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7,探索者ギルドと恐ろしい人

本日は特別に3連投です。



 登録した時にも使った冒険者ギルド内の会議室で警備兵から事情聴取され、オレはあっさりと解放された。その間たったの5分だ。

 まぁその前に待ち時間が1時間ほどあったけど。


 オレの思惑通りに野次馬からの証言とギルド職員からの証言が決め手となり、こちらの正当防衛が見事に成立した形だ。

 だが「やりすぎだ」と、ニールギンさんからお小言も頂いた。

 まぁオレとしては今後の生活の快適さを得るための必須項目だったので反省も何もない。

 むしろ考えうる中でも最上に近い結果だったために上機嫌なほどだ。


 正当防衛も成立しているので無罪放免。

 怪我をしたのはあちらさんだけなので治療費などはこちらには入ってこないが、オレも払う必要はまったくない。

 死亡した2人に関しては家族や親族がいなければ街の外にある共同墓地に葬られるらしい。実にどうでもいい。


 もうお昼を過ぎてしまったので大分腹が減っている。

 お昼用に買ったパンを食べながら午後の予定である探索者ギルドがある区画に向かう。

 とはいっても冒険者ギルドから程近い場所に探索者ギルドは建っている。

 こちらは冒険者ギルドよりは狭いがそれなりに大きい建物だ。

 たどり着いてもまだ食べ終わっていなかったので食べながら中を観察していると、ギルド内は閑散としている。

 受付には女性ではなく、男性が座っており眠そうに欠伸をしていた。

 冒険者ギルドが役所みたいだったのに対してこちらは完全に小説や漫画のイメージそのままな感じだ。

 つまりは雑然としている。

 別に汚いというわけではないのだが、掲示板に貼られている紙も整理されておらずぐちゃぐちゃな印象が目立つ。

 冒険者ギルドに置かれていた長椅子はなく、代わりにテーブルがいくつか置いてあるだけだ。椅子はない。


 似たようなギルドなのにここまで違うというのも面白い。


 探索者ギルドは迷宮に入るような人達の互助組織だ。

 持ち込まれる依頼も迷宮から取れる資源に関する事ばかりなので一般人にはあまり馴染みが無いのだろう。

 迷宮から取れる資源は主に魔物の部位――素材や魔石。

 迷宮以外の魔物でも魔石や素材は取れるが、迷宮の魔物の方が質も量も段違いなのだそうだ。

 代わりに魔物の強さも段違いなのだそうだが。

 迷宮に入って資源を持って帰れるようになるにはそれ相応な腕が必要というわけだ。

 だからだろうか、ギルド内の雰囲気からも掲示板の乱雑さからも粗暴さが目立つ。


 迷宮にはいずれ行ってみたいが、それは今ではない。


 でも説明くらいは聞いておいてもいいだろう。

 パンも食べ終わったのでさっそくギルド内へと足を踏み入れた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 正直説明自体は冒険者ギルドと大差なかった。

 あ、今回は理念関連は飛ばしてもらった。

 他はギルドカードの作成や依頼の受け方なんかは冒険者ギルドとほとんど変わらない。

 せいぜい違いがあるとすれば迷宮から持ち帰る資源について。


 これらは依頼がなくても常時買い取りしている。

 ちなみに冒険者ギルドの方ではやっていない業務だ。

 だからゴブリンを倒して得た小さな魔石の売却も冒険者ギルドでは出来なかった。


 一応売ってみたがやはり迷宮の魔物じゃないのでかなり安かった。

 同じゴブリンでも迷宮のゴブリンの魔石ならこの10倍以上の価格になるそうな。

 今日受けた依頼の報酬額は6000ジェニーだったが、どうやら迷宮のゴブリンを同じだけ狩ったらその倍以上にはなるみたいだ。それに素材も売ればさらに報酬は増える。まぁその分強いらしいけど。

