狼達の実力
少し遅れてしまいまして申し訳ありません。
一応火曜日更新出来ました。
太陽もまだ高く、時刻は昼時を過ぎ人々は一時の休息を終え仕事に精を出す。
しかしこの宿の中庭に集まった人間たちの間には独特の空気が流れている。
緊張・興奮・高揚感それらが絶妙に交わった独特の空気、そうこれを戦場と言う。
アルフレッドは一人戦場を眺めている。
自分には入り込めない世界。
しかしそこで行われることを一瞬たりとも見逃したくはなかった。
そう考えより一層集中するのだった。
一方アルフレッドが出たのを確認した後ウォルトが再びウォールを張り直す。
先程と全く同じように中庭全体を障壁が覆う。
「ウォルト、魔法との戦闘経験をなるべく多く積んでおきたい。 だから魔法を多く使うようにして欲しいのだが?」
伊織はウォルトに声をかけた。
「イオリ殿とエリオットさんが相手です。元よりそのつもりですよ。出し惜しみをする気はありません!」
ウォルトは答える。
「しかし、“魔法を使うな“と言われるるのは多いですが、”魔法を使え”と言われるるのはなかなかありませんがね。」
ウォルトはそう続けた。
魔法戦士であるウォルトにとって魔法は自身の大きなアドバンテージになっている。
もちろん剣の腕は相当のものであるのだが、魔法とのコンビネーションが彼の持ち味である。
基本ルールは死なないように、重症を与えないように、障壁が壊れたらその時点で一旦戦闘停止、あとはなんでもよし!っと決まった。
そしてお互いに作戦会議に入った。
「イオリ殿、ウルブズはハンターチームの中でも有数のチームワークです。三人揃えばかなりの実力を発揮します。」
エリオットは伊織にそう話した。
「そうだな、エリオットはチーム彼らとこうして模擬戦をするのははじめてか?」
「はい。 一人一人とは立ち合いの経験がありますが、ウルブズ全員と一度にやるのは初めてですね。」
「なるほど、ならば相手どうこうよりもこちらのコンビネーションが重要になってくるな。」
そう伊織はエリオットに答える。
「そうですね。こちらはまだ出来立てのチームですからね。 ではどの様に動きましょうか?」
「そうだな・・・こちらに高度なチームプレーなどできない。ならばお互いの能力を殺さないように動けばいいだろう。」
「そうですね。では基本戦略はさしずめ“お互い頑張れ”と言ったところでしょうか。」
笑いながらエリオットが言う。
「まぁそんなところだろう。しかしそれだけでは芸がないな・・」
そう言うとエリオットに耳打ちをする。するとエリオットは、
「それは作戦と言うより、もう嫌がらせに近いですね。」
呆れながら言う。
「そんなことはないぞ、相手の出鼻を挫くのは有効な手さ。」
少しイタズラっぽい顔をして笑う。
――敵の長所を殺し短所を突く。それが勝つためには一番手っ取り早いのさ――
そう大先生が言ったのを思い起こす伊織である。
互いの作戦会議も終わり、準備が整う。
ウルブズの陣形は縦1列に並び前からクリストフ、ウォルト、マルティナの順番に並んでいる。
一方伊織達はと言うと、左右に少し離れて並んでいるだけだ。
伊織が右側、エリオットが左側だ。
開始の合図はこの場で唯一外にいるアルフレッドに任せれた。
「両方ともいいですね!」
アルフレッドが最終確認をする。
それに伊織とウォルトが答える。
「それでは・・・ 初め!!」
アルフレッドの合図とともに、
「うぅおおおおぉぉぉぉ!!!!」
凄まじい雄叫びを上げながらクリストフが突っ込む。
そしてまっすぐ伊織に向かってくる。
まずは厄介な伊織から片付けようということらしい。
「どぉうっりゃぁぁぁぁ!!!」
振りかぶった戦鎚を伊織に叩きつける。
訓練用で木製であるとはいえ、クリストフの一撃はそれだけでも相当な威力だった。
しかしその戦鎚が伊織を捉えることはなかった。
「おい!! どこいくっ!!!」
エリオットと伊織はクリストフを躱すとそのまま無視して走る。
残されたクリストフは叫びながら態勢を立て直そうとする。
そして伊織達のその目指す先は、もちろん
「はぁっ!!」
先に到達したエリオットが槍を突き出す。
「ちぃぃ!!」
その槍を左の盾で受け流すウォルト。
「ったあぁぁ!!」
そしてウォルトは右手の剣で切りつける。
「ふっ!!」
しかしエリオットは左足を軸に一回転しながら剣を躱しつつ、その遠心力を使って右薙に槍を叩きつけた。
そしてその槍をウォルトは躱された剣を起し両手で支えつつ槍を受けた。
ウォルトの剣とエリオットの槍がぶつかる。
「まさか最初から私を狙ってくるとは、考えましたねぇ!」
ウォルトはそうエリオットに言う。
「まぁイオリ殿の策ですよ。 それに未だ終わっていません。」
「なっ!?」
その声に答えるかのようにウォルトの背後から伊織が迫る。
左手に納刀するように木刀を持ち猛然と迫ってくる。
伊織はクリストフの一撃を躱した後背後に周る。エリオットの後詰としてウォルトに打ち込み、確実に頭を潰そうと考えていた。
ウォルトを抜き打ちにしようとした瞬間伊織は転がるように飛び退いた。
先程までウォルトがいた場所に小さな木製の棒が3本刺さっていた。
