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異世界の剣客  作者: dadandan
ペルーベンの街 
4/47

安息の宿

こっそりこそこそ

夕陽の中人々の列が吸い込まれていくように一つの街へ流れこんでいく。

ある者は長い旅路の末に愛する家族の待つ我が家に戻るために。

またある者は今日の宿と一夜の相手を求めて。

それぞれがそれぞれの思いを秘めて向かう。

パーカー共和国第3の街、ペルーベン。



街に入った伊織は少なからず感動を覚えていた。

総レンガ造りの家々は中世のヨーロッパの趣を思い起こさせ、広いメインストリートには野菜や魚・肉等の食料品、袋や薪等の雑貨、そして子供用のおもちゃに小間物など様々なものを商う商店に、夕暮れの客引きに勤しむ宿屋が軒を連ねている。

買い物をする客、道を通行する者等様々な人間でごった返している。

辻伊織はこの世界で始めて多くの人間を見た。

――この世界の街はこんなに栄えているものなのか。 これがこの国第3の街か・・――

伊織が呆然と立ち尽くしていると、アルフレッドが声をかける。

「イオリさん。 まず宿を決めてしまいましょう。行きつけの宿がありますので、そこで構いませんか?」

伊織はふと我に返り答えた。

「そうだな、そうしてくれると助かる。 何分この街にも不案内だからな。」

「まぁそうですね。 大丈夫です! 高級宿とはいきませんが、安くて美味しいご飯を出すところです!それに旦那さんも女将さんも信用できる人たちですから!」

アルフレッドは胸を張って言う。そして伊織の前を歩きはじめた。

「じゃあ行きましょうか!」


二人はメインストリートをしばらく歩いた後、右の路地に入っていった。

「ペルーベンの街は外壁の内側にも城壁があります。内壁の外は南北のメインストリートを起点に東側が商店地区、西側がギルド街になってます。 内壁の内側は住宅街に街の行政機関の建物があります。 街の出入りが出来る門は南北の2箇所だけ僕らが入ってきたのは南門ですね。」

歩きつつアルフレッドはペルーベンの街を案内してくれている。

こういう説明をスラスラと言えるのは流石は商人と言うべきだろう。

ペルーベンの街は正方形の形をしており、その大きさは南北に約10㎞ある。その周りをぐるっと城壁が一周しているのだからかなりの規模といえる。

その中には基本的な商店はもちろん歓楽街や各種職人ギルドの作業場もあり、生産から消費までこの街で一貫して行われている。 この国の中でも経済的に大きな街である。

「基本的にギルドは1日中開いてますので、宿が無くならないうちにと取っておくのは旅人の基本です。 宿を取った後でイオリさんのギルド登録と僕の商人ギルドへの報告をしてしまって、明日になったらイオリさんの身の回りの物を買い揃えましょう。」

