黒
夜の帳が、静かに降りた。
私はベランダで一人、闇夜に浮かぶ三日月を眺め、煙草の煙を吐く。煙は空にふわふわと漂い、触れようとすると音も無く消えていった。
「この街も変わったな」
眼下に広がる高層ビルの群れを眺め、私は息を漏らす。先ほどよりも小さめの煙が、宙を舞う。
高速道路を走る車は、振り返ることも無くただ前へ、前へと進んでいくばかりで、こちらの私に気づく様子はない。
「ふふふふふ…」
私は笑った。ゴミを漁る烏達の群れが、こちらを向く。先頭を飛んでいたいた烏が墜落し、それに続いて他の烏達も墜落してゆく。
「もっと静かなところに行くか」
私はシルクハットをかぶり直した。私の落ち窪んだ眼窩が、妖しく光った。