闇からの襲撃
血祭り・・・にしました
日付が変わり、パヤッバ村が盗賊達に占領されてから10日目の早朝。
昨日までの夜通しの製鉄作業がやっと終わり、村の男達は疲れ果て深い眠りに落ちていた。
また盗賊たちも夜通しの強化監視から開放されたのと、そして村人達からの鉄の収穫に喜び酒を喰らい眠りこけている。
今起きているのは、不運にも当番に当たってしまった見張りの者達だけである。
そして村の外にもこの時間に起きている者達がいる。
これから大騒動になるのを知っているのはこの五人のみであろう。
時は少し遡るが、会議の後伊織達はまる1日程を偵察と情報分析に費やした。
そして夜通し行われていた製鉄作業がその日の午後に終了したことを知った。
「前からの計画通り製鉄作業の終わった直後が疲労のピークだろう。今日の深夜、つまり明日の早朝が奇襲するには1番適している。」
伊織が主張する。
「そうですね、私も賛成です。 昨日の見張りと今日の見張りを比較して、警戒が緩んでいるようなら、決行するのがいいと思います。」
エリオットが賛意を示す。
「こういうことは機会を逃さないことが重要ですからね。」
「俺ぁ、そういうややこしいことは任せるぜ! 暴れろって言われた時に暴れるだけよ!!」
「グズグズしてたら村人達も危険なだけたからね! ぱぱっとやっつけちゃおう!!」
どうやらウルブズのメンバーも賛成のようだ。
「では、身支度を整えましょう。」
そう言うと順番に戦闘用の装備を身につける。
ここまで偵察が主な目的であったため、全員身軽かつ目立たない格好をしていた。
しばらくして、全員戦闘用の格好に着替え終わったようだ。
伊織も愛用の道着に袖を通し。
大小の刀を腰に差し込んでいる。
黒を貴重とした拵は闇の中でも目立たない。
「では、手筈通りに」
エリオットが言う。
「我々は夜明けと同時に正面から切り込めばいいんですね。」
「頼んだぞ、こちらはそれまでにうまくやっておこう。」
ウォルトと伊織も互いに確認しあう。
「まかしときなぁ!! 暴れまくってやるぜぇ!!」
クリストフは意気込む。
彼は一人で全員倒しそうな勢いだ。
「皆さん配置に着きましょう。 それでは、御武運を!」
エリオットの言葉に全員がうなずき、各々の配置へ着く。
それぞれ心に決意と誇りを抱きながら。
まだ誰もが眠り込んでおり、太陽もいまだ登っておらず顔を見せるには今しばらくの時が必要だ。
その闇の中を2つの影が蠢く。
森から出たそれは食料庫の裏手にいた一人の見張りへ音もなく近付く。
「あぁ? かはっ・・」
見張りが気配のする方向へ振り向いたその時、一瞬銀色の輝きが見えたと感じた次の瞬間には喉に熱い衝撃を感じそのまま息絶えた。
一声も発することは出来なかった。
伊織が脇差を振るい、喉を引き裂いたのだった。
脇差は太刀より軽く、素早く急所を攻撃したり狭い場所での戦闘などによく用いられる。
遣い手によっては太刀と同等かそれ以上に恐ろしい得物である。
その間にエリオットは音もなく櫓に上がる。
そして櫓の上にいた見張りの背後から首を絞める。
そのまま見張りの息の根を止めた。
そして見張りの死体を柱に寄りかかって立っているかのように櫓の柱に括りつけた。
そうしてエリオットが降りて行くまでの間に伊織は更に一名の見張りを始末している。
もちろんその見張りももうこの世から旅だったことだろう。
食料庫の見張りは村長の家に面した正面玄関を守る二名のみだ。
この二名はわざと残している。
その理由は村長宅から見た時に異常を気取られない様にするためだ。
瞬く間に三名の見張りを倒した伊織とエリオットの奪還チームは裏口から食料庫に入っていく。
食料庫の中にはざっと数えても50人位上の女性と子供たちが閉じ込められていた。
どうやら中に見張りの姿はないようだ。
というか倉庫なので間仕切りさせることもない一つの大きな部屋の中に、食料の間に人質達が毛布を被り寝ているだけだ。
そして一番近くにいた中年女性の口を塞ぎながら起こした。
「んん~~!! んーん!!」
「声を立てないで。 これが分かりますか? 私たちはハンターギルドの者です。」
そう言ってエリオットは右手をまくって女性に見せる。
ハンターの証である刺青が微かに光っている。
それを見た女性は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「我々はこの村の開放と盗賊団討伐の依頼を受けて来ました。 我々はあなた方の味方です。」
エリオットは落ち着かせるように女性に話しかける。
「手を放しますが、いいですか? 外にはまだ見張りがいますから絶対に大きな声を出さないで下さい。」
そう言って手を放す。
女性はぶはっと息を吐きだし乱れた呼吸を整える。そして、
