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8,魔法ギルドは学校みたい?

本日は特別に3連投です。




「いいえ」


 オレの問いに彼女はたった一言で答えた。


 たった一言の答え。


 言い訳の1つもなく、それ故に言外に伝わる意思が嫌が応にも強さを持つ。

 そんな中に込められた意思は一遍の邪気すらない美しく純粋で、ただただひたすらに恐ろしい。

 あの人外の祖父に長らく鍛え上げられた意思が屈しそうになるほどの恐ろしさに心が揺らぎそうになるが、更なる鋼鉄の意志でもってそれを堪える。


 そしてそんなオレの心を見通すような透き通るような笑みを浮かべる目の前のナニカ。

 確実にこの人は敵に回してはいけない。


 しかしそれ故にオレは確信してしまった。

 彼女がオレの敵になる事はまずないだろう事を……オレが自ら彼女の敵にならない限りは。


 ならばやる事は1つ。


「無礼をお許しください、ミリアス・ランガスト様」

「許します。そして今まで通りミリアスと、そう呼んで下さい」

「わかりました」


 謝罪をいつもの柔らかい包み込まれるような聖女の笑みで受けてくれた彼女に感謝を。


 その後ミリアス嬢に勧められてもう1度席に戻り、しばし彼女と会話を交わしたあと魔法ギルドへ行く用事を思い出したので場を辞した。

 彼女は名残惜しそうに「またすぐに会えますよね?」と少し表情を曇らせて聞いてきたので「もちろん」と返しておいた。


 彼女の持つ恐ろしい一面を知り、ミリアス嬢に1歩近づいてしまった気がする。

 まぁだからといってこれからミリアス嬢ルートに入るとは思えないのが残念なところだろう。

 何せ彼女は強者フェチ。

 交わした会話は昨日や今日あった戦闘ばかりであり、それ以上に恐ろしい面を知ってしまった。

 どこにも艶のないなんとも血生臭い話なのに、彼女はその柔らかい聖女のような笑みのまま頬を紅潮させて嬉しそうに聞くのだ。

 残念極まりない。


 ほんと、残念極まりなく……恐ろしい。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 ミリアス嬢と別れて魔法ギルドの建物がある場所まで来たのだが……。

