10,癒し可愛いリス子先生
「いらっしゃいませ。魔法ギルドへようこそ。
本日はどのような御用向きでしょうか?」
昨日とは別の受付の男性にリス子先生……もとい、リーシュ先生の生活魔法を受講したい旨を伝えると予約扱いになっていた。
名前を確認されて受講料1万ジェニーを支払うとすぐに2階の3番教室に向かうように指示された。
階段を登ってすぐのところに3番教室があったので中に入るともうすでにリーシュ先生は教壇に教科書と思しき本を広げてスタンバっていた。
「ようこそ、生活魔法講習へ!」
「よろしくお願いします。お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ! 今来たところです!」
ご機嫌で非常にテンションが高いリーシュ先生となんだか恋人の待ち合わせのような挨拶を交わしてさっそく講習が始まった。
ちなみに30人は入れる教室に2人きりである。うん、見事に人気ねぇ。
逆に言えばリーシュ先生独り占めだから好都合だけど。
「――という感じに4大魔法の出力を抑えて扱いやすくしたものが生活魔法の祖となるものになります。
ですが昔の生活魔法は本当に出力を抑えただけの魔法にしか過ぎず、今現在開発された生活魔法と比べると大分劣るものです。
ランク的には中級になってしまいますが、複雑なイメージが必要な生活魔法もあるのでただ出力を抑えただけでは生活魔法を極める事はできません。
どうですか? 生活魔法だって立派な魔法の一種なんですよ!」
「ではリーシュ先生は生活魔法を極めているんですか?」
「え……えっとぉ……そ、その上級まで、です……」
元気いっぱいに生活魔法の説明をするリーシュ先生は本当に生活魔法が好きなのだと聞いているだけでわかるほどだ。
最後に着痩して実際の大きさよりも小さく見える、立派な胸を張るリーシュ先生だったが、さすがに極めているわけではないらしい。
しどろもどろにオレの質問に答える様は非常に可愛らしいが、先生の自尊心を傷つけるのはオレも望むところではない。
「上級ですか! さすが先生ですね、すごいです!」
「え、えへへ……そ、そんなことないですよぉ」
やはり褒められ慣れていないのか、ちょっとおだてただけであっと言う間に暗くなった表情は明るくなった。ちょろい。
「そ、それじゃあさっそく練習してみましょう!
昨日買った詠唱本は持ってきました?」
「はい、一通り目も通していますよ」
「本当ですか! 嬉しい……えへへ、ほ、ほらこの絵なんて上手く描けたと思うんですよ!」
だんだん不憫に……ごほん、可愛らしいその仕草に癒されていると、どうやらオレの表情から気づいてしまったらしくリス子先生は顔を真っ赤にしてしまっている。何この生き物可愛すぎる。持ち帰って飼いたい。
「あうぅ……も、もう! 先生をからかっちゃだめですよ!」
「何も言ってませんよ、先生」
「もう! それじゃ初歩の詠唱から始めますからね!」
ちょっとぷりぷり怒っているリス子先生も大変可愛らしい。癒しの権化だな。
詠唱の説明を始めて少ししたくらいでだんだんリス子先生も元に戻ってきたので真面目に講習を受けた。
生活魔法の初歩の詠唱を何度も復唱して、詠唱を細かく分類して意味を解説してもらう。
こうやってリス子先生の講習を受けてみると、あの微妙だった詠唱も理解できる。
意外だったがリス子先生は教え上手なようだ。
オレの質問にも丁寧に答えてくれるし、意味がわかりづらい箇所は噛み砕いて本当に丁寧に教えてくれる。
きっと生活魔法の先生でさえなければ、その癒し系の容姿も相まって大人気間違いなしだったろうに。
だがそのおかげでこうして2人きりでマンツーマン授業をしてもらえるのだからよしとしよう。
「それではお待ちかねの実践ですよ!
クドウさんはとても理解が早いのできっとすぐに出来るようになります!
