パヤッバ村の攻防 反攻の花火
血祭り本番ですね。
しかし悪役って書いてると以外に楽しいですねwww
その日のヴィンスは特に上機嫌だった。
2回めの製鉄作業も滞り無く終了し、自らの前に鉄の塊が油紙と布に包まれて荷台に積んであった。
村長の家には出荷前の鉄を置いておくためのスペースが有りそこに荷車ごと置いてある。
十分な量が確保できたら村人を皆殺しにし一気に売り捌こうという腹積もりであった。
古い鉄が錆びてしまう前に売りださなければならないので製鉄は後1度と決めている。
そうしたら自身の前には10トン近い鉄が積み上がることだろう。
「ッゲッシャシャ!!笑いが止まらねぇなぁ!!ッゲッシャシャシャシャ!!!」
部下たちに酒を振舞い、自分も大いに呑んだ。
――こいつらにも我慢をさせちまってるからなぁ・・ 鉄を十分に手に入れたらまずは男共をふんじばってから俺たちが目の前で散々女子供を慰み者にした後、 そのまま殺っちまおうか。 そうすりゃこいつらの憂さも少しは晴れて鉄運びに精を出すこったろうぜ――
「今日は遠慮なんかしねぇで飲みやがれぇ!! 大金持ちの前祝いだぁぁ!! ッゲッシャシャシャシャ!!」
これからの明るい未来を描きながら盗賊たちの酒宴は益々盛り上がるのだった。
彼らはこれが人生最後の酒になり、この後すぐに恐怖のどん底に落とされるのを未だ知らない。
日が昇る少し前。
ウルブズの三人は作戦通りパヤッバ村南西の街道との出入り口付近に伏せていた。
「さて、もうすぐ夜明けですがどのように切り込みますか?」
ウォルトが二人に話しかける。
「いいんじゃねぇか? 囮なんだしどでかいのをブチかませば!!!」
「そうだよ! 真ん中にある櫓が邪魔だからあれに全力でファイヤーボール当てちゃえば?」
クリストフとマルティナが口々に言う。
「二人共簡単に言ってくれますね・・ まぁ派手ではあるので陽動にはぴったりでしょう。 的を得ているところが手に負えませんね。」
ウォルトは笑いながら答えた。
「なぁに! お前が動けない間は俺がきっちり暴れまくって気を引いてやるよ!!」
「そうそう♪ 援護は任せて!!」
どうやら奇襲方法は決まったみたいだ。
「そうと決まれば早速やりますか。 準備に少々時間がかかりますからね、パーティーに遅れたら大変です。」
「そうだな!精々ド派手に会場を盛り上げてやるか!!」
「ド派手にぶっ壊すの間違いでしょう!」
「何言ってんだぁ それがメインイベントだろ?」
「違いありませんね!」
冗談を飛ばし合いながら村に近付いていく。
辺りは太陽が登り始める直前、段々と空が白んでいく。
「ううぅん・・・なんだぁ? やけにうるせぇな・・」
出入り口の櫓の見張りは眠気に耐えかねてとうとう眠ってしまっていた。
――まぁ、なんかあったら反対側のやつが起こしてくれるだろう・・・――
そう高をくくっていたのだが、実は反対側の見張りも眠り込んでいた。
そんな事情もあり入り口まで何の誰何もなく入ることが出来たウルブズである。
「チェッ! 拍子抜けだなぁ・・」
「まぁまぁいいじゃないの♪ これからどでかい花火で起こしてあげれば!」
クリストフとマルティナは気楽そうに言う。
しかし、その後ろで魔力を高めるウォルトは真剣そのものだ。
「では、行きますよっ!! “我は求める、灼熱の業火。 ファイヤーボール!!”」
しっかりと踏ん張りつつ両腕を前に押し出す。
すると、人の体をすっぽりと覆うほど巨大な火球がウォルトの前に出現し、まっすぐ広場の櫓に向け放たれた。
そして櫓に直撃する。
ズッゴォォーン!!!!
けたたましい爆発音と振動、そして爆風が巻き起こる。
櫓の建っていたところは跡形もなく吹き飛んでいた。
辺りにバラバラと細かい破片が散らばる。
「さて!! パーティーの始まりだぁ!!! ミンチになりてぇ奴からかかってきやがれぇぇぇ!!!」
爆発音にも負けないクリストフの大音声が響き渡る。
最初にウルブズの襲撃に気付いたのはもちろん出入り口の櫓の二人だった。
「てってめぇら!! なっなななにもんだぁ!!」
そう言いながら弓に矢をつがえる。
「てめぇなんざお呼びじゃねぇんだよ!! っおらぁ!!」
そう叫びながら櫓の柱に戦鎚の一撃を加える。
バキャン!!
壊れたのはもちろん櫓の足だった。
クリストフの戦鎚は普通の物よりも重く、そして強固に作られた彼専用の一品だ。
そしてそれがクリストフの手にかかると、たとえ金属製フルプレートを着込んでいようとその上から容赦なく肉体を粉砕する。
木製の櫓に勝ち目はなかった。
そしていきなり柱を失った櫓は凄まじい衝撃を受けバラバラと崩れる。
もちろん上に載っていた者は地面に叩きつけられることになった。
そしてもうひとつの櫓はというと既に上の人間はこの世のものではなかった。
マルティナがクリストフの叫びとともに即座に櫓に登り、上の見張りを始末してしまったのだ。
「ありがとうございます。 もう大丈夫ですよ、流石ですね!」
魔法の反動から立ち直ったウォルトはそう二人に声をかけた。
「あったりまえだろ!!こんなの準備運動にもならねぇぜ!!」
「そういうこと~♪」
「そろそろ、敵も出てくる頃ですよ!気を引き締めて行きましょう。」
そうウルブズの三人は気合を入れなおす。
この三人に油断という文字は無かったようだ。
わらわらと出てくる盗賊たち、ざっと数えるだけで8名程いるようだ。
「さぁどいつが一番手だぁ!? なんだったら全員でもいいんだぜ、この腰抜けどもがよぉ!!」
そう言いながらクリストフが敵のど真ん中に突撃していく。
盗賊達は狼狽しながらも迎撃する。
ゴッ! ガッ!