 とは言っても買い取り価格は固定ではなく、買い取り品の状態や需要にも左右される。ただ基本的には大きく相場が動かないと値段の変化はおきないそうな。

 買い取り品の状態はもちろん剥ぎ取ってくるのだから下手なら値段がその分引かれるということだ。上手くても一定以上はあがらないみたいだが。


 ともあれ、実力があれば冒険者ギルドで依頼を受けるよりは迷宮に入った方が遥かに稼げるのだろう。


 一応探索者ギルドのカードも作ってもらった。受け取りは明日。

 紹介状のおかげで初回手数料は無料。

 オレが喧嘩して2人殺めて1人重傷にした事はすでにこちらにも情報が回っていたみたいで、将来有望だと褒められた。さすが探索者ギルド。冒険者ギルドとは豪快さが違う。

 でも冒険者ギルドと違って担当したのはそのまま受付の職員だったし、紹介状に押された封蝋も支店長のものではなく、探索者ギルドのものだったみたいだ。


 あ、そうそう冒険者ギルドと探索者ギルドではランクの付け方も違う。

 探索者ギルドでは迷宮の攻略深度に応じてランクがつくそうだ。

 ただそのランクも戦闘能力が高ければ、大体すぐに上がっていくそうだ。

 ギルドに貢献しなければいけない冒険者ギルドとは大分違う。


 探索者ギルドのランク付けは冒険者ギルドのような数字形式ではなく、こちらの世界のアルファベットのような文字の形式でEから始まりAまで上がってその上にS、SS、SSSまであるそうだ。

 ちなみに表記はアルファベットではないのだが、オレにはそう読めるのだ。読めるのだから仕方ない。

 これでやっとオレの知ってるギルドの形式になってきた。

 もう探索者ギルドだけでいいんじゃないのかな……。


 登録も済んだので探索者ギルドの資料室を借りてみた。冒険者ギルドにも資料室はあるが、こちらの方が規模が大きい。

 魔法とスキルの本を探してみたが、スキルの本はあっても魔法の本はなかった。やはり魔法ギルドの管轄なんだろう。

 見つけたスキルの本も古い物から新しいものまで色々あり、今日中に全部は読めないだろう。少しずつ時間を作って読みにこよう。

 一先ず新しいスキルの本のスキル一覧的な物を軽く読んでギルドを後にした。



 まだ夕方には早い時間なので次は魔法ギルドだ。

 魔法があるという事は知っているのだが、どうやって使うのかは実は知らない。だからこそ本を探したのだがないのなら仕方ない。

 なのでその辺を教授してくれないだろうかと思うのだ。


 天凛の才:魔力があるのだから魔法が使えないと言うことはまずないだろう。

 だが体を動かすのとは違って魔法は地球にはなかった技術だ。

 今使えないのは当たり前といえる。


 ならばここは初心に返って1から学ぶつもりで魔法ギルドの門をたたく事にした。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 魔法ギルドは冒険者ギルドや探索者ギルドとは違って街の中心に近い位置に建物がある。

