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異世界の剣客  作者: dadandan
ペルーベンの街 
8/47

新たな朝 ダイクの真意

前回エリオットと戦うといったな!

――あれは嘘だ!!


本当に申し訳ありません!!!

なかなか進まず気付いたら次回以降にずれ込んでしまいました。

多分次回は立ち合いに入れる予定です。

長かった夜が明けペルーベンの街に朝が来る。

朝日が差し込み、街の中を一時の静寂が包む。 聞こえるのは鳥達のさえずりだけだ。

夜を徹して働いていたものはその疲労と達成感とともに家路につき。

日中の仕事のものは1日の始まりを清々しく迎えている。

ペルーベンの街が最も静かな時間だ。


ダイクの宿の中庭は、小さな汲み上げ式の井戸と枇杷(びわ)の木が1本立っている他にはこれといって特徴のないものである。

正確には枇杷のような木であるのだが、伊織には枇杷と聞こえるし枇杷で通じるのだからここではこのまま呼ぶことにする。

この世界の生物や植物は基本的に元の世界と似通っているものが多い。そしてその固有名詞は全て元の世界の対応するものに自動的に翻訳されている。

要は、紙も刺青も枇杷も全てそのまま聞こえそのまま話すことが出来る。

もちろん元の世界にないものも存在するが、それはカタカナ語のように聞こえる。

全く伊織にとっては都合のいい事この上なかった。


件の伊織だが中庭の井戸のそばにその姿を確認できる。

伊織の朝は早い。

日が昇る前に起き、朝の稽古をするのが長年の習慣だった。

先程まで一人で型を遣っており、それをひと通り終えたところだった。

道着の諸肌を脱ぎ、上半身を露わにして井戸の水で体を清める。

火照った体に冷たい井戸水が当たり伊織の汗をさっぱりと洗い流す。

伊織の身体は普段着物の上からでは分からないが、今はその発達した筋肉を見ることが出来る。

引き締まっているが、力強さを感じさせ一切の無駄のない。

これも師匠達の指導とたゆまぬ鍛錬の賜物であった。

伊織は体を清め終わると道着を着直した。

そしてふと中庭の入り口を見ると丁度出てきたダイクと目が合う。

「・・・早いな。」

ダイクはそう伊織に話しかける。

普段寡黙で女将のメイに話しかけられてやっと一言二言話すようなダイクが、誰かに話しかけるなどかなり珍しいことだった。

「昔からの習慣でして・・人より少し早く起きてしまうんです。」

そう伊織は返す。

「・・・そういえば、まだ礼を言ってなかったな。」

ふと思い出したようにダイクは言う。

「・・・アルフレッドの坊主を助けてくれてありがとう。うちの女房も喜んでいた。」

ダイクは不器用にぎこちなく礼を言う。

「・・・あいつはくたばるにはまだ若すぎる。また元気な面を見れてよかった。」

ダイクはどこか安心したようだった。

「俺はそんなに礼を言われるほどのことはしていませんよ。 当然のことをしたまでです。」

伊織は気恥ずかしそうにそう答える。

――あそこでアルフレッドに出会わなければどうなっていたか・・・――

伊織には自分も助けられたのだからお互い様であるとの考えがあった。

「・・・それでも、その当然のことができるやつなんてこのご時世になかなかいない。」

ダイクとメイの夫婦には子がいない。

そんなこともあってかあの人懐っこい若者を息子のように思っているのかもしれない。

そしていつ命がなくなるかもしれないこの世界で、行商人をすることの危うさを痛いほどわかっていた。

笑顔で出て行った常連が死体になって帰って来たことも何回もあったし、中には帰って来なかったこともあった。

それでも自分達は迎えることと、送り出すことしか出来ないのである。

そんな残酷な世界で信頼出来る友を見つけられたことを自分のことのように喜んでいた。

「・・・大したことは出来ないがなんでも言ってくれ。」

そうダイクは締めくくる。

「でしたら、よく乾燥したあの木の木材はありませんか?」

伊織は枇杷の木を指してそう尋ねる。

ダイクのような不器用な人間には言葉で応えるよりも、なにか礼をさせたほうがいいと考えたからであった。

「・・・ちょっと待ってな。」

ダイクはそう言うと厨房へ入っていった。

