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異世界の剣客  作者: dadandan
ペルーベンの街 
13/47

狼達との決着 そして一筋の光明

また毎日更新できたらいいなとおもいます。

マルティナは剣の修業というものをこれまでしたことがなかった。

もちろん自分でどういう風にすれば切れるか考え、振り込むことはあっても、誰かに教えを請うたことは一度もなかった。

全てを我流でこなしてきた。

そのマルティナの必殺の一撃を繰り出している。

何故ならば、これまで戦ってきた相手はこの技を受けきれなかったからだ。

剣を嗜むもの、そして実戦の中にいるものの多くは常識として頭上から斬りつけられるなどという事は考えもしない。

だからこそ反応が遅れ、マルティナの一撃を避けられないのだ。

「やああぁぁぁぁ!!!!」

今回も自分の一撃に何ら不安を感じることはなかった。

しかし、

「たぁぁ!!」

――えっ!?――

伊織はマルティナが打ち込むよりも速く、左に躱しながら横薙ぎにマルティナの胴体へ強かに打ち込んだ。

マルティナは腹に凄まじい衝撃を受けそのまま地面に落ち、悶絶する。

実戦であれば腹から背骨までバッサリ切り裂かれていただろう。

“慢心”そう言われればそうだったのかもしれない。

マルティナは一人薄れ行く意識の中で唐突に理解した。

――あぁ。 この人のこれが、“剣を遣う”ってことなんだ・・・――

そのままマルティナの意識は沈んでいった。


マルティナの一撃を逆に返されたことにウォルトはただ驚いていた。

最初にファイヤーボールを放ち、そこで仕留め切れない場合は次に同じ連携で今度は自分が斬りかかり、そしてそれも躱されればマルティナが仕留める。

幾重にも裏をかき相手の油断に付け入るこのコンビネーションで倒せなかった敵は、目の前に悠然と構えるこの男ただ一人だ。

――私たちはなんて人と立ち合っているんだ! もしかしたら、いや、もしかしなくてもウルブズ3人相手でも多分この人に手傷を負わせるのがやっとだろう・・――

ふと気付くと剣を持つ自身の手がカタカタと震えている。

――私は恐れているのか、イオリ殿のことを・・・ ただの訓練で命は取られないとわかっているのに・・・――

そして伊織がゆっくりと木刀を下げる。

右足を出し、両手で木刀を握り、そのまま木刀を左足の前方まで刀身を下げている。

ウォルトは知らないことだがこれは下段の構えである。

そして伊織の目線はウォルトをまっすぐ捉えている。

するとどうだろう、ウォルトの目には段々伊織が大きくなっていくように感じられる。

身体か2倍にも3倍にも膨れ上がり、そこから発せられる圧力で足がひとりでにジリジリと退いていく。

両の手はガクガクと震え背中は冷や汗でビッショリと濡れていた。

――勝てない・・この人には絶対に勝てない・・・――

そう思えば思うほどドンドン震えが大きくなっていく。

先程から伊織は微動だにしていないにも関わらず、ドンドン迫ってくる様な錯覚に襲われる。

「うぅ・うっ・ぅぅうおぉぉぉぉぉぉ!!!」

ウォルトは激しい雄叫びを上げた、普段の冷静で鋭敏な彼とは大違いだ。

全てをかなぐり捨てて、心の中に巣食った恐怖さえも押し出すように雄叫びを上げる。

そしてその雄叫びとともに伊織に真っ向から打ち込む。

何も考えずにひたすら全身全霊を持ってのウォルトの打ち込みだ。

「たああぁぁぁ!!!!」

しかし、

「えっ!?」

カツーン・・・

ウォルトの木剣がくるくると綺麗に中を舞う

余りにも呆気なかった。

ただ伊織はそのまま逆袈裟にウォルトの木剣の柄頭を打ち付けたのだ。

力むあまり全身に無駄な力が入ったウォルトの打ち込みは伊織にとっては隙だらけで何のことはなかった。

そしてそのまま、

「えぇい!!」

首筋を軽く打ち込む。

ウォルトは一瞬茫然自失の体だった、しかし

「・・・ふぅ、私の負けですね。」

静かにそうつぶやいた。

「いや、俺達の負けだぜ。 ウォルト・・・」

その声に振り返るとそこにはクリストフとエリオットがいた。

どうやらそちらもエリオットの勝利に終わったようだ。

そうか。 では、アルフレッド!」

いきなり声をかけられたアルフレッドは一瞬飛び上がった。

「はいぃぃ!! 何でしょうか!!!」

そう答える。

どうやらアルフレッドは立ち合いに見入っていて自分の仕事を忘れてしまったらしい。

「いや、修了の宣言をしてくれ。」

伊織が冷静にそう言う。

「あぁぁ!! そうでした!! では、この勝負は奪還チームの勝利です!!!」

そう右手を上げ宣言した。

ここに陽動チーム対奪還チームの模擬戦は終わった。

両者がこれから何を掴むかは、別として。