クリストフの腕が振るわれる度に鈍い音が響く。
盗賊達の剣ごと強引に殴りつける。
盗賊達もクリストフの横に回ろうとするが、そこにはウォルトとマルティナが不意打ちのように襲いかかる。
クリストフに敵の意識を集中させながら、ウォルトとマルティナが翻弄し援護する。
このコンビネーションはウルブズの基本陣形のひとつで、ウォルトが全て考案したものだ。
盗賊達はウルブズのチームワークに手も足も出ないで徒に数を減らしていく。
「オラオラァ!! どうしたぁ!!それで終わりかよ!!!」
更に大音声を響かせながらクリストフは突撃する。
しかし、どっと盗賊達が三人の前に現れた。
どうやら、ようやく起きてきた者達が加わったようだ。
「クリス! ここからは慎重に行きますよ! こんなところで命を落としては馬鹿馬鹿しいですからね!!」
ウォルトが声をかけた。
「へっそうだな!!お前の判断はいつも当たるからな! ここは一旦ひいてみるさ!」
クリストフが前進を止め、盗賊達と睨み合う。
そうしながらジリジリと退いていく。
この辺りがクリストフの戦士としての良さを示している。
戦うときには勇猛果敢であり、そして退くときには迷わず退ける。
しっかりと状況に合わせて行動できることが戦う者にとっては大事である。
広場の端まで退いていくウルブズ。
それを追う盗賊達。
そして盗賊が気を緩めた一瞬を突いてウォルトが切り込む。
虚を突かれた盗賊達はなんとかウォルトの攻撃を凌ぐが、背後や横からマルティナとクリストフに打ち込まてまた一人と散っていく。
そして両サイドの間に少しの間合いが開き、その間で互いの視線がぶつかり合う。
そして暫くの間、この緊張した膠着状態が続くのであった。
この膠着状態はウォルトが意図して起こしたものである。
あまり敵を追い詰めすぎると人質を盾に取るということを考えつくかもしれない。
そうなったら、伊織達が人質を逃しているのが見付かってしまう。
彼らの仕事はなんとか自分たちで倒せる、と錯覚させこの場に敵を集中させることだった。
――イオリ殿達はうまくやっているでしょうか。 作戦通りに事が運べばいいのですが・・・――
そう一抹の不安を抱くウォルトである。
ヴィンスは最高の目覚めになるはずだった1日を潰され、そして昨日のまだ酒が残っておりかなり不機嫌だった。
眠りこけている部下たちを起こしていく。
「おらぁ!! 表で騒ぎが起こってるってのにいつまでも眠りこけてんじゃねぇ!!」
そう言いながら部下を蹴り上げる。
「おめぇらぁ!!表の応援に行け!! それでこの騒ぎの原因をふんじばって俺の前に連れてきゃぁがれぇ!!」
そう檄を飛ばす。
慌てて部下たちは剣を持ち広場に駆け出していく。
ヴィンスは愛用の大きな蛮刀を引き付けつつ考えている。
――さっきの爆発音はどでかい魔法かなんかだ。 そんなもんを使えるのはこの村の中にはいねぇ、ならだ。 この騒ぎの主は外から来たってことだ!!――
そうヴィンスは結論付けた。
あんな大きな魔法を村人の誰かが使えるなら、最初に自分に向けて撃ってきたはずだし、その他にもチャンスはいくらでもあった。
――とするとだ、何の策もなくあんなドデカイのを使うわけはねぇ。 とすりゃあ本命は・・・――
「女共か!!!」
そう叫んだヴィンスはすぐに行動した。
「そこのお前らぁ!! 人質の確認に行くぞぉ! 付いて来やがれ!!」
そう言うと蛮刀を方に担ぎ、側にいた4名の盗賊を引き連れ食料庫に向かう。
――この邪眼のヴィンス様を出し抜こうなんて、百年はぇぇぜ!!――
そう意気込んで食料庫へ急ぐのだった。
食料庫が見えてくる、
しかし、表の見張りの二人がいない。
「あいつらぁ! どこほっつき歩いてやがるんだ!!」
そう舌打ち混じりに怒鳴り散らす。
彼らはというと、最初のファイヤーボールの爆発に釣られて持ち場を離れウルブズ達と対峙している。
ヴィンスが食料庫につくとすぐに扉を蹴破る。
しかし目に映るのは食料以外猫の子一匹いない室内であった。
「ちっっくしょぉう!! してやられたぁ!!!」
ヴィンスは蛮刀で麦の束を片手で薙ぎ払った。
それは真っ二つになり綺麗に回転しながら中を舞う。
ヴィンスはすぐに裏口へ真っすぐ走りだす。
そして裏口を出た途端、
「――待っていた。 悪いが此処から先は通す訳にはいかんな。」
奇妙な濃い青の薄手の服を着た男だ佇んでいた。
しかしヴィンスにはわかった。
この男から発する尋常ならざる圧力が・・・
そういうことで次回はいよいよ本命同士の戦いです。
クリストフは猪タイプですが、私はこう思います。
馬鹿とハサミと猪武者は使いよう。
このことをある金髪皇帝と黒い将軍に教えられました。
クリストフをよく使えるウォルフあってのウルブズです。