プロローグ
真っ黒な暗闇の中・・・
微かに声が聞こえる・・・
ーー誰かが俺を読んでいるのか?ーー
何かに呼ばれるようにして彼は手を伸ばした。
まるで求めに応えるように・・・
そして何かを求めるかのように・・・
「はっ!?」
青年はいきなり顔を上げ目を見開いた。
その日の修練の終わりに、道場で一人禅を組んでいた青年が見たものは鬱蒼とした広葉樹の林森だった。
――落ち着け、まずは周りを確認しよう"――
辺りを念入りに見回してみる。
――当然だけど地面はある。息も出来るな。 周りはどこかの森か? 見覚えはないな。 そして・・・――
自身の左脇にそっと手を伸ばすと、冷たく硬い感触があった。
――よかった、あった。――
思わず安堵の笑みを浮かべてそれを手に取る。
日の光に黒く輝く二振りの武骨な刀だ。
鞘は漆黒の漆に、柄糸も黒い。
拵えに飾り気など全くない振るう為の刀
彼の愛刀にして、師から送られた大事な品だ。
我にかえった青年は、状況分析に戻る。
――確か修練を終えて座禅を組んでいたはず・・・ 俺はどうしてこんな場所にいるんだ?――
一通り考えてみるが、一向に答えなどでるはずもない。
――まぁなぜここにいるかより、ここがどこで、自分がどんな状況におかれているかを掴むのが先決だな。――
彼がこのように落ち着いているのは師の教えが行き届いている証拠であろう。
彼の師が言うには
ーーよく見よ、よく考えよ、敵を知らねば闘いには勝てんよーー
ということらしい。
――よし。体は問題ないな。――
立ち上がり周りの木々を調べる。
――見たことのない木だな、強いて言えばブナににている・・・ んん?――
すこし先に切り株を見つけた。
ゆっくり近付いていく。
――切り株があるってことは、ここまで入って来る人がいるってことだ。 しかしこの切り口は斧で切った痕だな・・・――
ここで彼の中に疑問がわく。普通現代の日本ではチェーンソーなどを使うのが一般的だろう、わざわざ労力を払って斧を使うメリットがない。
ということは、ここは少なくとも、現代の日本よりも科学技術が遅れている場所ということになる。
そして強いて言えばブナに似ている木。しかしブナではない。
ここから彼はある推論を下す。
――ここは俺の知っている地球ではないな。 そしてどうやら俺は完全に・・・迷子になったらしい――
――さてこれからどうしたものか――
切り株に座り込み考えをまとめる。
――適当に歩けば奥へ奥へ入ってしまう危険があるな。この切り株までは人が来るのだから、ここを拠点に動くのが安全だ。 言葉の通じる保証はないが、それは人と会ってから考えよう。最悪後をつけて集落に入り込めれば身の振り方もある。――
次に彼は自分の持ち物を確認する。
っといっても 着ている濃紺の道着と二振り刀以外には履き物すらない。
――とりあえず履き物を調達しよう。裸足じゃあどうにもならないしな。 藁でもあれば草履のいくつかも作れるが・・・――
色々思案していると彼の耳が微かに異音を捉えた。
――人の声? どうやら争っているな。――
彼はその方向に向け走り出した。
近付いていくと怒号はさらに大きくなっていく。
そして彼は唖然とした。
――何て言うか・・・ファンタジーだな――
アルフレッドはいつもと変わらないはずだった。
しかし隣町までの行商の道すがら、人生最大の危機を迎えている。
彼の周りには革の鎧がを着た、いかにも野盗というルックスの人間が5~6人。ロングソードを構え下卑た笑いを浮かべている。
最悪なことに、彼は囲まれていた。
そして弄ばれるよう野盗達にいたぶられていた。
「金目のものを大人しく渡しゃあいいんだよ!
そうすりゃ命だきゃあ助けてやるぜぇ?」
薄ら笑いを浮かべつつ、野盗の一人が迫り来る。
「うっうっ、うぅうるさい!! そそっそんなことをしたって結局は殺すんだろ!!
おまっ、お前たちみたいな輩に、渡すものはない!!!」
アルフレッドは必死に自分を奮い立たせるように叫んだ。
喉はからからに乾き、滝のような汗が体を濡らす。
それもそのはずで、彼が持っているのは護身用とは名ばかりの短いナイフ一本。
そしてこの状況を切り抜けるだけの腕など持ち合わせてはいなかった。
「はっ! ならお望み道理、お前の死体から剥ぎ取ってやるよ!!!」
――あぁ・・・僕はこんなところで死ぬのか・・・――
彼の中で思い出が走馬灯のように広がる。
――ごめん、リサ。お前を残して先に死ぬ兄を許してくれ・・・――
ジリジリと迫ってくる死を前に、目を閉じ、彼の思いが遠くに行きそうになった時、大音声の若い声が響き渡った。
「待てぇぇ!!!」
何事かと恐る恐る目を開くと、野盗たちの向こうに青い奇妙な服を着た青年が立っていた。
「どうみても、お前たちがその人を襲っているようにしか見えないが、何か間違いはあるか?」
ひどく落ち着き払った声で誰何する。
「へっ! よくわかってるじゃねえか。いかにもこいつから今日の飯を頂戴しようってところさ! 見たところヘンテコな身なりだが、ついでにお前からも頂いてやらぁぁ!!!」
野盗の一人が剣を振り上げ青年に襲いかかる。
そこから起こったことを一言で表すなばらば美しいの一言だった。
その青年は、向かってきた最初の一人を抜き打ちに切りつけると、一刀の下に斬り伏せた。
状況の掴めない野盗達が唖然とするなか、するりと近づき二人目の胴をすれちがい様に斬り払い、三人目を袈裟斬りにする。
もちろんどちらも致命傷だ。
ようやく動き出した残りの野盗達は同時に突っ込んで行く。
仲間を殺された恨みか、はたまた自分達の命の為かがむしゃらな突撃だ。
しかし青年は全く動じることなく、流れるように三人を斬り伏せてしまった。
この間青年の剣は相手の剣と打ち合わすことすらなく、断末魔の声を作り続けた。
剣に付いた血潮を払い鞘に納めながら青年が近付いてくる。
「怪我はないか?」
「あっ、はい。だ、だだ大丈夫です。」
「そうか、よかった。 ところでひとつ聞きたいことがあるのだが・・・
ここはどこだろうか?」
「はいぃぃ!?」
こうしてこの世界に不釣り合いな存在がひとつ動き出した。
この先に何が待つのか、未だその答えを知るものはいない。
あとがきの様なもの
なんとなく勢いで初めてしまいました(;´д`)
続きがあるかは反応次第で(-_-;)
ご意見、ご感想、誤字報告などいっぱい頂ければ嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。