15話、異世界人遥希 vs 獣国序列7位アーガルド
1/29は体調不良のため投稿を控えさせていただきました。
「さてと、もうそろそろ終わりにしますか」
その遥希の言葉に、アーガルドは不満そうに言う。
「そう簡単にやられるつもりは毛頭もないが」
「いや、もう終わりだ。終わらせる」
アーガルドには理解できなかった。
少し癇に障るが、いい勝負だと思っている。ここまで持った人間は初めてだ。
しかしアーガルドはまだ本気を出していない。相手の力量を図るために、少し手加減をしていた。
確かに、相手の人間も強い。だが、こちらにはまだ切り札がある。
弟には使うなと念を押されているが、非常事態に陥ったら遠慮なく使うつもりでいる。
「どうだ、考えはまとまったか?」
どうやら相手は待っていてくれたらしい。変なところで律儀なやつだと、苦笑交じりで溜息をつく。
「あぁ、ここからは全力で行く。覚悟しておけよ人間」
「覚悟するのはお前だ、獣人」
すると二人はまた消える。
遥希は風を使って、アーガルドは自身の身体能力と、今まで培ってきた経験で。
「一文字創造、穴、水、火、鉄、土」
「なに? 四属性の使い手か!?」
どうやらアーガルドは、遥希が、火、水、風、土を操っていることに驚いているようだ。
異世界の常識を知らない遥希にはどうでもいい話だが。
遥希は一旦止まり、自身の目の前の地面に穴を空けた。そこに水を入れる。その間に、乗用車ほどの鉄を火で熱し溶かす。その真っ赤になった鉄を水の中に投入し、土で蓋をする。
アーガルドには何をしているか分からなかった。てっきりそのまま攻撃してくると思っていたのだが。
そんなことをしている間にまた何か仕掛けてくるに違いない。
そう思ったアーガルドは先ほどの穴の上を通過し、遥希を攻撃する。
――――しようとした。だが、
「馬鹿が」
そのセリフを聞き、非常に危険なことが起こると予想した。否、そう思わざるおえなかった。
何故なら、先ほどの地面が不自然に盛り上がっているからだ。
咄嗟にアーガルドは後ろに飛んだ。が、少し間に合わなかった。
その地面は突然爆発を起こし、アーガルドの足を吹き飛ばした。
遥希が行ったのは、水蒸気爆発という現象である。
本来、マグマや地下水などで起こる自然現象なのだが、遥希は人口で生み出した。
水蒸気を蓋をした穴の中に蓄積させ、岩盤をも破る大爆発を起こしたのだ。
そして遥希は静かな声で言う。
「チェックメイトだ」
その言葉は、ア-ガルド以外には聞こえず、闇の中に溶けて行った。
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アウリールが外の様子に気づいたのは、凄まじい爆発音が聞こえた時だった。
何事かと外に出てみると、少し離れたところで煙が上がっている。
周囲を見渡すと、一般人が窓から首を出したり外に出たりと、爆発の原因を見ようとしている。
「急がなければ……!」
アウリールはそう呟くと、その場から消えた。
アウリールが到着すると、そこには巨大なクレーターができていた。
直径20メートル、深さ5メートルほどの大きな穴だ。
「いったい誰が……」
そう呟くアウリールの前に信じがたい光景があった。
そこには、片足がないアーガルドとそれを担ぐ遥希の姿。
「は、ハルキ……お前………」
「お、アウリールか。どうした?」
「どうしたじゃなくて……」
遥希はいつも通りの声だ。対してアウリールの方は声が震えている。
それもそのはず、3日前にこの世界に来た遥希と、長年獣国で騎士を務めてきたアーガルド。
先ほどの爆発はこの二人のものだろう。だとするとなぜ争っていたのか。そしてなぜこんな時間に。もしそうだったとしたらなぜ遥希が立っていて、アーガルドが担がれているのか。
どの疑問もわからなかった。それどころか、アウリールの頭の中はぐちゃぐちゃになっって混乱している。
その中で遥希の声だけは辛うじて聞こえた。
「アウリール、行くぞ」
「どこにだ……?」
「説明するのが面倒だ。とりあえずついてこい」
アウリールはよくわからなかった。こんな時間に何処へ行くのだろうか。何をしに。どうして。
それはあやふやになったままだったが、遥希が歩き出したので引き留める。
「おいハルキ。アーガルドはどうするんだ? それにこれも」
これというのは勿論クレーターのことだ。このまま放置するわけにはいかない。
ただでさえあの爆発音は大きかったのだ。そろそろ野次馬がくるに違いない。
ただ遥希は、うんともすんとも言わずに呪文を言い始める。
「二文字解放、過去」
すると、目の前のクレーターが一瞬でなくなり元の平野に戻った。
遥希は頭の中で、クレーターができる前の平野を記憶の中から引っ張り出し、それを現実にするというイメージを強くして具現化させただけ。
記憶をしっかりとしていなかったため、完全とはいかないがそれでもほとんど元通りになっていた。
「アーガルドの方は眠らせている。気を失った後に、眠を使ったからそう簡単には起きない」
それだけを言うと早々にその場を後にした。
アウリールは弟子の所業に驚きながらもついていくのだった。