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異世界の剣客  作者: dadandan
剣客降り立つ
2/47

鉄板と鍋 前途は多難

こっそり更新です。

街道をアンバランスな二人の男が歩いている。

一人は、人懐っこい顔をした細身の若い行商人風の男。

もう一人は、紺色の道着に使い込まれたブーツというかなりミスマッチな格好をした、背の高く鍛えぬかれた肉体を持つ青年である。


アルフレッドは謝辞と名を名乗り、助けられた礼にと街までの案内を申し出ていた。 

青年は青年で願ったり叶ったりであったし、また野盗に襲われないとも限らないということで護衛も兼ねてその好意を受けることにした。

そして青年はちゃっかり野盗のブーツの中から自分に合うものを拝借している。



こういった事情からこのアンバランスな組み合わせが誕生したのである。




アルフレッドは困惑していた。

――・・・気まずいっ――のである。

アルフレッドは行商人として生活していけるだけの商才には恵まれていたし、話術や交渉術・算術なども一定以上の実力と場数を踏んでいる。

しかし、未だに恩人の名前すら聞き出せていないのである。

――この人さっきから何も話さないよ!! 話しかけづらい・・・――

するといきなり。

「そこ、危ないぞ」

「えっ!?」

その瞬間アルフレッドの視界が回る。

「へぶっ!!」

頭から盛大にずっこけた。 どうやら地面の窪みに足を取られたようだ。

「大丈夫か? ふむ、怪我はないな。」

ひと通りアルフレッドの身体を確認すると、手を差し伸べる。

「はい・・ありがとうございます。」

差し伸べられた手を握り、立ち上がりながら、アルフレッドはつぶやく。

「昔っから体を動かすことはどうも苦手で・・・ 妹に叱られてばかりです。」

服をパタパタとはたきつつ苦笑を浮かべる。 

「その上、商人としてもまだまだ駆け出しもいいところで・・ 自分の店ももてないでいますからね。はっははは・・・」

そうして笑うアルフレッドの顔には自嘲の陰が落ちていた。すると

「いいじゃないか。」

青年が言葉をかけた。

「えっ!?」

「人にはそれぞれ向き不向きがある。 君はそうして商いの道を歩めるだけの才覚があるのだから、なにも恥に思うことなんて無いじゃないか。」

驚いた顔でアルフレッドが青年を見上げる。そして

「しかし、あなたのような強さに惹かれてしまいますよ。 男らしく、強く気高くありたいと憧れるものです。」

「強く気高くか――俺自信そうありたいと望んでいるけれどもな・・・」

「まさか!あなたほどの剣の遣い手を私は見たことがありませんよ! さぞご高名な方な剣士だとお見受けしましたが。」

アルフレッドが興奮気味にそう言うが、青年はふと遠くを見つめて応える。

「俺もまだまだ駆け出しさ―― 師には遠く及ばない。」

その顔には寂しさはあるけれど、とても明るかった。決意と信念に満ちた顔だ。

アルフレッドは青年の顔から目が離せなかった

「この世の中に鉄板しかなければ煮込み料理は作れない。 だから鍋があるんじゃないか。 鉄板は鍋より偉いのか?」

気付くと青年の顔がアルフレッドに向いていた。そして青年は続ける。

「鉄板には鉄板の道、鍋には鍋の真髄がある。鍋で炒めものがしにくくても、誰も怒りはしないさ・・・ まぁ、師の受け売りだけどね。」

青年は片目をつぶりながらおどけて言った。

「そうですね。そういう風に考えたことはありませんでした。」

アルフレッドは笑う。 今度は屈託のない笑顔だ。

「ありがとうございます。 ――本当にありがとうごさいます。」

どこか晴れやかな声だ。 そしてふと思い出したように切り出した。

「そういえば、まだ貴方様のお名前を伺っていませんでした。差し支えなければお伺いしたいのですが。」

「まだ名乗っていなかったか。 ぷっ、あっはっははは――これは失礼した。」

どうやら青年は本当に失念していたようだ。恥ずかしげに笑いながら続けた。

「俺の名前は伊織―― 辻 伊織だ。よろしく頼む、アルフレッド。」

そう言って手を差し伸べた。その手を握りながらアルフレッドは応える。

「こちらこそよろしくお願いします。イオリさん。」

伊織のその手は大きく、固く、そして暖かかった。

爽やかな風が街道を吹き抜ける。



あたりが闇に包まれ、暗く静かな夜を迎える頃、二人は街道の近くで野営を張っていた。

幸いアルフレッドの荷物には食料も野営の準備も万全に揃っていたし、商品の寝袋を伊織に使うように言った。これもお礼のうちという言葉に伊織も受け取ることにしたようだ。

簡単な食事を済ませ、交代で火の番をしつつ夜を明かしていく。


伊織は木に寄りかかって座り一人火を眺めている。

――こうして野宿をするのは久しぶりだな。 修行と言って若先生とよく山篭りさせられたものだ――

伊織の脳裏にふと懐かしい記憶が蘇る。

彼が師と呼ぶのは2人、大先生と若先生である。そして彼の父も“剣客”だった。

伊織は12歳の終わり頃に父からこう問われた。

――お前は“剣術”を学びたいのか?――

それまで父に成長期の運動として剣のいろはを教わっていた伊織だったが、剣にのめり込み出していた。

――今の時代ただ剣を打ち合いたいなら剣道でも学べばいい。ただ人と戦いたいなら他のものでもいい。 お前は私と同じようにこの時代で“剣術”を学びたいのか? 剣に生きるのか?――

その問に伊織はドキッとした。今まで稽古中でも父とは1合も剣を合わせてはいない。しかし父の体から出る強さに憧れていた。自分もいつかはこうなりたいと。

伊織の答えはとうに決まっていた。

――僕は剣に生きたいです!!――

そう伊織は答えた。 今から思えば

――言葉の意味もわからずにそう答えていたな・・・――

と伊織は振り返る。しかし後悔したことは1度も無かった。

そしてその伊織の言葉に父は

――ならば私の下を離れなければならない。 一角の剣術遣いになるには俺の下で修行してはならん。私の師の下にいけ。そして師がお前に才はないと言ったらすぐに諦めて帰って来なさい。――

こうして伊織は中学校入学に合わせ大先生とその息子の若先生の下に行き、そこで修行することになる。 もちろん帰されることはなかった。 以来14年父とは会っていない。

――こんなどことも知れぬ所で死ねないな。父にもう一度会って話したいことがたくさんある・・・――

ふと昼の野盗達の顔が目に浮かぶ。 欲望・憎しみ・そして恐怖に歪んだ顔。 己が斬って捨てた命の顔だ。

――これが剣に生きるということ。散々大先生に言われたのにな・・・――

父の流派は江戸時代のそれと何も変らない“剣術”だった。 この時代において時代錯誤と笑われる本物の“剣術”だった。

――剣に生きるとは業を背負うことさ。 時には他人の命も己の命をも奪う。 そしてその中に真髄を得る。 お前がこれから学ぶのはそういうものだよ。――

大先生の言葉が伊織の身に沁みてきた。 伊織は知らぬことだが、大先生も若先生もそして伊織の父もその業を背負っている。 彼らは皆命を狙われる理由の10や20には心あたりがある。

その道に伊織も足を踏み入れたようだ。


そうした伊織の心情を推し量ってか、静かに夜は更けていく。 ただパチパチと焚き火の爆ぜる音を残しながら。




なんか大先生と若先生はモデルがバレバレですねww 

某スーパーおじいちゃんとその息子です。


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