12話、罪を背負う者
「笑いたければ笑え! お前ら一般人には到底わからないレベルの答えだからな」
「それはどういう………」
アウリールはハッとする。遥希が何が言いたいのか理解したからだ。
「貴様、何が言いたい?」
「どうせ言っても幸せいっぱいの人生を歩んでいるお前らにはわからない」
「儂が話せと言っているんだ。話せ」
遥希はこういう上から目線の奴を何人も見てきた。
それは遥希の立場がどこでも一番下だったからだ。
だから、今の獣王の言葉が癇に障った。
「どいつもこいつも上から目線。その腐った考えは異世界でも健在というわけか」
「腐った……だと?」
「あぁ、腐ってるね。根っこから全部」
「咎人の分際で生意気言うな!」
本気で腐っていると遥希は思う。
証拠もなしに拘束し罪を負わせる。
この手の経験は痛いほどしてきた。今更どうってことはない。
「大体犯人だという証拠や根拠ははあるのか?」
「咎人の問いなど受けぬ」
遥希は獣王の態度に憤りを感じる。
証拠もなしに咎人扱いとは、不遜も甚だしい。
だから遥希は強い口調で反する。
「咎人咎人煩いんだよな。いい加減にしろよ」
その反応に誰もが息を呑んだ。なぜならその言葉を言った相手が獣国最強の騎士の獣王だからだ。
その周りの様子をうかがいながら続ける。
「お前、恥ずかしくないか? 臣下の前で堂々と脅迫って。まぁ、俺は怖くないが?」
「き、貴様……! いい加減に」
「黙れと言ったはずだが? 言葉が理解できないか犬っころ」
完全に挑発していた。それも獣王相手にだ。
獣王の顔は、遥希が言葉を発する度に険しくなっていく。
「はぁ、なんでこうも面倒事に巻き込まれるんだよ」
「面倒だと?」
「あぁ、面倒だね。非常に迷惑だ」
その言葉にまたしても獣王がキレる。
だが、先ほどの遥希の様子を見てか、怒鳴ることをせず、嘲笑気味に言う。
「貴様みたいな、話の通じぬ輩はこれだから困る」
「ほぅ、そうかそうか。俺と同意見だな」
そして獣王はある一言を言う。
「嘘を平気でいい、人を騙す最低な輩がいるから、この世から悪が消えんのだ」
この一言は、遥希の中の忌々しい記憶に衝撃を与えた。
そして遥希は、自分でも信じられないくらい、低く冷たく凍えるような声で告げる。
「……貴様に何がわかる」
「咎人の考えなど―――」
「貴様らに何がわかるっ!!」
その声と同時に、王室一面が霜に覆われた。
遥希は自分の冷たく凍えるような声を聴き、無意識のうちにスキルを解放させたのだ。
無意識のうちに魔法を発動するこの現象は魔力暴走と言い、精神が不安定な場合に起こる。
稀に見ない現象だが、それは遥希の心の波を自然と表していた。
「貴様ら、俺の問いに答えろ」
「……なんだ」
さすがの獣王も危険を感じたのか、代表して遥希の問いに答える。
「貴様らには親はいるか。兄弟は。親戚は。友達は。仲間は。愛する人はいるか?」
その突拍子もない問いに、一同は驚く。
その中で一人、アウリールだけは真剣に聞いている。
(やはり、遥希は嘘をついていなかったか。だがなぜ……)
その答えは出てこなさそうなので一旦引っ込め、遥希の話を聞く。
「貴様らは、感情を知っているか?」
無論、遥希は知らない。
「友情を知っているか?」
無論、遥希はこれも知らない。
「愛って何かわかるか?」
無論、遥希は―――わからない。
「これらを知っている、またはわかるやつは一生理解できない」
遥希の問いは終わった。最初から答えなど求めていない。
ただ、感情に任せてそう言っただけだ。何の解決にもならない。
だが、以外にもその問いに答えた者がいた。
「私は、愛情や友情を知っているが、理解できるぞ」
「その心は?」
「お前の師兼母親だからだ!」
そのいつかのセリフに遥希の心の波は収まっていく。
同時に魔力暴走も止まる。
なぜかわからないが、少し安心した遥希。
だが結局、何一つ解決していない。が、1つの活路が見いだせた気がした。
「おい獣王」
「なんだ?」
「俺に、真犯人を捜させろ」
その言葉に周りの者はまたしても唖然とした。
「何を言っているのか理解しがたい」
遥希はそう言われることを予想していた。だから今度はしっかりと言う。
「俺は犯人じゃない。3日前にこの世界にやってきた異世界人だ」
「なに……?」
この告白には、獣王も驚いていた。
その状況を楽しむかのように不敵な笑みを浮かべる。
「俺が異世界人という証拠は、ある」
そう言い遥希はポケットに入っていたスマートフォンを出す。
今までいろんなことがありすぎて確認する暇がなかったが、何とかスマホだけは持ってこれていたらしい。
「それともう一つ。それはもうわかると思うが、俺の服だ」
そう、遥希は学校の図書館からこの世界に飛ばされた。
着替える暇がなかったので、学校の制服を着たままだったのだ。
遥希が異世界人だと知っていたアウリールは驚いていなかったが。
「信じるかどうかはお前らが決めろ。だが、」
遥希はアウリールの時と同様に、強い意志を瞳に乗せて、強い口調で
「俺はそれを、断固として否定する」
そう宣言した。