 そこに建っていた物は他のギルドとは一線を画すものだった。


「……学校?」


 そう、まさに日本にあるような学校そのものがそこにあったのだ。

 コの字型の建物で大きな凝った意匠の門があり、門のすぐ脇には受付のようなところがある。

 外観はどうみても学校だ。

 一応門番に「ここは魔法ギルドであっていますか?」と聞けば「あっていますよ」と平然と返された。

 ついでに門番は「用があるなら受付で申請を済ませてください」と通してくれた。


 なんとも釈然としないままに受付に行くとそこには魔法使いが……いなかった。

 どちらかというと冒険者ギルドのような綺麗に整頓された、美しい受付だった。


「いらっしゃいませ。魔法ギルドへようこそ。

 本日はどのような御用向きでしょうか?」


 ここも冒険者ギルドのようなマニュアルでもあるのだろうか。言ってる事が大差ない。


「あ、えぇと……魔法を習いたいのですが」

「では師事したい方はいらっしゃいますか? いなければ習いたい魔法の種類と現在の魔法スキルのランクをお願いいたします」

「あーえっと……魔法の事が全然わからないので……その辺から習いたいのですが」

「かしこまりました。では初心者講習を受講していただく事になります。

 初心者講習は毎日午前と午後の2回行われております。午後の講習にはまだ間に合いますので申請しておきますね。

 こちらの受講用紙に記入をお願いします」

「はい、わかりました」


 どうやらちゃんと魔法初心者に対する講習も行われているようで一安心だ。

 毎日午前と午後の2回も行われているなんて結構魔法を習いに来ている人は多いんだろうか。


「ではお預かりします。初心者講習は無料で受講できますが、それ以外ですと相応の金額がかかりますのでご注意ください。

 それではこちらの用紙を持って1階の14番教室へお願いします」

「ありがとうございます」


 なるほど無料なら色んな人が来るだろう。

 魔法は使えたらきっと便利だろうし、普及すれば文化水準も上がるだろう。きっとこの辺は伯爵の政策なんだろうな。


 校舎のような建物に正面玄関から入るとすぐに案内板が用意されていて、14番教室がどこにあるのかすぐにわかった。

 少し歩いて教室に辿りつくと中にはオレ以外にも10人ほどの人が思い思いに席につき、講習が始まるのを待っているようだ。

 オレも教室に入ると扉の横には受付のようなものがあり、そこに貰った用紙を提出するようだ。


「初心者講習が始まるまではもう少し時間がありますので、お好きな席に座ってお待ちください」

「わかりました」


 用紙を渡して前の方の席につく。

 学校の授業なら寝て過ごすのだが、魔法の講習なら寝て過ごすのは勿体無い。

 むしろ一字一句漏らさず聞く為に前の席を確保したほどだ。

 オレのやる気は嘗てないほどに高まっているのだ。早く魔法使いたい。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 ドキドキしながら待っているとローブを纏って短い杖を持った20歳くらいの小柄なリスの獣人の女性が入ってきた。

 どうやら彼女が初心者講習の先生らしい。


「お待たせしました。私が本日の初心者講習を担当させていただきます、リーシュです。

 魔法は使いこなせるようになれば、例え魔力が少なくても生活に活用できる素晴らしい技術です。

 まずは魔法とはどんなものなのか、どうすれば使えるようになるのか。それを知っていきましょう。

 それではよろしくお願いします」


 リーシュさんが挨拶をしてさっそく講習が開始された。

 とはいっても魔法とはどんなものか、そしてどんな魔法があるのか。

 まずはそこから話が始まった。

 オレとしても望んでいた事なので真面目に聞いていたが、どうも周りの反応はそうではなかった。

 だが雰囲気は別としても誰もその事は口に出さない。

 初心者講習は無料なのだし、参加も自由だ。文句があるなら最初から来ないだろう。

 どんな世界でもクレーマーは存在するだろうが、運が良かったのか今回はいなかったみたいで粛々と講習は進んでいく。


 リーシュ先生の初心者講習を纏めるとこうだ。

 魔法とは己の中に存在する魔力を感じ取り、イメージを具現化する技術。

 とはいってもイメージを具現化するのはなかなか難しいのでその補助としてイメージしやすい、各々の言葉で補強するのが一般的らしい。

 つまりは詠唱。でもオリジナル。


 イメージをはっきり持てるならば詠唱もいらないそうだが、才能か長い修練が必要。

 詠唱もお手本が存在し、そういった本も販売されているので興味があったら地下にある販売所に行く事を勧められた。

 なるほど、なかなか商売上手だ。


 魔法は使うたびに魔力を消費する。

 使いすぎると魔力がなくなり、酷い疲労感を伴うらしいので注意が必要だ。

 まず最初は己の限界を知ることが大切らしい。


 後半はリーシュ先生が直接己の魔力を感知する方法を教えてくれた。

 これが出来れば魔法使いへの最初の1歩を踏み出せる。


 だがオレはすでにスキルとして魔力感知を持っていたのでこの段階は飛ばせるようだ。

 その事を伝えると、次は習得したい魔法の講習を受講する事を勧められた。



 非常に簡単ではあったが、初心者講習なのでこんなものだろう。

 これ以上の実践的な講習は有料だそうだ。

 当然ながら勧められた講習も有料だ。


 ちなみに今回オレ以外は誰も魔力を感知できなかったらしい。

 それでも魔力感知自体は1人でも練習出来る事なので「毎日家で練習すれば、いずれ出来るようになるでしょう。どうしても出来ないようなら有料ですが個別のレッスンも承っています」とリーシュ先生は微笑みながら言っていた。実に商魂逞しい。


 初心者講習も終わり、さっそく地下の販売所に行こうかと思ったところでリーシュ先生に呼び止められた。


「呼び止めてしまってすみません。

 どうでしょうか、私の授業を受けてみませんか?

