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11,不意の遭遇、ヤツの名はクールガイ



 朝食を食堂で摂ってサービスの2品の果物2個は歩きながら食べる事にした。

 今日は防具の受け取りの日だ。

 たった3日で本当に完成しているのかちょっと疑問だが、約束の日でもあるので一応行ってみよう。

 最悪出来ていなくても別に困らない。

 なぜなら冒険者ギルドの貢献度は未だ3にすらなっていないので大した依頼を受けられない。

 貢献度2で受けられる依頼では防具なんてあってもなくても変わらないのだから。


 まだ朝の早い時間なので昨日同様に露店を果物を食べながら冷やかしていると、露店には珍しく魔道具だけを販売している店があった。

 水筒や火起こしの魔道具なんかは露店でも売っているので、他の物と一緒に販売している露店は少ないがある。

 でも魔道具だけを販売しているというのは珍しい。


「お? なんだこれ」


 珍しい露店だったので冷やかしているだけの他の露店よりもちょっと長めに見ていたらポップの名前を見ただけではよくわからない魔道具が売っていた。


「それは中に入れた物を冷やせる魔道具なのよ」

「あ、そうなんだ」


 解説してくれた声は幼い少女のソレだ。

 フードを目深に被っているために小柄な事はわかってもそれ以上はわからなかったので驚いた。親の代わりの店番だろうか?


「しかし名前が『クールガイ』って……」

「ぇ……」

「ぁ」


 思わず呟いてしまった声だったが増え始めた人通りで掻き消されたと思ったが、少女には聞こえてしまったらしい。やっべ。


「なんで名前……」

「あ、いや……」


 ずっと俯いていた少女の視線がオレをしっかりと捉えている。

 その顔は幼い声同様少女の……いや幼女といった方が適切なほどだ。顔立ちもかなり可愛い。将来が楽しみな感じだ。

 だが今その表情は驚きと好奇心に満たされている。


 ……これは逃げるが勝ちだな。


「じゃ、そゆことで」

「ぁ、まっ」


 増えてきた人通りのおかげで彼女の視線と手から逃れるのは比較的簡単だった。

 木を隠すなら森の中。人を隠すなら人ごみの中ってね。露店の店番もしなきゃならないだろうし、あの子はあそこを離れられないだろうしね。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 冒険者ギルドや探索者ギルドに置いてある資料の中でも古いスキル資料から、物品の知識などの知識系のスキルは取得できる人がほとんどいない、超レアスキルらしい事がわかった。

 調べた時にはさすがに驚いた。

 何せオレは超レアスキルだという知識系を2つも持っているのだから。


 そのためポップが見えるのはほぼオレだけなのは理解していたが、ついうっかり名前を呟いてしまうとはオレらしくない。

 ぬるい異世界に気が緩んでいたか……。

 だがあの名前では仕方ないと思うんだ。なんだよクールガイって……。どういうことだよクールガイ。やばいよクールガイ。ぐぬぬ。


 露店を冷やかして十分時間も経ったのでまずは冒険者ギルドへ行って適当に依頼を見繕った。

 今日はビッグボア5頭の討伐だ。なぜかいっぱい貼ってあったし。

 草原にも確かビッグボアはいたはずだ。依頼用紙にも生息地が草原となっていたので大丈夫だろう。

 ちなみに期限は2週間。貢献度2の依頼はほとんどが2週間のようだ。

 でもこの依頼はちょっと報酬が高めで1万2千ジェニーだ。ゴブリンやコボルトよりは危険なんだろうな。でかいし。


 依頼も受けたのでそろそろ防具を受け取りに行く事にした。

 大通りから2本通りを抜けて、裏通り一歩手前にある看板のない隠れた名店であるあの防具屋へ。

 例の如くやっているのかやっていないのかいまいちよくわからないが、ドアには鍵はかかっていなかった。やっているのだろう。


「ごめんくださーい」

「おう、きたなクドウ!」


 今回は返事が返ってきた。

 だがその声の主の顔はちょっとどころじゃなくすごい事になっていた。

 真っ赤に充血した目。ぼさぼさになった髪と髭。ふらふらと揺れる体。


 あ、これは完全に寝てないな。


 ついでに汗臭かった。


 ……体くらい洗っておいてくれ……。


「どうじゃい、わしの最高傑作……とは言わんがかなりの出来だぞ」

「おぉ……」


 ちょっと汗臭い爺さんが言ったように出来上がった防具は……見た目ではよくわからない。

 何せ端から見るとそれはただの厚めの生地で出来たちょっと仕立ての良い暗めの色をした服だからだ。

 だが中身はまったく違う。


「基本の生地にはハイオーガの虎革を染色した物を使っている。

 裏生地にはレッサードラゴンの鱗を隙間無く縫いつけ、糸もマンドラスパイダーの糸を染色して使っているぞ。

 急所には奮発してハイドドラゴンの鱗を使っているし、稼動部にはハイランダースライムの核を使っているから鱗が邪魔になる事は無い。

 防刃防魔、あらゆる攻撃に強い耐性を持っている。

 魔力を通せば記憶された形状を復元するし、内部を快適な温度と湿度に保つようになっている。

 弱点があるとしたら伸縮性がそこまでないことだろうな。何せ裏生地は鱗でびっしり覆われているからな!