彼らはこの後もう一度食堂に戻った。

時刻は昼時をとうに過ぎており、食堂の中は閑散としたものだった。

マルティナは少し寝かせたら、ケロッとした表情で起き上がった。

ウルブズが負けたことに残念がりながらも、妙に納得していた。

そしてこの食堂で遅い昼飯を食べながらに今後の話し合いをすることにした。

「で、どうでしたか?イオリ殿の腕前は?」

エリオットが笑いながら聞く。

「想像以上でした。 状況判断といい剣の腕前といい、全くこれでランク1の新人だというのですから悪い冗談にしか聞こえませんよ。」

ウォルトはそう苦笑いを浮かべつつ答えた。

「本当だよ~!! 私の必殺技が躱されるなんて始めて!!」

そうマルティナも続けた。

「あれはすごかったですね。 完全に不意をついたというのに!」

ウォルトが振り返りつつ伊織に話を向ける。

「まぁあれはなぁ、なんというか俺はあの動きに慣れているんだよ。」

そう伊織が切り出す。

「俺の先生はお二方いらっしゃるんだが、そのうちの大先生が俺の胸ぐらいの身長しか無い小柄な方なんだよ。 そして大先生のよく用いられる技があれとそっくりなのだ・・・」

伊織は思い出すようにそう語る。

大先生は、小柄ながら剣の腕では並ぶものがなく、伊織はおろか若先生や伊織の父も満足に打ち込めた試しがないほどの剣の達人である。

そしてその小柄な体を生かして、相手の頭上を飛び越えざまに首筋の頸動脈のみを跳ね斬るという戦い方を好んで用いる。

しかも180cm程の伊織ならまだしもそれ以上に身長の高い若先生の頭上も軽々飛び越えてみせるのだ。

もちろんその打ち込みの鋭さは凄まじいの一言である。

このようなものを日常的に食らい続けている伊織だからこそ、マルティナの動きにも躱しながらも逆に打ち込む余裕すら有ったわけだ。

「同じタイミングで来るならば、後3倍は鋭い打込みが出来ねば俺にはかすりもしない。」

というわけである。

「つくづく出鱈目なお師匠様ですね・・・ 一度お会いして、色々ご教授を賜りたいものです。」

ウォルトがそう呆れ顔でそう言った。

実はにわかには信じられないのだが、伊織の強さを目の当たりにしているので恐らく事実であろうと考えた次第だった。

「それはそうと、マルタ。 君は剣を習ったことは一度もないだろう。」

伊織が唐突にそう言った。

「えっっ!? あぁ!そうだよ! まぁ剣なんて切れればいいからね~、使いやすいように使ってる~♪」

そうマルティナが答える。

すると、

「いや、もったいなさすぎるぞ!! しっかりと基礎ができていないから、才能を生かしきれていない!! ウォルトもそうだ!! あそこで俺に剣を飛ばされたのはしっかり手の内を閉めて握っていないからだ!!」

そう伊織は珍しく興奮気味に言う。

「特にマルティナはしっかり剣術を身につければまだまだ伸びるだけの剣才があるぞ!!」

伊織は締めくくる。

「本当に!! あたし、もっと強くなれる!?」

興奮気味に聞くマルティナ。

「恐らくな。 まぁ本当なら先生方にお願いしたほうが手っ取り早いんだが基本なら俺が教えられるしな。 それだけでもかなり良くなると思うぞ?」

そう言われたマルティナの目には輝きが満ちていた。

実はマルティナが剣を習わなかったのは大きな理由がある。

それは教えてくれる先生がいなかったからだ。

この時代、共和国ではかなり女が進出してきているが、元来騎士や冒険者など戦いを生業とする職業には男がなってきていた。

なので女であるマルティナはどんなに才能があろうと門前払いを食ってしまっていた。

しかし伊織は違った。

伊織の時代には女剣士は珍しくなかったし、実際若先生の奥方様もかなりの腕を持っている。

伊織は女だからといって教えないことはなかった。

もちろん内容は男と同じでありついてこれないものに教える気はないが。

しかしマルティナに取ってはかなり嬉しかったであろう。

恐らく一筋の光明のように写っていたはずだ。

もうマルティナの言葉は決まっていた。

「イオリ兄さん! あたしに兄さんの剣を教えて下さい!!」

遂に口にしてしまった。

マルティナは光明へと歩き出した。

それがどんな茨の道であるかもわからずに・・・



ということで、この世界での剣術修得者第一号はマルティナになりました。

元々誰かに習わせようと思っていましたので。

その修行風景はまた別の機会に。

そしてウォルトの怯えっぷりですが、なまじ武の心得があるからこそ伊織の凄まじい剣気にのまれています。

エリオットや伊織やクリストフの場合はそれを心地いいと感じる真性のバトルジャンキーなので、この役回りはウォルトにさせました。

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