勝負 刹那の攻防
先にお詫びしておきます。
伊織とエリオットが全力でぶっ飛んだ立ち会いをしてくれたため、大変状況がつかみにくくなっております。
ゆっくりと脳内で二人の動きをイメージしながら読んで頂くことを強くお勧めいたします。
ご自宅で実際に動きながら読んで頂くとわかりやすいかと思います。
時刻は昼を少し過ぎた辺り。
ペルーベンの街は昼食時の賑わいに包まれていた。
しかしここダイクの宿だけは例外だったといえよう。
この宿の中庭で今二人の男が向き合っている。
その二人の間だけ緊張感と高揚感の入り混じった独特の空気が流れていた。
この場にいるもので恐らくこの空気を味わったことのある者はそう多くはいないであろう。
そして味わった者はすぐさま理解した。
――戦いの空気であると。
伊織とエリオットは向かい合ったまま身動ぎひとつしない。
エリオットは腰を落とし、左足を大きく下げ右半身の形で石突がわずかに左手の後方の位置に来るように両手で構えている。
これは相手がどのように動いても即座に対応できる構えだ。
エリオットは多くの実戦でその腕を磨いてきた。
その経験を最大限活かせる構えである。
そしてエリオットの槍は自身の背より少し高い程度の長さの槍だ。
これは実戦において取り回しの良さを重視した長さである。
――あれは構えなのでしょうか・・あんな構えは見たことがありません――
しかしエリオットは困惑していた。
それもそのはずだった。
伊織はというと木刀を右手に引っさげたまま立っているだけだ。
――一見すると隙だらけのようで、全く攻め入る隙がありませんね。――
エリオットは得体の知れない恐怖を感じていた。
そしてエリオットが攻めあぐねていると、伊織はそのままするすると近づいてきた。
お互いの距離がドンドン狭まっていく。
「やあ!!」
エリオットが踏み込みと共に槍を突き入れる。
鋭い一撃は正確に伊織の心臓をめがけ突かれる。
穂先が伊織を捉えるかと思われた瞬間、伊織は滑るように右に躱した。
そして伊織は更に進みつつ身体を捻り片手で右から逆袈裟に打ち込んだ。
パッアァァン!!
乾いた音が響き渡る。
エリオットは躱された槍を身体へ引き付ける様に起こすことで伊織の太刀を受け止めたのだった。
伊織は槍を抑えながら身体を入れる。
ここで二人は切り結んだ形になる。
エリオットが自分の姿勢の有利を活かし力を込める。
しかし伊織はすぐさま飛び退り木刀を構えたのだった。
――なんてすごいんだこの人は!!――
エリオットは高まる興奮を抑えられなかった。
――最初私ははどのように打ち込まれても対応できる構えを取っていた。 そしてイオリ殿の剣を見切ろうとしていた。 しかしイオリ殿はそれを見ぬいて私から突きを出すように仕向けたのか!!――
ふと、気付いた時にはエリオットは笑っていた。
――こんなにも強い人に会えるなんて――
エリオットは嬉しくてしょうがなかった。
この瞬間に己の全力を注ごうと改めて意気込んだ。
一方の伊織もエリオットの強さをひしひしと感じていた。
――即座に反応してきたか。しかもあそこで退かなければ顔面に石突が飛んできたな。やはり立ち合いを受けて正解だった。――
伊織は木刀を構える。
今度は先ほどのような相手の虚をつくものではない。
右足を前にし相手向け左足は後方で垂直に向ける。 太刀は両手で正眼の構えだ。
エリオットもまた槍を構え直す。
そして今度はエリオットから動く。
「はあっ!!」
裂帛の気合とともに伊織へ突きを入れる。
ズパァァン!
今度は伊織は退きつつに槍の柄を斜め上から打ち据える事で穂先を逸らせていく。
しかしエリオットは怯まない。
すぐさま槍を戻しつつ続けて突き入れる。
しかしまたもや伊織に柄を打ち据えられる。
パァァン! パァン!パァン!パァン!
