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異世界の剣客  作者: dadandan
ペルーベンの街 
5/47

新たな出会いと彼らの誇り

良い感じのところまでと思ったら、すこし長くなってしまいました。

本当はもう少し入れる予定でしたがそれは次回で。


辺りに夜の帳が落ちる。 街の周囲が眠りにつく頃、ペルーベンの街は未だに眠ることはなかった。

商店地区の歓楽街、そして各ギルドは夜でも休むことはない。

24時間ペルーベンの街から仕事は無くならない。 行商人達はその日に商人ギルドの各市場で競り落とした商品の運送と道中の護衛の手配。そしてハンター達はその様な様々な依頼を受けるためにハンターギルドに詰めかけていた。

そんなハンター達の中に見知った顔を見ることが出来る


伊織はアルフレッドとの話の通りハンターとしての登録をするためハンターギルドを訪れていた。

ハンターギルドの建物は4階建てのかなり大きななものだ。 ハンターの紋章である盾に交差する2対の剣の旗がはためいており、入り口には篝火と2人の武装した職員が立っている。

ギルその中には何のチェックもなく入ることが出来た。

伊織はまず適当なかべによりかかり、中の様子を観察することにした。

ギルドの中はいくつかのカウンターに依頼や連絡事項が貼られている掲示板と休憩や歓談用のカフェスペースと共用部分はお決まりのものだ。そして階段はカウンターの奥にあり、2階より上には許しがないと入れない様になっている。

そしてギルド内は様々な人間で溢れかえっていた。

あるいは重装の甲冑に身を包む体格のいい偉丈夫。あるいは軽装の上にレイピアといういかにも速さを武器にしたような男。中には女の姿もちらほらみえる。

――ふむ・・メインストリートで見たような見掛け倒しも多いが、なかには遣いそうなのがちらほらいるな。それに・・・――

伊織は自分と反対側の壁に寄りかかっている一人の若い男に目が止まった。

その男は自分のより長槍を自分の隣に立てかけている。背は伊織より若干低いぐらい、ブロンドの長い髪を後ろで無造作に束ねている。顔は中性的で細い目をしていた。どうやら伊織よりも2つか3つ若いようにみえる。

一見はほっそりとした体つきだが無駄のない筋肉が革鎧の上からでも伊織にはわかった。

――あの男・・体の鍛え方といい、無駄のない立ち姿といい、かなり遣うな。 おそらく何度も実戦を踏んできている・・・あの男とならばお互いを高められるよい立ち合いが出来そうだ。――

そう伊織が考えていると、向かいの男が伊織の方をじっと見つめている。

お互いの視線が交錯する。

その瞬間この世界から二人以外の者はいなくなった。

どの位の時が流れただろう、二人は身動(みじろ)ぎ一つせずただお互いの視線を交わらせていた。お互いに服の下はジットリと濡れ、頭のなかを得も言われぬ身近な高揚感が走り抜ける。


