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異世界の剣客  作者: dadandan
ペルーベンの街 
16/47

細工は流々、あとは仕上げを御覧じろ

久方ぶりの悪役さん

ペルーベンからも程近い山間の村。

鉄鉱石の採掘とその製鉄で生計を立てている平和な村だ。

遠くから聞こえる採掘の音と、製鉄所の賑やかな声が響いている。

そんな平和な村に突如として危機が訪れる。

盗賊団の来襲である。

それは静かにやってきた。

夜通しの製鉄作業が終了し、久しぶりに村が眠りについた時。

まずは(やぐら)の上で見張りをしていた若者五名を音もなく殺害。

その後真っ先にレバン村長の家に押しこみ村長の妻と15歳の娘を人質にそのまま夜を明かした。

そして夜明けに村長に広場に村人全員を集める様に指示した。

そして集まった村人達の前で盗賊団の首領は大声で叫んだ。

「お前たち!!よおぉく聞け!! 今からこの村はこの邪眼のヴィンス様の物だ!!!」

どこからともなく現れた垢染みた格好の者達に剣を突きつけられ、村の者達は始めてこの村が盗賊団の襲撃を受けたと知った。 

ただ一人の少年を除いては。

この少年の名はテッド。

この少年はまだ8歳だったが、父親が狩人をしていたので山道には明るかった。

そして村長が村の者を集める際にこの少年に手紙と路銀を渡し、ペルーベンへの使いを頼んだのである。

この少年は野山を駆けずり回り村を出てから3日後にペルーベンへ無事たどり着いたのは知っての通りであろう。

「いいか!! 女と子供はこっちに来い!!! おぉおっと!男共はその場を動くなよ!! 動いたやつは一家まとめてこの場で皆殺しだ!!!」

ヴィンスが指示を出す。

女と幼い子供たちは分けられて一箇所に集められる。 

「いいか!! 男共にはこれまで通り採掘と製鉄をしてもらう!! ただし出来た鉄は俺が全て貰うがなぁ!! もし逆らったり働かなかったやつは罰としてその落とし前を家族の女と子供に付けてもらう!!! もちろん体でなぁ!!!」

笑いながらヴィンスは言う。

周りの盗賊達も下卑た笑いを浮かべている。

「もちろんそのショーはこの広場で開催するぜぇ~!! 逆らった奴には特等席で妻か娘か母親が俺たちに可愛がられてるのをじっくり見ててもらうからなぁぁ!!」

ヴィンスは興奮気味に手を広げながら声高に叫んだ。

村の職人たちは家族の為に働かなければならなくなった。 

逆らえばこの世の地獄が待っているのだそれ以外に選択肢はなかった。

「もちろん!逆らわなきゃ女子供に手出しはしねぇ!! 俺は鉄で大儲けしたいだけなんだ!! 儲けた金で高級娼婦を嫌ってほど抱かせてもらうからなぁ!! こんな芋くせぇ所で使ってられねぇのさぁぁ!! ッゲッシャシャシャシャ!!」

下品な高笑いを浮かべつつヴィンスはそう叫ぶ。

こうしてバヤッパ村の地獄の日々は始まった。

そして一週間、この間に1度製鉄作業を終え次の製鉄もそろそろ終わる頃だ、そして出来上がった鉄全てをヴィンスに差し出していた。

しかしまだまだ足りないらしく、村人達に返って来たのは、

「次もよろしくなぁ!!ッゲッシャシャシャシャ!!」

という下品な笑い声だけだった。

ここまでレバン村長の抑えにより、まだ誰も逆らう人間はおらず、また女子供も誰一人として盗賊団の毒牙にかかった者はいなかった。

なぜ手を出してはいけないのかと、部下の一人に問われた際にヴィンスはこう答えた。

「いいかぁ!男共は馬なんだよ!! そんでもって女子供は餌だ!! 俺たちゃあ男共をしっかり走らせるために、餌を目の前にぶら下げとかなきゃならねえのさ!! その餌を俺達が食っちまったらどうしようもないじゃねえか!!! それに黙ってたって金の素が向こうから転がり込んでくるんだ!! それで俺がてめぇらに綺麗どころをフルコースで食わしてやるさ!!! ッゲッシャシャシャシャ!!!」