「ありがとうございます・・・ 不安で不安でどうにかなってしまいそうでした。」
女性はそうエリオットたちに礼を言う。
「いいんです。 まだまだ成功した訳じゃありませんから。 その言葉は盗賊団を倒したらもう一度聞かせて下さい。 それはそうとこの中のまとめ役みたいな人はいますか? 会わせていただきたいのですが。」
そうエリオットは尋ねる。
この人数を一斉に動かすためには人質たち自身の協力も不可欠である。
そのためにはまとめ役にまとめてもらうのが一番の近道であるという判断からであった。
「それならレバン村長の奥さんがそうですよ。 今案内します。」
三人は静かに食料庫の中を移動する。
そしてすぐに目的の場所まで到達した。
すると女性がレバン婦人を起こす。
「ねぇ、奥さん。 起きてくださいな。」
そう静かに言いながら体を揺する。
「うぅぅん・・・なに? どうかしたの?」
「レバン村長の奥様でお間違いないですね。 我々はこの村の奪還と盗賊団の殲滅をレバン村長から依頼されたハンターです。 皆様方を助けに参りました。」
エリオットがそう婦人に言う。
もちろん右腕を見せながらだ。
「あぁ!お待ちしていました! 夫が最初に盗賊団に捕まった時に隙を見て助けを呼ぶと言っていましたが、もう来てくださったのですね!」
「はい。 村長の機転に私達も感謝しています。 それはそうと日が昇りだすと同時に仲間が村を正面から攻撃します。その隙に皆さんを安全な場所まで避難させますので、準備を急いで下さい。 しかし、表に見張りをわざと残してあるので、音を立てないようにして下さい。」
そうエリオットは婦人に簡単に説明した。
「分かりました! ではみんなを起こしながら年長者をリーダーにしてグループを作りましょう。 その方が行動しやすいですからね。」
そう言うと婦人は周りの者を静かに起し出す。
そして簡単に事情を説明して音を立てないように全員を集めていく。
流石に村長の妻として村の仕事にも携わってきただけあって判断も的確だ。
しばらくすると人質全員が集められた。
総勢で40人程である。
予想より少なかったのは、病気の老人たちは何も出来ないからと盗賊たちが人質として連れて来なかったからだという。
恐らく、人質としてここに閉じ込めている間に死なれて村人の反感を買うぐらいなら、自分の家にそのままにしておき、それで死んでしまったほうが盗賊団への反感を回避できるからという目論見もあるのだろう。
まだ自身で動くことのできる者はともかく、動くことの出来ない者は最悪食料庫に置いていくことも考えていただけに、動ける者のみで構成されていたのは伊織たちにとっても幸運であった。
「全員揃いました。」
そう言われた二人の前には総勢43名の女性と子供が並んでいた。
家族をバラバラにさせず、それでいて全部のグループに30代~40代の年長者のリーダーが付いている。
短時間でこの編成を作れる辺りが村を知り尽くした者と言えるだろう。
「私はエリオットと言います。 あなた方を助けに来たハンターです。」
「俺は伊織だ。 同じくこの依頼を受けたハンターだ。 これからの流れを説明するからしっかり聞いてほしい。 何、君たちに戦えなんて言うつもりはない。 安全な場所までしっかり走ってくれればそれでいい。」
二人はそう自己紹介する。
特に伊織は微笑みながら落ち着いた口調で話しかける。
目の前の者達をとにかく落ち着かせるように注意しているのがわかる。
「では、これからのことを説明する。 日が昇るとともに俺達の仲間が派手に切り込んでくるんだ。 その後俺達の合図で君達は裏口から南の森までなるべく静かに走って逃げてほしい。 もちろん安全な距離まで俺達がしっかり守るから安心してくれ。」
そう伊織はゆっくり説明した。
「何か質問はあるかな?」
「逃げた後はどうしたら良いの?」
静かに質問の声が上がる。
「事が終わるまで同じ場所で隠れていて下さい。私達が村の男の人達と必ず迎えに行きますから。」
エリオットがそう答える。
「他にはあるかな?」
「大丈夫です。 やりましょう!」
そう村長婦人が言う。
「どうせこのまま絞り取るだけ搾り取られて後は皆殺しかもせれません。 そんな死に方よりも助かる可能性に掛けましょう!」
そうみんなを励ます。
人質たちは皆一様に決意の目をしている。
「そうか。 もう時間もあまりない皆静かに裏口の方に移動してくれ。」
そう言って伊織は人質達を裏口側に案内する。
裏口の外に誰かいないかもう一度し、静かにその時を待った。
そしてしばらくして、
ズッゴォォーン!!!!
表の方から凄まじい爆発音が響いた。
どうやらこれが合図のようだ。
三人だけですがwww
次回こそ死屍累々!阿鼻叫喚を作ります!!!