21,弐堂奈菜音のEXSkill
『さてニドウさん。今からちょっと教えて欲しい事がある。
たぶん奴隷商館でもやったと思うんだけど、ステータスって言ってくれるかい?』
『あ、はい。パソコンのウィンドウが出てくるやつですよね?
ステータス。
……でもたぶんこっちの世界の言葉で書かれているみたいで……私では読めないんです……ごめんなさい……』
ふむ。やはりそうなのか。
だがオレのステータスは日本語だったと思ったが……記憶違いか?
「ステータス」
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Lv:18 Name:クドウナルミ Sex:男 Age:17
Skill
格闘:初級 刀:初級 回避術:初級 気配察知:中級 立体機動:初級 夜目:中級
魔物の知識:初級 物品の知識:初級 魔力感知:初級 魔力遮断:初級 魔力操作:初級 偽装工作:中級
生活魔法:初級 防御魔法:最上級 火魔法:中級 水魔法:中級 風魔法:中級 土魔法:中級
EXSkill
天凛の才:身体 天凛の才:魔力
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「あれ、日本語じゃねぇな」
改めて自分のステータスを見てみたが、日本語じゃなかった。
あの時はまだこちらの世界に来たばかりで冷静だと自分では思っていても実はそうじゃなかったのかもしれない。
その後もステータスなんて一切みてなかったしな。
『あの……』
『あぁ、悪い悪い。この紙に出来る限りニドウさんのステータスに書かれている事を書き出してくれないかな?』
『ぁ、はい……。あ、あの……実は同じような事をしたんですけど……読めなかったみたいなんです……』
『あぁ、まぁ言葉が通じなくてもそれくらいはジェスチャーでなんとかなるよな。
でも読めなかった? んーまぁいいからとりあえず書いてみてくれる?』
『わ、わかり、ました……』
きっと奴隷商館では読めなくて酷い目に会わされたのだろう。
かなり表情が暗くなってしまっている。
だがオレには勝算がないわけではない。
なぜならオレは不思議な力で言葉が通じているし、文字も読めるし書ける。
探索者ギルドや冒険者ギルドにあった資料室の本の殴り書きと思しき酷い字でも読めたほどだ。
だから彼女の書き移した物も読めるんじゃないかと思うのだ。
読めなかったら読めなかったでまた別の手段を考えよう。最終的には文字を覚えてもらえばいいんだしな。時間はかかるだろうけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらく彼女が紙と格闘している間に部屋の中を適当に見て回る。
この高級ホテル――薔薇のリグリスは1泊でもかなりの値段がするホテルだ。
料理の置いてあった部屋が1番大きいが、それ以外にも風呂やマッサージなどが行われる部屋などたくさんの部屋がある。
特に寝室は広く、大きな天蓋付きのベッドが置かれている。
他の部屋にもベッドが置いてあるところがあるがそこは従者か奴隷の部屋なのだろう。他の部屋と比べると装飾なども控えめで狭い。それでも後ろ足銀牛亭の部屋よりは広くて豪華だけど。
だが困ったな。どこで寝よう。
どこででも寝れる事は寝れるが、やはり出来る事なら安眠したい。
こんな大きな天蓋が付いたベッドなんぞで安眠は出来る気がしない。
「むぅ……」
『あ、あの……どうしたんですか?』
『お? 出来たの?』
『は、はい。そ、その……へたくそでごめんなさい!』
各それぞれの部屋へと通じている廊下で1人唸っているとニドウさんが紙を持ってやってきた。
渡してもらった紙には、彼女が謝るだけあるすごい字で色々書かれていた。
確かにこれでは読めないだろう。オレは不思議な力で読めたり書けたりしてしまうからあまり気にしていなかったが、この世界の文字はミミズがのたうったような字が基本だ。
だから彼女がそれを模写すると字としてあまり成立しないようだ。というか誤字だらけだ。