そして手に太い枝の束を持ってすぐにまた出てきた。

「・・・燻製用に取っておいたもんだ。こんなんでいいか?」

ダイクはそう言うと伊織に束を差し出す。

伊織はその枝を真剣に見定める。

そしてその中から握りやすくしっかりしたものを2本選び出した。

「この2本頂いても構いませんか?」

そう尋ねるとダイクは二つ返事で了承した。

「・・・こんなもんで良けりゃいくらでも持っていきな。」

伊織は枝を押し戴きながら

「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます。」

そう礼を言った。

「・・・そうか」

そう言うとそそくさと厨房へ戻っていってしまった。

どうやら照れているらしい。

一人残された伊織は

――うむ、かなりいい木材だな。これならば・・・――

一人満足気であった。


伊織が部屋に戻ると丁度アルフレッドが目覚めたところだった。

「うぅん・・あぁイオリさん。おはようございます。」

アルフレッドは寝ぼけ眼でそう言った。

「おはよう。アルフレッド。」

そう伊織は答えた。

「最近野営ばかりでしたからね。久しぶりのふかふかのベッドだったので、寝過ぎてしまいました。」

まだ眠いのだろう、アルフレッドは目をこすりながら言う。

「そうだな。 ほら、水を汲んできたぞ。」

伊織は笑いながらタオルと水を入った桶をアルフレッドに手渡す。

帰り際に汲んできていたようだ。

「ありがとうございます・・・」

アルフレッドは桶を受け取ると顔を洗いだした。

冷たい井戸水がアルフレッドの意識を覚醒させていく。

ようやく完全に目が覚めたアルフレッドは伊織が手に太い枝を2本持っているのに気付いた。

「その枝はどうしたんですか?」

アルフレッドは当然の疑問を口にする。

それに伊織は手にもった枝を掲げて。

「これか? さっきダイクさんに頂いたんだ。 中庭にある枇杷の木の枝だ。」

そう嬉しそうに答える。

「これで木刀を作ろうかと思ってな。」

伊織は昨日エリオットと立ち合いの約束をした。

恐らくエリオットが木剣を持ってくるだろうからそれで立ち合おうと思っていたのだ。

しかし中庭で枇杷の木が生えているのに気付きこの枝ならと考えていた矢先にダイクが来たのである。

これで木刀を作れば慣れない木剣を使うよりももっといい立ち合いが出来るとかなり喜んでいた。

それもそのはずで、元の世界で木刀は基本的に樫材等で作られることが多いが、枇杷製のものが一番優れているとされ最高級品である。 

修行中に使用していたものは道場で育てていた枇杷の木から自身で作ったものであり、作り方も学んでいた。

もっとも、大先生に打ち合いの最中同じ木から作った木刀で伊織の木刀を“切り飛ばされた”のは彼にとっていい思い出になっている。

「なるほど、そうだったんですね。 じゃあ午前中は伊織さんはずっと宿にいらっしゃるんですか?」

アルフレッドが納得しながらそう尋ねる。

「そうだな。木刀を作らなければならないし、エリオットがいつ来るかもはっきりしないからそのつもりだ。 買い物とかはエリオットと立ち合った後からでも十分間に合うだろう。」

伊織はそう答えた。

「わかりました。 僕の方は少し出てきますけど、昼までには帰って来ます。 イオリさんが立ち合うのを見逃す手はないですからね!」

そうアルフレッドは笑いながら言う。

アルフレッドも男なのだからこういうことには人並みに興味が有るらしい。

立ち合うのが命の恩人である伊織とくれば尚更である。

「期待に応えられるよう頑張るよ。 じゃあそろそろ朝飯を食いに降りるか。」

伊織も笑いながらそう言った。

「そうですね! 楽しみです!!」

アルフレッドはベッドから出ると、素早く寝間着からラフな格好に着替える。

そして二人は食堂に降りていくのだった。



お気づきの方が多いと思いますが、昨日の夜新たに章分けすることにしました。

そしていろいろな異世界系の小説を読んでいて思ったのですが、なんで食べ物とかだけ現地語で日用品は現地語じゃないんですかね?

という疑問からこの作品ではこういうご都合設定になっています。

まぁその方がわかりやすいですしね。

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