1,異世界人初接触はとび蹴りで
新連載です。
初回は5話連続投稿ですが、その後は週2回1話ずつの更新となります。
森の中で目覚めたオレはどうやら本当に異世界に来たらしい。
目の前には緑色の小人が黄色い乱杭歯を見せている。
片手には荒削りな棍棒。身に着けているのは腰蓑のみ。
特殊メイクにしてはリアルすぎるし、感じる殺意は本物だ。
つまり、オレは今まさにこの緑色の小人――ゴブリンに襲われようとしている。
冷静にそこまで考えたところでゴブリンはドタドタと不恰好な走りで棍棒を振り上げながら突進してきた。
……遅い。
呆れるほどに酷い走り方の上に棍棒を振り上げたまま走ってくるなんて……舐められているのか?
だが相手が舐めているからといってこちらまで相手を舐める必要はない。
気負い無く肩の力を抜いて構え、間合いに入った瞬間に顔面に前蹴りを叩き込む。
すると呆気ない事にそれだけで戦闘は終わってしまった。
脳漿を背後にぶちまけたゴブリンの顔面は完全に陥没してしまっている。
念のために何度か足で小突いてみたが反応はない。
どうやらあの自称神の言う事は本当だったらしい。
オレ――久遠成海は車に轢かれそうな小学生をかばって代わりに死んだ。
気がつくと白い世界でじいさんに土下座されていたオレは神と名乗ったそのじいさんの不手際で死んだらしい。
不手際のお詫びに異世界に転生させてくれるという。
その上、望む力をもらえるというではないか。
幸いな事に天涯孤独な身の上で特に未練はない。
じいさんに土下座までされてしまっては首を縦に振るのも吝かではなかった。
そこで貰った力は――。
・天凛の才:身体。
・天凛の才:魔力。
この2つ。
じいさんの説明によれば地球と比べて危険が多く、命が軽いこの世界にも於いてこの2つがあれば問題ないらしい。
天凛の才:身体で超人の如き肉体を得られる。
天凛の才:魔力によって地球にはなかった魔法という技術を超人のように扱える。
さらに各種様々な技術を会得しやすくなるらしい。
天凛の才:身体の効果は先ほどのゴブリン戦で確かめた通りである。
様子見の軽い前蹴りで顔面を陥没させ、脳漿をぶちまけさせるなんてまさに超人のソレだ。
まだ天凛の才:魔力の方はよくわからないがこの様子では期待できそうだ。
……ただ問題があるとすれば魔法をどうやって使ったらいいのかわからないことだろうか。
あぁ、そういえばじいさんがこっちについたら初めにやった方がいいと言っていたことがあった。
いきなりゴブリンに襲われたからつい迎撃してしまったが、まぁいい。
「ステータス」
じいさんに言われたとおりに最初は声に出してみたが、別に念じるだけでもいいらしい。
目の前には半透明のウィンドウが出現している。まるでゲームだな。
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Lv:1 Name:クドウナルミ Sex:男 Age:17
Skill
None
EXSkill
天凛の才:身体 天凛の才:魔力
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どうやらHPとかMPとかSTRとかそういった項目はないらしい。
ついでにSkillもなしらしい。その代わり貰った力はEXSkillという欄に表記されている。
SkillとEXSkillの違いはなんだろうか。
一先ず考えても分からない事は棚上げすることにした。
じいさんの話ではこの世界には知的生命体が様々な種族として存在するそうだ。
なのでまずは森から出て一息つける場所――村なり街なりを探すべきだろう。
ステータスの検証はなんかはそれからでも遅くない。
何よりもとっとと場所を変えた方がいい。
ゴブリンは脳漿をぶちまけて死んでいる。これが結構臭う。
このまま放っておいたら様々なモノが集まってくるだろう。
超人の肉体になったといっても無茶は禁物だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
森を歩く事3時間ばかり。
その間にオレは幾度と無く襲われた。
ゴブリンに始まり、二足歩行の犬――コボルト、木に擬態して襲い掛かってくる――トレント、体長3メートルはありそうな猪――ビッグボア、双頭の大蛇――ツインヘッドスネーク……などなど。
それはもうかなりの頻度で戦闘を繰り返した。
逃げると言う選択肢は森という悪路のために断念。
超人の体に物を言わせて撲殺しまくった。
ちなみになぜ名前がわかったかというと、天凛の才:魔力がいい仕事をしてくれたようでNoneだったSkillに『魔物の知識:初級』というものが追加されたからだ。
この魔物の知識:初級をゲットした時に脳内でこんなメッセージが浮かんできたのには驚いた。
・『天凛の才:魔力』発動。『魔物の知識:初級』を取得しました。
