釣り
着地した足裏に伝わってくるサクッとした感触。足元が砂地になっている。旧闘技場の地面は硬さのある土だったはずだ。ランドは不思議に思って砂に手を伸ばそうとした。その直後、背後から伝わってくる振動と地鳴り。ランドは驚き振り向いた。一緒に落下してきた鉄巨人が地面に激突していた。旧闘技場の客席エリアを背中で押し潰しながら沈み込んでいく。巻き起こる大量の砂埃に包み込まれたランドは、口に入ってきた砂にむせ返る。
砂塵がおさまり視界が晴れた後、ランドは旧闘技場の様子を改めて確認した。一帯が細かい砂に覆われて砂漠のようになっている。爆発地点の土砂が飛来して降り注いだのだろう。鉄巨人の光線が広範囲に渡って大地を深くえぐったことを物語っている。爆風の衝撃により、もともと損傷の激しかった屋根や壁は綺麗に吹き飛んでかなり見通しが良くなっている。
何もかもが砂に埋まっている。スレッジとレティシアの姿が見えない。さっき空から落ちてきた鉄巨人だけが半分砂と瓦礫に埋もれた姿をさらしている。ランドは砂丘のようになっている地面に足を取られながらも、仰向けに横たわっている鉄巨人に近付いた。
「お~い、レベッカ~。いるなら返事してよ~」
呼びかけても応答がない。もしかしたら鉄巨人の内部に取り残されているのではないかと思い、胸部によじのぼってノックしてみる。最初は控えめに、それからだんだん強く。困ったら叩いてみるという癖がランドにはあった。すると、叩いたからというわけではなかろうが、鉄巨人の身体が振動し始めた。
「ひぇ!?」
鉄巨人が再起動して攻撃してくるのではと肝を冷やして飛び退く。その拍子にカッコ悪く尻もちをついてしまった。しかし、幸いなことに鉄巨人が暴力的な反応をすることはなかった。かわりに、トランクが開くかのように胸部の一部が持ち上がった。ランドは恐る恐る中の空洞を覗き込んだ。
「レベッカ!」
ランドは喜びの声を上げた。レベッカが鉄巨人の内部でランドの方を見上げている。目が合うと出口に向かって登り始めた。引き上げる手助けをしようとランドが手を伸ばす。そこにレベッカの手が触れる。バチッ!
「うわ!」
「つっ…」
ちょっとした電撃が走り、2人は顔をしかめた。何が起こったか分からないランドは自分の手をまじまじと見る。その間にレベッカは自力で鉄巨人外部まで出てきた。鉄巨人の胸部に降り立って直立する身体はパリパリと電気を帯びている。
「ど、どうなってるの君の身体」
「わからん。中に侵入した後、ぴかぴか光っている所を勘に任せて斬りつけているうちにこうなった。そうしたら急に辺りが真っ暗になってな」
話しているうちに身に帯びた電気は霧散してしまった。不可解な現象に首をかしげるランドだったが、今は悠長に理由を探っている場合ではないことを思い出した。
「そうだ!スレッジとレティシア!どこにも見当たらないんだ」
レベッカは周囲の様子をざっと確認した。
「おおかた砂に埋もれているのだろう」
「え!?それってまずいんじゃないの?息ができなくて死んじゃうよ。僕なんかさっき砂埃に巻き込まれただけで苦しかったんだから」
「あの男が生き埋めになったくらいで力尽きるとは思えんな。私が今まで見たどの化け物よりも生命力がありそうだったぞ」
「冗談言ってる場合じゃないでしょ。探して掘り出さなきゃ」
ランドは旧闘技場のバトルエリアが埋もれている場所に移動し、スレッジとレティシアの名を叫びながら歩き回った。しかし反応が返ってくることはなかった。
「ダメだ。砂の中にいたんじゃ声を出せるわけないよね。ねぇどうしようレベッカ」
困り果てたランドが視線を向ける。レベッカはかがみこんで地面に耳を当てていた。集中している様子なのでランドも立ち止まって口をつぐんだ。しばらくするとレベッカが立ち上がって言った。
「いたぞ。あの下に1つ気配がある。もう1つ、向こうの丘状になっている場所に特別大きな気配を感じる。まずは人間の方を助けるか」
レベッカは最初に指し示した地点に移動すると、背負っていた警護用の長棒を地面に思い切り突き立てた。力を込めてさらに押し込んでいく。そして十分深くまで差し込んだところで静止し、何かをじっと待つ。すると突然、長棒がピクリと動いた。
「かかった!くっ、これはかなりの大物だな。おい、手伝ってくれ」
長棒を引っこ抜こうとしているレベッカをランドも手伝う。うんざりするほどの砂の抵抗を両手に感じながら2人で力を合わせてじりじりと引っ張り続ける。長棒の先端が顔を出そうというところまできた。ボコッと地面が盛り上がった次の瞬間、爆ぜるように砂が舞った。一気に引き抜かれた長棒の先端がしなって空中に軌跡を描く。そこにはスレッジが食いついていた。
「ぶはぁ~~~!ぺっぺっ、かー口の中が気持ち悪ぃ。砂を食い過ぎて腹の中から化石になっちまうとこだったぜ」
地上に釣り上げられたスレッジは地面に手を付いてへたり込みながらこぼした。そこにランドが駆け寄る。
「スレッジ!良かった!」
「おう!ランド、レベッカあんがとよ。だが俺のことよりレティシアちゃんだ。ギュスターブのやろうもどっか行っちまったし、連れて逃げるなら今しかねぇ」
「レベッカが言うにはあそこに埋まってるみたいだよ」
ランドが指をさすと同時に、小山のように盛り上がっている場所の砂がてっぺんからこぼれ落ち始めた。サラサラとした粒度の細かい砂が滝のように流れ落ちていく。砂の中からレティシアの背中の地肌があらわれる。
「自力で出てこれたみたいだね。さすがレティシア力持ち」
「いや、身体だけ無事でも意味ねぇんだ」
スレッジは神妙な顔でレティシアを見ている。それもそのはず、レティシアの記憶は封印され、凶暴化したままなのである。その証拠に砂から脱出したレティシアの視線はすでに鉄巨人の方に向けられている。いまだに戦いを挑もうとしているのだ。




