再会
ランドが奴隷になってから半年が経とうとしていた。透土の採掘量は合格ラインの緑を達成できるようになり、ギュスターブに棒で殴られることもなくなった。ラーズベリの収穫に関しても毎回大活躍である。あまり喜ぶべきことではないが、奴隷としてもう一端の戦力になったと言ってもよかろう。そうなってからはある意味で安定したマンネリな生活を送っている。そして、今日もまた大階段から底の街に降り、広場で虹輪と食料を受け取って街道を歩き、古代の大闘技場の鉄巨人を横目に見ながら採掘現場まで歩いていきスコップを振るう。
作業を開始してしばらくするとランドは胸の辺りが熱くなっているのに気付いた。上着の中をのぞいてみるとサンドシャークの首飾りにはめ込まれた青い石が光って熱を発している。なんだなんだと首飾りを手に取った瞬間、ランドの腕の奴隷の印から光線が照射され始めた。光線は下から上に角度を変えていく。照射された部分には光が残って何かを形作っていく。しばらくすると、それは人間の足であることが分かった。そのまま下半身、上半身へと移行し、最後に頭部が描写された。ランドは映し出された顔を見て思わず叫んだ。
「あー!お前はあのときの!」
照射された人物は中央奴隷市場でランドと入れ替わった奴隷の少年であった。ただ、あのときとは違い煌びやかな魔術師風のローブを身にまとい、澄ました表情でランドに冷めた目線を向けつつ長い金髪をなびかせている。奴隷である今の自分とあまりにかけ離れた気取った姿を見てランドの怒りは増幅した。
「お前、あのときはよくもやってくれたな!」
飛びかかるランド。しかし、首根っこをつかもうとした両手は金髪の少年を突き抜けてしまった。そのまま勢い余って透土の壁に激突する。音を聞きつけたライがやってきた。
「どうした。またスライムがでたのか」
「いや、そうじゃないくてあいつが・・・」
しかし、ランドが指さした場所には既に誰もいなかった。安全を確認したライは不思議そうな顔をして戻っていった。その途端、再び金髪の少年が照射された。
「殴ろうとしたって無駄だよ。ここにいる僕は幻みたいなものだからね。それにしても驚いたよ。君がまさかギアドライブを持ってるとはね。ギアドライブの働きで奴隷の印に仕込んだ通信用のリギアが発動したようだ。ところで、僕にはそれが必要なんだ。ちょっと脱走して持ってきてよ」
ランドの首飾りを指さしながら一方的に言い放った。
「なんだとー、お前が僕をこんなとこに送ったんじゃないか。それなのに半年も経ってのこのこ出てきた挙句に脱走しろだって?」
「遅くなったのは君のせいでもあるんだよ。ギアドライブはリギアを外部から強制起動させるキーなんだけど、そのためには魔力が必要。いちおう虹輪と同じように透土の魔力を吸収する機能もあるんだけど、あくまで起動用だから吸収量は少ない。君の採掘ペースがもっと速ければ、僕ももっと早くあらわれてたってわけさ。君、ちゃんと働いてた?」
「くっそー、僕のせいだっていうのか」
「アッハッハ、別に他意はないよ。事実を述べたまでさ。それにしても苦労しただけあって雰囲気も随分変わったじゃないか。奴隷市場であった時なんか、甘ったれた空気全開だったから一目見て手玉にとれると思ったよ」
「・・・っ!こいつぅ、お前の言うことなんか聞くもんか」
ランドは金髪の少年を無視して作業を再開することにした。
「おやおや不貞腐れてしまったかな。考えてみればいきなり脱走しろというのも無理な話だったね。脱走に関しては僕の方で方法を考えてみよう。それとは別に、せっかく要塞内部にいるのだからやってもらいたい仕事があるんだ」
ランドは無視してスコップを振るう。
「あれぇ、そんな態度を取っていいのかなあ。脱走しないと少なくともあと数年は奴隷のままだ。なにより、僕が解除しない限りは君の腕の奴隷の印は永久に消えない。常に帝国の管理下におかれて電撃の恐怖にさらされるというのは僕なら嫌だなぁ。ここは過去のことなど水に流して協力し合った方がお互いのためだと思うんだけどねぇ」
そう、ランドは命綱を握られているのである。意地を張っても自分の首を絞めるだけだ。ランドは観念して金髪の少年の話を聞くことにした。
「そうこなくちゃ。君にやってもらいたい仕事っていうのは中央区画の塔まで行く。ただそれだけ。簡単でしょ」
「全然簡単じゃないよ。奴隷には監視員がついてて決まった区画の出入りしか許されてないんだから」
「僕の方がさらに難易度の高い脱走を請け負うんだから、そこはなんとかしてよ」
ここで金髪の少年を映し出す光が少し揺らぎだした。
「あ~魔力が切れそう。節約しないとね。とりあえずこんな精細な像を映すのをやめよう」
金髪の少年はそう言うとゴニョゴニョと念じた。すると照射されていた人間型の光が変化し、赤く光る丸い玉に可愛らしい目と口がついたシンプルな像になった。
「どうだい。こういう姿の方が君の怒りもおさまるかと思ってね。便宜的にルビーとでも呼んでくれ。君は確かさっきランドと呼ばれていたな。それじゃあ今後はこの姿で必要なときに出てくるからよろしく~」
そう言うとランドが文句を言う間もなく消えてしまった。それからルビーに頼まれた仕事のことを考えながら採掘をしたが、とくに良い考えは浮かばぬままその日の作業は終了したのだった。




