9,魔法と詠唱と
地下販売所でリス子先生著の生活魔法詠唱本と攻撃魔法と防御魔法関連の詠唱本を購入した。
生活魔法詠唱本は攻撃魔法と防御魔法関連の詠唱本と比べると、半分以下の値段だったのでちょっとリス子先生が恥ずかしそうにしていたが構わず購入。
不思議な事に攻撃魔法や防御魔法はあるのに回復魔法の詠唱本はなかった。
その辺をリス子先生に聞くと「回復魔法はとても難しいので詠唱本どころか受講もできないのですよ」といわれた。
どうやったら習えるのか聞くと宮廷魔術師クラスに弟子入りするしかないらしい。
宮廷魔術師に弟子入りするには魔法の腕も相当なレベルで必要になるために当分は無理だろう。
それでも可愛いリス子先生は「クドウさんならきっと大丈夫ですよ! だって私の生徒なんですから!」と照れながら言ってくれた。何この可愛い生き物。お持ち帰りしたい。
地下販売所でリス子先生とデートをして魔法ギルドを後にした。
生活魔法の受講者が現れてよっぽど嬉しかったのか、門まで見送りについてきてくれて見えなくなるまで手を振っていた。何あの可愛い生き物。連れ帰りたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
後ろ足銀牛亭の部屋に戻ってくるとさっそく詠唱本に目を通した。
しかし書かれていたのは詠唱と効果だけだった。
リス子先生著の生活魔法詠唱本にはリス子先生が描いたのだろうか、手書きのイラストもついていたがそれでもやっぱり詠唱と効果しか書いてない。
……ふむ。正しく詠唱本だ。
試しに火種をつける生活魔法を詠唱してみる。
「えーと『燃え栄えよ、火の英神ヴァルフに捧げる種火と成れ』」
魔法はイメージが大事だとリス子先生は言っていた。
しかしこの詠唱では火種のイメージは到底もてない。
せいぜいが最後の種火と成れくらいしかイメージが合わない。
だがしかし。
立てた人差し指の先に見事に小さな火が灯った。
・『天凛の才:魔力』発動。『生活魔法:初級』を取得しました。
おおう……あっさりとしすぎだろう。
しかしどうやら使えるようになったのは種火のみ。
使えない魔法だと思ったらなんと確固たるイメージも詠唱も必要なしに使える事がわかった。
どうやらスキルで使えるようになった魔法はゲームで選択して使うような感覚で使えてしまうらしい。
天凛の才:魔力。さすがは超人の如く魔法を使いこなせる才能だけはある。
その後生活魔法のコップ一杯分の水を出す魔法を使ってみたら生活魔法:初級で使える魔法が増えた。
どうやら1度成功させた魔法は登録されるようだ。
使える……。
恐らく攻撃魔法や防御魔法も同じような感じなのだろう。
だが初級なのでどこまで登録されるのかが気になる。
物は試しと防御魔法で実験を繰り返してみた。
ちなみに生活魔法で実験しないのはリス子先生に直接手取り足取り教えてもらうからだ。
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結果として防御魔法の初歩、手のひら大の小さな盾を作り出す魔法で――。
・『天凛の才:魔力』発動。『防御魔法:初級』を取得しました。
その後初級に分類されていた防御魔法を手当たり次第詠唱して登録する事に成功し、中級に分類されていた防御魔法を1つ詠唱して成功させたところで――。
・『天凛の才:魔力』発動。『防御魔法:中級』を取得しました。
となった。
詠唱本は中級までしかなかったので防御魔法をひたすら詠唱して登録していく作業を繰り返した。
1度のミスもなく、全てたった1回の詠唱で成功させ登録する事が出来たのは、やはり天凛の才:魔力のおかげだろう。
詠唱本さえあれば恐らく上級だろうと1回で登録する事が出来るのかもしれない。
オリジナル系の魔法はどうなのだろうかと思って、試しに自動で攻撃を防御してくれる魔法をイメージして使ってみた。
ちなみに防御魔法の中級までで自動で防御してくれるような効果はなく、全て事前に使用して自分で防御するタイプだ。
・『天凛の才:魔力』発動。『防御魔法:最上級』を取得しました。
……おっふ。
上級を通り越して最上級を取得してしまった。
どうやら自動防御系の防御魔法は上位にすらカテゴライズされない魔法だったらしい。
でも例によって1発成功で登録されている。
天凛の才:魔力。恐ろしい子!