実際には一瞬のことであったのだがお互いの中では何分もそうしてように感じられた。

次の瞬間どちらともなく二人の顔は笑顔に変わった。

そして伊織はその男に近付いていった。相手もしっかりと立ち槍を左手につかみ伊織の方を迎えた。

「先程は失礼した。不快な思いをさせてしまったかな。」

伊織は自分の非礼を素直に詫びた。 

伊織自身もわかってはいるのだが、遣い手を見ると少々のめり込む癖がある。 伊織も剣客の端くれなのであろう。

しかし相手はそんなことは気にしてもいないようで、笑顔のまま

「いやいや。 私もあなたのような“本物”を見たのは久しぶりなので、ついつい火がついてしまいました。」

そう答え右手を差し出す。

「私の名前はエリオット。 ギルドランクは3です。」

差し出された手を握り合いつつ

「私は伊織だ。ハンターランクはまだない。何しろこれから登録しようと思っていたものでね。」

笑ってそう言うとエリオットは驚いたように目を見張って言った。

「そうなんですか!? 通りで見覚えのない顔だと思いました! 世界は広いものですね。貴殿のような方が隠れているとは。」

伊織は気恥ずかしそうに

「いや、何もわからない素人だよ。 登録カウンターもわからない――な。」

そうおどけた表情で答える。

「ならばご一緒しましょう。 私も丁度よい依頼を探していたところなんですよ。 カウンターは赤い看板以外ならどこでも大丈夫なんです。」

エリオットはカウンターをさしながらそう言った。

伊織がカウンターを見ると、5つあるカウンターの内一番奥が赤い看板でその他には何もない。

そしてどのカウンターにも1台ずつ血圧測定器のような装置が設置してある。

エリオットと共に開いているカウンターへ足を運ぶ。



「ハンタァ~~ギ・ル・ドへ~~!!ようこそぉぉぉ!!!」

目の前の受付嬢はハイトーンと高めなテンションのまま言葉を続ける。

「本日はどんなご用件ですかぁ!? 依頼ですか??それとも達成報告ですか!!!」

伊織が多少面を食らいつつ

「いや、残念だがこれからハンターとしての登録をお願いしたい。」

落ち着いた声で要件を伝える。

「ハンター登録ですねっっ!! かしこまりましたーーー!!」

そう言うと、受付嬢は手早く準備をしだした。

ふとエリオットを見るともう慣れたものという雰囲気で見守っている。

「ごっほん! ハンターとして登録するための条件はたった2つ!! 満18歳に達していることと、犯罪歴がないことです!!」

受付嬢は指でVサインを作りながら説明する。

「年齢の方は大丈夫そうですね! じゃあ右腕を肘まで見せて下さい!!」

伊織は言われた通り右の袖をまくり、受付嬢に腕を見せる。

伊織の腕は筋肉の鎧に覆われているが、無駄な筋肉はない引き締まっている。

「犯罪者用の刺青はありませんねっ!! っということで~合格でぇ~~す!!!」

受付嬢はサムズアップをしながら今日一番のテンションで叫んだ。

「こんな簡単な確認方法でいいのか、すごいな。」

伊織がそうつぶやくと、

「あったりまえじゃないですかぁー!! 犯罪者用の刺青は魔力の込められた特殊な墨で彫られます!! 消すことも隠すことも出来ません!!」

受付嬢が大きくない胸を精一杯張りながら言う。

因みにこの刺青は帯状のものに各国の印が付けられており、明確な犯罪により懲役刑になると彫られる。そして捕まるごとに増え、3回目に捕まると問答無用で死刑というものだ。もちろん重大犯罪は1回で死刑というものもある。

