!!」
遥希は反応を示さない。が、その口は確かに呪文を紡いでいた。
そんな時もアーガルトは突っ込んでくる。その顔は強化された魔剣に酔いしれているようで、端から見れば剣に振り回されているようだ。
「死ねぇぇぇぇぇぇえええ!!」
「二文字解放、地雷」
今アーガルトはかなりのスピードで迫ってきている。このスピードなら急に止まることはできないだろうと遥希は考えていた。
そして遥希の予想通り、アーガルトはその上を通過しようとし、
「なにっ!?」
地雷を踏みつけた。そして当然のように地雷は炸裂、アーガルトの脚を吹っ飛ばす――――――
と思われたが、驚いたような顔をしながらもアーノルドはそれを回避。咄嗟の判断で空中に逃げていた。
「はぁー。あぶねぇあぶねぇ。間一髪だったぜ」
そんなことを言うアーガルトだが、全然焦っていなかったところを見ると、ただの戯言だとわかる。
「さて、そろそろおわりにしようぜ?」
「……………………」
「魔剣の錆となれ!」
ザクッ……ポタッポタッ……
「な……に………?」
アーガルトは状況が読み込めなかった。なぜなら、体の左胸辺りから一本の剣が生えていたからだ。
「チェックメイトだ」
遥希は人差し指の先を、クイッと横に曲げる。するとアーガルドに突き刺さっていた剣がその動きに同調し、左胸から右の脇腹を切り裂いた。
そしてその剣が消えると同時に、アーガルトがその場で膝をつく。
「なぜ……何処から………」
その剣は遥希が新たに生み出した剣ではない。それは黒い球体を出すための動作の途中でアーガルトが弾き飛ばした剣だった。
遥希は相手に勝ったと確信させてから不意をつけるようにとずっと考えていた。
今回はその予想が功して見事作戦が成功したというわけだ。
「くっくっ……。俺はこんなところじゃ死なないぜ……?」
しかしアーガルトの目は死んでいなかった。
そして懐から、水晶のような球体を取り出し、地面に投げつけた。
するとアーガルトの体が徐々に薄くなり、透明化してくる。
「今度会った時がお前の最後だ……」
そんな捨て台詞を吐き、アーガルトは逃走した。
するとそれを確認し警戒を解くと同時に、浮かんでいた魔方陣が消え、真紅だった瞳がいつも通りの黒く澄んだ瞳に変わっていく。
「うっ……げほっげほっ……!」
遥希の体は相当負担がかかっていた。そのため、想像以上にダメージが大きい。
アーガルトに蹴られた横腹は黒く淀んでおり、その数か所から骨と思われる白い物体が覗いている。
そして内臓にも相当なダメージがあった。
横腹への蹴りで肋骨が2,3本折れており、その骨が内蔵を貫通。運悪くそれは肺に刺さっており、呼吸困難と同時に酷い吐血を引き起こしていた。
「げほっ……げほっ……。アウ……リール………」
「すぅ………すぅ……」
どうやらアウリールは寝ているだけのようだ。目立った外傷もなく、呼吸も正常なため問題はないだろう。
アウリールの無事を確認し、ホッとする遥希。だが、この場で最も重要だったのは傷の手当。
遥希はもう歩けるだけの力すらないほどに弱っていた。
そしてアウリールは寝ている、キルルの居場所まで辿り着くことはできない。よってこの状況を打破できるのは遥希自身しかいない。
しかし今の遥希の決定的に欠けていることは、
「だ……二文字…………解………げほっ……げほっ……!」
言葉を発することができなかった。そして頭の中で創造を試みるものの、瀕死の状態で朦朧とする意識の中、そんなことはできるはずもない。
そしてはるきは人生で初めて死を覚悟した。
(俺は……もう………死ぬんだろうか……)
遥希はこのまま寝てしまったら、死ぬと分かっていた。しかし今更どうこうできるものでもなく、自然と意識が薄れていく。
あぁ、姉さん、恋、ごめんな……。もう俺は……駄目………かも……し………れ…………。
そして遥希は――――――――――
――――――――――――――――――死んだ。