この調子なら攻撃魔法も楽勝だろう。
だがさすがに部屋の中でやるわけにはいかず、今度依頼で外に行ったら徹底的に試してみるつもりだ。
そういえばこれだけ魔法を連発しても魔力は一向に減った気がしない。
魔力感知で探っても自分の中の魔力は減ったような感じがまったくしないのだ。
限界を知っておくのは必要な事だ。近いうちに調べなくてはいけない。リス子先生も言ってたし。
明日のリス子先生とのデー……生活魔法講習を楽しみにしながらベッドに入って睡魔に身を委ねるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の午前中は冒険者ギルドでコボルト10匹の討伐依頼を受け、ギルド内にあるギルド員なら自由閲覧可能な資料室で情報収集をし、街の外で攻撃魔法の登録がてら使い勝手を試してみた。
「『火矢』!」
攻撃魔法は初級であっても詠唱が長いが、1度登録してしまえば登録される際につく名前を念じるか言葉に出して魔法を使う事を意識すれば、いちいち魔法を選択しなくても使用できる事がわかった。実にお手軽だ。
空中に突如出現した20センチほどの火の矢はまっすぐに向かってくるコボルトの眉間を打ち抜き、毛に燃え移って死体を燃やし始める。
コボルトの討伐証明部位は尻尾なので燃えてしまってはちょっと困る。
慌てて直径30センチほどの水の球をぶつける魔法――『水球』を使って消火しておいた。
その間にも残りのコボルトが襲い掛かって来ていたが、予め貼っていた防御魔法――『参層結界』に阻まれてオレには届かない。
この魔法は防御魔法の中級に書いてあった魔法で、3つの層に分けて防御膜を展開する魔法だ。
1枚目を破っても2枚目3枚目があるので高い防御力を誇る魔法だ。
その上、時間経過で破られた防御膜を再生する事も出来るので、1回張ってしまえばコボルト程度なら何匹群がろうと突破できない。
弱点は解除しないと貼った場所から動けない事だろうか。
「火はだめだな。『風矢』、『土矢』、『水矢』」
攻撃魔法は火、水、風、土の4つの属性別にそれぞれ似たような効果の魔法が存在する。
球状にして飛ばす『球系』、矢状にして飛ばす『矢系』、槍状にして飛ばす『槍系』などなど。
他にも竜巻状にして地を舐めるように移動させる『竜巻系』なんかもあるが、これを水属性でやっても大して攻撃力は出せない。
火や土でやるとかなり攻撃力は出るようで、向き不向きがあるようだ。
ちなみに風でやると竜巻の規模がでかくなる。
3種類の矢がそれぞれ残っているコボルトの眉間を射抜き、参層結界を突破できなかったコボルト達は全滅した。
矢系の攻撃力はどの属性でも大して変わらないのかもしれない。もしくはコボルトが弱すぎるのか。
すでに10匹以上コボルトを狩って、討伐証明部位の尻尾も10本集まっている――街を出る前に露店で手ごろな剥ぎ取り用ナイフを購入済み――が、まだまだ登録していない攻撃魔法は残っている。
でも正直使うか微妙すぎる。
水属性の竜巻なんかがいい例で、登録しても使いどころがなさ過ぎる魔法が結構あるのだ。
いや訂正しよう。ほとんど使い物にならない。
実戦で魔法を役に立てようとしたら火傷を伴う火属性か、物理的な質量を伴う土属性が最も活躍するだろう。
正直水や風は出番がなさそうだ。
その中でも矢系や槍系はかぶる。球系も矢系や槍系が使えるなら必要ないだろう。
魔力が少ないのなら相手に応じて使い分けるということも必要かもしれないが、残念ながらオレにはそれは当てはまらない。
正直何発魔法を打とうとまったく魔力が減らないのだから仕方ない。
……リス子先生、限界が分からないよ。
「『土槍』、『土矢』」
少し遠くにいたゴブリンに向かって魔法を放ってどの程度の射程距離があるのか調べてみたが、200メートル程度では正確に頭部を貫けるようだ。
今度は倍の400メートルくらい離れた狼を狙ってみたが土矢は命中したが、土槍は外れてしまった。
もう1度土矢を使って打ち漏らしを片付けたが、どうやら矢系の方が射程距離が長く、槍系は体積分威力が高めの方向のようだ。
まぁ威力についてはなんとなく程度だ。どれも一撃で倒せてしまっているし。
色々試している間に大分時間も経過してしまい、もう太陽が真上に近くなってきてしまった。
これ以上はリス子先生の講習に支障を来たしてしまう。
急いで街まで戻ると依頼の完了報告を済ませ報酬を貰い、魔法ギルドに向かいながら昼食を摂る。
今日も例の肉野菜を挟んだパンだ。コレなかなか癖になる味なんだよね。
ちなみに午前中で習得したスキルは4つ。
・『天凛の才:魔力』発動。『火魔法:中級』を取得しました。
・『天凛の才:魔力』発動。『水魔法:中級』を取得しました。
・『天凛の才:魔力』発動。『風魔法:中級』を取得しました。
・『天凛の才:魔力』発動。『土魔法:中級』を取得しました。
午後はリス子先生と生活魔法を楽しく取得しよう。
魔法が登録制なのはクドウみたいなのだけです。
他の人はみんな詠唱したり、イメージをしっかり持たないと使えません。
連休なので明日も更新します。
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