1本目で公職・ギルドへの登録・高級店での就労が出来なくなり、2本目で日雇い労働以外どこの店舗でも働けなくなる。 

「では、この書類にぃ~記入して下っさ~い!!」

伊織は渡された書類を眺め、そこに記入していく。

そして出来たものを受付嬢に渡した。

受付嬢は内容を確認していく。

「なになに~~・・イオリさん!年齢は27歳!武器は剣ですか!王道ですね!!」

そして読み上げながら受付嬢はある項目で止まった。

「クラスは・・・ケンカク?? なんですか?これ??」

伊織はまっすぐ受付嬢の目を見てこう答えた。

「――剣の真髄を追い求めるものだよ。」

受付嬢はあまりに真っ直ぐな伊織の目に引き込まれてしまった。

そして横にいるエリオットはというと

――なんと気高く壮大なものを見ているんだ、この人は・・・ イオリ殿か、この人が言うと大言壮語に聞こえないな――

「それではまずかったかな?」

伊織が声をかけると

「いえいえ!! 全く問題ありません!! この内容で間違いないですねぇ~!! 後からの変更には別に代金がかかりますよっ!!」

再起動したらしい受付嬢は説明を続ける。

「あぁ、問題ない。」

伊織は力強く頷いた。

その目には決意と好奇心が渦巻いていた。

「かっしこまりました~~!! この内容でギルドには登録させてもらいます!! 彫師さんを呼んでくるんで少々お待ちくださいねぇーー!!」

そう言うと書類を持って奥に引っ込んでいってしまった。

伊織は受付嬢の言葉に気になる部分を感じた。

「なぁ、エリオット。彫師ってことは刺青を入れるんだな?」

伊織は隣にいたエリオットに尋ねる。

「そうですよ。これですね。」

そういうとエリオットは自分の右腕の甲を伊織に見せた。

そこにはハンターギルドの紋章とその下にエリオットの名前と3つの星が彫られていた。

「この刺青は犯罪者用と同じで魔力の込められた墨で彫られています。消すことも出来ないし偽造することもできません。それに腕を捻っても崩れませんしね。」

そう言って腕を動かす。 確かに刺青は崩れることはない。

「そしてこの星の数が現在のギルドランクを示しています。1が最低で5が最高です。各ギルド共通なんですよ。それにどこの組織も所属すると必ず刺青を彫るんで身分証代わりに使えますし、犯罪歴の無い事の証にもなりますから転職もしやすいんですよ。」

まぁ、他にも色々便利なんです。――と自分の刺青を指で示しながらエリオットは語ってくれた。

「なるほどな。なかなか良くできた仕組みだ。」

伊織は素直に感心している。

実は伊織はこの世界の技術レベルを甘く見ていた部分がある。元の世界とは違い、魔法という力があるので別の方向に文明が発達しているのを目の当たりにするまでいまいち理解ができなかった。

そうこうしているうちにハイテンション受付嬢が戻ってきたらしい。

「ぉぉおおまたせしましたっ!! イオリさぁん!!これから刺青を彫りますのでっ!こちらに来て下さ~い!!」

伊織は頷くとエリオットに

「じゃあ行ってくる。」

そう言うと受付嬢についてカウンターの奥に入っていった。

――イオリ殿と一緒にいれば私も至れるかもしてないな・・・武の真髄に――

エリオットは伊織の背中を見送りながらそう感じていた。

戦いの中で己の武を鍛えてきたエリオットだったが、最近満足できる相手と出会えておらずペルーベンを離れようかと考えていたところだった。

新たな戦いの予感に槍を握る手に自然と力がはいるのだった。



一方伊織はというと2階のある部屋に通されていた。

そこには椅子とテーブル、そしてテーブルには腕を乗せるためであろうクッションとカウンターにもあった血圧計があった。

そしてテーブルの対面には一人の老人が腰をかけている。

「ほう・・お前さんかね、新たなハンターは・・・」

老人は座ったまま顔を上げてそう答えた。

「伊織といいます。よろしくお願い致します。ご老体」

伊織はそう言うと椅子に腰掛け、右腕をクッションの上に載せた。

「うむ、礼儀だけは心得てるようだな。わしのことはゲン爺とでも呼んでくれ。最近は脳みそまで筋肉で出来ているバカどもの相手ばかりだったからな・・・ふぅむ」

ゲン爺は伊織の腕をひと通り調べると。

「相当鍛錬を積んでいるな。それにそこかしこに薄い切り傷がある。こりゃあ実戦でついたものじゃ無さそうだな・・お主のような男が今更ハンターになるとは、どういう風の吹き回しかい?」

ゲン爺はそう尋ねた。 

「流石ですね。その傷は師との稽古でついたものですよ。若先生との真剣での稽古は凄まじくてこんな傷はしょっちゅうでした。」

そう伊織は懐かしそうに答えた。

「なるほどのぅ・・その若先生とやらはかなりの腕じゃな。それにお主を必要以上に傷付けまいとしていたんじゃろう。優しい師なのだな・・」

確かに若先生との稽古は苛烈なものだったが、若先生はいつも薄皮一枚しか斬ることはない。痛みも少なく後の支障にもならないようにといつも気遣いながら稽古していたのが見て取れる。

