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20,薔薇のリグリス


「クドウさんはやっぱり魔法の才能がありますよ。

 今日だけでまた2つも生活魔法が使えるようになりましたし、あんなに強いし……ずるいですぅ」

「いやいや、先生だって生活魔法以外にも色んな魔法が使えるし、すごいじゃないですか」

「それは、私だって努力してますから……」

「じゃあオレだって努力してるんですよ?」

「はぅ……ごめんなさい……」

「これでお相子ですね。先生とオレは同じです。だからこれからは2人で努力していきましょう」

「はい!」


 リス子先生は癒し可愛いのだが、実はちょっと僻みっぽいらしい。

 でも素直なのであっさりと丸め込む事が出来てしまう。ちょろい。

 2人で、というオレの誘導に見事に素直に引っかかってくれているし、実に癒される。


「あ、そうだ。先生は奴隷を連れるとしたら男と女どっちがいいですか?」

「え? ん~そうですねぇ。私だったら女性の方がいいですね。やっぱり色々と違いがありますから」

「なるほど、女性ですね」


 ふむふむ。先生の希望は女性の奴隷ね。

 でも筋肉マッチョでも大丈夫なのかね?


「……クドウさん、もしかして荷物持ちに奴隷を買うんですか?」

「えぇ、ポーターを雇うよりはオレ達の場合いいかと思って」

「確かにそうですけど……その、お金は……」

「心配しないでも大丈夫ですよ。オレの奴隷として買うので先生は気にしないで平気です」

「で、でも……」

「それに荷物持ち以外でも使えるじゃないですか」

「……そう、ですね……」


 あれ……安心させるつもりで言ったのに大きなリス耳がしょんぼりしてしまった。

 応えた声も沈んでいるし……これは絶対勘違いしてるな。


「先生。荷物持ち以外っていっても洗濯させたり、剥ぎ取りさせたりですよ?

 オレは基本的に奴隷に対して何かしようとは思いませんし」

「ほ、本当ですか? あ、でも、その……」

「先生。オレの目を見て」

「あ……」


 おろおろするリス子先生の手を取って跪き、彼女と視線を合わせる。

 大きな可愛い瞳は少し潤んでいる。まったくどうしてこうもこの人はこんなに可愛いのだろうか。


「誓います。先生を裏切るような真似は決してしません」

「はうぅぅ……どうして、どうしてクドウさんはそんなに優しいんですかぁ……」

「そんなの決まってるじゃないですか」

「決まって、るんですか……?」

「えぇ、決まってます」


 そこで言葉を切り、安心させるように微笑む。

 でもこれ以上は言ってあげない。まだこれ以上の言葉は早い。

 リス子先生がもう少し自分に自信を持ってオレにべったりと依存しないですむようになってから。


「……決まっているんですね」

「はい、そうですよ」

「わかりました。ごめんなさい、変な事言ってしまって」

「気にしないでください。先生が少しでも気が楽になるなら愚痴でも弱音でもなんでも聞きます。遠慮せずにいつでも話してください」

「……はい」


 しょんぼりしていた大きなリス耳も普段どおりに戻り、ほんのりピンクになっている。

 そして癒し可愛いオレのリス子先生の表情は抱きしめてお持ち帰りしたいほどな、はにかむ笑顔になっていた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