今日中に1つくらいは出来ちゃうかも! えへへ……なんちゃって」
「先生、出来ました!」
「ええええええ!」
初歩の詠唱の解説も全部終わり、さっそく実践ということで種火の生活魔法を使って見せた。
今回はスキルから使用せず、しっかりと詠唱してイメージを固めて使ってみた。
とはいっても天凛の才:魔力のおかげで失敗なんてまずないのだからあんまり変わらないが。
「す、すごいです! たった1日で使えるようになるなんて初めてですよ!
私でも1週間はかかったのに……クドウさんは魔法の才能がありますよ!」
「ありがとうございます。リーシュ先生の教え方が上手いからですよ」
「そ、そうかなぁ……えへへ」
さすがに1発成功はやりすぎだったみたいだ。
もう少してこずらせた方がよかったかもしれない。でももうやってしまったのだから仕方ない。
なのでリス子先生をヨイショして有耶無耶にしておいた。ちょろい。
その後は先ほどの失敗を活かして、なかなか成功しない振りをしてリス子先生に手取り足取り教えてもらった。
どうにもこの癒し先生は無防備な感じだ。
嬉しさが一定以上を突破するとスキンシップが激しくなる傾向にある。
なのでもちろんおだてまくり、褒めまくり、スキンシップ祭りを目指した。
講習の終わり際にもう1つの生活魔法――コップ一杯分の水『少水』を成功させたら抱きしめてもらう事に成功した。
着痩せするリス子先生の見た目以上の胸を顔いっぱいに感じる事が出来て……余は満足じゃ。
もちろん我に返った後に見せた着痩せ先生の恥ずかしそうにする表情はとてもとてもご馳走様でした。
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生活魔法講習1回目は大満足だった。
是非とも2回目を受講するために今度はしっかり予約を取っておく事にした。
リス子先生も素晴らしい笑顔で「いつでも大丈夫です! もう今からやっちゃいますか!」とテンションが天元突破していた。
さすがにもう夕方なのでこれ以上は別の授業になってしまいかねないために断念。
明日の同じ時間に予約を取った。
今日もまた門のところまで見送りに来て見えなくなるまで手を振ってくれるリス子先生と別れ、すっかり忘れていた探索者ギルドのギルドカードを受け取りに行った。
ついでに街の近くにある迷宮の位置と魔物の情報などを聞いてみた。
どうやらこのランガストから1番近い迷宮は徒歩で1時間ほどの距離にあり、現在わかっている最深階層は67階。
まだまだ底の見えない迷宮らしいが、出てくる魔物は浅い階層ではそこまで強い種類の魔物が出ないので迷宮初心者には打ってつけの迷宮らしい。
2番目に近い迷宮は徒歩4時間くらいの場所にあり、こちらは最深階層34階。
浅い階層から強めの魔物が出るらしく、その上罠も多い。迷宮に慣れた者でも危険な場所だという話だ。
罠の知識はせいぜい山に仕掛けて獣を獲れる程度の知識しかない。
迷宮の罠となると門外漢もいいところだ。
この辺から強さだけでは突破できないものになっていくのだろう。
それに迷宮を探索するには1人では持って帰れる資源にも限界がある。
1番近い迷宮の浅い階層なら日帰りも可能だろうが、それでは大した冒険は出来ない。
その辺を相談しようと思ったらだんだんと探索者ギルドの中に人が増え始めたので退散する事にした。
長々と受付を占領しているわけにもいかないからな。
そそくさと探索者ギルドから撤退し、そのまま後ろ足銀牛亭で夕食を摂った。サービスの2品追加はなかなかいいものだ。
朝夕と後ろ足銀牛亭で摂っているが毎回サービスの2品は違うものが出てくる。しかもこれが美味いときているのだから満足しないはずがない。
そんな美味しい夕食を摂っているときに迷宮帰りなのか、探索者ギルドでも見たような4人組が食堂に入ってきた。
オレはカウンターで食べていたのだが、4人組はカウンターに程近いテーブルに陣取ったために話が自然と耳に入る。