旅慣れたアルフレッドにすべてを任せつつ伊織は街や人々を観察する。

――人々の顔には生気が満ちているな。 それにメインストリートから外れてもそこまで汚れているわけでもない。 経済大国なだけあって豊かなんだな。――

伊織はそんなことを考えつつも時折見かける革鎧にロングソードや、長槍や戦斧等を携えたいかにもハンターという風体の者達にも視線を走らせている。

――そこそこ遣いそうな者もいれば見掛け倒しもいるか。 そんなところだろうな。――

平和そうな街の中においてもやはり気になってしまうのは武術を嗜むものの性なのかもしれない。

「イオリさんつきましたよ。 あれが今日の宿候補です。」

アルフレッドの声に伊織が見上げるとそこには2階建の建物が目に入った。

看板には

「ダイクの宿屋・・」

「そうです。旦那さんの名前そのままなんてひねりのない名前ですよね。」

笑うアルフレッドをよそに、伊織はまたもや驚いていた。

――俺はこの世界の言葉が話せるようだったが、文字まで読めるのか。 というか完全に日本語で書いてあるぞ。――

なのである。 伊織はどうやらこの世界の言語は問題なく話すことも読むことも出来るらしい。もちろん伊織が日本語で書いた文字もちゃんと相手に伝わる。

「どうしました? イオリさん?」

「いや、なんでもない。 よさそうな宿だな。」

伊織ははぐらかしつつ

――まぁ言葉が伝わることで困ることはないだろう。ならば細かい理論など考えるだけ無駄だ。流れに任せるのもまた剣の道か。――

ふとした所で大先生の教えを思い出し思考を打ち切った。


二人が宿に入ると威勢のいい声が響いた。

「いらっしゃーい! あら! アルちゃんじゃないかい!」

「女将さん! アルちゃんはやめてくださいよぉ・・ もうそんな歳じゃないんですから!」

アルフレッドは気恥ずかしそうに答える。しかしどこか嬉しそうだ。

「なぁーに言ってんだい! あたしから見りゃ、あんたなんてまだまだ坊やだよ! それはそうと後ろの妙な格好のいい男は誰だぁい? アルちゃんの知り合いかねぇ?」

女将さんは伊織を見やりながら尋ねる。 初めは伊織のことを値踏みするような目だったが、次の瞬間には笑顔に戻った。

「あぁ!そうだった。 彼はイオリさん。 街道で野盗に襲われているのを助けてもらったのでここまで案内したんです! 二人でお世話になろうと思って。」

アルフレッドが伊織のことを紹介する。

「伊織といいます。大したことはしてないんですが、旅の途中で出会ったのも他生の縁と思って好意に甘えさせてもらってます。」

伊織は頭を下げつつ名乗った。 事前のアルフレッドとの相談で、別の場所から飛ばされたことは余程の場合を除いて秘密にしようと決めてあった。

どころからどんな言いがかりを付けられるかわかったものではないし、他の者にも危害が加わる可能性があるのは本意ではなかった。

「そうなのかい! じゃあアルちゃんの命の恩人って訳だねぇ。 そりゃああたしからも感謝を言わせてもらうよ。なんたってうちの常連を助けてくれた上に、自分も常連になってくれるってんだからさ!」

笑いながら女将さんは言った。 その言葉には単なる客としてだけでなく本当にアルフレッドのことを心配していたのが感じ取れる。

「あたしゃこの宿の女将でメイってんだよ! よろしくね! 大した事はできないがゆっくりしていっておくれよ! おぉーい!!おまえさぁーん!!」

女将が名乗りつつダイクを大声で呼ぶ。 すると奥から包丁を握りしめたまま無表情の男が出てきた。どうやら奥は厨房につながっているらしい。

「・・・なんだ?」

「これがうちの旦那のダイクさ。この通り無愛想だけど、包丁握らせたらそんじょそこらのとは比べ物にならないよ! お前さん。アルちゃんとその命の恩人のイオリさんだよ。」

ダイクは無表情だががっちりした体格の男だ。坊主頭にエプロンという出で立ちで宿屋の主人というより何かの職人といった感じの男だった。

ダイクは伊織たちに目を向けると一言。

「・・・ゆっくりしていきな。」

とだけつぶやくとまた厨房へ引っ込んでいってしまった。

それを見送った女将のメイは

「全く相変わらずだねぇ・・」

と呆れながら部屋の鍵を取り出す。 

「二人部屋でいいかい? そうすると前金朝夕二食付きで1泊大銀貨1枚と銀貨2枚だよ。」

この世界の貨幣は大金・金・大銀・銀・大銅・銅貨でそれぞれ10枚で上位の貨幣と同じ価値になる。

この貨幣は全て神国で生産され、万国共通のものである。

日本の価値に直すと大体大銅貨1枚が100円ぐらいの価値になる。

「それでいいです。 取り敢えず一週間お願いします。」

アルフレッドはそう言って一週間分の宿代を支払うと、宿帳にサインをし、鍵を受け取る。

「部屋は2階の突き当り、便所は共用のが各階にあるよ。 井戸は中庭、飯は1階の食堂にきとくれ!」

女将は早口にそう言うと、笑顔で二人を見送った。

伊織達は女将に言われた通り2階の突き当りの部屋の扉を開ける。

部屋は2台のベットと簡単なテーブルと椅子、クローゼットやキャビネットがあるだけの簡単な部屋だった。

しかし掃除は行き届いており、不快な匂いもしない。 簡素だがいい部屋だ。

部屋につくとアルフレッドは、おもむろに伊織に革袋を渡した。

「イオリさん。これをどうぞ。」

伊織が受け取った革袋を開けると中には金貨が5枚入っていた。

「助けていただいたお礼と、ここまでの護衛の代金です。 本当にありがとうございました!」

頭を下げつつアルフレッドはそう言った。

「いや、いくらなんでもこれは多すぎる。こんなに受け取れるようなことはしていない。」

伊織は予想よりも多い金額に困りながら返そうとする。

「いいんですよ!命を助けてくれたんですから。それに今までにかかった経費はしっかり抜いてありますし、パークシティまでの護衛代金の前金も入ってますから妥当な金額ですよ。 もちろん餞別(せんべつ)代わりに少々色はつけてますがね!」

笑いながらアルフレッドはそう言った。 やはりこういうところは商人らしく金銭に関してはしっかりしている。

「そうか・・ならば頂くとしよう。これから何かと揃えるものが多いからな。」

伊織もこの世界の相場がわからないし、アルフレッドがこう言っているのでありがたく受け取ることにした。

「そうですよ! それにこの世界の商人達はみんな抜け目ないですから。交渉事にも自分で損して経験しないといざというときに痛い目を見ますからね!」

どうやらアルフレッドなりの優しさらしい。自分のいなくなった時のことも考えている辺りが彼のお人好しな性格を表しているのだろう。

こうして宿を得た二人はギルドへ向かうためにもう一度夜のペルーベンの街へ繰り出していくのだった。


まだまだ続く説明回。


久しぶりに伊織達以外のキャラクターが出ましたね。

こういう喋り方は好きです。


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