『入るぞー』


 癒し可愛いリス子先生との大満足の生活魔法講習3回目を終えて、高級ホテル――『薔薇のリグリス』に取った部屋の前までやってきた。

 一応念のためノックをして声をかけてみたが、中から返事はない。

 逃亡不可の命令があるから逃げようとしても激痛が走って動けなくなるだろうから逃げられてはいないはずだ。

 だがもし逃亡を計ったら気絶している可能性がある。


 ノックと声かけはただの配慮に過ぎない。

 ここはオレの金で借りた部屋なのだからそれ以上は特に気にする必要もあるまい。気絶していたら適当に気付けしておこう。


 部屋に入るととても食欲をそそるいい香りがしてきた。

 飯でも頼んだのだろうか。いや、彼女はこっちの言葉が喋れないから無理か。


 豪華な内装の部屋の中央付近にある大きなテーブルにはやはり色取り取りの料理が置かれている。

 しかし全て冷めてしまっているようで、大分時間が経っている事が簡単にわかった。

 ちなみにニドウさんはそんな大きなテーブルから遠く離れるようにして部屋の隅の方の床で(・・)丸くなって眠っていた。


 お腹一杯食べて満腹になって眠ってしまったのかとも思ったが、テーブルの料理には手をつけたような形跡がない。

 せっかくの料理が勿体無い。そういえばオレも昼食ってなかった。

 冷めていたがそれでもかなり美味しい料理を適当に摘まみ、皿を持って隅で丸まっている生物の鼻先に置いてやる。


 すると眠っていても冷めても食欲をそそるいい香りに刺激されたのか鼻がピクピク動き、身動ぎし始めた。


『んぅ……ぁ……おかえり、なさい』

『あぁ、ただいま。腹減ってるだろう。なんで食べなかったんだ?』

『ぇ……だって……』

『ていうかなんで料理がテーブルの上に並んでるんだ?』

『わかりません……ノックがしてメイドさんみたいな人が入ってきて勝手に置いていったんです……』

『ふーん……ホテルのサービスみたいもんなのかな』


 ニドウさんの首には首輪がはまっているのですぐに奴隷とわかる。

 奴隷は物扱い。だから基本的にはいないものとして扱われたのだろう。

 料理の用意なんかもサービスのうちだとすれば昼だったし、勝手に置いて行ったのも理解はできる。まぁ説明するタイミングもなかっただろうしな。

 急いでチェックインするとすぐオレは魔法ギルドに直行したわけだし。


『まぁ冷めてはいるけど美味しいぞ? ニドウさんも食べるといいよ』

『いいん、ですか……?』

『作り直してもらう? 温かい方が美味しいだろうし』

『い、いえ、大丈夫です……ぁ、美味しい……』

『それじゃほら、こんな隅っこじゃなくてテーブルで食べようか』

『はい』


 大きなテーブルに所狭しと置かれた料理は冷めていても美味しく、だが2人で食べるには明らかに量が多すぎたのでほとんどは残してしまった。

 ニドウさんも食が細いようで少し食べたら満腹になってしまったようだ。


 テーブルについたときに気づいたが、手紙のような物が置いてあり中にはホテルのサービス内容と部屋にはそれぞれ専用のメイドと執事がいるらしい事がわかった。

 用が無い時は隣の部屋で待機しているが、用があればいたるところに置かれているベルを鳴らせばいいらしい。


 なのでお腹も膨れたので片付けてもらうためにベルを鳴らした。

 ニドウさんが不思議そうに顔を傾けていたが、すぐにノックがあり燕尾服を着た50過ぎと思しき優しげな執事が入ってきたので緊張してしまっている。


「お呼びでございましょうか、旦那様」

「あー……この料理片付けてくれるか?」

「畏まりました」


 執事がパンパンと手を叩くとぞろぞろとメイド達がワゴンを押して入ってきて、すぐにテーブルの上は綺麗になった。


「お夕食はいかがいたしましょうか?」

「そうだな。今食べたばかりだし、少し時間を置いてからにする」

「畏まりました」

「それと風呂の用意と彼女にこの薔薇オイルマッサージを施してくれ。念入りに磨いてくれ。髪も含めて全身な」

「畏まりました。準備が出来次第お知らせに参ります」

「よろしく」


 執事がまた手を叩くと今度は別のメイド達が入ってきて、こことは別の部屋へと向かっていく。

 執事の彼はメイドとは別の部屋へと向かうようだ。


『ニドウさん、サービスにオイルマッサージがあったから頼んでおいたよ』

『お、オイルマッサージ……ですか……?』

『奴隷商館では風呂とか入れなかっただろ? ついでだからしっかり綺麗になってきて』

『わ、わかり、ました……』


 さすがにオイルマッサージには驚いたらしいが、オレの綺麗になってきて、という発言に顔を赤くして俯いてしまった。

 遠まわしに言ったつもりだったが、しっかりと理解したみたいだ。やっぱり聡明なのかな? いや中学生だったんだし、この程度はわかるか。


 奴隷商館では体を拭くくらいはしていただろうが、現代人のオレからするとやはり汚い。

 特に髪なんてもうキューティクルなんてまったくないほどだ。

 それでも後ろ足銀牛亭などがある区画に住んでいる人達と比べても問題ない程度には綺麗ではある。だが逆に言えばその程度だ。

 どうせサービスなのだからせっかくなので彼女には綺麗になってもらおう。

 今まで奴隷商館で辛い思いをしてきただろうから、これくらいはありだろう。


「旦那様、マッサージの準備が整いましてございます」

「わかった」

『ニドウさん、マッサージの準備ができたみたいだから行っておいで』

『は、はい……』


 大分不安そうではあったが、それでも嫌がる事はなくメイドの1人に案内されていくニドウさん。

 メイドには執事を通して彼女は言葉が通じない事を念のため伝えておいた。それから奴隷扱いしないように、と厳命しておいた。

 だが元々奴隷であってもこのホテルに泊まっている間は、主と一緒にいる(・・・・・・・)場合は客として扱うようになっているらしく、その旨執事がやんわりと教えてくれた。

 ならば大丈夫だろう。


 風呂の用意も出来ているそうなので、入ってしまう事にした。

 尚、風呂にも専用のメイドさんがいるらしいが事前に全員出て行ってもらった。

 ラッキーハプニングも起こらないようにオレが入っている間にマッサージが終わっても、ニドウさんを別室に案内しておくように言っておいた。

 ちなみにここの薔薇オイルマッサージは事前に風呂に入ってから行うのではないらしく、終わってからお風呂に入るタイプらしい。オイルマッサージには詳しくないのでどうでもいいが。


 しかし……うむ。やはり風呂は1人でのんびりと誰にも邪魔されず自由で心が洗われなければいけないのだ。

 ラッキーハプニングはリス子先生のときまで取っておかなければいけない。

 こんなところで消費しては泣くに泣けないではないか。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







『ふぅ、いい湯だった。ニドウさんも次どうぞ……ってマッサージの効果すごいね』

『ぁ……は、はい……その、私もびっくりしました……お、お風呂頂いてきます!』


 風呂から上がると別室で待っていたニドウさんに声をかけたのだが……これがすごい変わりようだった。

 キューティクルがなくなっただけでなく、少し汚れてぼさぼさだった髪がふわふわの髪になっていて天使の輪がきちんと発生している。

 肌も磨かれて脱皮でもしたかのような珠の肌になっている。

 着ている部屋着がノースリーブのワンピースだったのでよくわかった。


 すごいな、薔薇オイルマッサージ。今度リス子先生も連れてきたい。


 久しぶりの風呂も気持ちよかったし、一週間に1回くらいはここに泊まりにこようかな。

 そのくらいのペースなら迷宮探索で十分に稼げるしな。



素敵ハプニングは回数制限制なのです。

どこぞの主人公のように無限状態じゃないのですよ!


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☆★☆宣伝☆★☆
『濁った瞳のリリアンヌ』完結済み
お暇でしたらお読みください

『幼女と執事が異世界で』完結済み
お暇でしたらお読みください

『王子様達に養ってもらっています inダンジョン』完結済み
お暇でしたらお読みください

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