やはり迷宮帰りらしく、それもランガストに近い方の迷宮――セッチを探索した帰りみたいだ。
彼等は深い階層を探索できるようになってきたらしく、4人では荷物を持つのが大変だと愚痴っていた。
……これはまさにナイスタイミング。またの名をご都合主義。
パクパク食べていた夕食のペースを落とし、彼らの話に耳を傾けて情報収集をすることにした。
彼らから得た情報を纏めると。
荷物持ちは専用の職――ポーターがいるらしい。
しかし1日あたりの拘束費用やなんかの他にその迷宮探索で得た金額の頭割りの料金を請求されるらしい。
つまり4人プラスポーター1人だったら、全獲得金額の5分の1プラス1日あたりの拘束費用がポーターに入る。
ポーターは戦闘には参加せず、荷物持ちに専念する。
ただ拘束費用が高いポーターだと料理番をしたり、剥ぎ取りも担当し尚且つその腕もよかったりするらしい。
逆にこの辺はそのオプションの分だけ費用が高くなっていると思った方がいい感じだ。
ポーターを雇うのはそこそこの階層を探索している探索者が多いそうだ。
だが彼等4人はそこそこの階層を突破しているためにポーターを雇うかどうか迷っている。
ちなみに迷っているのは奴隷を買うという選択肢があるためらしい。
ポーターはよっぽどの外れを引かない限りはかかる金の分は仕事をしてくれる。
探索者ギルドで管理しているそうなのでこの辺は間違いがないらしい。
だがそれなりに費用がかかるし、大きく稼いだらその分ポーターに渡る分も大きくなる。
逆に奴隷は初期費用と経験の問題があるが、それから先は買った人の自由なのでポーターだけでなく様々な状況で活用できる。
ちなみにこの世界の奴隷の扱いは、物である。
つまりはどう使おうと買った人の自由。
例え囮に使おうと、強制的に戦闘に参加させようと、荷物持ちに使おうと自由なのだ。
もちろん生殺与奪の権利も買った人の自由。本当に物扱いなのだ。
結局彼等は奴隷を購入する方向になったようだ。
大分冷めてしまった夕食の残りを片付け、部屋に戻ったが考える事はポーターと奴隷。
オレの場合はどちらがいいのだろうか。
まだ迷宮探索をしたことがないのだからここはポーターだろうか。
だが長い目で見るのならば奴隷だろう。
彼等の話で奴隷の値段についても少しわかっている。
荷物持ちだけさせるなら100万ジェニーくらいだそうだ。
そこに様々な付加価値がつくと値段が大きく変化していく。
例えば戦闘能力。
例えば特殊な技能。
例えば容姿やスタイル。
奴隷には種類があり、一般奴隷、戦闘奴隷、犯罪奴隷に分かれるらしい。
ちなみに物扱いのため、性奴隷というカテゴリーはない。どの奴隷でも性奴隷からは逃れられないかららしい。
基本的に犯罪奴隷は鉱山などで重労働をさせられるために一般販売はされていないらしい。なので買えるのは一般奴隷、戦闘奴隷のどちらか。
違いも戦える技能があったら戦闘奴隷というだけで、なければ一般奴隷だ。
だが戦えるというのは重要で、戦闘奴隷にカテゴライズされたら値段が跳ね上がるらしい。
4人組も渋い顔をしていたし、いくらになるのかわからないが相当上がると思っていた方がよさそうだ。
まぁオレがほしいのはあくまで荷物持ち。
戦闘は出来なくても別に構わないのだから関係ない。
色々考えてみたが、まだ1人でも問題があるようなことはない。
迷宮を探索するようになってから考えればいいことだ。
それに4人組の彼等のようにオレも仲間を見つければ荷物はその分多く持てるようになるのだし、彼等のように深い階層にならなければ起こらない問題だろう。
……どうせならリス子先生と一緒に冒険したいなぁなどとお気楽に思いながら睡魔に身を委ねた。
あざとい!
癒し可愛い!
何この生き物持って帰りたい!
そんなリス子先生の生活魔法講習1回目でした。
定番の奴隷や迷宮の話はおまけです。
以降の更新は通常通りの水曜土曜18時に戻ります。
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