 成長期にはちょっと辛いがおまえさんなら問題あるまい!

 あーそれとポケットに魔石を忍ばせておけば魔力はそっちの方から供給可能だ。ただ魔力を馬鹿食いするから気をつけろ。

 上着とズボンはこんなもんだ。

 靴も要望通りに可動性と耐久性を突き詰めておいたぞ!

 基本はハイオーガの虎革だが、踵と爪先をハイドドラゴンの鱗で補強してある。

 これほど頑丈な靴も滅多にないぞ!

 足首の可動部にはハイランダースライムの核を使っているから動きを妨げる事はないだろう。

 どうだ!」


 正直専門用語が多すぎて半分くらいしか理解できなかった。

 でも要望以上にすごい物が出来た事だけはわかった。純粋にすげぇ。


 オレとしては普段着にも出来る頑丈な服のような防具があればいいなぁと思ったんだが、見た目も完全に服の枠から外れない物が出てくるとは予想外だった。

 しかもそれが3着分である。靴はさすがに1足だったが。


「いやぁ驚きました。すごいですね。予想外です」

「そうだろうそうだろう! わしも久々に心躍る時間だった!」


 しかし問題は……値段だろう。

 1着分しか頼んでいないのに3着分出来ている。もしかして3倍? 1000万ジェニーと言っておいたので3000万ですか?

 払えなくはないけど……さすがにきつい。


「……それで、いくらになりますか?」

「おう、全部で1000万ジェニーでいいぞ」

「え」

「ほとんど材料費だけだからな、驚くのも無理はない! だがわしも楽しかったからな!

 持ってけ! いい仕事をさせてもらった礼だ!」

「ありがとうございます!」


 ものすごく驚いたがここは何も言わずにしっかりと頭を下げて意を汲むべきだ。

 相手は偏屈職人。安すぎとごねてもいい事はない。

 むしろ次防具が必要になったらここを利用すればいい。そのときに気前よく払えばいいのだ。


「この装備でドラゴンでも狩ったら素材をもってこい!

 またいいもん作ってやる!」

「はい! 必ず!」


 男臭い笑みを浮かべて言い放つ爺さんにオレは必ず素材を持ってきて驚かせてやろうと心に誓った。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 1度宿に戻り、出来たばかりの防具に着替えてみた。

 裏生地にレッサードラゴンの鱗がびっしり縫い付けてある割には素肌に着ても違和感がない。

 超人と化しているオレの体だから、というわけではないらしく、試しに重ね着してみたが中の服は破けたりしていない。

 これなら汗などで汚れにくくするためにもTシャツを着ておける。

 ズボンも同様で下着が悲惨な事になることはなくて一安心だ。

 上着もズボンもジャストフィットというわけではなく、少し余裕を持っているので動きを妨げる事はない。さすがだ。

 部屋の中なので軽く動いただけだが、まったく問題ない。あとは外で激しく動いて確かめよう。


 靴は多少余裕を持つように作られているがブカブカというわけでもない。

 これならすぐに慣れるだろう。

 闇に紛れるような色を指定していただけに、靴底も頑丈だが音をあまり出さないように細工されているらしい。これは助かる。


 全体重量が鱗などの素材分だけ少し……いやかなり重めだが、超人と化しているオレには負担にもならない。

 ポケットに手を入れて魔力感知の応用で魔力を流してみると、内部を快適な温度湿度に保つ機能が可動して素晴らしい快適性を発揮してくれた。


 ・『天凛の才魔力』発動。『魔力操作:初級』を取得しました。


 おっと、スキルゲットだ。

 どうやら魔力操作があれば直接自分の魔力を自由自在に動かせるようになるみたいだ。

 おかげでポケットに手を入れなくてもそこに直接魔力を流し、稼動させる事ができるようになった。これは便利だぜ。


 ちなみに他の2着も同じデザインというわけではなく、微妙にデザインが異なっているので日替わりで着回せそうだ。

 ただ3着ともフードがついていて、その辺は被っている。二重の意味で。


 今回冒険者ギルドで受けてきた依頼では出番はないだろうが、普段着として使えるので突然の事態にもきっと役に立ってくれるだろう。

 むしろそういった事を想定して普段着としても使えればいいなぁと注文したんだけどね。


 さすがに1着100万ジェニー以上する服なので肩掛け鞄に残りの2着分も入れて宿を出た。

 重量的には結構な重さだろうが、特に問題はない。

 伯爵家の執事頭――セバスチャンから貰った肩掛け鞄は相当頑丈らしく、悲鳴の1つもあげない。これも地味にすごいな。


 ただやはり容量的には2着分プラス金貨が入った茶巾袋も入っているので大分埋まってしまっている。

 お昼ご飯用の例のでかい肉野菜挟みパンと水筒の魔道具を入れたら限界だった。

 何かいい手はないだろうか……。


 どんどん荷物が問題になってきている気がするが、まだ許容範囲内ということもありそれほど深刻にはなっていない。

 適当にお気楽に考えながら街の外へ出て軽く走って草原へと向かった。




軽く幼女と接触です。

クールガイ……一体何者なんだ……。


防具は服です。

服といっても下手なフルプレートアーマーよりも防御力があったりしますが。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。


10/7 誤字修正

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