17話、ボス
「ハーールーーキーーー!!!」
後ろから猛烈な勢いでラリアットされた。否、されそうになったから避けた。
するとアウリールは勢い余って、そのまま洞窟の壁に突っ込んだ。
「避けるなぁ!」
「いや、普通に避けるだろ。ってかキャラ変わってねぇか?」
「変わってないぞ! なんだよキャラって…………」
ここはとある森のとある洞窟の中。
その洞窟の中に、獣国第3皇女、キルル・ガウニールが囚われている。だから獣国の王都から遥々やってきた。
この洞窟は入り口こそ狭かったが中はそこまで狭くはなく、4,5人が横に並んで歩いても少し余裕があるほどに広い。
天井も遥希の身長の約2倍、3メートル50センチくらい高い。
その中を遥希は松明を掲げて歩いている。
創造を使えば簡単に明るく出来るのだが、魔法量が限られているためもったいない。
それにいきなり洞窟を明るくすれば、的に能力の片鱗を見せることになる。そうでなくても危険視されるのは確か。
ただでさえ未知の洞窟の中にいるのだ。しかも魔物やキルルを攫った犯人にいつ襲われてもおかしくない状況。
遥希は松明をつけるのすら躊躇ったが、アウリール曰くこういう時は緊急時に武器としての使い方もあるから、と震えながら一生懸命語っていた。
きっと暗いのが苦手なのだろうと適当に理由をつけ、渋々松明を使ったのだ。
「それにしてもこの洞窟、どこまで続いてるんだ?」
「この洞窟を見たことがないから分からん」
どうやらこの洞窟の存在自体知らなかったようだ。
この洞窟の入り口はそれはまぁ狭かった。
しかもただ狭いだけでなく、その入り口に草が生えているからなお見つけにくい。
「それにしても、よくここを見つけたな」
「まぁ、それが俺の能力だからな」
「そ、そうか」
(洞窟を見つける能力ってなんなんだ? 使い道限りなくゼロじゃないか)
アウリールがそう考えているときもお構いなしに、遥希は先に進む。
「やっとか。かなり長かったな」
そこは道が二つに分かれていた。
片方はこの洞窟の入り口ぐらい狭く、もう一方は人一人分通れるくらいの広さ。
「よし、こっちだな」
「そっちに行くのか? こっちの方が……」
「よし、こっちだな」
「え、でも……」
「こっちだな」
遥希は狭い方を選択した。無論遥希にはキルルの居場所がわかっているため、そう断言した。
対するアウリールはきっと、ただただ広いからという理由で選択しているのだろう。これには何の根拠もない。
「ほら、もうすぐだから頑張るぞ」
「うん……」
どうやらアウリールは疲れ切っているようだ。
それもそのはず、道のりは険しく高低差もあり息苦しい。匍匐前進したと思ったら、水があり服がずぶ濡れ。
こんな道をすでに3時間程度歩いていた。
元の世界にいたころの遥希は、1時間も経たずに倒れていただろう。しかし今の遥希はもう違う。アウリールにばれないよう密かに創造の二文字解放、体力を使い、スタミナをプラスしていた。
遥希は退屈はしているが、疲れはしていない。それどころか歩けば歩くほど力が湧いてくるようだ。
アウリールは疲れた疲れたばかりしか言わないので、とりあえずうるさいと一喝しておいた。
そうしたら、『だって……』と涙目で何かを訴えかけてきたから、仕方なく自分と同じものをかけてやった。
今度は元気になりすぎてうるさい。もういいやと、本気で遥希は思っていた。
そんなことをしている間に、分かれ道や魔物などが出てきたが適当にあしらいながら進んだ。
そしてついに念願のゴールへと辿り着く。だが、そこに待ち受けていたのは巨大な蜘蛛。
「はぁ、最後の最後でこれかよ」
「…………」
「仕方ない。やるとするか。アウリール手伝え」
「…………」
「おい? どうし…………はぁ」
アウリールが急に静かになったかと思ったら気絶している。
「こいつ、蜘蛛苦手なのか。使えねぇなぁ……」
そんな遥希の様子に気づいているのかわからないが、その巨大蜘蛛がノイズのような声をあげ、威嚇してくる。
洞窟の中に、奇妙な音が響く。その声は誰もが聞いたら身を竦ませ、腰を抜かすような嫌な声。
その中で唯一、遥希だけは不敵な笑みを浮かべる。
「うるせぇ蜘蛛だな。ぶちのめしてやる」
そういうと遥希の姿が消えた。