14話、正体
「そろそろやばいんじゃないか?」
一人の男はそう呟く。
「安心しろ。奴は始末しておく。頭が相当キレるみたいだからな」
もう一人の男がそう返答する。
二人の男の視線の先には、ちょうど子供が一人入る程度の大きな皮袋がある。
その袋は時々もごもごと芋虫のように動いていた。生き物のように。
「よし、今日の夜、民が寝静まった時を見計らって急襲する。お前はいつも通り見張りをしておけ」
「わかった。任せろ」
そう言い一人の男が出ていこうとする。
「おい」
「なんだ?」
「………気をつけろよ、兄貴」
兄貴と呼ばれた男は、背中越にその言葉を聞き片手をあげ呟く。
「……あぁ、行ってくる」
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「それでハルキはどうするつもりだ?」
「はぁ、またその質問か……」
遥希はアウリールの質問攻めを受けていた。アーガルドを知っていた理由とか、キルルのこととか、真犯人とは誰なのかとか。
正直なところ面倒くさい。答えるのもそうだが、今のこの状況も特に。
「ハルキ聞いているのか! そろそろ答えてくれてもいいじゃないか!」
…………これで49回目。
「あのなぁ、そろそろ聞き分けてくれよ。長くなるから面倒なんだよ」
「長くなっても私は問題ない!」
「俺が面倒なんだよ!」
話が通じてない。このままでは安眠できないため、仕方ないから妥協してやろうと考えた遥希。
「わかった、話す。話すが明日にしてくれ。今日はさすがに疲れた」
「わ……わかった」
それだけ言うと、アウリールは自分の寝床に入っていく。
「明日、絶対だからな!」
子供かよ。瞬間的にそう思ってしまったことは心の中に留めておく。
「それにしても、この世界は面倒くさいな」
そういうと、遥希は外に出て家の屋根に上る。
そして何もない空間に声をかける。
普通なら見逃してしまいそうなものだが、ハルキにはわかった、否、わかっていた。
「おい、そこにいるんだろ? アーガルド・カーバント」
すると、何もないはずの空間が不自然に歪み、そこから一人の男が現れる。
「なんだ、気づいていたか人間」
「それぐらいわかっていたと思うが?」
「まぁな」
そういうとアーガルドは微笑んだ。
しかしその笑顔は暖かいものではなく、冷淡でどこまでも冷たい笑みだった。
その微笑みは、数年前の遥希がしていたようなものだった。
そのことから、アーガルドは遥希を殺しに来たのだっと察した。
「俺を殺りに来たなら申し訳ないな」
「なに……?」
そういう遥希の周りには剣や槍、斧や鎌などが浮いている。
「簡単にはいかないぜ?」
その遥希の表情、人殺しをしたものの目を見たアーガルドも臨戦態勢に入る。
「やる気と威勢だけは認めてやろう。だが俺に勝てると思っているのか?」
「勝てるね。もう視えているからな」
「ふっ、そうか」
そう言うと両者はその場で体制を低くする。
「「いくぞっ!!」」
その瞬間、二人の姿が消えた。
「一文字創造、風、力」
遥希のスピードは、称号の音速キラーと風により、目では負えない凄まじい速さに達する。
「はっ!」
遥希は、自らが作り出した武器の中から剣を掴むと、そのまま袈裟切りそ斬撃を放つ。
常人ならこの時点で終わりなのだが、相手は獣王を省いたうち獣国序列7位の実力がある。
袈裟切りの斬撃に剣を斜めに入れ軌道をずらす。
遥希の斬撃は無残にも虚空を切っただけ。
そして今の遥希は袈裟切りを外し、肩が無防備になっていた。
無論、アーガルドがそれを逃すわけがない。
「ふんっ!」
アーガルドは、先ほど遥希がやったように袈裟切りの斬撃を繰り出す。
しかしそれは遥希の身に届くことはなかった。なぜなら遥希は左手にも剣を持っていたからだ。
遥希は左手の剣でその斬撃を受けると、それを強引に上に弾き返す。
「二文字解放、隼斬」
それは遥希が編み出した、創造の具現化以外の使用の仕方。
両手を隼の如きの速さで振り、その両手の動きを剣にトレース。そしてそれを繰り返すことで高速の斬撃を幾度と繰り出す。
その目まぐるしく変わる遥希の連撃により、徐々にアーガルドが押され始める。が、
「熱雲剣!」
その言葉と同時に、アーガルドの手に先ほどの剣とは比較にならないほどの巨大な剣が生まれる。
剣自体が燃えているようで、轟々と周囲の大気を焦がしているようだ。
「おおぉぉぉぉぉ!!」
アーガルドはその剣を横に薙ぐようにして振るう。
抑えきれないと思った遥希は、咄嗟の機転で風を使い上空へと逃げる。
すると、横に薙ぎ辺り一面の大気を燃やし尽くした熱雲剣が溶けるように消える。
ここまでの両者はほぼ互角と言っていいだろう。
10レベルの遥希と、89レベルのアーガルド。
圧倒的力の差を前に、遥希は笑って見せた。