伊織は遂に若先生にも一太刀すら入れることは叶わなかったが・・・

「まぁお主はギルドの為になってくれそうじゃ・・今から入れる刺青はただの刺青じゃない。その刺青はわしらの誇りと絆の証じゃ。この刺青を持つものにはハンターの一員として最大限協力しよう。そしてその誇りを汚すものは、天が許そうともわしらが許さん・・・よく心得ておくことだ。」

一瞬ゲン爺から凄みと殺気を感じる。この老人もかつてはその誇りを胸に前線を駆け抜けていたのだろう。 

伊織は少し大先生を思い出した。

「はい。肝に銘じます。」

穏やかだが重みのある言葉でそう伊織が答えた。

「いい面じゃな・・・では彫るぞ。」

そう言うとゲン爺は魔力を込めながら刺青を彫る。 ハンターの誇りと絆を彫り込むかのように丁寧に。



「これでいい・・・ではこの中に腕を入れてくれ。」

そう言うとあの血圧計をさした。

「この装置は刺青の登録機じゃ。刺青を登録しておけば、各地のハンターギルドで読み取り機に入れるだけで情報を引き出せるし、各ギルドの情報管理にも使えるからのぅ。」

伊織は言われた通りに登録機に腕を入れる。ブゥンという鈍い音とともにものの数秒で登録が完了した。

「ゲン爺殿、ありがとうございます。あなたの言葉は忘れません。」

「うむ・・お主の進む道に栄光が有らんことを。 なにか困ったらわしを訪ねておいで。」

ゲン爺はそう言うと伊織を見送った。

そして・・・

――あのような若者が多ければハンターギルドも安泰なのじゃがな・・・こりゃあ面白いことになりそうじゃのぅ――

伊織の背中に一縷の希望とこれからの波乱を見たゲン爺であった。



階段を降りると元のカウンターにはあの受付嬢とエリオットが相談していた。

「待たせたかな。」

そう伊織が声をかけると二人は伊織の方を向いた。

「いいんですよ。私も自分の用事を済ませていただけですから。」

穏やかにエリオットはそう言った。

「イオリさ~ん!!ハンター登録おめでとうございます!!!」

受付嬢は相変わらずの様子で言う。

「あなたは今ランク1のハンターです! 一定量の依頼こなし信頼を得る!!するとランクが上がっていきまぁ~す!!その逆もしかりです!!! ハンターの依頼には様々な物があります!もちろん危険で重要度の高い依頼は一定以上のランク保有者でないと受けることができませんよ!!」

「そうか。よくわかった。」

「最後にギルドには単純かつ絶対のルールが有ります!! それは常に栄光を胸に!!民のために尽くせ!そして仲間に公正であれ!!」

拳を握りしめいっそう力強くそう叫んだ。 伊織は周りを見回してみたが、気にしている人間は皆無だった。

受付嬢は最後の説明を終えるとこう締めくくった。

「では!!あなたの道に栄光が有らんことを!!!」

・・・・・・

伊織は完全に置いていかれた感覚に陥ったが、説明は理解していた。

「うっうむ。ありがとう・・」

そう答えるだけで精一杯だった。

「では、恒例行事も終わったことですし。すこしゆっくり話でもしましょう。」

エリオットは何もなかったようにそう言うとカフェスペースへと伊織を誘った。

あとには恍惚の表情をした受付嬢だけが残った。


嫌ではない騒がしさと共にハンターギルドの夜は更けていく。

しかしこれだけでは終わりそうもなかった。

ペルーベン 眠らぬ街は今日も平常運転だ。

新キャラさんたちです。

受付嬢さんはみなさんの脳内で声を当てて下さい。

ハイテンションであれば問題ありませんので

単に戦いにおいては伊織はランク3程度の実力はあります。

まぁ戦闘能力だけでランクが決まるわけではないのでなんとも言えなかったりしますが。


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