そしてウォルトの背後にマルティナが割って入った。
「へぇ~・・完璧なタイミングだと思ったのに。あれ躱しちゃうんだ!」
そう言いながら2本のショートソードを構える。
「確かにあれはよかった。 周りに注意を払っていなければ当たっていたよ。」
マルティナは技巧派の剣士だ。
2本のショートソードと共に投げナイフも遣う。
トリッキーな動きで相手を翻弄し、その隙を突いて一撃で急所を狙う戦い方を好む。
そして
「っらぁぁぁぁ!!!」
エリオットの背後からクリストフが戦鎚を繰り出す。
エリオットも一旦飛び退って躱し態勢を立て直す。
ウォルトを中心に背後にマルティナと伊織が、正面にクリストフとエリオットが向かい合っている。
――どちらもこのままでは劣勢。しかし二人の内どちらかを自由にしてしまうのは非常にまずい。 この状況下で私がどう動くかで戦況が変わりますね・・・――
ウォルトは判断に迷う。 クリストフとマルティナはどちらも一対一では厳しいが三人を集中すれば背後を取られかねない。
したがって、ウォルトはどちらかに味方せざる負えなかった。
そして、
「クリストフ、暫くの間エリオットさんを抑えておいて下さい。 その間に私とマルティナでイオリ殿を倒します。」
「まかしとけ!! エリオットの兄貴と久しぶりにサシで勝負できるぜ!! そっちは気にしねぇでゆっくりやりな!!!」
「感謝します。 行きますよ!!マルティナ!!」
「は~い♪」
そう言うとウルブズはそれぞれ動き出した。
伊織はまだ木刀を左手に携えつつじっと佇んでいた。
マルティナは一直線に伊織に向かう。
ぐんぐん伊織との距離が近くなる。
そしてマルティナは伊織に斬りかかろうとしたその瞬間
「えいっっ!!」
伊織が一歩踏み込みつつ、抜き打ちを放つ。
マルティナは当たる寸前で何とか転がり躱した。
「なにそれ!! そんな姿勢から斬りつけるなんてずっこい!!」
口を尖らせながら言う。
しかしそのまま伊織は間髪を容れず斬りかかる。
伊織の鋭い打ち込みにマルティナは両方の剣で受け流すのがやっとだ。
――うっそぉ・・何この人、一撃一撃が速いのに凄く重い!しかもあらゆる方向から即座に打ち込んでくる・・・ 全然切り返す暇なんか無いじゃん!!――
マルティナは必死になって伊織の打ち込みを捌き続ける。 しかしそれももう限界に近いみたいだ。
その時マルティナが急に高く飛びながらバック宙をする。
するとすぐ背後から人の体ほどの火球が飛んでくる。
マルティナが先に仕掛け、伊織の注意を引いている間に、ウォルトは通常の3倍ほどの大きさのファイヤーボールを唱えていた。
魔法は詠唱の速度や込める魔力、熟練度によって様々であり、今のはウォルトが最大まで大きくしたファイヤーボールであった。
速度も遅く詠唱には時間が掛かるが攻撃範囲は絶大なものだった。
そしてこの二人はそれを阿吽の呼吸でやってのけたのだった。
伊織が火球の存在に気付いた時点で既にかなり近くまで接近していた。
伊織はとっさに飛び退りながら背中から地面に倒れこんだ。
そしてファイヤーボールはゆっくりと伊織の上を通り過ぎ、障壁に当たると
ズッゴオオォォォォンンン
かなり大きな音を立てて爆発した。
――今のはかなり危なかった。 火球の下に空間があるのを見つけなければ直撃していたな・・・もっとも――
そう思いつつ伊織は少し焦げた道着を見る。 まだチリチリと音を発てている。
「たぁぁぁ!!!」
マルティナはこの機を逃さずに、伊織の上から覆いかぶさるように剣を突き立てながら飛び掛かる。
伊織は素早く左に転がるとそこから立ち上がった。
しかしマルティナの攻勢は終わらない。立ち上がった伊織にむかってドンドン打ち込んでくる。
今度は伊織が防戦一方になる。
――なるほど、マルティナが俺の動きを牽制しウォルトが魔法で俺を狙うか・・・やっかいなコンビネーションだ!――
そう伊織が思った瞬間マルティナがまた飛び退る。
今度も魔法が来ると考えマルティナの方に意識を集中させる伊織。
しかし飛んできたものは魔法ではなかった。
「はぁっ!!」
なんと左からウォルトが打ち込んできた。
「おぉぉう!!」
しかし伊織はなんとか反応し右足を軸に向き直りつつウォルトと剣を合わせる。
二人は切り結んだ形になる。
「まさかこれも受けられるとは思いませんでしたよ!!」
「かなり危なかったな・・・もう少し鋭ければ避けるしか無かったな。」
「それでも避けるんですか!!ほんとデタラメですねぇ!!!」
そう言いながらウォルトは伊織を押し返す。
伊織はその力に逆らわずにウォルトから離れた。
「ああぁぁ!!」
するとマルティナが伊織の方に突っ込んできた。
そして地面を蹴りあげ伊織へ向け飛び上がった。
「やああぁぁぁぁ!!!!」
伊織の頭上を飛び越えながら斬りかかるのだった。
少し中途半端ですが続きは次回ということで。
ウォルトのバックラーはそこまで大きいものではありません。
そしてクリストフの戦鎚はメイスのようなものではなく、両手で使う金槌のようなものです。
打つ部分の裏には返しが付いていて、馬上の敵を引きずりおろせるようになっています。