22,銀狐のココネーリイ
奴隷商館までの道のりは普通に歩いていくつもりだった。
ただニドウさんとは歩幅の違いがあったので、オレが普通に歩くと彼女は早歩きするしかない。
この辺はリス子先生も同じだった。なのでリス子先生との迷宮探索の練習にもなる。
気配察知を駆使して彼女の歩幅、息遣いなど動作の1つ1つを察知して観察し考察する。無理をしないように、させないように彼女のペースを把握しそのペースに合わせる。
特に今のニドウさんは街並みや道行く人達が非常に珍しく、常にキョロキョロしているような状態だ。
彼女の進行方向にある障害物から人の流れに関しても常に気を配り、排除または進行誘導をしていく。
これも迷宮での警戒行動に似ている。
目視で周囲を観察し、異常がないか探るのは基本的な探索だ。
しかも迷宮では足場が街中のような石畳とは違い、非常に悪い。注意力散漫の今の彼女くらいが迷宮でのリス子先生の行動に近いレベルになっているのだ。
『ニドウさん、マントを買っていこうか』
『マント、ですか?』
『そのままでも大して問題はないけど、基本的にこの街の上流階級の人達はマントを羽織っているんだよ。
ほら、オレが最初に君と会ったときもこのマントを羽織っていただろう?』
『あ、確かに』
『今のニドウさんの格好って周りを見てて気づいたと思うけど、ちょっと目立つんだよね。
ここって街の外縁部だから裕福な人達は滅多に歩いてないんだ』
『そういえば……』
『今回は奴隷商に行くからその服のままだけど、普段はマントを羽織るか普段着用に買った服を着たほうがいいかな』
『わかりました』
露店通りを抜けて店舗が軒を連ねる通りに入り、そのまま少し歩いたところにある少し高級な店に入る。今羽織っているマントを購入した店だ。
ニドウさんの背丈に合うマントで地味だが質のいい物を購入してさっそく羽織ってもらう。
『どう、でしょう……?』
『うん、いい感じだね。これなら外縁部でもあまり気にする人はいないだろう』
『ありがとうございます』
『じゃあ行こうか』
『はい!』
支払いを済ませ店を後にする。連日に渡って店でも高い部類のマントを購入していったオレは上客だと判断したようで店の外まで店員が見送ってくれた。
でもたぶんもうこないぞ?
マントを購入した店から奴隷商館まではまだそこそこ歩かないといけない。
ここまで来るのに彼女の動作の1つ1つを考察した結果、このままでは時間がかかるという結論になった。なので辻馬車を拾うことに。
『ここからはあの馬車に乗っていこう。辻馬車でバスみたいなもんかな? いやタクシーか?』
『そうですね。ちょっと遠いですもんね……』
『まぁ散歩気分で行ってもいいけど、色々買い物したりしなきゃいけないからね』
『はい、わかりました』
基本的にニドウさんの合意を得る必要は無いが、一応伝えておいた。
突然馬車に乗せられて驚かれても面倒だし。
辻馬車は簡単に捕まったのでニドウさんの手をとって乗せてあげる。
今回捕まえた辻馬車は少し豪華な箱馬車タイプで、個人タクシーみたいな感じだ。
他にも乗り合い系の平台の馬車なんかもあり、そっちの方が安いが行き先は詳しく指定できない。巡回タイプのやつだな。
だが箱馬車タイプは行き先を指定できる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
辻馬車に揺られる事15分程度。
石畳で且つ、街中を走っているだけにそれほどスピードは出ていないので大きくは揺れない。
ニドウさんも特に乗り物酔いすることもなく奴隷商館にたどり着く事が出来た。
『じゃあニドウさん、無理はしないでいいからね』
『は、はい……』
奴隷商館が近づくに連れて明らかに乗り物酔いじゃない感じで、顔が青ざめていった彼女に声をかけて商館の中に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ、クドウ様。本日はどのような奴隷をお求めでしょうか?」
昨日来たばかりだし、また来るとも言っていたので対応してきたのは昨日の執事の男性だった。
受付の方をよく見れば彼以外にも執事服を着た男性が何人かいる。
「今日は昨日とは違う条件だ。彼女の護衛を勤めるための奴隷を。
戦闘が出来る事はもちろんの事だが、身辺警護の経験がある方がいい。
女性であまり厳つい外見ではない者を揃えてくれ」
「畏まりました。それではご案内させていただきます」
オレの後ろに隠れるようにしていたニドウさんをチラッと確認した執事の男性は、ほんの少しだけだが驚いた表情をしていた。
だがプロとしてそれ以上は顔に出さず、粛々と案内を始めた。オレとしてはそのほんの少しの表情が見れて満足だったけどな。
昨日とは別の部屋に通され、少し待つと昨日と同じように貫頭衣を着た女性が10人ほど入ってきた。
きちんと条件通りに厳つい圧迫感のある女性はいない。全員が細身――筋骨隆々じゃないと言う意味でスタイルはそれぞれ――だが、美醜に関しては考慮されていないようだ。まぁ護衛なのだから関係あるまい。
「それではご説明させていただきます」
「あぁ、そうだ。今回は体を見せる必要はない。ただ部位欠損や何かしらの障害がある場合は見せろ」
「畏まりました。ですがご安心ください。ご案内するこの者達は全員健康そのものでございます」
「そうか、では始めろ」
説明が始まり、大まかなまとめをニドウさんに伝えていく。
一先ずは全員の説明を終わらせてから決めさせるつもりだ。
順調に説明が進んで行き、7人目は昨日も説明を受けたあの狐耳の少女だった。
