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19,同郷



『は、はい……あの、あなたも……?』


 オレの質問に答えた少女はやはり日本人だった。

 オレ以外にも日本人がいるかもしれないというのは可能性としてはあったが、こうも早く遭遇するとは正直思わなかった。


『あぁ、日本人だ。だが何で奴隷なんてやってるんだ?』

『わかりません……。気がついたら地球じゃないこんなところにいて……3日くらい彷徨って……捕まって……ここに連れてこられました……』

『つまりは不当な手段での奴隷化か』

『そう、なんですか……?』


 まぁ奴隷になった経緯は正直別にどうでもいい。

 知りたいのは別の事だ。


『話は変わるが、君は何ができる?

 神に何か力をもらったんだろ?』

『……? わかりません……』

『この世界に来る前に神に会わなかったのか?』

『いいえ……気がついたらこの世界に……』


 どうやらオレとは違うパターンでこの世界に来たみたいだな。

 もしかするとチート能力もなしのパターンかもしれない。だとすると何の役にも立たないな。

 だがここで見捨てるのも忍びない。

 それに本当にチート能力なしと決まったわけでもないしな。


「おい、コイツはいくらだ?」

「はい、ご説明したように大変珍しく」

「言葉が通じないのは大きなマイナスではないか?」

「仰るとおりにございます」

「顔も体も貧相。スキルの確認も出来ていないんじゃないか?」

「お恥ずかしながら仰るとおりにございます」

「いくらだ?」


 スキルの確認はステータスのウィンドウを出せても本人しか見れない。

 だから言葉が通じないと正確な確認は難しい。

 図星だったらしいが執事の青年は平然と認めている。これは恐らく彼女が売りにくい商品だからだろう。

 落ち度を認めて値段を下げさせたように見せて少しでも利益を上げようといったところだろうか。

 奴隷は物扱いでも食事代もかかるし、今目の前に居る彼女達の健康状態は悪くなかった。

 それなりに必要経費はかかっているはずだ。


「70万ジェニーでいかがでしょうか」

「これが? 70万? 一体なんの冗談だ?」

「失礼致しました。では55万ジェニーでいかがでしょう」


 一般奴隷の半額近い値段に落ちたが、恐らくまだ下がるだろう。

 彼女の奴隷になった経緯が経緯だからな。まぁそれでもごねすぎてもあまりよくはない。


「いいだろう。ではコイツを貰う」

「ありがとうございます。他の者達はいかがなさいますか?」


 そういえば本来の目的は荷物持ちだ。

 どうみてもこの子には荷物持ちは難しい。ガリガリではないにしても幼児体型という表現がぴったりな体だし、重いリュックを背負って丸1日迷宮を歩けるとは思えない。


 まぁでも今日は様子見。

 別に買う必要性は無い。この子は成り行きってヤツだ。後悔はない。


「そうだな。一先ずはコイツだけでいい。だがまた来るかもしれん」

「畏まりました。それでは契約に移らせていただきます」


 執事の青年がそういうと手を鳴らし、別の従業員が入ってきて話をすると買った少女以外を連れて出て行った。


『君、服を着てくれ。君はオレが買ったから今から契約をする。

 後のことは宿に戻ってから話そう』

『あ、ありがとうございます。ありがとうございます!』


 体を隠すようにずっと蹲って顔だけ上げて成り行きを見守っていた彼女に説明し、服を着させる。といっても横から見たら丸見えだけど。


 その後書類を記入し、彼女の首輪にオレの血をつけて登録した。

 登録した際に首輪の使い方のウィンドウが頭に浮かんだので使い方はわかった。

 声を制限していたのは『命令』という機能らしい。

 決められた命令を首輪に登録しておくとそれを破った瞬間に設定された強さの痛みが走る。

 これにより、主に逆らえないようにしたり様々な制限を付けることができるようだ。

 一先ず『主殺害不可:死』『逃亡不可:激痛』という命令を登録しておいた。

 なのでオレに逆らっても痛みは走らない。命令の後半は破られた際のペナルティだ。


 登録を済ませニコニコ現金払いで支払いを済ませると奴隷商館を後にした。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 安かったからかどうかはわからないが、彼女――弐堂奈菜音(ニドウナナネ)は貫頭衣のままだった。