 街の中心にはランガスト伯爵の邸宅があるように、中心に向かうに連れて地価が上がり住んでいる人間の身分も上がっていくそうだ。

 そんな街の構造の中でも中心に近い位置にある魔法ギルドの建物。

 ちなみに冒険者ギルドや探索者ギルドには支店があったが、魔法ギルドにはないそうだ。


 つまりは本店。


 果たして魔法初心者以下のオレは門前払いされずに対応してもらえるのだろうか。ちょっと不安だ。

 とりあえず紹介状の力を信じるしかあるまい。


 街の中心に向かっていけばどんどん高級そうな家が増えてくる。

 まず風景からして違う。

 あまり緑が見えなかった外縁部と違って中央には緑が多い。

 馬車から見てはいたが実際に歩いてみると印象はかなり違うようだ。


 それに巡回の警備兵の数が多い。

 外縁部では歩いていても30分以上見ないことが多いのに、こちらでは10分以内に必ずみかける。

 歩いている人も服装からして違う。

 オレも少しは高い服を着ているので目立つ事はないが、外縁部の人達がこちらに来たら間違いなく目立つ事だろう。

 そのせいなのか外縁部にいるような人達は一切見かけることはなかった。もちろんスリの子供たちも一切いない。



 中心部に近い高級なエリアにはオープンテラスの店が多い。

 緑も多く、外観も美しい街並みを眺めながらゆっくりと食事を楽しむ事が出来る。今度食べに来てみよう。


 などとテラス席を眺めながら歩いていたら見知った存在が優雅にお茶を飲んでいるのを発見してしまった。

 オレが気づいたのとほぼ同時にあちらも気づいたようで柔らかい包み込まれるような聖女の微笑みを向けてくれる。


「こんにちは、ナルミ様。よろしけば一緒にお茶などいかがでしょう?」

「お誘い頂きありがとうございます、ミリアス嬢。以前も申しましたように礼儀も知らない田舎者でもよろしければご一緒させていただきます」

「ふふ……。そんなこと気にしませんよ。さぁおかけになって」

「失礼します」


 偶然……なのだろうか。

 彼女は伯爵令嬢だ。だから中央に程近いこの落ち着いた雰囲気のあるカフェでお茶をしていても不思議ではない。

 周りには彼女の騎士達が微動だにせず直立不動の体勢を維持しているし、警備も問題あるまい。


 だがオレの勘がこれは偶然ではないと訴えている。

 果たしてオレの勘は当たっていたようだ。


「ナルミ様、差し上げた腕輪はお気に召しませんでしたか?」

「……そういうわけでは」

「何か気になることがありましたか?」


 あぁ、これは確定だ。

 彼女はどうやら全てわかっていてこの腕輪をオレにつけさせたようだ。

 だが一体この腕輪が何の効果があるのかオレにはわからない。そこが疑問だ。


「ミリアス嬢、正直に答えて頂きたい。

 この腕輪にはどんな効果が?」


 柔らかく微笑むミリアス嬢は一時もその表情を変える事無くオレの瞳をまっすぐに見つめ返している。

 威圧感を放ったりはしていないが、それでもさすがと言うべきだろう。これが貴族か。


「この腕輪には、着用した本人の魔力を微量ながら吸収し、対となる水晶にその位置を知らせる効果があります」

「……鈴をつけたわけか」

「この街の周辺10キロまで効果が及びますので実際には鈴よりも遥かに強力でしょう。

 ごめんなさい。でもあなたを監視したかったのではありません。

 これは誓って真実です」


 柔らかい聖女のような笑みが消え、真摯な眼差しを向けるミリアス嬢からは嘘偽りは一切感じられない。

 だが彼女は己を殺す事に長けた貴族という生き物だ。オレに見抜けないだけの可能性が高い。


「これはお返しします。

 ……そうだ1つ聞きたい事がありました」


 腕輪を彼女の前に置き、席を立つ。

 そして聞きたい事がもう1つあったのだと思い出した。


「何でも仰ってください。わたくしに答えられる事なら嘘偽りなくすべてお話致します」

「では……あの黒装束の男はあなたの手飼いの者ですか?」

「はい、腕輪の反応が消えたので何かあったのかと探らせました」

「そうですか。では申し訳ない事をした。もう死体はゴブリンに食われてしまいました」

「そう……ですか」

「……最後にもう1つだけ」


 この問いの答え次第でオレはこの街を去るかどうかが確定する。

 去る前に後顧の憂いを断ってからだが。


 オレが発する気配が変わった事にミリアス嬢の護衛の騎士が臨戦態勢を取るが、すぐさま手を上げて彼等の主がそれを制する。


「わたくしが答えられる事なら」


 常人なら気絶してもおかしくないくらいの殺気を目の前の美しい姫君に浴びせるが彼女の瞳にはほんの一欠けらも揺るぎは見られない。

 わかっていたつもりだったが、甘かったようだ。

 彼女は強い。ただの強者フェチではない。


 ミリアス・ランガスト。


 恐ろしい人だ。


「……あなたはオレの敵か?」


 故に答え次第ではこの場で排除する。

 殺られる前に殺るために。




ミリアス嬢は恐ろしい人です。

でも……。


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