ヴィンスの言っていることは案外的を得ており、盗賊団にとって女子供は人質であると共に男達を御する手綱であった。

理由なく手を出し、男達に不信感を与えてしまえば集団で不意をついて襲ってくる可能性もある。

生かさず殺さず、男達にはしっかり働いてもらわなければ困るのだ。

しかし、数週間は続くかと思われたこの地獄のような状況が一変する時が来た。

そう伊織達の到着である。


伊織達はペルーベンを出てから2日目の昼過ぎにパヤッバ村に着いた。

正確にはパヤッバ村南の鬱蒼とした森の中だ。

彼らまず最初に村の遠くから偵察を始めることにした。

そしてその結果と元から得ていた情報を合わせ以下のことがわかった。

パヤッバ村は山の中腹の開けた踊り場の様なところにある村だ。

北側と南側は斜面になっており、両方共森が広がっている。

南側は全体的に鬱蒼としているが、北側の森は手入れがされているようだ。

これは、製鉄用の炭に木材も利用しているため、伐採した木を斜面を利用して運んでいるからだろう。

南西には街道へ続く村の出入り口、北東は鉱山へと続く道がつながっている。

製鉄所は村の北東、その隣が炭焼場だ。

中央西寄りのところに広場があり、ここで行商人の商店や出来た鉄を輸送するための馬車を付けたりする。

製鉄所から少し南へ行ったところにレバン村長の家があり、そこからまた南へ行った町外れに食料庫がある。 

これは万が一火災が起こった場合、食料への延焼を避けるためにわざわざ離して作られている。

村の警備の為に櫓が村の入口に2つ、広場の真ん中、製鉄所と炭焼場の間、食料庫の南東角にそれぞれ1つずつの計5つ建っている。

これがバヤッパ村の全体像だ。

これらの情報を総合して伊織達は作戦を煮詰めていく。

「まずバヤッパ村の住人は全部で何人ぐらいなんだ?」

伊織がエリオットに切り出す。

「そうですね。 資料によると現在は52世帯ですので恐らく110~120人といったところですね。」

エリオットが答える。

なぜ世帯数が正確にわかるかというと、パーカー共和国の税金は世帯にかかるようになっている。

なので、国の資料を見れば世帯数はわかるということだ。

もちろんこの資料はギルドが用意したものである。

「そうすると、大体半数程が女性と子供として合わせて60人か・・・ かなり多いな。」

伊織が呟く。

「その通りですね。 しかしそれほどの人数を一箇所に集められる建物は限られます。 製鉄所、炭焼場は作業に必要だから除外するとして、村長の家では製鉄所に近すぎます。 ですので残るは食料庫のみですね。」

ウォルトが村の概略図を指さしながらながらそう結論付けた。

「恐らくそうでしょうね。さしずめ村長の家は盗賊共の頭がふんぞり返っていることでしょう。」

エリオットが同意しつつ言う。

「とすれば簡単だ。 闇に紛れて食料庫近くの櫓の見張りを倒し、その後食料庫を制圧人質を奪還する。 後はウルブズが街道から堂々と進軍して陽動をかけつつ南の森へ人質を逃がす。 後は、」

「血祭りの始まりってわけだぁ・・」

伊織の言葉を受けクリストフが静かに唸る。

「そういうことだ。 ではその裏取りと警備の配置も偵察して更に情報を集めるとしよう。 製鉄作業をしているところから恐らく夜通ししているだろう。 ならば製鉄が終了した日の夜が狙い目だ。 見張りも男達も疲れきっているからな。」

伊織が全員に声をかける。

「「はい!」」

「おぅ!」

「うん!」

静かだが決意のこもった声が上がる。

そして伊織達は再び偵察に戻るのだった。

伊織の初依頼はどうやら順調に進んでいるらしい。



辺りは日が暮れ夜の帳が落ちる。

バヤッパ村は盗賊団が来てから9日目の夜である。

この日の日暮れまで製鉄作業を行なっており、村の男達にはかなり疲れが溜まっている。

9日で2回も製鉄作業をしているのだから疲れるのも、無理はなかった。

村長であるレバンもかなり披露が溜まっている。 

男達を抑えながらの製鉄の監督に村長としてヴィンスと交渉しなければならないのだ。

彼の苦労は並々ならぬものといえよう。

そしてそれはヴィンスとの配下の盗賊にも言えることだった。

彼らが夜通し作業をしている時は当然見張りの数も昼と同じ分用意しなければならない。

その結果盗賊一人ひとりの睡眠時間は減り疲労の色が蓄積してきている。

そしてこの日は製鉄作業も終わり、村の中が久しぶりに静になる日だ。

彼らは昨日までの疲れを存分に癒すのだった。

そんな村を見つめる五人の人物がいた。

そしてその中のひとりが呟く。

「細工は流々(りゅうりゅう)、あとは仕上げを御覧(ごろう)じろ。」


ということで次回

血祭りだぜぇ!!!

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