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異世界の剣客  作者: dadandan
ペルーベンの街 
14/47

マルティナの決意 アルフレッドの決意

「イオリ兄さん! 私に兄さんの剣を教えて下さい!!」

その言葉に驚いたのは、伊織よりもむしろその周りの人間達だった。

「そんな簡単に決めていいのか!マルティナ!! 確かにイオリ殿は強いが彼の剣術というものはかなり特殊なものだぞ!!」

ウォルトは心配そうに言う。

「そうだぜ! もう少し考えてからでも遅くねぇぜ?」

クリストフもあまりいい気はしないようだった。

しかしマルティナは、

「実は最近限界だなって思ってたんだ・・ウォルトもクリスもまだまだ伸びてるのに私は二人のアシストもうまく出来てない・・・」

そういつもになく静かに答える。

「必殺技って言ったってみんなの協力がなきゃうまくいかないし、二回目は通用しない・・私はこのままじゃダメなんだよ!!」

そう力強く言う。 普段天真爛漫を絵に書いた様なマルティナからは想像できない。

「いいんじゃないですか?」

ここでマルティナに助け舟をだす者が現れた。

「確かにマルタはこれまで自分の才能だけで強くなってきました。それは様々な状況が生み出した結果ですが、奇跡に近いことです。」

エリオットである。

彼は真剣な様子で続ける。

「しかし、マルタ自身が言うようにそれも限界に近づいています。 やはり誰かに師事するのが一番だと思いますよ。 イオリ殿ならばしかりやってくれるでしょう! 会ってから日も浅いですが、語り合い、相対し、共に戦った私にはわかります。 彼は信頼出来る人物です。やるといったからにはしっかりやってくれます。」

エリオットがそう締めくくる。

それを受けた伊織は静かに、だか重みのある声でマルティナに尋ねる。

「マルタ、俺は教わったようにしか教えられない。 かなり厳しいし、君が女だからといって手心を加える気は全くない。 ついてこれなければそれまでだし、険しい道になるぞ?」

伊織のその目は真剣だった。 そしてまっすぐマルティナだけを見つめる。

「はい!! 絶対に諦めない!! 私はもっと強くなりたいの!!」

マルティナは力強く答えた。

その目はまっすぐ強い眼差しだった。

――恐らくどれだけ辛いか想像もしていないだろうな・・ だが、俺もこんな目で父を、そして先生方を見ていたんだろう。――

伊織は少しだけ父の気持ちがわかったような気がした。

「わかった。 なら俺が剣術を教えよう。 だが、盗賊団の討伐依頼をこなしてからな。」

その言葉に一瞬全員が凍りつく。

「まさか、忘れていたのか? 何の為にここに集まったかを。」

伊織が全員に問いかける。

どうやらエリオットも含め立ち合いの印象が強烈過ぎて忘れていたようだった。

「まさか! 忘れる訳ないじゃないですか!!」

エリオットが取り繕う様にそう言った。

「そうですよ!! もちろん覚えていますとも!!」

ウォルトもそう続ける。

「我々ウルブズが陽動チーム、イオリ殿とエリオットさんが奪還チーム。 奪還チームの人質確保の合図とともに陽動チームが正面から陽動を掛け人質を安全な場所まで移動させた後、両チームで挟撃を仕掛けるんですよね?」

ウォルトが早口でそう確認する。

「そうだ。作戦の開始は夜明け直前。 まだ暗いうちに人質を確保し夜明け位に陽動がかかるのがベストだ。」

伊織が苦笑いを浮かべつつそう付け加えた。

「なかなかいい作戦じゃねぇか!」

「なかなかじゃありませんよ。最低限の人員でこなすにはかなりいい作戦です! しかも人間の注意力が一番落ちる夜明け前を狙うなんてかなりえげつないですしね。」

クリストフの言葉にウォルトが答えた。

「先ほどの立ち合いでも分かりましたが、イオリ殿はかなりの策士ですね。」

ウォルトはそう伊織に言う。

「こんなの策なんて程のものじゃないさ。 兵法の常道だよ。 先生から剣術と一緒に兵法も教わったからな。」

――相手の実力を削ぐ一番簡単な方法は敵に必要以上に警戒させることさね。 敵を萎縮させ反応を鈍らせるも良し、相手を焦らせて無策に攻撃させるも良し、要は最初が肝心ということだよ。――