辛うじて読めなくもないが単語として成立している箇所が少なすぎる。
……これは参ったな。
『あ、あの……』
『あぁ……えぇと……ここはこう?』
『え? えっと……違います、こう?』
『あー……っと、こう?』
『いえ、こうなってます。あ、う……すみません……うまく書けません……』
勝算があったのだがどうにも読めない……。
どうやらニドウさんは文字としてこちらの世界の文字を見れないらしく、まとめて1つの絵としてみている傾向にある。
ミミズがのたくった字なのでオレも不思議な力がなければたぶん同じように見ていただろう。
さらには彼女には絵心が壊滅的に欠けているらしく、ミミズがのたくった字がさらに変形してしまっている。
これが恐らく読めない原因だろうな……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オレのステータスと見比べながらせめてスキルの名称だけでも判明させようと頑張ってみた。
夜遅くまでかかってしまったが、なんとかわかった彼女の持っているスキルは1つ。
しかしEXSkillであり、恐らくこの世界では彼女しかもっていないものだろう。
オレが冒険者ギルドと探索者ギルドの資料室で調べた限りでは今のところ載っていなかったスキルだ。
オレの天凛の才:身体と天凛の才:魔力と同じ特殊なスキルなのだろう。
『空間魔法……ですか?』
『恐らくね。どういったことが出来るのかはまだわからないが、オレには日本語でそう読める。
だからたぶん空間を操る系統の魔法だと思う』
『はぁ……?』
地球じゃない世界だということは理解していたようだが、魔法を見たことがなかったニドウさんはピンとこないみたいだ。
使い方もまったくわかっていなかったみたいだし、ソレも当然だろう。
試しに生活魔法をいくつか見せると彼女はすごく驚いていた。
でも規模が小さい魔法ばかりだったので手品か何かと疑っている節がある、
さすがにここで攻撃魔法を使うわけにもいかないので防御魔法もいくつか見せてみたが、基本的に防御魔法は地味だ。
でも生活魔法よりは魔法らしかったので彼女もだんだん魔法を受け入れ始めてくれた。
『じゃあ……私はこの空間魔法? が使えるんですか?』
『使えるはずなんだけど、まぁまずは自分の中にある魔力を感知して、イメージを固めないと無理らしい』
『魔力……ですか?』
『そう、魔力。魔法ギルドっていう学校みたいなところがあって、オレもそこで初心者講習を受けたんだけど、一緒に受けた人で感知できたのは誰も居なかったからたぶんすぐには無理かも』
『そう、ですか……』
『でも頑張れば誰でも出来るらしいし、オレは生活魔法っていう最初に見せた魔法をその魔法ギルドで習ってるから、今度コツなんかを聞いてきてあげるよ』
『ぁ、ありがとうございます……クドウさんには何から何までお世話になりっぱなしで……ほんとうにありがとうございます!』
不安そうにしていたニドウさんだったが、オレがコツを聞いてくると言うと表情が大分明るくなった。
やっと彼女にも出来るかもしれない事がわかったんだ。世話になりっぱなしで申し訳なさそうにずっとしていたので役に立てるかもしれないと思うと心も上向いてきたのだろう。
実際空間魔法というのは名前からして非常に希望が持てる。
欲しいのは荷物持ちであり、空間魔法で異次元空間にでも物が仕舞えたら……最高だ。
もちろん出来るかどうかもわからないが、EXSkillなのだし普通の魔法よりはすごいスキルなのだろう。
『よし、じゃあ今日はこの辺にしよう。
色々あって疲れただろう? あっちの寝室に大きなベッドがあるからそこで寝てくれ。
明日にはここは引き払って違う宿に行くから、そのつもりでね。
それじゃおやすみ』
『ぁ、はい、おやすみなさい』
有無を言わせず天蓋付きのベッドをニドウさんに押し付けてオレは従者の使う部屋のベッドで寝る事にした。
うむ、やはりこのくらいのサイズの方が安眠できるってもんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。少しのんびりと朝食を摂り、チェックアウトして後ろ足銀牛亭に戻った。