知っていたが一応説明を聞き、ニドウさんに伝える。
『……クドウさん、ココネーリイさんは私と同じ部屋だった人で、とてもよくしてくれた人なんです』
『そうなのか。まぁでも残りの説明も聞いてから考えようか』
『……はい』
多分これは決まりだな、と思いながらも最後まで説明を聞き、伝える。
ニドウさんが選ぶのはまず間違いなく、ココネーリイだろう。だがオレならば彼女は選ばない。
他にも彼女と同ランクで、得物が剣と弓が使える上に身辺警護の経験がある女性がいたのだ。
ただまぁ相性も重要だろう。四六時中側にいるわけだしな。
『どうする? 他の候補を見せてもらうという手もあるけど』
『あの、ココネーリイさんでは……だめでしょうか?』
『彼女は身辺警護の経験はないそうだよ?』
『そう、ですね……』
『まぁそれでも探索者ギルドでBランクだから街中程度なら対応は出来るだろう』
『じゃ、じゃあ』
『わかった。それじゃあ彼女でいいかい?』
「はい!」
必ずしも危険があるというわけでもないし、ある程度の妥協は必要だ。
それにニドウさんを連れてきたのは彼女に選ばせるためだ。当然の事だが、彼女に依存されては困る。
オレにはリス子先生という大事な人がいるんだからな。
そのためにも選択肢は明確に提示し、彼女の意思で選ばせる。
そうやってしっかりと自立させる事が目的だ。……今回は少々微妙なところではあるかもしれないが。
「7番目の銀狐族を貰おう」
「ありがとうございます。では契約に移らせていただいてもよろしいですか?」
「あぁ」
ココネーリイを含めた全員が一旦退出する。
どうやら書類を書く間に身支度を整えさせるそうだ。平然と総支払い金額によるサービスの違いを説明し始めたが、どこの奴隷商でも基本は同じらしい。
まぁ別にどうでもいいけどな。結局服や靴なんかは別に購入する予定だし。
書類に記入し、あとはココネーリイの首輪にオレの血を登録するだけだ。
程なくして身支度を整えた狐耳の彼女が部屋に入ってきてオレに深々と頭を下げる。
「ご購入いただきありがとうございます。誠心誠意ご主人様のお役に立てるように務めさせて頂きたく存じます」
「顔を上げろ。登録をする」
「はい、ご主人様」
少々きつめの印象を与える顔立ちにジッとみつめられると居心地が少し悪い。
素早く首輪の登録を済ませ、『主殺害不可:死』『主に絶対服従:激痛』『逃亡不可:激痛』『奴隷のニドウナナネ殺害不可:激痛』の制限を加える。
守る対象はニドウさんだが、それに関して制限をかけると足枷になり守れない可能性が出てくるので制限は加えないつもりだ。
そのまま支払いも済ませる。今回もニコニコ現金払いだ。
ちなみにココネーリイの購入金額は670万ジェニー。
一般的な戦闘奴隷よりもかなり高いが、Bランクの実力の持ち主だし妥当なところだろう。
例の身辺警護の経験がある女性は1000万ジェニーを超えていたくらいだし。
まぁ見せ要員だった可能性も無きにしも有らずだが、このくらいなら許容範囲内だ。確かめる術もないしな。
執事の男性に見送られて奴隷商館を後にする。
「ココネーリイ。君にはこの子と行動を共にしてもらう。
彼女を守り、補佐してくれ。知っての通り彼女は言葉が不自由だ。その点についても協力してもらうからそのつもりで」
「了解」
「これから君の服や日用雑貨を買いに行く。一般的に必要ない物は購入しないが、必要な物はきちんと購入してくれ。基準は奴隷ではなく、一般水準の平民クラスで考えてくれ」
「……了解」
オレの言葉に目をパチクリさせて数秒驚いたあと、コクリと頷いて了承してくれた。
……なんか奴隷商館で喋っていたときと雰囲気が違う。というか返事も短いし、同じことしか言ってない。まぁ特に問題があるわけでもないし構わないか。
『じゃあ買い物に行くからニドウさんが買ったやつに近いくらいの品質で服やらなにやらを選んで。
店も同じところにするから』
『はい!』
ココネーリイは奴隷商館で与えられたワンピースとサンダルを身に着けているので、ニドウさんの時みたいな処置は必要ない。
そのまま店に行き、買い物を済ませる。
よほどよくしてもらったのか、ココネーリイを購入してからニドウさんの機嫌は良く、テンションはかなり高い。
おかげで積極的に必要な物を選んでくれたので楽だった。今までの彼女だったら値段を気にしたりしてオレの顔色を伺っていたのだが、テンションが高くなっているおかげかそれがなくなっていた。
女性の買い物は長いと言う話だったが、ニドウさんが次々選んでいくのでそれほど時間はかからなかった。1度自分の物を店員に選んでもらっているのでソレもあるのだろう。
特に生理用品なんかは日本にあったような物はこちらにはなく、店員さんが気を利かせて選んでくれていたので理解していたようだ。形的にわかったのかな? 明らかに布の厚みが違うようだったし。
まぁ逆にココネーリイは終始驚きっぱなしだった。
奴隷は基本的に物扱いなのだから、まぁ当然だろう。購入していっている服も生活用品も店が高級なだけにそこそこしている。とても一般水準の平民レベルではなかったな。
ニドウさんと違って文字もしっかり読める彼女にはどれだけの金額になっているのかわかってしまっているから余計に。
だからそんなに青ざめるな。取って食いやしないよ。
でも言ってはやらない。どうせ数日もしないうちに色々理解するだろうから。
身辺警護者ゲットです。
意外と高いココネーリイさんなのです。
実にナナネの10倍以上!
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