 この世界では奴隷は物扱いなのだから服を与える与えないも主人の自由。でもきっとそこそこ高い奴隷だったら服くらいあっちが用意したりするんだろうな。


『とりあえずこれを羽織っていてくれ。靴は今ないから背負うか、タオルを足に巻くかしよう』

『あ、ありがとうございます……。あの私何も出来ないですけど……その、色々頑張ります……だから見捨てないでください……』

『見捨てるつもりはないよ。

 でもそうだな。君の購入費の55万ジェニーを返してもらうまではこのまま面倒を見る。

 その後は状況にもよるが一先ず奴隷からは解放しよう。

 今すぐ解放するとまた同じ事になりかねないからな』

『あ、そう、ですね。わかりました。よろしくお願いします』

『あぁ、よろしくな』


 マントを彼女に羽織らせて奴隷商館の脇の路地で彼女の足にタオルを巻く。

 近場でとっとと服と靴を買おう。


 ちなみに奴隷の解放は可能だ。

 普通は奴隷が自分の主に自分を購入した金額の2倍の額を払う事で解放となる。

 しかし奴隷は物扱い。金なんて貯められるわけがない。それに主が受け取らなければ解放もありえないので実質的に不可能な方法だ。


 契約の際に色々とそういった事も教えてもらえた。というか基本的な説明の中に入っていた。

 だが彼女は誘拐のような感じで奴隷になっている。

 身を守れもしない上に言葉もわからない現状で解放してもまた同じ事になりかねないので解放はしない方が安全だ。

 首輪に血を登録しておけば解放しない限り上書き登録できないらしいので攫っても奴隷として販売できない。

 解放しないでおけば一先ず奴隷として売られる事はないだろう。わかりやすく首に真っ黒な目立つ首輪をつけているわけだしな。


『よし、じゃあ服と靴を買って生活雑貨を買いに行こう。色々揃えないとな』

『……すみません、必ずお返ししますので』

『あぁ、購入費と一緒に返してくれればいいよ』


 見捨てるのは忍びないから助けたが、何もかもおんぶに抱っこさせるつもりはない。

 彼女は14歳で中学生だったらしい。

 アルバイトの経験もないだろうが、もうここが地球でも日本でもないことはちゃんと理解している。

 だから中学生だから未成年だからという理由でのほほんと暮らせるとはもう思っていないだろう。


 オレも出来る限りの事をしてもらい、借りを返してもらうつもりだ。

 金には困っていないので正直金以外で返してもらっても構わない。

 本人は何も出来ないと言っていたがまだ可能性があるからな。もしかしたら使えるかもしれない。

 そうなれば金よりもずっと貴重なものを手に入れられる。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 奴隷商館は中央近くにあったのでその近くの服飾店もそれなりに高級な店だった。

 とはいえ、さすがに限度があるので店は選んだが。

 それでもオレが最初に買った服よりも高い服を買う事になってしまった。


 ニドウさんはこの世界の言葉が喋れないので店員に彼女に似合う服を2,3着と普段着として使える服を3,4着と下着などの必需品を適当に選ばせた。

 まぁ店員としては高い物を売るのは当然として、その中でもニドウさんに似合う物をチョイスしてくるので選びなおす時間もなかったのでそのまま購入してしまったのだ。

 靴に関しても一先ず履きやすいものを1足購入して着替えてもらった。


『ど、どうでしょうか……』

『うん、似合ってるんじゃないか? 気に入らなくてもすまないが当分は我慢してくれ』

『そ、そんなことありません! で、でもいいんでしょうか……これ高いんじゃ……?』


 どうやら言葉はわからなくても服の値段はなんとなくわかるようだ。

 店の雰囲気なんかも割りと高級な感じだしな。


『気にするな。これは君への貸しだ。ちゃんと返してくれればいい。

 それに身なりを整えておくのは色々な意味でも必要なことだろう?』

『……はい、そうですね』


 説明が面倒だったので曖昧に濁して言ってみたのだが通じたらしい。

 この子は見た目以上に聡明なのだろうか。まだよくわからんな。


 服も靴も購入したが、生活必需品に関してはまだだ。

 だがもう正直時間がない。

 空を見上げればもうすぐお昼になりそうなのだ。


 今日は午後から生活魔法講習の3回目だ。

 遅刻など絶対に許されないし、欠席するなんてありえない。


 まずい……。


 ニドウさんを連れて行くのはなしだ。

 せっかくの2人きりの講習なのに勿体無さ過ぎる。

 しかし宿に戻っている時間もないし、どうしたらいいんだ。


 刻一刻と時間が迫る中、目に入ったのは風呂があるという1泊かなりのお値段のする宿……というより高級ホテルだった。


「これだ!」

『ひッ!』

『あぁ、すまん。ちょっと時間がなくて。今から宿取るから一先ずオレが戻ってくるまでそこにいてくれ』

『え、え、あの』

『悪い、夕方までには戻ってくるから』


 困惑するニドウさんの手を取り、高級ホテルにチェックインして部屋に彼女をポイ捨てすると鍵をかけてそのまま魔法ギルドまで急ぐ。


 ちなみにチラッと見えた部屋の中は値段に違わぬ高級感溢れるすごい部屋だった。

 あんなところじゃ絶対安眠できないだろ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「こんにちは、先生」

「あ、こ、こんにちは……そ、その……昨日はすみませんでした!」

「あはは、気にしてませんよ。それよりも先生の新たな一面を見れてとても有意義な夜でした」

「はうぅ……」

「さぁさぁ、講習の時間ですよ。先生。あ、でもお酒は飲んじゃダメですよ?」

「うぅ……もぅ……クドウさんのいじわる」


 リス子先生をあまりお待たせする事もなくなんとか辿りついたので、さっそく癒し可愛い彼女を弄ってから楽しい楽しい生活魔法3回目の講習が始まった。





ニドウさんゲットです。

クドウにニドウ。名前が似てますが気にしたら負けです。

負けなんです!


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

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☆★☆宣伝☆★☆
『濁った瞳のリリアンヌ』完結済み
お暇でしたらお読みください

『幼女と執事が異世界で』完結済み
お暇でしたらお読みください

『王子様達に養ってもらっています inダンジョン』完結済み
お暇でしたらお読みください

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