戦いの後 深まる友情
勝負。
それは一瞬の攻防の連続だ。
同じ相手と長い時間戦うことなど通常ありえない。
命を奪い合う戦いの場合長くても数分の間にどちらかの命は無くなっている。
短ければわずか一手だ。
伊織とエリオットの立ち合いも実際の時間ではほんの2分ほどだっただろう。
だからといって二人が弱いのだろうか―― それは違う。
この2分間の中にお互いの力を出し合った。
そして二人の力が高かったからこそ、2分も決着がつかなかったのである。
実際この立ち合いを見ていた四人は口をそろえてこう言った。
この二人以外の時が止まっているようだったと。
当事者の二人はというと先程までの気合はどこへやら、笑い合いながら話している。
そして呆然としていた四人の中で最初に我に返ったのはウォルトであった。
そしてそそくさと自分で発動したウォールを解除する。
ウォールはその名の通り障壁を作り出す。音や光は通すが、一定以上の質量とエネルギーを持ったものを遮る性質がある。
解除しなければ中の人間は出ることは出来ないし、入ることも出来ない。
ウォルトがウォールを解除した頃ようやく残りの三人も帰って来たようだ。
四人で伊織達の下に進む。
「いやぁ・・イオリ殿がまさかエリオットさんに勝ってしまうとは・・・ 実力者だろうとは思っていましたがこれほどとは・・・」
ウォルトがそう伊織に声をかけた。
「基本的に槍は剣より有利なのが一般的ですからね。 実際エリオットさんが負けるところを初めて見ましたよ。」
エリオットが負けたのがかなり衝撃的のようだった。そうウォルトは言葉を続けた。
エリオットは実は最年少のランク3のハンターである。
そして通常ランク3になるまでに10年はかかると言われているので現在24歳のエリオットがいかに実力を認められているかがわかる。
その戦闘力に加え多くの実戦経験に裏打ちされた状況判断能力と対応能力はギルド上層部でも高く評価されており、次代のギルドを率いていくであろうと期待されている。
「そんなことはない。元々俺にかなり有利な状況だったからな。」
そう伊織が言う。
「なんだぁ? そりゃあどういうこったよ?」
クリストフがそう伊織に聞く。
エリオット以外伊織の言葉が信じられないといった感じである。
「つまりは、情報の差だよ。」
伊織が答える。
「エリオットは恐らく俺のような戦い方は初めて経験するものだろう。 俺の実力からどのような戦い方をするかまで全く分からない状況から立ち合わなければならなかった。」
「その通りです。だから最初はイオリ殿の剣を観察し見切るところから始めようとしました。 まぁその結果虚を突かれ出鼻を挫かれることになりました。」
エリオットが伊織の言葉を受けて続けて説明する。
「それに対し俺はもっと状況が掴みやすかった。 槍という武器は長く有利だが、攻撃のパターンは概ね決まっている。 その長さを活かし相手の一点を突く。基本戦法はこれに限る。 人を殺すということを考えれば、刃の付いているのはそこしか無いからな。」
伊織が自分の状況を更に付け加えた。
「なるほどね~・・一旦敵に近付かれたら防戦一方ってことだ。」
マルティナは納得したようにそう言う。
伊織が続ける。
「まぁエリオットの反応が予想以上に鋭かったから、俺も攻めきれなかったがな。特に突きを躱した態勢から追撃まで止められるとは思わなかった。」
「あの連撃は本当に危なかった。自分でも無意識でしたよ・・・」
そうエリオットは笑いながら答える。
「いや、あの反応はかなり良かった。 恐らく追撃を意識してああやって躱したのだろう。 あれ以外なら槍を手放すしか無かった。しかもそこから反撃に出るとは。」
「結局止められましたけどね。」
二人は笑いながらお互いを称えている。
この立ち合いを通してかなり意気投合している。
「しかし最後の一撃はすごかったです。 態勢を崩されて全く動けませんでした。 実戦なら右腕が使えなくなるところでしたよ。」
エリオットが思い出しながらそう言う。
「あの一撃は、どういったものなんですか?」
エリオットが続けて尋ねる。
「あれか・・あれは槍等の武器を相手にする時のうちの流派の極意の一つさ。 相手の態勢を崩しつつ、得物の柄を伝い動きを封じて攻撃に移る攻防一体の技だ。 あの技を使われたら待っているのは死だ。」
伊織はそう答えた。
実際に剣術の中には槍などの長物を相手にした場合の対処技も多い。
中でも伊織の使った技はあの状態から手の内の回転による遠心力を利用することで少ない動作でも相手の腕を断ち切る事ができる。
もちろんあの状態から首を狙った場合は造作なく半分ほど落とすことが出来る。
一度技がかかれば相手に許されるのは、そのまま絶命するか、退いて絶命する位置を後方に少し移動させるかだけである。