 あ、私は基本的に魔法を生活に応用するタイプの魔法――生活魔法を教えているんです。

 魔道具でも代わりになりますが、用途に応じて所持しなければいけない魔道具と違って生活魔法ならそういった物を用意しなくても使えるので大変便利ですよ?

 それに魔力の消費も少ないですし、魔石の節約にもなってすごく家計に優しいんです。

 どうでしょう?」


 最初はそれなりに勢いがあったのだが最後の方はちょっと尻すぼみになり、若干不安そうに声も小さくなっていた。

 きっと魔力感知が出来た講習者に声をかけまくっているのだろうが、受講してくれる人は少ないのだろう。

 魔石の節約になるといっても受講料だって無料ではないのだ。

 その分を考えたら使えるようになるかどうかもわからない魔法の授業を習うよりは魔道具を使った方がいいだろうし、どうせ覚えるならもっと派手で格好いい魔法の方がいいと思う人が大半なのだろう。

 だが冒険者ギルドの依頼などで街の外に出る事が多いオレにとっては生活用の魔道具を大量に持ち歩くよりは魔法で使えた方が便利だ。

 それに天凛の才:魔力があるのだからすぐに覚えられるだろう。


「そうですね、受講料はいくらくらいなんですか?」

「はい! 1回の受講で1万ジェニーです! 初心者講習とは違って少し長めの講習になりますし、その分実践的で手取り足取り教えます!

 きっと使えるようになります! 生活魔法! 便利ですよ!」


 消え入りそうだった声が嘘みたいに非常に元気の良い声で一気に捲くし立てるように返事が返ってきた。

 1回1万ジェニーは正直かなり高いのではないだろうか。

 でもきっと他の攻撃魔法とか回復魔法はもっともっと高いのだろう。


 キラキラの瞳で期待の眼差しを向けてくるこのリスさんに断りの返事を返すのは難しい。

 まぁ必要な魔法になるだろうし、損ではないだろう。

 でも一応聞きたい事はしっかり聞いておく。


 嬉々として返答してくれたリス子さんによると、やはり攻撃魔法の講習は高い。

 1回で5万ジェニー以上は取られるそうだが、それでも人気の講習らしく予約を入れないと取れないそうだ。

 それを考えると生活魔法は安い。

 詳しく聞いたら今現在受講者は0人だそうだ。不人気すぎるだろう。

 安いとはいってもやっぱり生活用の魔道具が普及しているこの街では微妙な魔法すぎる認識なのだそうだ。


「そうですか。まぁオレには有用な魔法なので受講したいので、いつから始められますか? 明日とかでも大丈夫ですか?」

「い、いいんですか!? だって生活魔法ですよ!? 魔法ギルド不人気ナンバーワンの魔法ですよ!?」


 おいおい……自分で不人気ナンバーワンとか言うなよ……。

 その講師なんだろうあなたは。

 そんな混乱気味のリス子さんにそれでも受講したい旨を伝えると飛び跳ねるほど喜んでくれた。

 そりゃあもう勢い余って飛びついてくるくらい喜んでくれた。

 すぐに顔を真っ赤にして離れたけど。

 ふむ、リス子さんは着痩せするタイプのようだ。余は満足じゃ。


「あ、あのそのす、すみません……。つい、その……嬉しくって……えへへ。

 ……ごほん、それでは明日の午後から受講できるように準備しておきます。

 お昼を食べたら受付に申請に来てください」

「わかりました。こちらこそよろしくお願いします、先生」

「はい!」


 初心者講習をしている時は年相応の雰囲気だったが、どうやらこちらの方が素のようだ。

 可愛いリスの大きな耳と抱き応えのありそうな大きな尻尾と小柄な体躯が相まって非常に可愛らしい。


 名残惜しいが明日の午後にまた会えるので一先ず今日はここでお別れだ……と思ったら地下の販売所を案内してくれるというので、可愛いリス子先生との癒しの時間がまだ続く事に頬が緩むのを感じた。



残念な恐ろしい人ルートはフラグ管理が大変です。


さぁやってきましたリス子先生!

彼女の癒し可愛い素晴らしい生活魔法講習を受講決定です。


連休なので明日、明後日も1話ずつ更新します。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

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