一体どういう条件で発動したのかは不明だが、スキルはこうやってゲットするようだ。技術を得やすくなるというのはこういうことなのだろうか。
おかげで襲い掛かってくる魔物を視界に入れるとそいつの名前がポップアップするようになった。まじでゲーム感覚だ。
ちなみに他にもスキルをゲットしている。
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Lv:7 Name:クドウナルミ Sex:男 Age:17
Skill
格闘:初級 回避術:初級 魔物の知識:初級
EXSkill
天凛の才:身体 天凛の才:魔力
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格闘は天凛の才:身体の方が発動してゲットできた。回避術も天凛の才:身体だ。
両方ともそれぞれに関連する動作を補助するスキルのようだ。
これにより、素手での攻撃力が上がったと思うのだがぶっちゃけどの魔物も一撃で倒しているのでわからない。
回避の方も掠らせる事もなく余裕でかわしているので実感できない。
まぁまだ初級だ。きっと成長するタイプだろうから、今後に期待しよう。
途中で見つけた川の水が飲めそうだったので喉の渇きを癒し、これまた途中で見つけたリンゴっぽい果物で空腹を少しばかり満たした。
それから川に沿って歩いている。
文明は川の近くに出来易いという話をどこかで聞いたことがある。
飲み水は必須なわけだし、あてもなく進むよりはずっとマシであろう。
そんな考えが功を奏したのか、川を下る事1時間ほどで森を抜ける事が出来た。
そこに広がっていたのは見渡す限りの大草原。
人工物はまったく見当たらない。
森の次は草原とは一体いつになったら人のいるところにつけるのか。
気を取り直し、川沿いを歩く事は変わらないのでそのまま進んでいくと、草原でも魔物はかなりいた。
当然のように襲い掛かってくるが鎧袖一触。
未だにオレは傷1つなく無事に切り抜けられている。
さすが天凛の才:身体。半端ねぇ。
地球でずっと祖父から習っていた古武術も大いに役に立っている。
魔物とはいえ、生き物を躊躇無く撲殺出来ているのも長い間『殺られる前に殺れ』という教えを叩き込まれた故だろう。
叩き込んでくれた祖父も去年亡くなってしまったが、おかげでオレ戦えているよ爺ちゃん、ありがとう。
しばらく魔物を撲殺しながら進むとやっと人工の物と思しき物があった。
とはいっても道だ。
踏み固められただけの道ではあるが、轍の後も刻まれたどうみても人の気配を感じさせる道だ。
ただやはり車のタイヤの跡ではなく、馬車などの車輪の跡のようだ。
自称神のじいさんから聞くのを忘れていたが、この世界の文明レベルは低いのだろうか。
現代日本で生きてきたオレに耐えられるか少し心配だ。
まぁそれも街に着かなければ野宿と言うソレ以下の事をしなければいけないのだ。
早いところ街に行きたい。
だが見渡す限り草原しかない。野宿の線は濃厚だろうか……。
寝袋もテントもないのだが……。
道は川の比較的近くに出来ており、道を歩いていっても川から大きく外れることはないみたいだ。といっても近すぎる事も無く、着かず離れずといったところか。増水対策だろう。
しかし飲み水だけでも確保できる事はありがたい。
戦いの邪魔になるために森で見つけたリンゴは2個しかもってこれなかった。
それでもポケットに無理やり入れてきたので早めに食べた方がいいだろう。痛んでしまう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
道をしばらく歩いていると丘のようになった先が見えないところまでやってきた。
大分近づいたからか、丘の向こうが何やら騒がしい事に気づいた。
走って丘を越えるとそこには馬車を取り込む20人近い見るからに山賊といった連中と、ソレらと対峙する全身鎧を纏った騎士のような人達が戦闘をしていた。
戦闘が始まってずいぶん経っているのか、地面に転がっている山賊の数は8人。
騎士の方も2人血溜まりを作って倒れている。
残っている騎士は4人。
対して山賊は20人近くもいる。
馬車や地面にはたくさんの矢が刺さっており、倒れている騎士2人には相当数の矢が刺さっている。不意打ちで矢を大量に浴びせ、数の利で押して優勢を勝ち取ったのだろうか。
完全に騎士が劣勢だ。
だがそれでも馬車を守るように騎士達は奮戦している。
誰がどう見たって善と悪がはっきりとわかる光景だ。
「助太刀する!」
下り坂を一気に駆け下り、勢いそのままに山賊の1人にとび蹴りをかました。
とび蹴りは大事です。
でも前蹴りも大事です。
せっかくなので回し蹴りも大事なのです。
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