「確かに、あれを実戦で受けるのは避けたいですね。」
エリオットは納得しつつそう言った
「考えていたのですが・・」
ウォルトが伊織に尋ねる。
「イオリ殿の剣は私が知るかぎりかなり特殊なもののようですね。 あのような構え方は見たことがありません。」
「そうだな・・・実際に見てもらったほうが早いな。」
そう言うと伊織は自身の刀を取る。
そし太刀を抜き払う。
「俺が用いるのはこの剣だ。刀というもので、片刃で反りがある。 そしてこの刀の威力を最大限遣うための方法が俺の剣術だ。」
伊織は刀を見せつつ話す。
「すごく美しい剣ですね・・・ でもなぜこんな反りがあるんですか?それに側面の溝はなんであるんですか?」
アルフレッドが刀の刀身を見ながら伊織に尋ねた。
「どちらも斬るために重要だからだ。 人間が剣を振れば必ず円を描くような起動になるだろう。 だから反りがある方が斬り易いんだ。 そして刀身の側面、鎬っていうんだがここにある溝は樋といって刀自体の強度を増すためにあるんだ。」
伊織が丁寧に説明している。
エリオット・ウォルト・アルフレッドは興味深げに聞いているが、クリストフとマルティナはあまりわかっていないようだ。
「あぁぁ~要は都合がいいってことか!!」
クリストフはそう結論付けたらしい。
「まぁそのとおりだな。 刀は斬ることが目的の武器だから引くことで最大の切れ味を発揮するんだ。 生身だったらこのまま引くだけで刀の重みで骨まで切れるから注意してくれ。」
伊織がクリストフに対して少し微笑ましく思いながらそう続けた。
「そうすると・・もしさっきのが実戦だったら・・・」
「あぁ。 完全に右手は無くなってたな。」
エリオットが恐る恐る聞いたのへ伊織は二の句を継いだ。
「なるほど。 かなり斬ることに特化した武術なんですね。」
ウォルトがそう言う。
「そうだな。実際突き技もあるが、首筋に刀身を押し付けるようにするから実際には斬っているという表現のほうが正しいな。」
伊織は丁寧に答えていく。
「今思い出しました!! そういえば野盗達と戦った時も六人全員革鎧ごとバッサリ斬っていましたね!!」
アルフレッドが唐突にそう言う。 助けられた時に伊織が斬り伏せた野盗達のことを言っているのだろう。
「その話が冗談じゃないって今ならわかるよ・・あんな腕なら野盗共なんかじゃ束になったんて敵うわけ無いわ・・」
「えぇ、本当にその通りですね・・・」
アルティナとウォルトが呟いた。 どうやらエリオットから事前に説明されていたようだがあまり信じていなかったようだ。
「すげぇぜ!! なぁなぁ!!俺もあんたと立ち合いたいんだけどいいか!?」
クリストフは興奮気味に伊織に立ち会いを求める。
どうやら伊織の強さを目の当たりにして自分も戦いたい衝動を抑えられなくなったようだった。
「ちょっと待ってくださいクリス!! 私が最初です!こういうものはリーダーが先陣を切るのが一番です。」
ウォルトが待ったをかける。そこに
「いーよいーよ!! ウォルトはリーダーなんだから最後まで後ろでふんぞり返ってて♪ だからここは私が一番手ってことでさー♪」
「ちょっと待てよ!!俺が最初に言ったんだぞ!!最初は俺に決まってんだろ」
気付くとウルブズのメンバーが内乱を起こしている。
がやがやと賑やかに喧嘩しているが一向に意見はまとまらない。
「そうだ!!」
するとエリオットが急に大きな声を出す。
「いいことを思いつきました! 奪還チーム対陽動チームにしましょう!! そうすればお互い戦力が拮抗するだろうし、こちらのチームワークの確認にもなりますからね!!」
エリオットが提案する。
「なるほど、確かに個人の差ではこちらのほうが不利でもウルブズとして戦えばいい勝負が出来そうですね。 それで行きましょう! 二人も文句はありませんね!!」
「まぁ、それがいいかもだな! エリオットの兄貴ともやれるしな!!」
「私も問題なし!!」
どうやらウルブズはやる気のようだ。
「俺もそれで構わない。 だが少しエリオットと相談する時間をくれ。実際に戦う前に確認したいからな。」
伊織がそう言う。
「もちろんです。こちらも合わせたいことがありますので。」
「よし!では決まりですね!!」
こうして奪還チーム対陽動チームでのチーム戦が開始されることになった。
この中庭での立ち合いはまだまだ終わらない様である。
今回は前回の説明と剣術についてという感じでした。
しかしこの長物への対処法は凄く理にかなっています。
そして次回はまたバトル回なのですがここでお詫びがあります。
2~3日出かけるので更新はお休みいたします。
恐らく、月曜日か火曜日が次回の更新になるかと思います。
申し訳ありませんがご了承下さいませ。
まぁ楽しみにされている方はそんなに多くないと思いますがww
誤字を修正しました。