遺跡5
「今すぐリベンジマッチといきたいとこだが、さすがにそんな状況じゃねぇな。あのバケモンを何とかしないとな。いくぜ!」
そう言うとアイアンフィストは歪んだ金属プレートを消去・再形成したのち、正面に立ちふさがる超巨大スライムに無謀にも単身向かっていった。身体の大きさ的には巨獣に挑みかかる蟻のようなものだ。雨あられと浴びせられる水圧ブレスをプレートで弾きつつ触手の近くまで走り込む。そのまま勢いよく大地を蹴って飛び上がり叫ぶ。
「くらいやがれ!」
気合いを入れつつストレートパンチを放つと触手の先端が水しぶきをあげつつパーンと弾け飛んだ。だが、まだ触手は複数残っており、そのうちの一本がアイアンフィストを背後から狙う。するとアイアンフィストの前方にある2枚のプレートのうち1枚が背中側に浮遊移動しブレスを防いだ。
「スライムにしちゃ気の利いた攻撃だが俺にとっちゃ前だろうが後ろだろうが関係ねぇんだよ」
そう言って振り向き、自分を狙った触手にダッシュしてパンチで弾き飛ばした。その他の触手も破壊しつくすと、今度は超巨大スライム本体に向かっていきラッシュをかける。
「オラオラァ!」
パンチがヒットするたびにズドンという派手な打撃音が鳴り響く。その威力は音から予測するに超人的なものであろう。
遠くから様子を見ていたランドはその戦いぶりに圧倒されていたが、しばらくするとアイアンフィストの攻撃が超巨大スライムに全く効いていないことに気付いた。超巨大スライムの本体はパンチを受けた部分が大きく波打つだけで、触手のように破裂することはない。触手は破壊できるものの、すぐにまた新しいものが生えてくる。アイアンフィストの奮闘は体力を浪費しているだけに思えた。
「お~い!いったん戻って来てよ~」
ランドは精一杯大きな声で呼びかけたが聞こえていないようだった。パンチ攻撃が有効でないことをアイアンフィストに伝えたかったが、ドッカンドッカン音を立てている危険な戦闘区域に踏み込んでいく勇気はとうていなかった。
「ほっといていいわよ。ランドちゃん」
「?・・・あ、えっとプラチナさん」
いつの間にかアイアンフィストの手下の1人プラチナが近くまで来ていた。プラチナが実は男であることを聞かされていたランドだったが、それでも女性にしか見えない肉感的な肢体にはどきどきさせられる。プラチナは暴れまわるアイアンフィストを眺めながら笑顔で言う。
「ボス、ストレスたまってるのよ。喧嘩に負けて捕まって、久しぶりに喧嘩相手に選んだレベッカちゃんにも負けちゃって。2連敗なんて初めてじゃないかしら。だから何でもいいから暴れたいのよ」
「そ、そうなんだ」
「心配しなくてもいいわよ。たぶんランドちゃんが今まで出会った人の中でいちばん頑丈でしぶといから」
ランドは"バーバリアン"ハンスのことを思い浮かべ、いやさすがにハンスおじさんより頑丈な人なんていないだろうと思った。昔、ランドが山で足を滑らせ谷に転落しかけたとき、とっさに助けたハンスが代わりに岩壁に叩きつけられながら転落したことがある。残されたランドはその場で暗くなるまでメソメソ泣いていたが、ハンスは何事もなかったかのようにヌゥッと谷底から生還してきた。谷底で仕留めた熊を背負って。
そんな風にボーッと思い出を振り返っていると、プラチナがどうしたのといった感じで顔を覗き込んできた。良い匂いがする。ランドは気恥ずかしくなって目を逸らし、視線をスライムの群れとの戦線に向けた。
剣を振るうレニ、レベッカと一緒にモヒカンのショットが立ち回っている。ショットが右腕を突きだすと、火球が連続して発射されスライムを数匹まとめて吹き飛ばした。ショットの右手には銀色の筒のようなものがはめられていた。火属性のリギアなのであろう。 ショットがスライムをまとめて蹴散らし続けたことにより、後方の扉とランド達の間にスライムのいない道ができており、そこを通ってスキンヘッドのガンホンも近づいてきていた。扉の上方を見ると、アイアンフィストが飛び出してきた内壁の穴からロープがたらされていた。そのロープを使ってスレッジが降下中だ。
ショットが戦線を離れ、ランドとプラチナのもとにやってきた。疲労困憊の様子である。
「おい、プラチナ、これじゃキリがねぇぜ。倒しても倒しても湧き出してきやがる」
「あら、もう疲れちゃったの。男のくせに情けないわねぇ」
「うるせぇ。男に男のくせになんて言われたくねぇわ。ここは俺にとって場がわりぃんだよ。あのバカでけぇ水膨れしたスライムのせいで場が水の魔力で満たされてんだ。火の魔力を捻り出すのに骨が折れるぜ」
軽口を交わす2人。そばで聞いていたランドは戦線に水色スライムが出現しているのに気付いた。一匹こちらに近付いてくる。慌ててプラチナに報告する。
「2人ともあっちを見て!危険なやつがこっちを狙ってるよ」
動揺するランドに対しプラチナは余裕綽々で言う。
「大丈夫よランドちゃん。忘れちゃったの?私が守ってあげるって言ったでしょ。お姉さんに任せなさい」
そう言うと腰に束ねて装着していた鞭を手に取って構えた。水色スライムが水圧ブレスを放つ。
「2つに裂けな!」
プラチナがドスの効いた声を上げつつ鞭を下から上へしならせる。すると、まるでその鞭に両断されたかのようにブレスは真っ二つになってランド達の左右に逸れて着弾した。その着弾音でランド達の危機に気付いたレベッカが水色スライムに斬りかかっていく。とりあえず、この水色スライムはレベッカに任せて良さそうだ。ショットがプラチナに尋ねる。
「で、どうするよ?雑魚だけじゃなくて厄介なやつまで乱入してきたぜ」
「そうね。こうなったら入口を塞いじゃうしかないでしょうね。私たちも退路を断たれることになるけど、このまま戦い続けても不利な状況になる一方だし」
「よしきた。おい、ガンホン!行くぞ」
いつの間にかそばに来てヌボーっと立っていたガンホンに呼びかけ、ショットが後ろの扉に向かって走る。スライムの群れに火炎弾を放って道を切り開き、ガンホンを先導する。ある程度まで近づいた後、ショットの援護を受けながらガンホンが停止し拡声器型のリギアを取り出した。それを口に当てて扉の少し上方に向けて構える。
「ボ!」
ガンホンが声を発すると拡声器型のリギアから音の衝撃波が放たれた。内壁に命中し表面がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。何度か繰り返すと扉が瓦礫で埋まり、スライムの侵入を食い止めることに成功した。
「よっしゃ。ターゲットの扉はあと2つだ。ちぃとヘビーだがやってやるぜ」
ショットはそう言うと今度は右方向の扉にガンホンを引き連れて向かっていった。