何度エリオットが突きを繰り出しても打ち据えられてしまう。
しかし次の瞬間、槍を打ち据えた伊織の木刀がそこから自分に向けまっすぐ跳ね上がってくるのをエリオットは捉えた。
伊織はエリオットの突きに対し退きながらも反撃の機会を伺っていた。
そしてこの瞬間動いたのである。
一度下がって槍を打ち据えた後、一気に踏み込むと同時にエリオットへ向け突きを放ったのだ。
「ええぇいっ!!」
伊織の気合声と共に放たれた突きはかなりの鋭さだった。
しかしエリオットはこの突きに反応してみせた。
とっさに左膝を地面に付け、まるで膝ま付くかのように体勢を低くすることでこれを何とか躱した。
しかし伊織はそのエリオットの動きに突きの状態から小さく振りかぶるとそのまま真下にいるエリオットに打ち込んだ。
「おぉぉぉ!!!」
パァァン!!!
しかしエリオットは伊織が振りかぶるその一瞬の間に槍を引き付け頭上に構えることで伊織の打ち込みを受け止める。
しかしエリオットは右腕と左腕を交差させたかなり無理な体勢で受けていた。
右腕を自身の右側に戻そうとすると、槍が伊織の身体に引っかかり遅れてしまうからだ。
この一連の流れは、わずか2秒ほどの間に起こったことである。
伊織の突き、そしてそこからの追撃も申し分の無いものだった。
しかしそれよりもその突きを躱し、更に追撃の打ち込みまで受け止めたエリオットの反射神経と対応能力は群を抜いていた。
実際にこの世界の人間が伊織の剣術を体験するのはエリオットが初めてであった。
初めて見る戦い方なのである。
それに対しここまで付いて来て見せるのは、並のものでは出来ないであろう。
二人は切り結んだまま膠着していた。
無理な姿勢を取っているエリオットのほうが不利であった。
しかしここからエリオットは逆転の一手を打つ。
その状態から伊織の木刀を自身の右回りに受け流す様に大きく槍を回しながら立ち上がったのだ。
そしてそこから槍を寝かせつつ左足を踏み込み伊織の頭目掛けて石突を突き込もうとしている。
だが伊織もただ留まってはずはなかった。
伊織はエリオットが受け流しつつ立ち上がるのに合わせ左足を踏み込み左肩を木刀に合わせるように身体を入れていった。
エリオットは左足を踏み込むことで伊織の圧力に耐える。
こうして三度切り結んだままの膠着状態になる。
お互いに十分に力を込めることが出来るのでほぼ互角と言える。
したがって純粋な力比べになる。
しかしその場合エリオットは体格差で伊織に及ばない。
今度はエリオットの方から距離をとった。またお互いの間合いが開いた。
そしてお互いに得物を構え直す。
――少しの油断も出来ない・・・ こんなに強い人は師匠以来だ!!――
エリオットは全身から汗が滝のように流れていた。
一方伊織もエリオットの実力は想像以上であった。
――エリオットはかなり強い!彼がしっかり刀との戦いに慣れていたら、もしかしたら3本に1本は取られるかもしれない。 しかしだ――
伊織は下段に構える。
この時伊織は勝ちを確信していた。
エリオットは先程よりも腰を落として構える。 そして、
「ハアァァッ!!」
エリオットが渾身の力を持って槍を突き入れる。
それはエリオットの最速の突きである。
未だかつて師匠以外には出したことのない、必殺の突きであった。
それから起こった一瞬のことはエリオットにとってコマ送りのようにゆっくりと見えた。
伊織は低く構えた木刀を横薙ぎに槍の柄へ当てると、槍を逸らしながらそのままエリオットの方に進んできた。
そして槍を抑えたまま手首のスナップをきかせ手の内で木刀を回し担ぐようにそのままエリオットの右腕を打ち据えた。
そして勝敗は決まった。
「イオリ殿・・完敗です。」
そういったエリオットの顔はどこか清々しかった。
大変わかりにくくなりまして申し訳ありません!!
今の私ではこの表現が精一杯でした。
いつかもう少しマシな文章が書けるようになったら改稿させて頂きます。
そしてこの話を書いていて思いました。
やはり剣術は最強の武術だと私は思います。
今回の伊織の動きは実際の剣術の型をそのまま参考にさせていただいてます。