これは大先生の言である。 

大先生は文武両道でなければならないとして、学校での勉強も疎かにすることはおろか兵法等戦術・戦略も叩きこんでいる。

――知性なき力はただの暴力じゃよ。 力を振るうべき時、刀を抜くべき時をしっかり判断できない者を育てるつもりはないのでな。――

この言葉は伊織が大先生に言われた言葉の中でも特に印象深いものの一つである。

「じゃあみなさんこの作戦に依存は無いですね?」

エリオットがそう全員に確認する。

その言葉に他の四人は頷く。

「ではこの五人で盗賊団討伐の依頼を受けます。 代表は私がなりましょう。 この中で最高ランクですからね。」

そうエリオットがまとめる。

「報酬は経費等を引いた後で全て山分け、詳しい金額は依頼を正式に受けてからということで。 ギルドには明日行きましょう。恐らく大丈夫だろうと思って受付嬢に話を通してありますから、誰かに先に取られてしまうことはありませんよ。」

「もう話を通してあるとはさすがに手際がいいな。」

伊織がそうエリオットに言う。

「もともとウルブズとは明日引き会わせる予定でしたから。その間に依頼がなくなるのも馬鹿馬鹿しいですからね。 しかし、村は危険に晒されたままです。できるだけ速く出発したいのですが、皆さんの方はいかがですか?」

エリオットが伊織の言葉を受けつつそう尋ねる。

「俺はこれから必要な物を買い揃えるところだ。 それさえ出来れば明日にでも出発できるぞ。」

伊織は答える。

「こちらもこれから準備をするとして、明日でしたら問題なく出発できます。」

「そうだな!! ハンターは身軽さが命だからな!!」

「そうだね~♪ チャチャッと終わらせてイオリ兄さんに修行つけてもらわなきゃ!!」

ウルブズも準備は簡単にできるらしい。

「では、明日の朝ギルドで依頼を受け取ったらその足で依頼の村に行きましょう! その村までは片道2日の距離です。 往復に4日、討伐と準備と後始末で5日程、全部で10日あれば足りるでしょう。 各自はそのつもりで支度をお願いします。」

エリオットがそう締めくくった。

「わかった。」

「わかりました。」

伊織とウォルトが言う。

「では、これで解散にしましょう! 皆さん必ず村を救いましょう!!」

「「「「おう!!!!」」」」

5人は力強くそう答えた。


こうして、この日の集まりは解散した。

ウルブズとエリオットはこれから支度をすると言って、各々自身の拠点に向かう。

そして伊織も支度の為に様々なものを買いにアルフレッドと二人で、商店地区に繰り出そうとしている。

「でもみなさんいい人たちのようで安心しました。」

そうアルフレッドが伊織に声をかけた。

「そうだな、エリオットのことは信頼していたが予想以上にいい若者たちだったよ。」

伊織はウルブズの三人を思い起こしながらそう答える。

「しかし、イオリさんの剣術ですか? 簡単に教えてしまっていいんですか?」

アルフレッドが尋ねる。

確かに伊織の剣術はこの世界のものではない。

そもそも伊織の流派は元の世界でも隠れるように細々と受け継がれていたものだ。

その証拠に現在の門人は伊織ただ一人なのだから。

「俺は、ここに飛ばされてきた理由を少し考えたんだ。」

そう伊織は話す。

「もしかしたら、この世界で俺にしかでいないことをしろ、と言われているのかもしれないとね。 だからマルタに剣術を教えようと思ったんだ。」

アルフレッドは伊織の顔をじっと見つめる。

伊織は顔を上げ遠くを見ているようだ。

「それに、人に教えることも修行のうちだよ。」

そうアルフレッドの方を向いて笑いながら答えた。

最後に、

「まぁ、マルタが修行に耐えられるかはわからないがな。 恐らくかなり衝撃的だと思うからな。」

そう締めくくった。

まるでかつての自分を思い出すかのような、懐かしそうな表情だった。

アルフレッドはこんな人に師事できるマルティナを少し羨ましく思った。

――僕も剣の才能があったらイオリさんに教えてもらえたかな・・・――

そう考えずにいられないアルフレッドであった。

だが、

――いや、イオリさんにならもう大事なことを教わったか。 僕は僕の道を進めばいいって! 僕のやり方でイオリさんを助けていこう!! それは僕にしか出来ないことだから!!――

「イオリさん! じゃあ色々買い揃えに行きましょう!! 服から日用品まで必要な物はいっぱいありますよ!!」

そう元気な声を響かせるのだった。

その目には寂しさや憂いは見受けられない。

清々しい笑顔である。

どこからか商店の客寄せの威勢のいい声が聞こえてくる。

私は盗賊討伐のことをここ数日忘れていましたwwww

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