ニドウさんは案外安眠できたみたいで寝不足というわけではなく、かなり元気だった。案外彼女は神経が太いのかもしれない。
「おや、おかえり。そっちの子は……奴隷……? ずいぶん綺麗な子だねぇ……。
まぁいいわ。奴隷は同じ部屋なら追加料金はいらないよ。ただ食事なんかはまた別だから気をつけておくれ。サービスに関しても対象外だよ」
「わかりました」
ニドウさんの首輪は隠さずに見えるようにしてあるのだが、それでも女将さんは目を疑ったように一瞬詰まってしまった。
まぁわからないでもない。今のニドウさんはどこぞの残念令嬢さん並に髪の艶も素晴らしいし、肌も綺麗だ。服も高級な物を纏っているので仕方ない。
女将さんの注意事項を聞き、木札を渡して鍵を受け取って部屋に向かう。
『今は部屋は1つだけど、戻ってきたらもうひと部屋取るから安心して』
『ぇ、ぁ、はい。いってらっしゃいです?』
『あー、ニドウさんの護衛役の奴隷を買いに行くんだ。だから出来れば一緒に決めて欲しいんだけど。その、嫌だよね?』
『私の……護衛、ですか?』
『そう。正直言ってオレは昨日みたいに色々行くところがあるから一緒には居られない。
でもずっと宿に閉じこもっているのも限界があるからね。不健康だし。
そこで護衛の奴隷を買ってニドウさんについてもらう。この世界は色々物騒だからね。
そういった力は必要だ。それに言葉を覚えるまでは買い物するだけでも一苦労だと思うし』
この処置は彼女のEXSkillが期待できるから決めた事だ。
期待できないスキルだったら正直宿かどこかに閉じ込めておくつもりだった。
もしオレの期待通りに有用なスキルだったら、護衛の奴隷1人分くらいの金額は簡単に回収可能だしな。
『い、いいんですか……?』
『逆に聞くけど、ニドウさんはこの世界で護衛もなしに生きていける? 街中でだって危険はあるのはもうわかってるでしょ?
街の外なんて魔物がうじゃうじゃいるような世界だ。護衛なしで今のニドウさんが外に出たら1日経たずに死ぬよ』
『ぅ……』
渋る彼女にはっきりと現実を突きつければそれ以上の反論はなかった。
あとは自分で見て護衛を決めるか、オレが勝手に決めるかだ。
『それじゃ護衛をつけるのは決まりだ。
でも護衛はニドウさんとずっと一緒に居る事になる。それをさすがにオレが勝手に決めるのはちょっとね。
だから出来れば一緒に奴隷商館に行って君に決めて欲しいと思ってる。
どうだろう?』
『……ありがとうございます。クドウさんは見ず知らずの私なんかにこんなに優しくしてくれて、色々教えてくれて、今だって私の身の安全にまで気を遣ってくれて……本当にありがとうございます』
深く頭を下げるニドウさんだが、残念ながら君に有用性を見出したからという打算があるだけにその言葉を素直に受け取る事はできない。
『ニドウさん、これはあくまでも貸しだ。だからいずれ返してもらう。
そのためにも君には何かあっては困る。それだけだよ』
『……はい』
『よし、じゃあどうする? 行きたくないならもちろん構わないけどその場合はオレが勝手に選んでくるよ?
出来れば君に選んでほしいけど』
『わかりました。クドウさんと一緒なら怖くありません。連れて行ってください』
何か吹っ切れたのか、萎縮して怯えてばかりいた瞳から少しばかりその色が消えている。
まだまだ残ってはいるが、それでも彼女にしてみれば大きな変化だ。
今日は1日フリー。
時間を気にせず護衛用の奴隷を選べるだろう。
ついでに彼女達に必要になるであろう買い物も全部済ませてしまおう。
念のために女将さんに部屋をもうひと部屋取るかもしれない事を伝えてから鍵を預け木札を受け取り、奴隷商館へ向かった。
ステータス……それは文字数稼ぎの大チャンス。
しかしそんな事はなかった!
地味にLv上がってますがHUTUの高校生にはあまり意味がありません。
その辺は今後じっくりと。
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